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外道祈祷書  作者: 夢想起
第三章 シュヴァルツの書
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第一節

「つまらん」


痩せた白髪の男がそう呟いた。男の名前はマチィアス。この国の宰相である。若い頃は前国王と共に近隣の国々を取り込み国の拡張に貢献して来た。


前国王からは強い信頼を受け、宰相を任されて各業界で強い影響力を有していたが、前国王が亡くなり現国王の新体制なると私は名ばかりの重人となった。今では、やる事が無いので禁書庫に籠り、読書の毎日である。


「色々教えて来た部下たちは、昔はよく顔を出しに来ていたが、最近は全く相談にも来なくなった。まったく。」


本棚の本を覗き周りながら、ため息をつく。


「まあ(わし)も現役の頃は自分のことで手一杯で恩師に会いに行くことをすっかり忘れ、気がついたら恩師が他界しておった。まあ、矢をも得ない話か。」


「しかし、禁書庫の中の本は、貴族の情事が記された日記、眉唾物の世界史など確かに巷に出せば世のためにはならないだろうが、いっそ棄ててしまっても構わないのでは無いか。」


「つまらん、つまらん。もっと心躍る知識は無いのか」


そう呟きながら、金書庫の背表紙を指差しながら確認していくと「祈祷(ゲベート)」とだけ、書かれた分厚くて黒い本を見つけた。


「なんじゃ、著者の名前もないのか」


「最近、考えている事をそのまま口に出す事が多くなったな。これが歳を取ったら独り言が増えるというやつか?」


「長生きはするもんじゃないな。話し相手も満足に生きていない。」


黒い本を取り出し、パラパラと捲ると開いて行くと、悪魔や精霊、天使などに関する業、そしてそれらを働かせる手順などが記載されていることが分かった。


マチィアスは、食い入る様に本に惹かれ、

「これは、外道祈祷書(グリモワール)か。」


「いやいや、そんなモノが実在するのか? 好事家が集めた眉唾本ではないのか?」


何となく試して見たいという気持ちが、どんどん膨らみ悪夢を召喚することを決めたが、禁書庫の本は全て鎖で本棚に縛り付けられており、持ち帰れない様になっていた。


「まあ、誰もこんな所に来ないだろう」


鎖を外す道具を持ち込み、本を自宅まで持ち帰った。













家の執事アンデレにメモを渡し、

「ここに書いてある材料を調達して、書斎に運び込んでくれ」

「承りました。」


私は若いころから本で得た知識を試す実験が好きで、その都度、執事に材料調達を頼んでいる。執事との付き合いは長く何を頼んでも質問することなく粛々と揃えて来る。今回も特に問題はないだろう。素材は、私が知っている単語ばかりだ。この都市で売られていないはずはない。


材料は、入手し難いものもあるのか、バラバラに届き始めた。届く度に執事が届けてくれる。


昼時、「mähh mähh(メェーメェー)」という声が屋敷内に響いた。書斎から廊下に顔を出した。


「なんじゃ?」


執事が、紐で綱れた黒山羊を連れて廊下に立っていた。

「旦那様、これはどちらに配置しましょうか」


「とりあえず中庭でよい。エサはきちんとあげるように」

「了解しました」


執事が山羊に、

「さあ、こちらに」

というと、紐を引かれることなく自ら執事の案内に従って中庭の方に歩いて行った。


「ん? 賢い山羊だな。」


書斎で調べものに疲れると、時折中庭で紅茶を飲んで休憩することにしているが、近くで山羊が草を食べていることに気が付いた。


「元気か。必要なものはないか」

「メェー」

「大丈夫そうだな」


よく見ると毛もボサボサで瘦せ細っていた。


紅茶を注ぐ係りのメイドに、

「獣臭さが強い、この山羊を洗ってやれ。粗相がないように丁寧にな」


メイドは、額に皺ができる愉快な顔を一瞬取った後、直ぐに落ち着いた表情で

「畏まりました」


「さあ、こちらに」

というと、やはり山羊は自ら案内に従って屋敷裏の水汲み場の方に歩いて行った。


「人に馴れてる。家畜ではない意味で誰かに飼われていたのか」


マチィアスは、度々休憩がてら、中庭で紅茶を飲みながら、山羊に話しかけていた。


山羊は、時折合槌を打つ様に「メィーメィー」と鳴き、マチィアスは「そうじゃろう、そうじゃろう」と嬉しそうにしていた。


雨の日に、山羊がどうしているのか覗きに行くと、普通に木の下に立っていた。


「寒かろう。敷居に入るか?」

と言うと、テクテクと寄ってきた。


「本当に馴れているな。どこの出身だ。今まで誰かに飼われていたのか?」

「メェーメェー」


「そうか。それは大変だったな。今日はゆっくり休むといい」

と言うと、裏口から入って直ぐの所に寝転んで寝てしまった。


話が分かった訳ではないが、「大変だった」と言う言葉が適切な気がして、そう答えただけである。まあ行動が繋がっているので適切な返事だったのだろう。

文字数(空白・改行含む):1927字

文字数(空白・改行含まない):1798字


グリンバァ(グリモワール)

ドイツ語:Grimoire

(1)魔導書


ゲビィツ(ゲベート)

ドイツ語:Gebet

祈り・祈祷・祈念 · 祷り · 立願 · 願 · 願い事 · 願事 · 願文 ·祈り · 心願 · 結願 · 祈願 · · 発願 · 発願 · 祈禱


。ラテン語のオラシオ(oratio、祈祷文)→日本語のオラショ


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