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外道祈祷書  作者: 夢想起
第一章 ノワールの書
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第一節 遭逢

背景は中世欧州。

主人公の名は、アダム(1050以前~1081)

町の名は「マイセン」、先代領主は「オットー」、

現領主は「コンラート」

学校の名はマクデブルク


「大丈夫か」


声が聞こえ、朦朧(もうろう)とした意識の中、薄く開いた目から神父の服が見えた。


あれから3年、僕は村から離れた小さな教会で神父と一緒に暮らし、神父のことを「お父さん」と呼ぶようになっていた。


父は、街道沿いに倒れていた孤児の僕に、居場所と食事を与え、そして読み書きを教えてくれた。


今僕たちが住んでいるのは国境沿いにある小さな農村で、さほど人は住んでいないのに教会があった。


先代領主が小さい教会を建て司祭を呼んだという事だが、成果が見出せない辺境地、常識で考えれば、司祭が派遣されるはずがない。たぶん、父は左遷されたのだろうが、そのことは確認できないでいた。


先代領主がいたころは、日曜日の礼拝に僅かなりとでも村人が来ていたが、領主が変わると村人は来なくなった。それでも、父は誰もいない小聖堂で毎週欠かさず礼拝を続けていた。


寄付金が集まらない教会では日常の食べるものにも困まる。生活は、教会裏の畑、山菜、木の実、そして時折り村人たちから分けてもらうモノで賄っていた。


そんなある日、父が倒れ、僕は村人を呼びに走ったが手遅れだった。





葬儀が終わり、参列していた現領主から、

「お前は、何ができる」

と質問を受けたが、僕は返事ができなかった。


その日の晩、父の数少ない私物を整理していると、背表紙に「祈祷(プリエール)」と記載された厚く黒い本を見つけた。


ミサに関係する本かと思い、パラパラと開いてみると、悪魔や精霊、天使などに関する業、そしてそれらを働かせる手順などが記載されていることが分かった。


汗が噴き出すような恐れ、

「これ、外道祈祷書(グリモワール)だ。」


父の名誉のために、このことは誰にも知られてはならないと直感したが、なぜ司祭という地位にいながら、この本を燃やさなかったのだろう、そう考えると、この本を直ぐ燃やすことができなかった。


父の死後、小聖堂の扉は開かれることはなく、僕と村人たちとの関係も徐々に疎遠になってきた。


教会に保管してある食べ物は少なくなってきているが、村人たちから分けてもらうことは期待できなかった。


先代領主は、富める村人から貧しい村人に収穫物を再配分するために教会を建てたが、今は現領主へ収穫物を納め、村人たちは自分たちが暮らしていくだけのモノしか与えられていないからだ。


この村には、家族以外の子供を養えるほど豊かな村人はいない。


村長から司祭の後任は来ないという話を聞き、僕はこれからの生活を独りで考えなければならなくなった。


冬が来る前に食べ物を確保しないとならない、1年後は生活できているのか、5年後、10年後は…、そもそも教会に住み続けられるのか、不安が消えることはなかった。


僕は父から教わった、1日5回の祈り、午前は洗濯や畑仕事、午後からは聖書の勉強という生活習慣は欠かさず続けていた。


雪が積もり始めると空いた時間が増え、僕は外道祈祷書を読むようになり、雪が溶けて山菜が取れるようになるころには外道祈祷書を読み終えていた。


僕は、魔術の知識を得たが、父の教えに反するそれを使用する気にはなれなかった。


畑を耕していると、村長が現れ、隣国との戦争が決まったため、夏に村から兵士を出さねばならなくなったこと、またその役目を僕に依頼すると告げた。


僕は無論断ったが、ならば村を出ていく様に言われた。


人を殺さなけれならない重圧、殺されるかもしれない恐怖、住むところ食べる物がなくなる不安、僕は神に見放されたような疎外感に包まれるのを感じた。


食べる物がなく身寄りもいないため街から追い出され、朽ち果てるように街道沿いで死にかけていた僕を救ってくれた父はもういない。


何故、神は僕に喜びを与え、再び絶望を与えるのか。


神に問いてはならないと父は教えてくれたが、どうしても、「僕がどれ程の罪を犯したというのですか」と嘆きたい気持ちで一杯だった。


殺すことなく、殺されることなく、生きて行けるようになる。僕が切に願い、神もそれを望まれているのに何故それが叶えられない。


苦しみ悶える僕はその答えを外道祈祷書に求め、悪魔召喚することを決めた。






召喚に必要な材料には、手に手に入れ難い物もあったが、定期的に訪れる商人にお願いして揃えることができた。


満月の晩、小聖堂の椅子を片付け、広い空間を作り、正確に魔法陣を模写して黒山羊を備え、術式を唱え始めた。


山羊は溶け始め、次第に人の姿に変わっていく、僕は術式が記述されているとおりに起動している事に興奮しながらも祭事を続け、失敗する事なく最後まで唱え終えることができた。


魔法陣の中央に仰向けに寝転ぶ、黒髪の成人男性に対し、僕は強いの口調で「起きろ悪魔」と唱えた。


男は薄目を開け、こちらに顔を向けながら気怠そうにゆっくりと上体を起こした。


続けて「名前は」と尋ねた。


これで真名を聞き出し、契約を結ぶ事で、悪魔を使役できる、外道祈祷書に書いてあったとおりに。

そう思っていたが、


「私の名前は、お前たちには発音できない。また正確に聞き取る事もできないだろう。それと私は悪魔ではなく人間だ。」


「嘘を吐くな、僕はお前を召喚し、山羊がお前に変わる瞬間を見ている。名乗れ。」


男は少し困った表情をした後、

「じゃあ、お前が名前を決めてくれ」

と言った。


真名でないと契約は成立しない。僕が名付けたとしても、それは字名で契約は効果を発することはない。


しばらく沈黙が続いた後、言葉を失った僕は、

「もういい、出て行いけ」


「せめて服をくれないか」


「ふざけるな」と投げ出した声を出したくなったが、非は身勝手に呼び出した僕にある、そんな罪悪感がよぎり、父が来ていたスータン(神父の普段着)を渡した。


父との思い出が詰まった服であったが、スータンを着る者は今後現れることない。このまま不要の物になるのであれば、まだ使ってもらった方がよいだろうと思うことにした。


男は、着衣しながら、

「呼び出したからには、何か困っている事があるのだろう。助けになるかは分からないが聞かせてもらえないか。深夜に呼び出されたのは不服ではあるが、服の礼ぐらいはしたい。」


良識的な申し出に僕は驚いた。本当に彼は悪魔ではないのかと疑うぐらいに。


僕は唖然としてしまったが、彼の誠意的な態度、そして真面目な表情に僕は、これまであった出来事と、心の葛藤を話した。


男は親身に話を聞いてくれ、いつもどおりに生活すること、いつも穏やかになるように心がけることを助言してくれた。


そして、少し何か考えるような仕草をして、

「心穏やかに暮らせる様になるまでの間、君の側にいようと思う」


僕は、彼に「ノワール」という名と、父の部屋を与えた。



文字数(空白・改行含む):2812字

文字数(空白・改行含まない):2668字


ノワール( フランス語 : noir )

1 黒。暗黒。

2 多く複合語の形で用い、暗黒の、正体不明の、不正の、などの意を表す。「ノアールフィルム」


プリエール( フランス語 :prière

1 祈り


グリモアール( フランス語 :grimoire

1 魔導書


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