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異ろんな世界へ行く  作者: 本郷隼人
一章  剣と魔法のファンタジー世界へ
22/39

21.話

今回ちょっと長いです。

「や、やった……」


「やったぞ……俺達の勝利だ〜ッッ!!」


 ハスラーさんとクラリスさんが、笑顔で勝利を叫んでいる。とても晴れ晴れした表情で。


 俺はふとギルドの方を見る。するとギルドの前ではさっき魔法を使っていた冒険者や、ギルド内にいたであろう人々が外に出て飛び跳ね、ガッツポーズを決め、抱き合い、大声を上げて喜んでいるのが見えた。


 そして屋根から下を見下ろすと、足を引きずりながらも走ってきたチャリンコさんがゲンツキさんとハスラーさんに抱きついていた。



 灰霧は一応殲滅した。


 がしかし、俺のココロのチカラはもうほとんど残ってなかった。当然だ。ココロの技をフルパワーで二回も撃ったんだ。


 ココロの技の威力は一応威力を調整できる。弱めに技を使おうとすることもできるし、当然ココロのチカラの消費は少ない。逆にフルパワーで撃てばすぐにココロのチカラは尽きる。


 でもオーガは、ツキノのライフルの連射に耐えたあのオーガ達は技を弱めても意味がない。だからフルパワーでライトを撃った。



「よっと……」


 俺は屋根から飛び降りツキノの元へと駆け寄った。


「ツキノ、大丈夫か?」


「ハァ……ハァ……ヒビノくん………」


 ツキノは片膝を着き、顔をコチラに向いた。手にライフルは持ってはいない。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「お、おいツキノ、ホントに大丈夫かよ?」


「ハァ……ハァ……大丈夫……これくらい……」


 ツキノはどこか辛そうで、相当息切れをしている。特に目立った傷はないが、なんだか疲れている様子だ。


「大丈夫ってお前……」


「大丈夫……これはバルチックショットの反動だから……すぐ直る……」


「バルチック……」


 さっきの銀色の弾の事だろうか……。

 とにかくツキノの息切れが酷い。ギルドに運んで休ませた方が良さそうだ。


「取り敢えずギルドで休んだ方が良さそうだな……。立てそうか?」


 俺はツキノに右手を伸ばす。


「ありがとう……」


 ツキノはそう言うと手を掴んだ。俺はその手を引っ張って立ち上がらせる。

 するとツキノは少しよろめいてしまう。


「おっと!」


 俺はすかさずツキノの背中を左手で支えた。


「マジで大丈夫かよお前……」


「ハァ…ハァ……ごめん……」


「謝らなくていいって。……ほら、肩貸すぞ」


「ハァ……ハァ……ありがとう」


 そうして俺とツキノは肩を並べ、ゆっくりとギルドの方へと向かった。







 そして数分後、


「どうだ?少しは良くなったか?」


「うん……もう平気」


 と、いつもの無表情無気力な声で言った。


「それは………よかった……です」


「本当ありがとうございますシスターさん。おかげで俺も疲れが飛びました」


「……私もです。………ありがとうございます」


「い、いや……!とと…とんでも……ないです……!これが……回復術師の……仕事なので……!」


 お礼を言う俺とツキノに対し、シスターさんは両手を突き出して首を激しく横に振った。




 今俺達はギルド内の食堂のベンチで休んでいる。ハスラーさんや取り巻きのゲンツキさんとチャリンコさんも近くの席で休んでいて、戦闘中ツキノの隣で魔法を使っていた冒険者達もいた。

 そして俺とツキノの側にはあのシスターさんが座っていて、少し離れたところには、駆けつけた騎士団の人数名が俺達を見張る様にして立っている。

 そしてさっきギルド内でいたであろう多くの冒険者が俺達を遠目でチラチラと見ている。



 俺とツキノがギルドの前に着いた時、多くの冒険者から歓声と質問攻めにあった。質問というのは「あのオーガとゴブリンに向けていた物はなんだ?」、「君達昨日モンスターの群れを倒した人達だよね?」、「あの魔法は何?見た事ないよ!」と言った感じだった。


 その人混みがギルドの入り口にいたせいでギルド内に入りずらかったのだが、それをハスラーさんとクラリスさんが「おい!邪魔だッ!」「テメェら死にたくなかったらッどけッ〜!!」と怒鳴りつけて人混みをどかしてくれた。


 まあハスラーさんは「お前達の為にやった訳じゃない」と言っていたが、まあクラリスさん曰く「素直じゃないだけだ」らしい……。


 そして、傷だらけだったハスラーさん、ゲンツキさん、チャリンコさん、クラリスさんにあの槍を持った冒険者、それと疲れ切っていたツキノや杖を持った冒険者達を治してくれたのがシスターさん。



 ココロのチカラが尽きていたツキノや怪我人にシスターさんが、


『神よ、この者に慈悲の恵みを。中級魔法、ヒーリング』


 と、そんな感じの事を言った途端に身体の周りに蛍の様な光たちが現れて、ツキノのケアほどの速度では無いにせよ、みるみると傷が治っていったのは正直見応えがあった。いや、本当に神秘的でちょっと感動している自分がいた。


 クラリスさんと槍を持った冒険者はさっき到着した近衛騎士団の人達に今回の戦いの事情聴取を伝える為にさっき灰霧達と戦っていた場所で話している。そしてそこにはカタリナさんも同行している。


 騎士団の話では、その事情聴取が終われば俺達は解散していいらしい。理由は分からないが、ゲンツキさん曰く「俺達にも聞くことがあるのかもしれない」らしい。


 そして周りの人達は今回戦っていた俺やツキノ、冒険者達に色々と聞きたそうにしているが、ハスラーさんが怖いらしく近寄れない様だ。



ちなみに、あのオーガと言われていた灰霧は上級モンスターらしく、なんでもその昔国の一つがオーガ1体に滅ぼされたらしい。そしてそのオーガの大技『アルティメッター』……ツノの前に両手を翳して地面に振り下ろす技らしいが、アレを喰らえばここ一帯が跡形もなく吹っ飛んだらしい。……あの時ツキノが助けてくれて本当によかった。

補足だがゴブリンは初級モンスターらしく、大した事はないらしい。初心の冒険者が挑むレベルだとか。



「しかしやっぱ、回復術師ってのは凄まじいなぁ。体が軽いぜ」


「ああ、見てみろよゲンツキ。オイラのこの一丁前な顔がもっと一丁前になった気がするぜ」


 チャリンコさんはキメ顔で自分の剣の刃を見ている。多分刃に映った自分の顔を見ているのだろう。


「ハハハハハッ!誰が一丁前だって?お前より俺の方が一丁前だっての!」


「あ、言ったなお前ー!」


 と、笑いながらゲンツキさんとチャリンコさんが話している。なんだか、とても仲が良さそうで微笑ましいな。


「あ、そういえばなんですけど……」


「は、はい……どうしましたか……?」


 俺はある事を思い出して、シスターさんに聞くことにした。


「回復術師っていうのはそのー、職業?か何かなんですか?ほら、医者とか看護師みたいな」


「え……?い…イシャ?……カンゴシ?」


 と、俺の質問に対してシスターさんは戸惑い始めた。まさか、この世界に医者がいないのか?


「あの……その……イシャ?やカンゴシ?は知らないんですけど………、一応回復術師は……職業じゃなくて……ジョブです……よ」


「へ?ジョブ?」


 なんだよジョブって……。と思った時ツキノが話に割って入ってきた。


「私が説明するよ。……ジョブっていうのは冒険者の役目、役割の事だよ」


「役割……?」


 ツキノは無気力な顔で頷くと話を続けた。


「まず、この世界でいう職業っていうのは元の世界と同じで商売人や政治家、学校の先生や画家なんかと同じだよ。冒険者や騎士も職業に入るんだ」


「なるほど……」


「そしてジョブっていうのは、冒険者っていう職業の中の役目、役割のこと。ほら、今例に出した学校の先生にも国語を教える役目の先生がいたり、理科を教える役目の先生がいるでしょ?」


「なるほど、医者で言う外科医と内科医みたいな感じか?」


「そうそう、そんな感じで冒険者にも役割があって、回復術師がその部類に入るよ」


「なるほどなるほど、大体分かったってきた。つまり『冒険者っていう職業の中で、回復術師っていうジョブがある』って事か?」


「そ……そうです……!それで……あっています……!」


 と、ツキノに言った言葉にシスターさんは笑顔で首を縦に振った。


 あ、待てよ。ジョブってもしかして………。


「そういえばジョブってRPGでも言うな。戦士とか魔術師とか……」


「そうそう。そう言う感じだよ。」


「やっぱりか……」


 ツキノは俺にそう言う。

 なるほど、ジョブか。この世界ってなんかゲームみたいだなとは思っていたけど、本格的にそう思えてきた。

 ハッ、もしや俺はゲームの中にいるんじゃないか!?

 いや何考えてるんだ俺は、そんな訳無いか。



 俺が手を唇に当ててそんな事を考えていると、ゲンツキさんが笑顔でツキノの説明を補足する様に急に話始めてきた。


「ちなみにジョブには回復術師の他に戦士、魔術師、盾役に武闘家、狙撃手、召喚士、それに鑑定士や占い師なんかもあって、多種多様なんだぜ!」


「へー、そうなんですか。なんかちょっと面白そうですね」


 RPGをしていると職業を選んだりするけど、選ぶときはなんだかワクワクする気分になる。実際その話を聞いて俺は純粋に本当に面白そうと思った。


 そして今度は俺達の話を聞いていたチャリンコさん笑顔が俺の方を向いて話始めた。


「そんでもって、大体の冒険者は数人のパーティーを組んでモンスターを倒したりすんだぜ!例えばオイラとハスラーさんとゲンツキみたいな感じでな!」


「なるほど」


「まあオレとコイツ、それにハスラーさんは3人とも戦士なんだけど、普通パーティーってのは3人から7人まで、大体は7人。それにジョブも戦士2人、盾役2人、魔術師、回復術師、狙撃手ってパーティーが多いな」


 と、ゲンツキさんが腕を組んで首を上下に振る。


「えーと、それはどうしてなんですか?何か意味があるとか?」


 そう言うとゲンツキさんとチャリンコさんは顔を見合わせ、そして再度俺の方を向いた。


「そりゃお前、バランスが良いからってのもあるけど……」


「あるけど……?」


 チャリンコさんの言葉に反応した俺に、ゲンツキさんはこう言った。


「勇者コウイチのパーティーがそうだったってのがデカいな」


「あ……」


 そうか、そうかそうか。この世界には20年前にも現実世界の人が来たんだった。


 勇者コウイチ・スズキ。かつてこの世界にいた魔王の軍団を倒した、言わば英雄。そんな英雄に憧れを持つ人たちも当然いるはず、なら……。


「なるほど……この世界を救った勇者に憧れてパーティーも一緒にする冒険者達が多いって事ですね」


「「そう言う事!」」


 と、2人は嬉しそうに俺に指を差した。それを見て本当に仲が良いんだなと思った。


 ゲンツキさんが話を続ける。


「そして!ジョブの中でも1ッッッッ番人気があって、かつ最高なのが戦士な訳よ!」


「え、そうなんですか?」


 俺の疑問に今度はチャリンコさんが話す。


「当たり前だ!なんたって勇者コウイチと、そのコウイチのパーティーだった、『セイメンコンゴウ』現ギルドマスター……ヘルメス・トリスのオッサンが戦士なんだからな!しかもそのヘルメスのオッサン、ハスラーさんの師匠なんだぜ!そんなんですよねハスラーさん!」


 と、チャリンコさんは俺たちとほんの少し離れた席に座って不機嫌にそっぽを向いていたハスラーさんに話を振った。


「あ?アイツは……ヘルメスは師匠なんかじゃねぇ〜……ちょっと大剣の振り方教えてもらっただけだ〜…」


 いや、それもう弟子じゃん。とツッコミが怖かったのでやめた。

 チャリンコさんは嬉しそうにハスラーさんに話を振る


「またまたぁ〜!クラリスの姉貴に聞きましたよ!『アイツとはヘルメス師匠の元で修行した仲だ』って!」


「な!?チャリンコお前〜、どこからそんな話を………」


 その話にゲンツキさんが反応する。


「あ、それオレも聞いたぜ。確かクラリスの姉貴が姉弟子って言ってたな……」


「なっ!?アイツそんな事まで……って違うッ〜!オレが兄弟子で……ってこれも違うッ〜!オレはヘルメスの弟子じゃねぇ〜!!」


 するとハスラーさんは2人の席に近づき、思いっきり頭を拳殴る。2人とも「痛っ!」と叫び、殴られた頭を抱えている。うん、本当に痛そうだ。



「ねぇ君、もしかして冒険者じゃないの?」


 と、ハスラーさん一派の茶番を見ていた時、突然後ろの方から声をかけられた。

 振り返るとそこにはさっきの戦いで魔法を使っていた冒険者達が座っていて、その1人に話しかけられた。


 その冒険者達は4人いて、全員紫色のトンガリ帽子とローブを身につけている女子で、いかにも魔法使いって感じの見た目をしていた。


「え?」


「今の会話聞いてたけど、話してる感じ、君って冒険者に詳しくないしさ。もしかして田舎から来た人かなぁ〜て思ってさ」


「は、はあ……」


 まあ田舎というか、違う世界から来たんですけどね。


「それでどうなの?冒険者じゃないの?」


「ま、まあ…はい…」


「ならさっ、君絶対魔術師になった方が良いよ!」


「えっ?」


 と、その冒険者の提案に他の3人は肯定する様に会話する。


「うんうん!さっきのあの光の魔法、すごく強かったし!」


「てゆうか珍しいよね、光の魔法って。普通は基本4属性のしか使えないし、その4属性も得意不得意ある訳だし……」


「ホントホント、光属性と闇属性の適正者は滅っっっ多にいないし、いたとしてもマナの扱い難しいから全然使えないって聞くのに、あのオーガを一撃だもんね〜」


 と、3人はまるで女子高生がマックで談笑している様に話していた。


「ということで、やっぱり君は魔術師になった方が断然良いね!良いよー魔術師は、攻撃できて、補助も出来て、移動魔法も使える!戦士なんかより断然魔術師の方がいいよ!」


「「「「ねぇ〜〜」」」」


 4人は声を合わせてそう言う。マジで女子高生みたいなノリだな……。まあ見た目も俺とツキノと同じぐらい若いけども……。


「そうそう!そこの外ハネの子も魔術師になった方がいいって思うよね?」


「えっ……」


 と、魔術師の1人がツキノに話しかける。


「わ、私は……えっと……」


 ん?なんだ?ツキノがちょっと言葉に詰まってるぞ?さっきは話し下手とは程遠いぐらい上手に説明していたのに。


 と、そんな時待ったを掛けたのがゲンツキさんとチャリンコさんだ。


「おいおいおい!!『戦士なんかより』だと!それは一体どう言う事だ!」


「そうだそうだ!どう考えたって俺達戦士の方が断然いいに決まってる!」


 2人は立ち上がり、魔術師4人組の所の席まで駆け寄る。


「ハァ?戦士がいい?んな訳ないじゃん!」


「うんうん!さっきの話聞いてたけど、1番人気はどう考えたって魔術師だよ!」


「そうそう!憧れるのも勇者コウイチやギルマスのヘルメスより、謎に包まれた美青年大魔術師……ソウスイ様よ!」


「よく言ったわグレッチェン!1番はソウスイ様のジョブ、魔術師が良いのよ!」


 と、4人はゲンツキさんとチャリンコさんに強く反論する。

 それに対してゲンツキさんとチャリンコさんはバカにする様に言った。


「ソウスイだぁ?あんな弱っちそうな顔した奴のどこが良いんだよ!」


「そうだなゲンツキ。あんなんよりコウイチやヘルメスのオッサンの様な戦士の方がイカしてるぜ!と言う事でヒビノ!お前は絶対戦士になった方がいいぜ!」


「え……?」


 チャリンコさんは笑顔で俺の肩を組んできた。突然の事に俺は少し驚く。

 そして今度はゲンツキさんが俺の肩に手を置いて話し始めた。


「あのゴブリン共を颯爽と蹴散らした強さ!もっと剣技を磨けば凄え冒険者になる!絶対戦士になるべきだぜ!」


「え、えーと……」


 ゲンツキさんは俺にそう言うが、正直反応に困ってしまう。とゆうか俺はまず犯人捜さなきゃいけないし、冒険者をやっている場合じゃない。


「ちょっと!困ってるじゃないの!離しなさいよ!」


 と、魔術師の1人……初めに話しかけてきた女子がゲンツキさんとチャリンコさんの手を払った。


「うおっ!?」


「ちょっ!?なにしやが……」


 驚く2人に魔術師達は激しく抵抗する。


「どう考えても魔術師でしょ!あの光の魔法の威力!絶対魔術師の方がいい!」


「そうそう!それによく見ると割と顔整ってるし、もしかしたら2代目ソウスイ様誕生しちゃったり?」


「それある!『20年の時を経て現れた2代目ソウスイ様!光魔法を使って華麗に敵を倒す!!』みたいな!」


「『ピンチの時、現在行方を晦ましているソウエイ様が助太刀に!初代と2代目の夢の共闘』!」


「「「おーーー!!」」」


 4人の魔術師は女子高生のノリで顔を合わせて話を始めてしまう。それに対してゲンツキさんとチャリンコさんは「何が2代目だ」だの「馬鹿じゃねえの」だの愚痴をこぼしている。

 とゆうか俺は戦士にも魔術師にもなる気はないんだけど……。でもなんだか断りにくい雰囲気だな。


「あ、あの………ヒビノさん……でしたっけ……」


「へ?」


 突然、俺は目の前に座っていたシスターさんが話しかけてきた。


「わ、私は……回復術師を……オススメ……します……」


「………え?」


「回復術師は……とてもいいですよ……。人を助けて……神に……ゼウス様に祈りを捧げて……信仰するんです……。この国の……王女で……元勇者パーティーの………マーガレット様も回復術師……ですし……」


「いや、あの……シスターさん?」


「凄腕の回復術師には……怪我だけじゃなくて……病気も治せる人達もいるんです……私は出来ないですけど………」


「は、はぁ……」


「でも……人の為に頑張る回復術師は……とても良いジョブだと……思います…。なるには、相当な努力がいりますけど……でも……オススメするなら……回復術師かなって……思います……。あ、ツキノさんにも……オススメです……」


「いや、私は遠慮します」


 と、ツキノは誘いをバッサリと切り捨てる。無表情も相まってとても冷徹な対応だ。よくそんなあっさり断れるな。さっきは歯切れが悪かったくせに。


「そ、そうですか……。まあ……2人とも気が向いたら……目指してみて……ください……」


「は、はい…」


 シスターさんはオドオドしながらもそう説明してくれた。とゆうかそんなのやってる場合じゃないんだけどな……。


「まあともかく!ヒビノは戦士一択だ!異論は認めねぇ!」


「いいや、魔術師ね!目指せ2代目よ!」


 ダメだ。この人達は俺を冒険者にしようとしている様だ。断れる雰囲気ではない。


 その時、俺に救世主が現れる。


「ハァ……何してるんだい君達?」


 金髪の髪を靡かせ、2本の剣を背中に差しているその人物は、ため息をつきながらその整った顔で話しかけてきた。


「確か……レオナルドさん、でしたっけ?」


 ツキノは颯爽と現れたその人物………レオナルドさんの名前を口にする。


「やあ。ヒビノくんにツキノちゃん」


 その言って、レオナルドさんはその綺麗な口角を上げる。


「あ?なんだテメェ!急に話に入ってきやがって!」


「そうだそうだ!オイラ達はこのバカ魔術師達と話してたんだよ!」


 ゲンツキさんとチャリンコさんは怒りの矛先をレオナルドさんに向ける。がしかし、魔術師の4人は今の笑顔にやられた様だ。『メロメロ』と書いてある様な表情をしていた。


「いやさ、ヒビノくんがなんだか困っている様な顔をしていたから、どうしたのかなって思って……」


「はぁ?んな訳ねえだろが!なあヒビノ!」


「いや、俺は……」


 ゲンツキさんが俺の方を向く。戸惑っている俺の気持ちを汲み取ったのか、レオナルドさんは助け舟を出してくれた。


「ハァ……さっきから話は聞いていたが、戦士がいい魔術師がいいって………ヒビノくんはまず冒険者にはならない様だよ?」


「えっ!?そうなのか!?」


「君、冒険者にはならないの!?」


 チャリンコさんと魔術師の1人が驚きの声を俺にかける。それに対して俺はコクリと頷いた。


「すみません……冒険者はちょっと……」


「らしいよ。だからこの話は終わりだ」


「「「「「「マジか………」」」」」」


 6人は同時にそう呟いた。いや、仲良しかよ。


 その時、今まで話にあまり入ってこなかったハスラーさんがレオナルドさんに話かけた。


「おいお前〜」


「ん?僕?」


 ハスラーさんはその真剣な顔でレオナルドさんを睨む。


「お前、最近噂になっている二刀流の奴だな。なんでもオーガと同じ上級モンスターのサラマンダーを倒したらしいな〜……」


「…………それが何か?」


「………………」


「………………」


 2人の嫌悪なムードに、一同は静かに2人を観る。そして2人は沈黙を維持していた。



 先に話し始めたのはハスラーさんだ。


「いや、別になんでもねえよ〜。お前みたいな優男がサラマンダーを倒したなんて、ちょっと信じられなくてな〜」


「なるほど、まあ別に信じなくてもいいさ」


 そんな会話をしている時、クラリスさんとカタリナさん、槍を持った冒険者が戻って来た。


「おーーい!事情聴取終わったから帰っていいってよー!」


 3人は俺達に駆け寄りってくる。


「え?クラリスの姉貴、オレ達の事情聴取は?」


「ああ、それはもういいって。なんでも、私達の事情聴取で大体の事は分かったらしいから、もう帰っていいって」


 ゲンツキさんの言葉に対しカタリナさんが返答する。




 そういう事で、俺達は解散する事にした。


 今回のモンスターと戦った冒険者たちは、後日、今度はギルドから報酬が貰えるらしい。それを聞きゲンツキさんやチャリンコさん、魔術師4人はすごく喜んでいた。




 そしてある程度の冒険者達がギルドを後にし、俺とツキノはギルドを出て、適当な路地裏で元の世界に戻ろうとしていた時だった。外はちょうど夕日が出ていた。


 ギルドの入り口に、俺たちより先に帰っていったハスラーさんが立っていた。どうやら俺たちを待ち伏せていたらしい。ゲンツキさんとチャリンコさんの姿はない。


「は、ハスラーさん。どうしたんですか?」


 俺は恐る恐るハスラーさんにそう聞く。すると、ハスラーさんはさっきレオナルドさんにしていた真剣な顔で話し始めた。


「今回の一件で〜一つ、お前達に聞きたい事がある」


「聞きたい事……ですか?」


 俺はハスラーさんに聞き返す。


「ああ……………あの霧を纏ったモンスター、何故かオレが攻撃しても全くと言って良い程効いてなかったな〜。でもお前達の攻撃は効いていた。………なんか裏があるんじゃねえか?」


 なるほど……そういう事か。そうだよな、普通疑問持つよな。でも、ココロのチカラについては他言をするなとツキノに言われている。それに事件についても正直余り人に話したくはない。


「すみません。今は話せません」


 ツキノは真剣な顔でそう言う


()()か〜………。いつかは話せるのか〜?」


「その時になったら話します」


 そのツキノの言葉に対して、ハスラーさんは「そうか」と言いながらその場を後にした。


「いつかって………」


 俺がツキノにそう言うと、ツキノはその真剣な顔をこちらに向ける。


「もちろん、犯人を捕まえた後に話すよ………」


「そうか………」


 犯人を捕まえた後に、か………。

 その時は、ちゃんと来るのだろうか………。




そして、俺達は適当な路地裏から元の世界に戻った。

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