32.答えられる筈
あと6話程で一章完結です。
「と、いう事なんですよ」
これまでの経緯を説明し、レオナルドさんは顔を歪めている。
「ちょっと待ってくれよ!僕が、この世界の人間じゃない?そしてあの霧を纏ったモンスターを生み出しているだって?い、いやいや!あるわけないでしょ!?」
「じゃあ、メートルの件はどう説明するんですか?」
ツキノが声のトーンを低くして言及すると、ハスラーさんもドスを効かせた声で便乗する。
「そうだぜぇ〜。俺達も、この世界と勇者コウイチがいた世界の単位が違うっつうのはさっきまで全く知らなかったぜぇ〜」
そして、ツキノは「それに…」と言ってビリンスさんを見る。どうやら鑑定の結果を言って欲しいらしい。
その視線の意図を読み取り、ビリンスさんはゆっくり頷いた。
「君の名前じゃが………本名はレオナルドではなく"ヤマモトコウスケ"。17歳。奈多高校?という学舎に通っている。母は名はクニエ。らのべ?という書物を読むのが趣味」
「……っ!?な、なんで……」
「ホホホッ。すまんなぁ、先程君と話をしていた時にちょっと鑑定させてもらった」
「か、鑑定……だって…」
分かりやすく落胆したレオナルドさんに俺はビリンスさんの事を説明する。
「そうです。この人は鑑定士のビリンスさん。貴方のことを鑑定する為にお願いしたんです」
「ホホホッ。それに鑑定して分かった事じゃが、君からはあの霧を纏ったモンスターの気配を感じる。――君があのモンスターを生み出したのかい?」
「……………そ、そんな……ぼ、僕は……」
「という事です。メートルの件と、そして………灰霧の件。説明してくれますよね?―――1ヶ月前に転移してきた、山本浩介さんっ」
「………………」
動揺している山本浩介、もといレオナルドさんに俺は言及した。
そしてここにいる人達は全員、山本浩介を囲い、冷徹な眼差しを向ける。
すると、
「ハハ………ハハハハハッッッッ!!!」
突然、山本浩介が笑い出した。
「う、うわぁ……」
「な、なにアイツ……」
「急に笑い出したわよ……」
その高らかな、そして不快感を覚える様な笑い声は草原に響き、その場にいた人達を動揺し、気味悪がる。
「なあヒビノ君?僕さぁー、そんな事ホントに言ったかなぁー?」
「……………」
「メートル?灰霧?いやいや!僕そんな事言ってないから!そもそもそんなもの知らないから!『なにそれ美味しいの?』状態なんだけどwww」
ふざけた口調で笑い、しらばっくれるレオナルドさんに、もう先程までの優しい面影は無かった。
「なっ!?コイツ、とぼけやがったぞ!!」
「とぼけてなんてないッッ!!本当に知らないのさ!!!」
「ッッ!?」
ゲンツキさんに怒鳴りつけるレオナルドさん。アマイマスクも台無しの怒り顔だ。
「どうせ鑑定の事も、その老ぼれの虚言だろぅ?いや〜参っちゃうなぁ〜ホントっ!これだから歳は取りたくないんだよね〜!」
「ッ!アンタ!いい加減に………」
「じゃあ証拠を出してみろ!僕がメートルと言ったって証拠を!異世界人だって証拠をッッ!!」
「……ッ」
今度はビリンスさんへの失礼に怒ったカタリナさんに、さっきより声の度量を上げて怒鳴りつける。
そのせいでカタリナさんは狼狽えてしまう。
怒り、苛立ち、焦り、蔑み、見栄、そして少しの恐怖をミキサーにぶち込んで、グルグルとかき混ぜた様な顔は………そのなんとも言い表しにくい顔は、本当に見るに耐えなかった。
さっきまであんなにも落ち着きがあったのに、こんなにも雰囲気が変わってしまうなんて………。ハッキリ言って、ショックだった。
俺は結構、レオナルドさんはカッコいい人だなと思っていた。少し尊敬もしていた。『こういうカッコいい人って羨ましいな』って、『犯人じゃなかったら、ちゃんと謝って、仲良くなりたいな』って。
そして『どうか犯人であってくれるな。馬鹿な俺の勘違いであってくれ。行き過ぎた妄想であってくれ』って思っていた。いたのに……………
そんな、友好的だったレオナルドさんにはさっきまでの落ち着きも、優しさも、温かさも、カッコよさも、今の俺には感じ取れなかった。
……………そして、聡明さも。
「「ハァ……」」
俺がため息を吐くと、同時にツキノもため息を吐いて落胆した。
「な、なんだよお前らっ!何ため息なんてついてんだよっ!」
レオナルドさんの怒りが俺達2人に向けられる。が、別に何の恐怖も感じない。
あるのは疑念と、落胆と、怒りと…………そして「やってやる」という覚悟を決めた感情だった。
「……よく私は、『相当抜けてる』とか、『マヌケだ』とか、『頭が悪い』とか、『IQ低い』とか…………自分はダメだと、底辺だと考えていましたが、上には上がいるんですね」
突然、ツキノがそう言い出した。レオナルドさんをあの怒りと冷徹さが混じった、あの眼で見ながらそう言い出した。
それの眼を見て、俺はこう感じた。
犯人と思わしき人物と対峙して、ツキノは無気力な感情の他に、今まで心の………"ココロ"の奥底で抑えていたんであろう"憤怒"という感情の片鱗を見せている。と、なんだかそう感じた。
いや、確信したと言った方が正しいだろうか。
「…………………は?」
「イヤ………上だと違う気がする………。"下には下"かな?」
呆気に取られたレオナルドさんに、煽る様にそう告げるツキノ。
いやまぁ、正直今の言葉は本当に煽ろうとしたかは分からない。単純にその部分が気になっただけかもしれない。ツキノそういう所あるし。
そして、一瞬あの無気力な眼をしたツキノに戻ったかと思えば、『まぁ、どうでもいいか……』の一言を発すると直様その眼は怒りと冷徹さで満ちる。
どうやら、ツキノは本当に犯人に対して憤怒と言える様なものを覚えているのは、多分誰が見ても分かった。
………まぁ、かく言う今の俺も多分そんな感じだ。
「ハァ?ねぇ、何?急に何?僕が頭悪いって言いたいのかな?ん?」
「…………貴方、まだ気づいていないんですね」
「…………はいぃ??」
「今自分が右手に持っているものは何ですか?」
ツキノがそう言うと、レオナルドさんは自分が右手に持っていた"飲みかけのペットボトル"を見て、わざとらしく首を傾げ、突き出す様に俺達に見せた。
「コレかい?これが一体どうしたんだい?あっ、一応言っとくけど、僕はこの飲み物を今日初めて見たからね?だって君達に聞いたよね?『コレなんだい?』て。『飲み物なんだね』ってさぁ!!!」
そう言って、その"飲みかけ"のカルピスソーダをゆらゆらと揺らしながら、おちょくる様にそう言う。どうやら、まだ気づいてない様だ。
そう思い、俺はさっきからずっと持っていた、"まだキャップを開けていない"カルピスソーダをレオナルドさんに見せびらかす様に顔の前に突き出す。
「レオナルドさん、コレを見てください。このカルピスソーダはまだキャップを開けていません」
「…………だから?だからナニ??キャップを開けていないからなんなのさ??」
「本当に、まだ気付かないんですか?貴方のそのカルピスソーダのキャップはもう開けられていて、中身も残り少ないですね」
「…………ハァ……そうだけど?えーと、君は何が言いたい訳?」
「そして、今俺が手に持っているこのカルピスソーダは中身が満タンです。当然、キャップは開けていません」
「ああもうッ!!だから何が………」
マジかよ。まだ、気づかないのか…………。
「何で貴方は、俺とツキノが教えてもいないのに、キャップを開けられたんですか?」
「…………ッッッッ!!!!」
どうやら気づいた様だ。レオナルドさんの顔は今までに見た事ないぐらい"驚愕"の2文字がデカデカと浮かび上がった。
「どうしてですか?別に俺とツキノは『このペットボトルはこの白い部分を回すとその白い部分………キャップが取れて、中身の液体が飲めるようになる』みたいな説明はしていませんし、俺が先にキャップを開けていないのにも関わらず、何で貴方は開けられて、そして中身を飲めているんですか?」
「……………そ、それは……」
「今日初めて見たんですよね?ペットボトルを。なら尚更疑問ですよ。キャップを開けられた事も、キャップが飲み物の蓋だと知っている事も!」
「……!!」
「………それが、貴方がこの異世界の人間じゃないという証拠です」
レオナルドさんはこれでもかっ、と目を見開いて自分が今持っている飲みかけのペットボトルを凝視する。本当に、相当驚いている様だ。
何故、俺がペットボトルを買いに行ったのか。それはこの為であった。
レオナルドさんにペットボトルのキャップを先に開けさせて、そのペットボトルを証拠にする。
ハッキリ言って、こんな作戦が上手くいくなんて微塵も思っていなかった。『まぁ、引っかかれば万々歳だろ』って本気で思っていたが、まさかここまで綺麗にハマるとは………。
「……これで分かったな〜。コイツは勇者コウイチの世界から来た奴だって事がなぁ〜」
「……………」
レオナルドさんはそのまま動かず、ただじっとペットボトルを凝視していて、
「…………ハハハ」
「「?」」
「……フハハハハハハハハハ!!!!」
またしても突然、俺達を嘲笑う。
「いやー、そうだったそうだった。君達に言い忘れていた事があったよ。忘れてた〜 」
ポンッと頭を軽く叩き、うっかりしてたと言わんばかりに舌を出している。
その行為は、緊張感のあるこの場所にとっては場違いの何物でもなく、おちょくっている印象をモロに与えて来る。
「言い忘れていた事?」
俺がそう聞くと、レオナルドさんは「ああそうさっ!」と両手を大の字に広げた。
「君達の言った通り、僕は異世界人じゃない。勇者コウイチの世界から来た転生者……いや、転移者さ」
「ッ!なら貴方は……」
ツキノがその先を言う前に、レオナルドさんは「でもね」と遮った。
「僕は山本浩介なんて奴じゃあない!何故なら、僕が転移したのは1ヶ月前ではなく、つい1週間前なのさッ!!」
「「!?」」
その驚愕の発言に、その場は騒然となる。
1ヶ月前じゃない?どういう事だ。不明病が流行り始めたのは1ヶ月前なんだぞ?もし仮に1週間前だとしたら、辻褄が合わないぞ?
それに、だとしたら今、俺の目の前にいる人物は誰なんだって話だ。
「……ハァ……そんな虚言、私たちが信じると思っているんですか?」
ツキノが短くため息を吐き、その冷徹な眼のままそう言うと、
「いやいや信じるも何も、君達は証明出来ない筈だよ?」
レオナルドさんはペットボトルを持っている方とは逆の手を振って否定する。
「………どういう事ですか」
「僕が異世界人じゃないって点は認めるよ。でもね…………僕が山本浩介っていう点は証明できないよねぇ!証拠でもあるのかい?無いよねぇ!そんなもんさっ!あったらもう既に出してるもんねぇ!」
「…………ッ」
ツキノが目を見開いた。どうやら気づいたようだ。
レオナルドさんの言っている事は正しかった。つまるところ、自分が転移者だという事は証明出来ても、山本浩介その人という事は証明出来ない筈だと。
確かに、この世界には勇者コウイチ・スズキという人物が数年前にも転移してきたという前例がある。
ならレオナルドさんが犯人………もとい山本浩介ではなくまた別の人物で、事件とは関係なく転移してきたという可能性も出てくる。でも、
「ハァ?そんな事言うなら、お前がそのヤマモトコウスケって奴じゃない証明が出来んのかよっつう話だろ!」
そうだ。チャリンコさんの言った通り、山本浩介じゃないって証明が…………
「うんそうだね。出来ないよ。」
「「「「…………ハァ???」」」」
その場の全員が、今度は息をピッタリと合わせてそう困惑して、またしても騒然とした。
「確かに、僕だって証明は出来ない。でも君達にだって証明出来ない。ただそれだけさっ。何を驚いてるのぉ?」
またしても、おちょくる様な口調で首を傾げた。
その言動の一つ一つがかなりムカつき、勝手に歯を食い縛ってしまう。
「おいおい!ちょっと待て!証明なら、さっきそこの爺さんが鑑定して、お前が山本浩介だって……」
「だ・か・ら!そこの老ぼれの発言も本当だって証明出来るのかい?嘘じゃないって言えるのかい?真実だって言い切れるのかい?そんな事出来ないよねぇ!!証拠が無いもんねぇ!!」
ゲンツキさんの意見に素早く反応するレオナルドさん。
確かに、そうだ。いくら異世界人じゃないと証明出来た所で、レオナルドさんが山本浩介だという事が分かる証明が出来ない。
いくらビリンスさんの鑑定が嘘偽りのない真実だったとしても、人の発言だ。確信があるとは言い切れない。嘘をついているという証明が出来ない。
証明が、出来ない。
「…………ッ」
改めて、自分が間抜けで探偵に向いてない事を思い知らされる。
クソッ。何か、何か他に証拠は無いのか?山本浩介だって言い切れる証拠は。
「僕は本当に1週間前に転移してきたんだよなぁー。あ、因みに僕の本当の名前は…………」
どんな些細な事でもいい、何か、何か証拠が、
…………………1週間前。今、そう言ったか?
「………………レオナルドさん。貴方にまだ、質問する事がありましたよ」
ああ、あった。証拠があった。いや、今、出てきた。しかも犯人の口から。
「…………はい?」
「いま貴方、転移したのが1週間前って言いましたね」
「……ああ、言ったけど?」
「なら絶対、この質問には答えられる筈です」
そうだ。答えられる。もしレオナルドさんが山本浩介じゃなく、そして1ヶ月前じゃなく1週間前に転移して来たのなら、この質問は、答えられる。
「…………………」
「レオナルドさん。貴方に質問です」
そう、答えられる。1ヶ月前じゃなく、1週間前ならば。答えられる筈だ。
「俺やツキノ、そして貴方が転移する前の世界で、1ヶ月前から流行り始めた病気を、答えてください」
「……………え」
答えられる筈だ。不明病の事を。
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