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異ろんな世界へ行く  作者: 本郷隼人
一章  剣と魔法のファンタジー世界へ
12/39

11.不明病患者

 そしてしばらくして、俺らは栗浜駅に着いた。

 電車のドアが開くと同時にホームに足を着ける。ホームには割と人が居るが混んでいるという訳でもなく、皆、改札口へと続く階段に向かい歩いている。


 ちなみに、コンビニで買ったおにぎりやお菓子はもう全部電車の中で食べてしまった。


 俺らは階段へと向かう。


「ツキノは家何処らへんなん?」


「えーとね、イオンがある方角だよ……」


「あ〜、じゃあ逆方向だな。駅出たら別々か」


「うん……そうだね」


 ホームの階段のエスカレーターを登り切り、改札口へと向かう道をそんな会話をしながら歩いていた、その時だった。









 バタッ………




「…………へ?」




 目の前で歩いていたスーツを着た男性が倒れた。なんの前触れもなく。突然に。


「お……とう……さん…?」


 7〜8歳ぐらいの女の子……倒れた男性の子供だろうか、倒れた男性を見つめている。何故、自分の父親が倒れ込んでいるのか理解できてない様だ……呆然と立ち尽くしている。

 周りの人達……と言っても2、3人ぐらいだが、この状況を見て唖然としている。


「…………………え?……ちょ、ちょっと!?大丈夫ですか!?」


 俺は突然の出来事に一瞬思考が回らなかったが、すぐに持ち直し、倒れている男性に駆け寄った。


「ううぅ………うああああああぁぁ……おとうさん!!」


 今の状況を理解したのだろう。子供が大声で泣き叫ぶ。

 俺は男性に近寄り、横で片膝立ちになり、意識があるか確認する。


「大丈夫ですか!?この声聞こえますか!?」


 声を掛けるが返事がない。試しに頬を軽く叩いてみるが、男性は目を瞑ったままだ。どうやら意識は無い様だ。


「マジかよ……………ツキノ!駅員さん呼んできてくれ!俺は病院に電話する!」


「分かった!」


 俺がそう言うとツキノは真剣な顔で頷き、急いで改札口の方へと走っていった。




 俺はすぐに119番通報をし、電話に出たナースの人に状況と男性の症状、ここが栗浜駅ということなどを話した。

 ここから近いのは………たぶん縦須賀中央病院か、この栗浜駅から少し掛かるな……。


 男性に特に目立った傷は無い。となると何かの病気で倒れたという事だろうか……。


 病気………まさか………!


「ううぅ……おとうさん……ぐすっ……」


「……ッ」


 俺は男性の側で泣いている子供に目をやった。そうだ、泣いている子供は今凄く心配なはずだ……。


「大丈夫、心配しなくてもお父さんは大丈夫だよ!」


「おとうさん………ううぅぅ………うああわーーん!!」



 ……………駅員さんが来るまで俺はその時、笑顔で泣いている子供を宥める事しか出来なかった………。






 その後、駅員さんが来てから俺はその駅員さんや周りにいた人達、ツキノと一緒に担架に乗せたスーツの男性を駅の改札口の外まで運んだ。駅のバスターミナルにはもう救急車が来ていて、男性は救急隊員に乗せられ、救急車は病院へと向かった。付き添い人は男性の子供、それに状況を理解していた俺とツキノも同行させてもらった。状況を知っているとはいえ、赤の他人の、しかも高校生二人組が付き添い人でも良いのかと思ったが、それは聞かなかった。




 病院にて、俺らは病室の前で待っていた。

 ナースから「この子の母親が来たら帰宅して構いませんよ」と言われた。それまでは子供を一人にしておく訳には行かない為、俺は泣いている子供を宥める。


「………ううぅ……ぐすんっ……」


「大丈夫!お父さんは絶対になんともないよ!」


「ぐすんっ……ホントぉ………?」


「ああ!絶対に大丈夫!お母さんもすぐに来るから、だから泣かないで!」


 俺は極力笑顔でそう言う。が、やっぱり子供は不安そうだ。


「ヒビノくん、ジュース買ってきたよ」


「おっ、サンキューなツキノ」


「ううん、全然良いよ……」


 ツキノはペットボトルのアップルジュースを片手に持ち歩み寄ってきた。子供を落ち着かせるのに良いと思ったから、ツキノに頼んでおいたのだ。

 俺はツキノからアップルジュースを受け取り、キャップを開けてから、しゃがんで子供に渡す。


「それ、飲んで良いよ!」


「え……?良いの?」


「うん、遠慮せずに飲みな!」


 そう言うと子供はそのアップルジュースを大人しく飲む。


「おいしい?」


「…………うん」


「そっかそっか!なら良かった!」


 どうやら子供は落ち着いた様だ。



「ハァ…ハァ…ハァ……!花子(はなこ)ッ!」


「ッッ!おかあさん!!」


 そんな事をしていると、子供の母親らしき人が駆け寄ってきた。子供はそれに気付き、母親に抱きついた。




 俺らはお礼を言う母親に事情を説明し、帰宅する事にした。

 帰る時、子供が手を振ってくれた。俺もそれに応えて手を振った。この感じだと結構元気になったっぽいな。


 縦須賀中央病院は奈多高校の最寄りの西縦須賀駅と俺とツキノの最寄りの栗浜駅の間の駅……縦須賀中央駅にある。つまり逆戻りしてきた訳だ。まあ、しょうがないけどさ。


「すっかり暗くなってんな…」


 俺はツキノと歩きながらそう言う。今は6時ちょっと過ぎぐらいだ。外はもう暗くなっている。


「……………なあツキノ」


「……ん?どうしたの?」


 俺はツキノの方を向く。


「あの男の人……もしかして……」


 そう言うと、ツキノは真剣な顔になる。


「うん……………不明病だよ……」


「……ッ。……そうか、やっぱりか……」



 俺は不明病になった人を見た事がない。

 世界中で流行しているとは言え、流行り始めたのは一ヶ月前…….三月の上旬だ。周りに不明病になった人なんて居なかったし、正直言って親近感が湧かなかった。何処かに別世界の話の様に思っていた。



 が……俺は今日見てしまった。人が不明病になる瞬間を……人が前触れも無く意識不明になってしまう瞬間を…………。


「なあ、不明病ってさ……まだ治し方とか無いんだよな……」


「うん……現代医療では多分、絶対に治せないと思う」


「………………………」


 ツキノは真剣な声でそう言った。やはり事件絡みだと感情が表情に出てくる様だ。



「なあ……その、犯人をさ。倒せばさ、不明病は、不明病患者は治るのか……」


「………………うん」


「そうか……………」



 その後は栗浜駅まで一言も話さずに帰った。帰っている間、ツキノはなんだか悩んでいる様子だった。



 そして、栗浜駅の改札口を出た後、ツキノは真剣な顔で言った。


「…………ねぇ……ヒビノくん……お願いが……あんだけどね………」


 なんだかツキノは悲しい目をしながら、頼みずらそういに言った。


「お願い?」


「うん……あのね……」


 そして、その悲しいそうな目をしたまま行った。





「一緒に、犯人を探してくれない………かな……」


「…………えっ」


 一緒に……犯人を………?ということは……もう一度、あの世界に行くということか……?


「無理にじゃなくて良い……もし、一緒に探してくれるなら嬉しいけど……」


 俺は驚く。ツキノが頼み事、と言うのもそうだが……犯人を一緒に探してほしい……か………。


 その時、俺の脳裏にはあの戦闘が蘇る。

 異世界に初めて来た時、俺は草原で灰霧という訳の分からない化物に遭遇し、その化物の攻撃により、右脚に怪我を負った。

 そして、あの国にモンスター……の形をした灰霧の集団が来た時、巨大な熊の足元には無数の人が転がっていて……それにツキノもあんなに傷だらけで……満身創痍になって……。


 そんな事を考えていると、ツキノは悲しい目からどこか覚悟を決めた目になった。そして話を続けた。


「本当に無理にとは言わないよ……。また異世界に行くことになるし、犯人を探す以上、君をまた危険な目に合わせる事になる………。…………でも、不明病を治す事が出来るのは、灰霧を生み出している犯人を倒せる、ココロのチカラの持ち主だけ……なんだ……」


 ツキノはそう言った。目には覚悟を決めた様な感情が篭っているが、声は何処か弱々しく、悲しげだ。きっと、『本当は俺を危険な目に遭わせたくない』と思っている様に思えた。


「…………そっか……他にココロのチカラの持ち主は居たりするのか……?」


「いない……私と……君だけ……」


「………そっか……」



 正直言うと、少し恐怖の感情が俺にはあった。今回は、俺が偶然ココロのチカラに目覚めて『只々ツキノや国の人達を守りたい』、この一心で戦って、なんとか守ることができた。なんとかあの化物達を倒すことができた。

 しかし、仮に俺がツキノと一緒に犯人を追うとして、今回みたいに死なずにまたこの世界に戻れるのか?

 犯人を追うという事はまた必ず戦闘になるとツキノは言っていた。その戦闘で、俺が生きているという保証は何処にもない。というかまず、その犯人が実在するという保証もない。





 そしてもし……また異世界に行って、今度は倒せない敵に遭遇したら……その時は………もしかしたら俺は死ぬかもしれない。


 死んだら……俺はもう家族や、親友達に会うことができない…………そう思うと、俺は…………。





「少し、考えさせてくれないか…」


「ヒビノくん……」


「正直な話、少し怖いって言うのが今の気持ちだ……」


 俺は素直な気持ちを言った。情けねぇなと思いながら。


「……………………そう……だよね……」


 ツキノは悲しそうな顔をする。

 とても……とても悲しそうな…….例えるなら、そう…まるで何かを失ったかの様な………そんな感じの表情を見せる……。


 ああ、俺はなんて表情させてしまったんだ……。

 さっきまで、ツキノの表情が変わる所を見たかった。でも……俺はこんなに悲しそうな顔を見たかった訳ではない。もっと、華やかな感じの笑顔を…………


「ごめんね……迷惑だよね、こんな事言っちゃって……」


「いや!謝る事じゃないんだ……。ただ……俺にはまだ、戦う勇気って言うか……覚悟って言うか……」


「大丈夫、分かってるよ……」


 ツキノは儚げに、悲しそうにそう言った。


「…………明日……学校で言う……」


「うん……分かった。強制じゃないし、本当に無理はしなくて大丈夫だよ……」


 そうツキノは言う。が、やはり一緒に探してほしいのだろうか……下を向き、儚い雰囲気を醸し出す。


「ああ、分かった。………それじゃあまた明日」


「うん……また学校でね……」



 俺はツキノと別れ、罪悪感と情けなさを胸に帰宅した。

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