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異ろんな世界へ行く  作者: 本郷隼人
一章  剣と魔法のファンタジー世界へ
20/39

19.聞き込み調査 その2

 ――聞き込み対象4、占い師の老人――


 俺とツキノはある程度の人数に聞き込みをしたが、犯人の手掛かりは未だ掴めていない。だが、まだ聞き込みをしていない人も結構いたため、俺らは引き続きギルドの食堂で聞き込みをすることにした。


 すると、誰に聞こうか食堂を歩き回っていた時、一人の髭を生やした老人に声を掛けられた。


「おーいそこの坊や達、少し占っていかないかな?」


「………えっ」


 突然声を掛けられ驚く俺に、老人はニッコリと微笑み掛けている。

 その老人は黒いローブを被り、長く白い髭を貯えていた。老人の座っている机の上には、他の冒険者の様に食べ物やお酒はなく、代わりに丸い透明な水晶が置かれていた。


「えーと、占いですか?」


「ああ、私が坊や達の未来を占ってやろう」


 俺の質問に老人は物腰柔らかな態度で答える。


 占いという事は料金が発生するのだろうか。


 小さい頃俺は元の世界で一度占い師占ってもらった事がある。その時は確か一回1000円ぐらいして、子供ながらに高い値段だなと思っていた。ちなみに占った内容は忘れた。


「……もし占ったとして、値段ってどれぐらいなんですか?」


 気になった俺は老人にそう尋ねる。一応王様から貰った10万エハンを俺は持っていて金銭的余裕はあるが、あんまり無駄遣いはしたくない。まあ占いの代金が安くても占ってもらうかどうかは分からないが。

 因みに俺の10万エハンが入った袋はツキノのバックに入れてもらっている。


「ホホホッ。いらんいらん、私がただ占いたいだけだからなぁ」


「は、はぁ……」


 いらない……か。どうしようか。


「ねぇヒビノくん……」


 と、俺の隣にいたツキノは無気力な表情で俺の顔を見る。


「ん?どうしたツキノ?」


「……………占い……少しやってみない?」


「えっ?なんだツキノ、もしかして占いたいのか?」


「……………うん……少しやってみたい」


「えっ!?」


 俺は素直に驚いてしまった。ツキノが何かに興味を持つなんて………。

 事件関係以外の時はずっと無気力な態度でだから、俺は勝手にツキノは占いになんて興味ないと思っていたが…………。


「えっと、じゃあ、やってみる?」


 ツキノは俺の質問に深く頷く。


「じゃあ聞き込みついでにやってみるか……」


 という事で、俺とツキノは占いをする事にした。


「やりますかな?」


 老人は笑顔でそう問う。俺はそれに対して「お願いします」と軽く頭を下げた。


 すると老人はコクリと頷いた後、右腕を上げる。


「それでは始めますぞ……」


 老人はそう言い、真剣な表情となる。そして………



「せいやッ!!!」


 右腕の拳を水晶へと叩きつけた!


「な!?え!?ちょ!?」


 俺は老人の行動に驚きを隠せない。というかなんで水晶にグーで拳叩きつけてんだよ!


 しかしその水晶は頑丈な様で、全くヒビは入っていない。というか、老人の手が腫れて赤くなっている。


「あの、大丈夫で………」


「ホホホッ、占えましたぞ」


 老人は俺の心配にも気にせずに自分の腫れた手を見てそう言った。不思議だが、老人の顔は清々しく、とても痛そうな表情でも雰囲気でもなかった。


「…………坊や達、よく聞くんだ」


 と、自分の腫れた掌を見ていた老人は険しい顔になった。


「坊や達はこれから、数々の試練が待ち受けていると占いでは出ている」


「そ、そうですか………」


 俺は老人に相槌を打つ。というかまさか、その腫れた掌を見て占っているのか?どういう原理?腫れ具合で運勢が違うとか?やばい、凄く気になる。


「しかし恐れる事はない。坊や達は気を強く持つ事が未来への道を切り開く鍵とも出ている」


「気を……強く持つ……」


 ツキノは相変わらず無表情だが、どこか真剣な瞳で老人の話を聞いている様子だ。それを見て俺も腫れた手の事は一旦置いといて話を聞く事にした。


「用は心の問題という事だ」


「心………」


「そう、心が大事。心を強く持てば、大抵の試練にも立ち向かえるというもの。これを肝に銘じておきなさいな」


「………わかりました」


 とツキノはそう頷いた。

 ツキノは老人の話に何故かすごく食い気味だった。きっと相当タメになる話だったからだろう。

 俺も『心を強く持てば、大抵の試練にも立ち向かえるというもの』というフレーズは、どこかココロのチカラに通ずるものがあった気がする。うん、やっぱりとても良い話を聞いたなぁ。


「ホホホッ、頑張りなされ。…………所で坊や達、この手の腫れを治してもらえると助かるのだが……」


 と、しみじみとした雰囲気だった俺達に、場違いにも老人はそう言った。



 とりあえず、手の腫れはツキノのココロの技で治して、俺達はこの老人に聞き込みをする事にした。


 俺は事情を説明して、スマホのフォルダの写真をいくつか見せた。


「うーーむ……すまないが見た事ないな………」


 老人は険しい顔でそう答えた。






 ――聞き込み対象ラスト、ハスラーと取り巻き達――


「うーん……大体の人には聞いたけど……」


 と、俺はそう呟いた。


 俺とツキノは食堂にいる大体の冒険者達に聞き込みを行ったが、やっぱり現実世界人っぽい格好を見た人はいなかった。


「ねえヒビノくん。あの人達にはまだ聞いてな……」


「いや〜しかし、こうも見つからないもんなのか?こんな格好してたら流石に異世界じゃ目立つと思うんだけどな〜」


 と、俺は自分のスマホをスワイプして写真をいくつか見る。


「ヒビノくん、あの人達に聞きに……」


「どういう事だ?犯人は相当奇抜な恰好って事か?」


 と、俺は指を唇に当てて、考える。犯人がもし奇抜な恰好をしているとなるとなんだ?


「奇抜……奇抜か……、コスプレとか?いや、それじゃなんで犯人コスプレで異世界転移してんだよって話か……」


「ヒビノく……」


「いや、そもそもなんでコスプレって発想なんだ?もうちょっと良い例えがありそうなのになん……」


「ヒビノくん、あの人達に聞いてみよ!」


 と、ツキノはある人物を指差して、無表情ながらも大きな声でそう言った。

 その言葉に対して俺は…………


「絶っっっっ対にやめとけ!!!」


 と、大声で返答する。その理由は、


「ハスラーさん達は絶対にやめとけ!!てかやめとこ!!絶対にッ!!」


 という事だ。


 ツキノは今、ハスラーさんとその取り巻き二人が座っている席を指差している。


 ツキノは俺の返答に対して、どうしてと言わんばかりに首を傾げる。


「あの人達なら犯人について知っているかも知れないよ?聞きに行ってみようよ」


「いやヤバいだろ!?俺達を殺そうとしてきた人達だぞ!?しかも返り討ちにしてんだし絶対俺達の事根に持ってんだろ!」


「………うーん、そうかな?見た感じ根には持ってなさそうだけど………」


 そう言われた俺はハスラーさん達が座っている席を見た。

 ハスラーさん達は宴会の様に何やら楽しそうに飲んでいる。当のハスラーさんは机の上に立ち、ジョッキに入ったビールをガバガバ飲んでいる。二人の取り巻きも大笑いしながら肩を組んでいる。つまりどんちゃん騒ぎだ。


 まあ、確かに根には持ってなさそうだが………。とゆうか、なんであんなに危険な事をしたのに捕まっていないんだ?


「いやツキノ、流石にあの人達に………」


「あのーー!すみませーん!少し聞きたい事があるんですけどーー!」


「ちょっ!?ツキノ!?」


 と、俺がツキノに止めようと言おうとした瞬間、ツキノは騒いでいるハスラーさん達に話しかけてしまった!


「ん〜……なんだァ〜……?」


 ハスラーさんは話しかけてきたツキノの方を向く。そして…………


「あああ〜!!テメェら、あん時の貴族風の格好の〜!!」


 ヤバい……本当にヤバい。ハスラーさんが俺達を鬼の形相で睨みつけてきた。これは一悶着ありそうだ……。


「おいおいおい!!テメェこの野郎!!わざわざぶっ殺されにきたのか!!よし、その勝負受けてたつぜ!」


「おう!ハスラーさんとオイラ達が本気になれば、お前達なんかアリんこ同然だ!」


 取り巻き達も俺達を睨みつける。やっぱり根に持ってんじゃねえか……。


「クソッ……。ツキノ、俺が合図したら逃げ……」


「いや大丈夫、その必要はないよ」


 と、俺が耳元でそう呟いたら、ツキノは平然とした態度でそう言った。





「こらテメェら〜!!ギルド内での喧嘩は禁止だろうが!」


 突然、ハスラーさんが机から飛び降り、取り巻き二人の頭を殴った!


「「痛てーーーーッ!!」」


 取り巻き二人はそう叫び、頭を抱えて床で転げ回る。


 俺はその情報が理解できなかった。一体なんでハスラーさんが取り巻きにゲンコツを食らわしているんだ?


「え、ど、どういう事だ?」


 混乱している俺にツキノが冷静に答えてくれた。


「言葉の通りだよ。この建物内では決闘は禁止なんだ。もしこのルールを破れば……」


「冒険者の資格は剥奪って言う事だァ〜。チッ、全く嫌なルールだぜ〜」


 と、ツキノの途中でハスラーさんが説明してくれた。なるほどな、冒険者の資格剥奪か………。


 俺はツキノに疑問を話すことにした。


「てか、冒険者って資格あるんだな。適当に名乗っても良いものかと……」


「あ、うん。一応この異世界にも冒険者登録っていうものがあるよ」


「この異世界にもって……他の世界にもあるんだな……」


「まあね……。さっきの受付でできるけど………する?」


「いや、今はしない」


 そんな会話をしていると、ハスラーさんが俺らに近づいてきた。


「しかしよぉ〜!この俺様になんの様ダァ〜!喧嘩なら別に外に出ればできるぞゴラァ〜!!」


 俺とハスラーさんの距離は2メートルもないぐらいに近い。そして、やっぱりこの人凄くデカイ。そして凄い威圧感だ。


「あ、いや、違くて……ちょっと聞きたい事がありまして………」




 俺はちょっと気迫に押されながらもなんとか事情を説明して、ハスラーさんと取り巻き二人にスマホの写真をいくつか見せた。


「いいや、知らねぇなァ〜!こんな奴いんのかよ〜!」


「オイラもだ!知らないぜ!」


「……そうですか……」


 と、ツキノがそう言った時だった。


「……………なあ、ちょっと良いか?」


 取り巻きの一人が俺の方を見る。


「は、はい。なんでしょう」


「ちょっと前の絵をしせて欲しいんだけどよ」


 絵というのはスマホの写真の事だ。

 俺はスマホの写真をゆっくりとスワイプさせていく。


「あ、これだこれ」


 取り巻きが止めた写真は、俺やテッペイ、サブローなどの男子数人がクラスの教室で撮っている写真だ。もちろん全員制服を着ている。この写真は確かタチバナが撮ってくれて、俺のスマホに送信してくれたものを俺がフォルダに入れていたものだ。


「これがどうかしたんですか?」


 俺の質問に対して、取り巻きの人は俺の服と写真を交互に見ながらこう言った。


「やっぱりな………今思い出したぜ。………最近お前以外でこれ着てる奴見た気がするぜ」


「え?コレをですか?一体何処で?」


 俺は手を広げて自分の制服を見ながらそう言った。


「確か………一ヶ月前ぐらいだったか?ワープ塔の辺りで見たぜ」


「ワープ塔……」


 確か紅色のクリスタルが埋め込まれた塔だよな。この国に最初に来た時の場所だ。


「その時の話を詳しく聞かせてもらえますか?」


 と、ツキノは真剣な顔でそう言う。取り巻きの人はツキノを見て「分かった」と言うと話を始めた。


「えーとだな。…………そん時は夜で、俺は酒場から宿に帰る時だったんだけど、酒場から宿の間の道にワープ塔があってさ。その横を通ってると、俺の目の前をお前みたいな恰好した奴が飯屋から出るのを見たんだよ。んでそいつはトボトボと路地裏に入って行ったな。まあそこからはソイツの事は知らねえけど………」


「顔は?顔は見ましたか?」


 俺はそう質問した。しかし、取り巻きの人は唸りを上げながら頭をかく。


「顔?うーん、顔は見てねえなー」


「他に特徴とかは?」


 さらに俺は質問する。が、反応は同じだ。


「うーん………。いーや、わかんねぇな。なんせ夜で暗かったし、俺酔っ払ってたし、まあ服装は特徴的だからなんとなく覚えてたけど、他はさっぱり忘れちまったぜ」


 この様子を見る限りだと本当に忘れていそうだ。他に聞けることは無いか……。


「そうですか………。分かりました。教えてくれてありがとうございます」


 俺は深くお辞儀をした。


「チッ、やっと終わったか。酔いが覚めちまったぜ…………おいゲンツキ!チャリンコ!そろそろ帰るぞ〜!!」


「えー!オイラまだ飲みたんないですよ〜!」


「うるせぇ〜チャリンコ!帰るったら帰るぞ〜!」


 と、ハスラーさんは取り巻きの一人……チャリンコさんにそう怒鳴りつける。そして………


「おいテメェら………」


 俺とツキノの方を向き、小さい声でこう言った。


「…………………斬りかかって悪かったな……」


「えっ……」


 俺は思わず驚きの声を漏らす。



「でも、テメェらが俺様をおっさんと言ったのは忘れねぇからな〜!!」


 しかし、ドスの効いた声で叫んびながらその場を後にしていた。












 こうして、俺達は全員に聞き込みをした。

 有力な情報はハスラーさんの取り巻きの一人……ゲンツキさんから聞いた情報だけだ。このゲンツキさんの情報で推理するなら、犯人=奈多高校の制服を着ていた=奈多高生と言う事だ。


「しかし、犯人が奈多高生か……」


「そうだね、奈多高校の制服を着ていたとなると、犯人は奈多高校の生徒って可能性はあるね……」


「まあな。流石にこんな特徴的な制服、奈多高校以外に取り入れたないだろうし…………」


 俺とツキノは今、休憩がてら食堂の適当な席に座って話している。


「ねぇヒビノくん。奈多高校で今行方不明の生徒っている?もしかしたらその人物が犯人って可能性はあると思う」


「行方不明?どうだったかなぁ〜。いたかそんな奴………?ちょっと分かんないな……」


「そっか………」


 と、ツキノは下を向く。


「つうか、ちょっと思った事があるんだけど」


 と、俺は気になった事を話す事にした。


「うん?何かな?」


「いや、凄く今更なんだけど、もしかしたら犯人は今、現実世界人っぽい服装……奈多高校の制服を着てないのかもしれないって思ってさ」


「……………どういう事?」


 ツキノは不思議そうに首を傾げる。俺は話を続けた。


「いや、この世界じゃこんなに目立つ制服を見たり知ってたりしてた人が、王様とゲンツキさんぐらいだし、もしかしたら犯人はこの世界では珍しくない様な恰好をしているんじゃないか?だってそうだろ?この恰好目立つし、俺達だって結構街の人に見られてたわけだしさ」


「…………確かに、言われてみればそうかも。………まず犯人はこの世界に来た時は奈多高校の制服だったけど、制服はこの世界じゃ目立つから着替えた………て事だね?」


「まあな………」


 俺はスマホを見る。時刻は17:20分を示していた。


「な、今日はそろそろ帰らないか?そろそろ暗くなりそうだし」


「そうだね、また明日犯人を探して………」



 その時だった。


 ブゥゥゥーーン!!ブゥゥゥーーン!!ブゥゥゥーーン!!


「ギルドの前に数匹のゴブリン、2匹のオーガが出現!冒険者の方々は注意してください!繰り返します………」


 またしても、サイレン音が鳴った。

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