9.犯人と灰霧
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「なあツキノ、ココロのチカラの事なんだけど……」
「あ…そうだね。話さなきゃ。……ここじゃなんだし、何処か別の場所で……」
別の場所か………なら……。
「ツキノ、お前って家どこだ?」
「え……どうしたの急に?」
ツキノは首を傾げながらそう答える。が、相変わらずの無表情。
「あっいや、帰り道で話せないかなって思って……どうだ?」
「………なるほどね。私の家の最寄駅は栗浜駅だけど……」
栗浜駅…オレの家もその駅だ。ツキノも同じだとはな。
「おっ、ツキノも栗浜か。よし、じゃあ一緒に帰ろうぜっ」
俺は笑顔でそう言った後、ツキノはコクンっと縦に首を振った。
俺はその後教室にカバンを取りに行き、先に昇降口に待っているツキノの所へと向かった。
昇降口に着いた俺は上履きから靴に履き替え、ツキノが居ないかキョロキョロ周りを見渡す。
ツキノは昇降口の外で待っていた。そして、自分を探している俺に気が付くと、ジッとこちらを見た。俺はそんなツキノに近づいた。
「よっ。待たせたな。それじゃあ帰ろうぜ」
「うん」
俺らはゆっくりと歩き出した。
奈多高校は坂の上にある学校だ。
登校する時は登り坂でしんどい思いをするが、下り坂は楽に降りれる。バスも一応通ってはいるが、1時間に2、3本程度だし、しかも奈多高校の最寄り……西縦須賀駅には行かず、もう一つの最寄り駅であり西縦須賀の次の駅……図師羽山駅に行ってしまう。俺は栗浜駅から西縦須賀までの定期券しか買ってないので、仕方なくこの坂を降りて西縦須賀に向かうしかないのだ。
俺とツキノは今丁度その下り坂を降りている真っ最中だ。
「……ヒビノ君、体、大丈夫?」
「え……」
「ココロのチカラ、使い過ぎで疲労してたでしょ」
「あ、そう言うことか。…………………結構しんどいかな。まあ帰れないほどじゃないんだけど、なんかこう……やっぱり気疲れした感じっていうか………」
気疲れした感じではあるが、別に身体的には疲れていない。なんだろう……マラソンで走った後の疲れってより、勉強をした後の疲れって言った方が適切な気がする。
「……そういえばツキノも結構ココロのチカラ使ってたけど、なんだか疲れてる風には見えないな?」
「……まあ、あのぐらいならね。多分ヒビノ君はココロのチカラを手に入れたばっかりだから、すぐに疲れちゃったんだと思う。私もそうだったしね……」
「へー、なるほど……。ココロのチカラを手にして、結構色々な事を理解したけど、それは分からなかった……」
「そうだね……。ココロのチカラを手に入れた時に理解できるのは、『技の属性』、『技の使い方や性質』、『自分のメインウェポンの種類』、『メインウェポンや拳銃の出し消しの仕方』、『拳銃の撃ち方』に『自分のココロのチカラの総量』……かな。その他の事は、手に入れた時には理解出来ないしね……。あ、あと身体能力が上がるのも分かるのか………。まあでも、ココロのチカラはまだまだ他にも特殊な能力があるよ」
「えっ。そ、そうなんだ…………」
俺はココロのチカラを得た時、ココロのチカラの全ての能力を把握したと思った。
だが、俺が把握した事以外にも、ココロのチカラにはまだまだ特殊な能力がありそうだ………。
「えっと………一つ気になったんだけど、そのメインウェポンって言うのは……?」
「あ、これは私で言うところのライフル、君で言うところの剣のこと……取り敢えず私はそう言ってる」
「……メインウェポンか。なるほど……」
拳銃と違ってメインウェポンはココロのチカラの保有者によって違うしな。呼び方があった方が分かりやすいか。
「まあ多分……次ココロのチカラを使う時はすぐに無くなっちゃうなんて事はないと思うよ」
「………そっか……」
俺らはゆっくりと坂を降って行く。もう半分以上は降っただろうか。
俺はそろそろ本題に入ることにした。
「なあツキノ、………ココロのチカラを他言しちゃいけないってどう言うことだ?この世界なら他言すれば、まあ……不思議がられるだろうけど、あの剣や魔法がある……RPGみたいな世界なら別にそんな事もないと思うけど……」
俺はツキノの顔を見てそう言った。ツキノは俺をその無気力な目で見返す。
「………それはね………」
そして、途端に真剣な目になりこう言った。
「あの人混みの中に、"犯人"がいたかもしれないから………」
「犯人………?犯人って……………ッ!」
その言葉を聞いて俺は、あの言葉を思い出す。
『犯人を捕まえてね』
「ん?ヒビノ君……どうしたの?」
「え……」
俺はアイギスの言っていた言葉を思い出して驚く。俺が突然驚いてしまったせいで、疑問を持ったツキノがこちらを覗いてくる。
「あっ、いや、えーと………それでその犯人って言うのはなんなんだ?」
病室で、アイギスが最後に言っていた言葉。何故だかはわからないが、その犯人という単語が俺は引っかかる。
俺が質問をするとツキノは真剣な目に戻り、前を向いてこう話し始めた。
「ヒビノ君はさ。不明病ってなんで生まれたと思う?」
「え……なんだよ急に……なんでって言われても……。確か不明病の患者は精神が抜き取られて、その精神が異世界で灰霧になるとか何とか言ってだよな?」
「うん、そうだよ。…精神を抜き取られた人は意識不明になってしまう。そして、その抜き取られた精神は異世界で灰霧になり、その異世界の人々を襲う。不明病の患者は精神を取り戻すまで目を覚さない………………じゃあさ……」
そして、ツキノはこちらを向いてこう言った。
「誰がその精神を抜き取っていると思う?」
……………え?誰が?
「……え?誰がって……はぁ?ちょっ、ちょっと待て!」
俺は急に理解が慌てて待ったをかけた。
「そんなのを抜き取ってる奴がいるのか?とゆうか、出来るのかよ?」
「うん、いるし出来るよ。精神……人格とか、心って言い換えてもいい。それらを抜き取ってるのは誰だと思う?」
「いやいや、『思う?』って言われても……。まずそんな漫画みたいな事、本当に人が出来るわけ…」
ないだろ。と、言おうとした。言おうとはしたが、その瞬間に今日の出来事が頭によぎる。
俺は今日、異世界というとんでもなく訳の分からない世界に転移なんてしてしまった上に、ココロのチカラなんて言うトンデモ能力を得て、終いには灰霧という恐ろしい化け物と戦った。
そんな漫画やアニメみたいな事が立て続けに起きた。そんな不可思議極まっている事が。
もしかして、もしかすると………出来るのか?そんな事が?
「………出来るよ。そして、人の精神を抜き取って不明病にして、その精神を異世界で灰霧にしてしまう人が………犯人がいるんだよ……」
心の中を見透かされたのか、ツキノがそう言った。
「……………マジで言ってるのか……?」
「…………うん。事実だよ……」
もし、こんな事を俺が転移する前に聞いたら『何を言っているんだコイツ?』と思ったと思う。絶対に。きっとこの話を他の奴に聞かせてもきっと同じくそう思う。
でも俺は今日体験した。数々の不思議を。
もし、もしも本当なら………
「その、犯人って言うのは誰なんだ?」
俺はツキノに問う。するとツキノは悲しげな表情をして前を向く。
「実はまだ、誰が犯人かは分かってはいない……でも、この世界……君が生まれ育ったこの世界の人間が犯人っていうことは分かっているだ……」
「この世界の……人間が……」
「うん。そして………」
俺らはもう坂を降りきってしまった。今は坂の麓にある信号の前にいて、青信号になるのを待っている。
ツキノは話し始めた。
「ここからは推測……この一連の犯人………不明病を引き起こして、異世界で灰霧を召喚している犯人は、この世界から今日行った異世界に転移していて、そして今は異世界に居るんだと思う……」
「………い、異世界にか?」
「うん……なんで私がそう思ったかというとね……」
そう言ってバックから取り出したのは、あっちの世界でお店で話している時に、慌ててツキノがバックから取り出して見ていた手鏡だった。その手鏡はよく見ると鏡が付いておらず、代わりにレーダーの様ものが付いてある。よく映画に出てくる、潜水艦で敵艦を探知する時に船員が見ている画面や、ドラゴンボールレーダーの画面みたいな物が付いていると言えば分かりやすいかもしれない。
「これは灰霧が何処に居るかを見ることが出来る探知機。通称"灰霧探知手鏡"。これね、『どの異世界に灰霧がいるか。そしてその異世界のどの場所にいるかを探知する』って言う優れ物なんだけどね」
「ん!?え!?ちょちょっ、ちょっと待て!?」
俺は今の発言に待ったを掛けた!
「……え、何?」
「"どの異世界"って………もしかして、異世界ってあの世界だけじゃないのか??」
「え、それはそうだよ。この世界や今日行った
世界がある訳だし、他にも色々な異世界があるんだよ?」
「……………………マジで?」
「…………うん。マジで」
俺はまたしても、ツキノの話に衝撃を受けた。
まさかあの世界以外にもまた別の世界があるなんて…………いや、ツキノが言った通り、この世界と今日行った異世界があるわけだから、異世界が1つとは限らないか………。てかあんな剣と魔法の世界が他にもあるなんて……いや、他の世界はまた違った世界なのかもしれない。
もしかして、その世界の全ての生物がゴリラなんかの世界もあったりするのか?なんて……。
ツキノは話を続ける。
「話を戻すね。この手鏡には今、灰霧とはまた違った、異様なまでに邪悪な気配も探知しているんだ」
「邪悪な……気配……?」
そう言って手鏡の画面を覗き込む。が、別に何も写ってない。ドラゴンボールレーダーみたいに黄色い丸ぽちが表示されている訳でもない。
なんでだろう。壊れているのだろうか?取り敢えずこれ以上話を折らないしようと思い、聞かない事にした。
「…この気配は灰霧のものに似てるけど、本当にまた別の気配なんだ。……………もしかしたら、この気配は犯人のものなのかも知れない。私はそう思った」
「犯人のもの………?そりゃどうしてだよ」
「……何故かはわからないけど、灰霧はこの気配の周辺に出現する。それだけでも怪しいのに、元々この手鏡は灰霧以外の存在を探知出来ない。ならこの気配の正体は………」
「犯人の可能性があるっていうことか………?」
「あくまで可能性だよ、断定は出来ない………」
あくまで可能性か。
ん?待てよ、その邪悪な気配っていうのは本当に人間なのか?灰霧に似た気配って言うぐらいだから、それも灰霧みたいな魔物じゃないのか?
「ちょっと待てよ、まだその気配って言うのが人の可能性かどうか分かってないんじゃないのか?」
「そうだけど、確かめないわけにはいかないよ。それが犯人の気配って可能性が少しでもあるなら」
なるほどな。確かに調べない訳にはいかない。けど……………
「なるほど……大体話は分かった。けどやっぱり、俺にはちょっと信じられないっていうか………。なぁ、本当に不明病を流行らしてる奴なんて居………」
その時だった。
「――居るよ」
ツキノはものすごく冷たく、儚い目でそう言った。
「…………ッ」
「犯人は、この不明病を流行らしている犯人は実在する。それは確かな事実だよ」
「…………そ、そっか……」
今も尚、ツキノはその目で俺を見つめる。いや、どちらかと言うと睨むと言った方が正しいか……。ツキノがこんな目をするのは初めて見た。
何にせよ、ツキノは本気で言っているようだった。それは間違いなさそうだ。
しかし、何故犯人が実在すると、そう言い切れるのだろう………。
「まあ、犯人は実在する事は確かだけど、この気配がその犯人のかは分からない。でも、調べる価値はある」
ツキノは前を向き直し、冷静な声でそう言う。
信号はまだ青にはならない。
「そしてね……」
そして、ツキノがまた話そうとする。俺はこれ以上話を折ってはいけないと思い、黙って聞くことにした。
「犯人の動機は分からない……でも……」
ツキノは真剣な顔付きで、こちらを向いた。
「こんな事は……こんな事件は許しちゃいけないと思う。とても人道的じゃない。だから、私は犯人を捜して、そしてこんな事を辞めさせる為に……犯人を捕まえる為に、色んな異世界に転移しているの」
「………………」
……なるほど……なんとか分かってきた。ツキノはその犯人を捕まえる為に、今日みたいに異世界に転移しているのか。
「………………」
「………………」
やっと信号が青になった。俺らは前を向き、一緒に渡る。その間、ツキノも何も言わなかったし、俺も質問する気にはならなかった。
ここまでの今日ツキノが言っていた話の整理をしよう。
ツキノは今この世界で流行している、突然意識不明になってしまう……" 不明病"は、誰かがその患者の精神を抜き取って不明病にしていると言った。
そしてその精神は異世界で灰霧に変身してその異世界の人間を襲う。その精神を抜き取り異世界で灰霧にする誰か……つまり犯人はここの世界の人間だが、異世界に転移している。
そのためツキノも異世界に転移して犯人を捜しているという事だろう。
なら、ココロのチカラを他言しちゃダメだというのはつまり……
「つまりさ、ココロのチカラを他言しちゃダメだって言うのは………"もしあの人混みの中に犯人がいて、ココロのチカラの事を聞かれたらデメリットだから"って感じか?」
俺はツキノにそう問う。ツキノはそのまま真っ直ぐに前を向いて答えた。
「………うん。もしも私が犯人と対峙して戦う様なことがあった時、ココロのチカラの情報を知られちゃまずいでしょ。…………まあ、あんなに派手にココロのチカラでの戦闘を大勢に見られちゃったし、もう意味ないかもしれないけども………一応、念の為?にね……」
「なるほど……な……。そういうことだったのか……」
「うん……………」
「………………」
「………………」
また、俺らは黙り込んでしまった。何故だか、会話がうまく続かない。異世界関係の話題じゃないと会話が続かないのだろうか。それとも何故か俺とツキノの間に漂う気まずい雰囲気のせいだからだろうか。
まあ、このまま異世界関係の事を聞いても、これ以上頭に入ってくるとは思えなかった。そりゃあそうだ。今日俺は色々な体験をして、色々な事を聞いた。それに今、ココロのチカラを使いすぎて結構疲れている。これ以上は本当に入ってこないだろ。
今は信号を渡ってすぐの場所にいる。もうここまで来れば後4、5分で西縦須賀駅に着く。俺らは駅が見えるまで一言も喋らずに向かった………。
西縦須賀に着いた。
この駅の周辺は余り栄えておらず、近くにあるスーパーやレストランもこじんまりとしていて、俺が初めにここの駅に降りた時の感想は『"3丁目の夕日"の街並みに少し平成をプラスした感じ』だった。
駅のすぐ横にはコンビニが一軒だけ、まるで『どうだ田舎の連中、ハイカラな建築物だぞ』と威張っている様に悠々と立っており、そこを通り過ぎようとしたが、ある事を思いつきツキノを引き止めた。
「なあ、コンビニ寄らないか?今日のお礼にさ!なんか奢ってやるよ!」
俺は笑顔でそう言った。
「え、………いいよ……迷惑だし……?」
「なんで疑問形なんだよ…………」
ツキノは灰霧や犯人関係の時は真剣な顔付きになるが、それ以外になると本当に無気力な声、そして無表情になる。家では笑ったりするのだろうか……。今もさっきの真剣な顔から、その無表情の状態に戻ってしまった。それになんだか……、釣れない?というか、ノリが悪い様にも思った。
「ハァ………」
俺はその顔を見てため息を尽き、そしてまた笑顔で言った。
「こう言う時は素直に奢って貰うんだよ!それにさっ!疲れた時にはなんか食べた方がいいって!」
「でも………奢って貰うのは流石に……」
「俺だってあっちの世界で奢って貰ったじゃんか!」
「…………あ、本当だ」
「だろ?だから遠慮すんなよ!さっ、行こうぜ!」
なんだか、俺はツキノの表情が事件関係の事以外で変わるところを見たくなってきて、ツキノの手を掴んだ。
「え、ヒビノ君?」
そして、俺はツキノの手を引きながらコンビニへと入っていった。
がんばって投稿していきます。
後、作者の他の作品もよろしかったら是非見てください。