13.覚悟を伝える
「早く早く!座って座って!」
アイギスは笑顔でそう言って、パイプ椅子に座るように急かす。俺はゆっくりとパイプ椅子歩み寄り座った。
俺は確かベットに入り寝たはずだ。とするとやはりここは夢の中なのだろう。
アイギスは俺が座った後、空いている窓を見て、「今日は割と話す時間がありそうだね……」と呟く。外は真っ暗で、月明かりが辛うじて部屋を明るくしている。
「さてと、私が言ったあの子には会えたかな?」
「あの子…………ツキノの事か」
さっきまでぼんやりとしていた意識が、だんだんと覚醒状態へと戻ってきた。
「ああ……会えたよ。アイギスが言っていたのはツキノ……月野恵だろ?」
「ツキノ……メグミ……か………」
「……………?」
何故かは知らないがアイギスは少し目を細め俯く。が、すぐに顔を上げてこっちを見る。
「そっか、じゃあ君はメグミに会えたんだね。なら、体育館裏までも付いて行ったのかな?」
「ああ、付いて行った。そして………異世界に行った」
俺のこの言葉にアイギスは「おっ!」と嬉しそうな声を上げる。
「ならもしかして、君もココロのチカラに目覚めたのかな?」
「…ッ、まあ…一応…」
「おお!やっぱり君にはココロのチカラを発現させる才能があったんだね!そうかそうか、私の目に狂いは無かったか……!」
と、アイギス腕を組みうんうんと頷く。なんだか嬉しそうだ。
アイギスと話し、時間が経ったおかげか、さっきまでのあのぼんやりした感じは無くなり意識はハッキリとしている。
「なあ、質問いいか?」
「ん?何かな?」
アイギスは頷くのを止め、俺の方を向く。
「そういえばアイギスは何者なんだ?俺に変な助言みたいな事を言うし、俺の夢の中に出てくるし、しかも銀髪だし………。……なんていうか……とても普通の人とは思えないって言うか…………」
「…………そうだね。説明しようか」
と言うと、真剣な顔で話し始めた。
「私、実は幽霊なんだよね」
「………………………え?ゆ、幽霊?」
アイギスの突然の幽霊発言に、俺は目を見開く。
「あ、幽霊だとちょっと違うかな?……………半人半霊、と言った方が適切かなぁ」
「ハンジン……ハンレイ?えーと……それは一体何なんだ?」
全くもって聞いたことない言葉だ。
「えっ!?知らないの!?半人半霊だよ!半分が人間で半分が幽霊の奴ぅ!ラノベとか読まないの!?」
「え、ラノベ?」
なんで急にラノベが出てくるんだよ……。
「ラノベはちょっと読まないかなぁ……」
別に俺はオタクじゃない。まあ漫画とかゲームとかはするけど、萌えって感じのはやった事ない。そうなると当然ラノベも読まない。ラノベに対しての認識も『萌えな絵が付いた小説』という具合にしか認識してない。
「あ、ラノベ…………読まないんだ………」
と言うと、アイギスは悲しそうに俯く。そんなに俺がラノベを読んでいない事にショックを受けたのだろうか。
「まあ、でもそうか……半分が人間で半分が幽霊か………。あっ、もしかして、ハンジンハンレイって、半分の半、人、半分の半、幽霊の霊で『半・人・半・霊』って書くのか?」
「あ、そうそう!………ってホントに分からなかったんだね……」
と、アイギスは呆れている。なんだ?半人半霊ってそんなに有名なのか?
「……………………………さてと、話を戻そうか。私は半人半霊、半分は生きているけど半分は死んでいる存在。だから、今君の夢の中に入れるのも半分が幽霊だからこそ出来るって事っ!」
「な、なるほどな……」
何故かドヤ顔のアイギス。俺はそれの顔に戸惑いながらも納得する。
「じゃあ、その銀髪は?染めたの?」
「いいやぁ、染めてないよ」
「え!?じゃあ地毛かよ!凄えな!なんかお前って日本人っぽい顔立ちしてるけど………へぇ!凄えわ!」
「え、ま、まあねぇ…………というか、半人半霊な事よりも驚いているね………ハハハッ……」
アイギスは自慢げに笑う。が、どこかぎこちない気もする。ま、別にいいか。
「よし!!それじゃあ今度は私が質問しようかな!!」
「え、お、おう…」
急にそう言ったアイギスに、俺はちょっとたじろぐ。そしてアイギスは、またしても真剣な顔で俺を見る。
「………君のココロのチカラ、属性は?」
「………光だ」
「そっか………なるほど、光か……」
アイギスは考え込むそぶりを見せる。そしてニヤリと口角を上げ言った。
「とても、とても良い属性だね」
「え……」
「ココロのチカラの属性はね、その人の性格で決まる節があるんだよ。穏やかな人は水、卑しい人は毒、みたい感じでね」
「なるほど………」
「まあそんな属性の人は見たことないけどね」
何故だかアイギスはとても優しい目をして俺を見ている。しかも、とても嬉しそうだ。
「つまりね。『光』なんて属性って事は、君はとても優しく、勇敢な性格なんじゃないかなって思う」
「…………俺が…………勇敢な性格………」
「うん。だからね、きっと君なら………」
と、言いかけたその時だった。
俺の視界がぼやけ始めた。
「………ッ、なんだ、視界が……」
俺は目を手で覆う。それを見て、アイギスは窓の外を見る。
「…………そうか。そろそろ夜明けか……」
「夜明け…………」
そう言われると、窓の外は少し明るくなってきている様に見える。
「ヒビノ君、これだけは言っておくね」
…………アイギスの、声が聞こえる。真面目さが混じった声が聞こえる。
「これから君は何度も異世界に行く。異世界っていうのは私や君が育った世界とは違う常識がある。違う概念がある。違う当たり前がある。違う事実がある」
アイギスが「でも、だからこそ」と話を続ける。
「異世界は本当に"なんでもアリ"なんだよ。本当に………本当に、これだけは揺るがない事実なんだよ」
「………揺るがない………事実」
「そう。異世界に行くからには、それだけは忘れないでね」
…………アイギスの真面目さ、そして優しさが混じった声が聞こえる。
が、もう、その声さえも霞んできた。
「あっ、そうだ。…………あの子……………メグミを手伝ってあげてね。そして……」
「………………」
「……犯人を捕まえてね……」
と、アイギスは微笑んで言った。様に聞こえた。気がする。気がする様な、気がする。
あぁ、そうだった。
もしまたアイギスと会った時、その『犯人を捕まえてね』というか言葉について聞こうと思って…………他にもまだ聞きたいことが山程あっ………………
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、
「…はッ」
俺は目覚まし時計のアラーム音で目を覚ました。時間は7時ピッタリを示している。
「………………アイギス………」
俺は銀髪の少女の名を呟く。そして、その少女について考え始める。
アイツは、犯人………不明病事件の犯人について何か知っているっぽい。いや、そもそもツキノやココロのチカラについても知っている訳だし、そりゃあ知っているか……。
じゃあ、アイツは一体なんなんだ?半人半霊らしいが、俺の夢の中にまで出てきて俺に犯人を捕まえてほしいと言ってくる。何故俺に?"ココロのチカラを発現させる才能がある"と言っていた。そのためか?
他にも疑問はある。アイツはツキノを知っている様な節があった。じゃあツキノとの関係は?どういう関係なんだ?
アイギスは夢の中に出てくる。普通なら「どうせ夢の事だ」と、深く考えないだろう。
だけど、アイギスとの言っていた言葉はなんだかリアリティがあるし、それに現実になっていることもある。アイギスは一番初めに病室で会った時にこう言っていた。
『貴方の学校に今日、一人の女子が転校してくると思う。その子は放課後、体育館の裏…人気のない所に行く。だから貴方にはその子の後を付けて行ってほしいの』
アイギスが言っていたこれらの事は全て現実になっている。偶然にしては出来過ぎだ。つまり、
「アイツは現実世界と何か関わりがある……という事か」
ただの夢なんかじゃない。どうやらそう思った方が良さそうだ。
俺は時計を見る。時間は07:05を表示している。そろそろ学校に行く支度をしよう。そして、ツキノにあの事を伝えなくては。
そして、俺は学校に着いた。今日はいつも通りの時間に家を出たから、クラスにはまあまあの人数がいた。
俺は登校中、ずっと事件について考えていた。いや、厳密に言うと考えていたのはツキノに対して『いるか分からない犯人探しを手伝うか手伝わないか』というのについてだ。俺は…………
クラスの後ろのドア付近で、テッペイとタチバナが話していた。二人は俺に気づき、話しかけてくる。
「お!おいーすタカシ!」
「よっ。テッペイ、タチバナ」
「あ、おはようヒビノ君。今日は普通の時間だねー」
「まあな」
もし、犯人が見つからずに不明病がどんどん流行っていったら、もしかしたらこの二人も不明病患者になるのだろうか。
そんなの…………そんなの絶対……。
俺は自分の席の方を見る。俺の席の隣にはもうツキノが無表情で前を向いて座っている。
「ちょっとすまん」
「え、お、おう」
俺はテッペイとタチバナの間を通り、自分の机にカバンを置き、そして隣を向く。ツキノは俺に気づき、不安そうな顔で俺を見る。そして言った。
「ツキノ、ちょっといいか?」
「………ヒビノ君…………」
「……………犯人ってさっ、本当にいるんだな?」
「………………………うん……いるよ」
ツキノは真剣にそう答える。
「本っっっ当のホントにいるんだなッ???」
そんなツキノに俺は問い詰めるように言った。ツキノはそんな俺に疑問を持つ様な目で見る。
「…えっと……うん……いる…」
信じるぞ、その言葉。
「ヒビノ君……?」
「ツキノ、俺………」
俺はツキノの机に手を着け、ジッとツキノの目を見る。俺の……俺の答えは…………
「俺、探すよ」
「……………え?」
「犯人…………探すよ」
「……………良いの?……危険だよ?」
「ああ、分かってる」
「………大丈夫なの?……怖くないの?」
「大丈夫だ。怖くない。…………でも、昨日は少し怖いなんて言って悪かった……。情けない話、あの時は本当にビビってたんだ」
「いや……全然良いよ。というか、それが普通だし」
そしてツキノは、不安そうに俺を見つめて話す。
「………ねぇ、本当に……本当に一緒に探してくれるの?」
ツキノはずっと不安そうな顔をしている。なら………
「ああ!一緒に探そう!」
俺は安心させるために、笑ってみせた。
そして、チャイムが鳴った。周りのクラスメイトは急いで席に着いていく。が、俺はまだ立ちながらツキノを見つめている。
そして、ツキノの口が開き、こう言った。
「…………………うん、一緒に……一緒に探そう」
「おう!」
俺はさらに微笑んでみせた。
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