5.光のチカラ
ヒビノ君がココロのチカラに目覚めた。
突然私の前に出たと思ったら、ヒビノ君の周りを突風が吹き荒れ始めた。そして片腕を空に突き立てたら黒いディバイス、通称"ココロのディバイス"が降り下りてくる。
ココロのディバイスが空から降ってくる……それはココロのチカラを得たということだ。
ヒビノ君はディバイスを右手で掴むと、平然とした態度でズボンの右ポケットにディバイスを入れる。
ココロのチカラに目覚めると、その能力を瞬時にある程度理解できる。拳銃をどうやって手に出現させるか。どうやってそれを消すか。
胸にディバイスを当てて唱える……私は単純に"技"と呼んでいるけど、その技がどういうものか。自分の"武器"は何かまで分かる。
技と武器は人それぞれ違う。私は怪我や物を直す"ケア"と言う技があるし、拳銃はチカラに目覚めた人全員出せるけど、私が出したライフルは、人によっては違う武器になる。例えば弓矢だったりだとか、さまざまな武器が出せるらしい。
私はそれをメインウェポンと呼んでいる。
ヒビノ君は依然として私の前に立っている。ヒビノ君の右手はディバイスが入っているズボンの右ポケットに入れたままだった。
そして私達を取り囲むオオカミの灰霧達は、私ではなくヒビノ君に視線を向け、威嚇し、警戒している。どうやら標的を私からヒビノ君に変えたようだ。
オオカミの数は10体。最初の半分に減らしたけど、十分に多い数だ。
背後の方にいたオオカミの灰霧が動き始めた。
突発的に動き始めたオオカミ3体は私なんて居ないかの如く横を通り過ぎ、ヒビノ君の背後に飛びつく。
「ヒビノ君危ないっ!」
私がそう言ったが間に合わず、オオカミがヒビノ君の体をその鋭利な爪や牙、角で肉を抉って…………
「……ッ!!」
「「「キュュュュウウン」」」
剣だ。剣が同時に3体を斬り伏せ、3体とも倒した。
太幅ではなく、かと言って細幅でもない銀色の刃が真っ直ぐに伸び、持ち手が金色の直剣を右手に持ったヒビノ君が、オオカミ灰霧を3体同時に横一列に斬撃を喰らわした。
ヒビノ君はオオカミに襲われる時、即座に背後からの攻撃を受ける直前に右回りで後ろに振り向き、右手をポケットから出した。
後ろを振り向く時とポケットから手を出す時の勢いで、瞬時にその右ポケットから出した手に直剣を出現させ、その勢いのまま左から右へ真横にオオカミ達を斬撃を喰らわしたのだ。
「オオカミの灰霧残り7匹」
「うっ、うぉおおおおお!!!」
「なんだあの坊主!!オオカミ3匹を同時に斬りやがった!!」
「どうして!?あの子、剣なんて持ってなかったのに………!?」
人混みの方から驚きの声が聞こえるけれど、ヒビノ君はそれに対して無反応だ。
「ツキノ、ちょっとごめんな……!」
そしてヒビノ君は剣を消して、急に私に近づいてきて来ると、私をお姫様抱っこした。
「ういしょっ!」
「わっ」
「ちょっと揺れるから耐えてくれな」
「………ヒビノ君?」
そう微笑みかけながら言ってきたヒビノ君は、真剣な顔つきになり、なんと急にオオカミの1匹に突っ込んだ。
そのオオカミはヒビノ君に角で攻撃を仕掛けるが、ヒビノ君は私をお姫様抱っこしながらヒョイヒョイと避け、そのままオオカミの円の中を抜けて、私を近くの小岩の物陰にそっと置く。
「あの回復技は月野自身にも使えるのか?」
「え。あ、うん使えるけど……」
「じゃあ回復してここで休んでてくれ。俺は灰霧達を倒して来るから!」
またしてもヒビノ君はそう微笑みながら、オオカミ達と熊の方を向く。
熊の灰霧は平然と、静かにこちらを向いている。もしかしたら熊の灰霧はほんの少し知性があって、私達の戦い方を見ているのかもしれない。そうすれば、急に私に攻撃し始めたのも、ある程度戦闘スタイルが分かったから攻撃したのかもしれない。まぁ推測の域を出ないけど………。
「じゃあ行ってくる!」
「…ひ、ヒビノ君!」
そう言ってヒビノ君は灰霧の方へと駆けていった。
何だろう…凄くスッキリとした気分だ。
そしてやる気が満ち溢れてくる。
アイツらを…灰霧を倒してやるというやる気が…体……いや、心の底から溢れてくる。溢れてくる!!
俺はツキノを置いて灰霧の方へと走る。
オオカミの灰霧は近づいてくる俺に対して威嚇し、吠え、戦闘態勢に入る。
俺は走りながら直剣を右手に出す。
「ガァァァァァッッッッ」
オオカミが2匹同時に襲いかかって来る。が……俺はそのまま走る勢いを止めずにその襲いかかって来るオオカミに接近する。
「はぁぁぁぁぁあああ!!」
「クゥゥゥゥウ………」
先に飛びかかって来た1匹目、そいつに俺は走りながら右腕だけ使い、左上から右下に掛けて斜めに斬る。
前にマンガで読んだか、確か逆袈裟斬りだっただろうか?正確には覚えてないが……。
オオカミは灰になって消えるが、俺はお構いなしにそのまま走り続ける。
そのすぐ後に2匹が直ぐ様飛びかかる。そいつには一直線に突きを喰らわせる。
「ガァァァアアアアアア!!!」
「ッ……!」
そのオオカミの噛みつこうとした為に空いた口に走りながら直剣を突っ込む。オオカミは断末魔を挙げて消える。
「………………」
「グルルルルル………!」
「ガウッ、ガウガウッッッ!!」
俺はオオカミ達に囲まれる。が、残り5匹のオオカミは吠えはするものの近づこうとはして来ない。仲間が次々とやられるのを見て、俺に対して怯えているようだ。
「……………行くぞ!」
俺は1匹に直ぐ様駆け込み、両手で右から左に真横に斬撃を喰らわす。オオカミは怯えていたからか、微動だにせず斬られ、体が完全に霧になって消える。
「「グァァアアアアアア」」
左右にいたオオカミは同時に、俺の左右斜め後ろから飛びついて来る。ヤケクソの勢いを背後から感じた。
俺は背後から来るその攻撃に気付く。そして剣を消し、前に飛んで交わす。
オオカミは勢い余りお互いにぶつかり合った。
俺は飛んだ勢いを前転でいなす。柔道の授業でやった、前回り受け身だ。確かそんな名前のやつをしてオオカミの攻撃を交わす。
そして、すぐに立ち上がった俺は手に剣を出し、ぶつかり合った衝撃で倒れているオオカミに斬撃を喰らわす。2体とも霧になって消える。
「「グアアアアアアッッッッ」」
「オオカミの灰霧、残り2匹」
「「「「「おおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!!!!」」」」」
「やっちまえ兄ちゃんっ!!」
「頑張れーー!!!」
人混みの方から歓声が上がる。
「………ッッッッ!!」
俺は残りの怯えている2匹に近づいて、どちらとも斬る。オオカミは呆気なく消える。
「オオカミは全部倒した。……………残りは」
「グオオォォォォォォオオオオオッッッッ!!!」
デカい熊1匹だけ。だかコイツが多分厄介だ。
熊はオオカミが倒されたや否や大きく咆哮する。熊は四足歩行から二足歩行に切り替える。そして……………
「グオオオッッッ!!」
「なっ!?」
口から炎を火炎放射器のように吐き出す!
俺は間一髪で横に避ける。
コイツ、炎も出せるのか!?しかも結構距離が長い!?俺から熊まで20mはあるぞっ!?
「くそっ!」
俺は剣を消し、代わりに拳銃を出す。この拳銃はツキノも使っていたものと同じだ。
俺はその銀色の拳銃で1発、光の球を腹に喰らわす。
熊は少しひるんだが、平然としている。余り効果がないようだ。
「グアアアアアア!!」
「うおっとッ!」
熊の火炎放射攻撃が連続して続く。
俺はそれを拳銃で対抗して撃ちながら、間一髪で避けていく。が、多分コレじゃあジリ貧だ。そのうち喰らってしまう。
さっき熊は俺のオオカミとの戦いをじっと見ていた。ツキノが戦っている時も、ある程度静かに見ていた。
もしかして、
「観察していたのか?ツキノや俺の戦いを……?」
ツキノはさっき、拳銃とライフルを駆使して戦っていた。その時の熊の攻撃の仕方は、『近づき、爪や体当たり」と言った攻撃だった。
かくいう俺は、今さっき直剣でオオカミを斬り伏せていた。そして今の熊の攻撃の仕方は、『火炎放射で距離を取って戦う』だ。全然戦い方が違う。
と言うことは………
「あの熊!人によって戦い方を変えているのか!」
ライフルなどの遠距離攻撃に対しては近づいて攻撃し、剣などの近距離攻撃には火炎放射………。この熊、強いだけじゃなくて知能もあるのかよ。
なら間合いを近づけて、剣で攻撃を…………
いや、この火炎放射の連続攻撃を近場で避けれるわけがない。その前に近づくことさえ容易では無さそうだ。だからってこのまま全然効いていない拳銃での攻撃をし続けても意味がない。
だったら………………
俺は何度目かの火炎放射を避けた後、拳銃を消して立ち止まった。
「ヒビノ君…なにして………」
ツキノの声が聞こえた。大丈夫だ。俺は押し負けない。
「グオオォォォォォォ!!!」
熊が火炎放射をしようとする。
俺はそれを見て、ズボンのポケットから“ココロのディバイス"を出し胸の前に翳す。
「真っ向勝負だ」
熊の火炎放射攻撃が来た。炎は一直線に俺に向かって来る。
向かってきた炎に対して、俺はこう唱えた。
「――ライト――」
すると、図太い光が一直線になってレーザービームの様に炎に飛んでいき、追突した!!!!
俺の技、『ライト』は光を一直線に飛ばす技。その光は凄まじい威力があり、まるでレールガンをぶっ放した様な威力だ。
その光は凄まじい威力で火炎放射を押し返し、熊に衝突した!!!!!
「ガァァァアアアアアアッッッッッッッッ!!!!」
熊は俺の「ライト」をモロに受け、体が霧となり、そして完全に消滅した。
「ふぅ………。灰霧、制圧完了」
「「「「「う、う、うおおおおおおおおおおおォォォォォォォ!!!!!!」」」」」
人混みからは喜びの声が盛大に聞こえた。
俺はすぐにツキノの元へと駆け寄る。
「ツキノ、終わった………って、あれ?お前回復してないじゃん!?」
「え…」
ツキノは先程と変わらず傷だらけだった。
「あ、ごめん……。君の戦いを観てたら忘れてた……」
「忘れるって……おいおいダメじゃん!そんなに怪我してるんだし、すぐに治さなきゃ………」
俺は心配でツキノにそう言う。
「ご、ごめん……すぐに治す」
「ん、そうしろ」
俺はニッコリと微笑んでそう言う。
ツキノはディバイスを胸に翳し………
「ねぇ、ヒビノ君……」
「ん?どうした?」
ツキノがココロのチカラで回復しようとしたら、急に話しかけてきた。
「君のココロのチカラの技……君のは何の属性なの?」
「属性……」
俺はディバイスを手に取った時、ココロのチカラの全てを理解した。
そして、ココロのチカラの技……ディバイスを胸に翳して唱える時の技。アレには属性があることが分かった。俺の属性は…………
「光の属性…………、光のチカラさっ」
俺は微笑みながらそう言った。
ゆったりと更新していきます。
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