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よくあるやつ  作者: 生糸
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死んだと思ったら乙女ゲーの世界でTSしてた:02

気づいたらまた眠っていたようだ。起きると静かな夜で、カーテンは閉ざされており、小さく灯る唯一のランプが闇を深くさせ、部屋のなかに横たわっている。ゆっくりと私は起き上がる。歩いて息が切れるのは毒物の影響らしかった。この世界には毒殺がよくあるのだろうか。ガレット。赤い瞳の銀髪の少女。私は彼女に会わなければという使命感を抱く。と、盛大に腹の音が鳴った。

そうだ。なにも食べていない。

私は扉を開けて、ジェパードの記憶らしい屋敷の配置を思い起こす。厨房の場所を検索できた、よし、と踏み出すと、


「ジェパード様」

「!」


びっくりとして、振り向くとレイドが居た。どうされましたか。


「どうしてここに?」

「起きるまで待っていようと」

「なぜ?」

レイドは目を細めた。

「あなたの執事だからです」

そういうものなのだろうか。

考えてるとまたぐうと、鳴る。レイドは瞬いた。


「お部屋にお戻りください」

「けど、お腹が空いているんです」

「分かっています。私がお持ちします。まだ夜気は冷たく、あなたのお体に触ります。どうかベッドにてお待ちください」


どこか懇願の響きがあった。私はまた彼が毒を盛るのでは?と思い、信用できなかった。レイドは、名を呼んだ。それはまるで、そうすれば、すべて私が、いや、ジェパードがそうすると理解しているようだ。いや理解しているのだろうか?どこか不確かなその行動は、そうであってほしい、という祈りにすら、思えてくる。私とレイドは暫し見詰めあった。


「分かりました」

「敬語は不要です」


私はなにも答えず、部屋に戻り、ベッドにて横になった。ランプの影を暫く見詰めていると、ノックがしてレイドがカートと共に現れた。いい匂いがする。


「厨房のものはみな休んでますので、このようなものしか、ありませんが」


そう言って彼はベッドに手際よくテーブルをセッティングして、部屋のライトを増やした。やわい光に照らされたのはスープパスタだった。あったかい湯気がのぼっている。たぶん味はコンソメ。具は豆のみ。あなたが?と尋ねると、レイドははい、と応じる。腹が鳴る。食べていいものかと逡巡すれど、これを拒否する元気がなかった。恐る恐る食べてみる。味はコンソメでもなく、薄い塩味。パスタは柔らかめ。感覚としては素うどんだ。胃には優しいが、味覚は喜ばない。ぱっとしない私の顔をみて、レイドは、病み上がりですので、と添えた。わかっている。レイドは控えている。私はゆっくりと、いや、むしろ秒で食べた。ほんとするするっと食べてしまった。本当に毒が入ってるなら死んでいるところだ。


「どうして、わ、僕は毒を飲んだの」

レイドは片付けながら言う。

「飲まされたのです」

「誰に」

「分かりかねます」

「----あなたじゃないよね」

「どうなのでしょう」

「毒殺ってよくある?」

「……………………」


人は死にます、とレイドは応じた。それはどういう意味なのだろう。


「ガレットに会いたいんだけれど」


あれから会っていない。

レイドは私を見詰めた。


「私以外には仰らない方がいいですね」

「どういう意味ですか」

「お休みになってください。もう、夜も遅いですから」

「………………歯を磨かないと」

レイドは少し笑んだ。あまり表情の動かない端正な男は、ジェパードの我が儘が好きなようだった。


眠りにつくまでレイドは控えていた。その存在は嫌ではなかった。なら何故あんな記憶が過ったのだろう?ジェパードは何故殺されたのだろう。誰に、いつ、どのように。どんな理由で。ただの、小太りな少年にどんな事情があるのだろうか。



翌朝、医者の診察を終えて、私は両親に会い、いくつかの言葉を話した。私はなにも覚えていないということで、彼らは私をサポートすることに決めたようだ。そもそも、跡取りなのであって、放り出すことは出来ないのだろうと思えた。毒殺されかけたことはどうやら、屋敷のものは皆知っているようだったが、みな、腫れ物のように接してくるため、何か話しかけにくく、私のたっての希望により、明日にはこれまでの家庭教師と顔を会わすことになった。外部の人間ならまだ話しやすいかもしれない。とまあ、現在特にやることもなく、三時のおやつをたらふく食わされ、夕方までゆっくり過ごしていたが、ガレットには会えていなかったし、それを口に出すタイミングを見計らってレイドが丁寧に邪魔をしてきた。


食事が二回であることや、電気がないこと、また水洗トイレではないこと。そこまで裕福ではないのか、はたまた、これが標準であるのか、それともこれこそが裕福であるのか、それは明日家庭教師に尋ねたら分かるのかもしれない。ジェパードの部屋は簡素だったが、本棚にはみっちりと本が詰まっていた。私は勉強が好きではなく、このまま跡取りをさせられても困る。ジェパードとしての十二年は脳にあるのか、それとも私が奪ったのか。そもそも、私は何故ここにいるのか。本を読む。それらは日本語のように読める、見慣れぬ言語のはずだが、私は知っていると感じる。この本は地質にまつわる一冊で、ジェパードがこれを読んだのは、最近鉱山がうまく掘り進めないということを、聞いたからだ。その為、と私は思い出す。


ミヌエード家管轄の鉱山の採掘量が年々に減ってきており、税を納めるために苦心するようになってきたこと。


そしてその税はタシュジビ領の中で唯一ミヌエード家だけが特別に定められたものだということを。

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