プロローグ ー病室での会話ー
そこは病室だった。月明かりが照らす病室だった。
窓は全開に開けられていて、外から入ってくる風が、まとめられていないカーテンを揺らしている。部屋の角には小さな棚があり、その上には今ではもう見ないブラウン管のテレビが置かれていた。
「やあ、こんばんわ」
突然、誰も居ないこの病室から声が聞こえた。
………いや、そうじゃなかった。そこに居た。
部屋の窓際のベットの上に、とても綺麗な少女が座っていた。
笑顔で座っていた。全くもって気づかなかった。
その少女は少し幼い様な顔立ちであり、しかしながら目鼻立ちは整っている。
銀色の髪を、名前は自信ないが…ウルフカット…だったか…にしている。
瞳は葵色なのだが、外国人というよりか日本人風の顔立ちをしていて、そして病人なのだろうか、白い病人服を着ている。
その少女はとても儚げで、そして不思議極まりない印象を放っている。
「そんな所に立ってないで、ほら、座りなよ!」
陽気で、でもどこか大人びた声音でそう言いながら、手前のパイプイスに座るよう促す。なので俺は朦朧な意識をイスに向け、座った。
「さてと、何から話せばいいか…うーん、迷うなぁ…」
「君は……」
「あっ、私?そうだそうだ、名乗らなきゃね」
そう言いながら彼女は立ち上がり、銀髪の髪を手で払いながら言った。
「私はアイギス、この部屋の住人よ。よろしくね♪」
彼女……アイギスは葵色の瞳をこちらに向け、笑顔でそう名乗る。
「……この部屋は…?なんで……こんな所に俺は…」
「ああそう言えば説明がまだだったね」
アイギスはベットに座った。そして足を組み、真剣な顔をしながら話す。
「ここは貴方の夢の中、そしてこの病室は私が作ったの」
「………え?」
「まあ、こんなこと急に言われたら驚くよね」
夢の中…私が作った…。アイギスは話を続けた。
「…貴方はこれからこの先、色々な世界に………俗に言う異世界に行く事になる。そして様々な苦難を迎える…」
「……………異世界………苦難……?」
「でも貴方にはあの子が…味方がいる。だから大丈夫」
「………あの…子?」
アイギスはそう言うと窓の外を見る。外は日は出ていないが、うっすらと明るくなってきている。
「そろそろ夜明け。時間か……。初めてだからかなぁ、やっぱりちょっと早いなぁ……」
残念そうな顔をしたがすぐに真剣な顔に戻り、こちらに向いた。
「時間が無いから手短に言うね。貴方の学校に今日、一人の女子が転校してくると思う。その子は放課後、体育館の裏…人気のない所に行く。だから貴方にはその子の後を付けて行ってほしいの」
「後を…」
「うん。あ、そうそう!、絶対に一人で付けて行ってね!他の人と一緒に付けちゃダメだよ!」
俺はコクりと頷く。何故か、何故だか分からないが、このアイギス名乗る少女のお願いは聞かないといけない気がした。
「あ、そういえば君の名前を聞いてなかったね。名前はなんて言うの?」
「ひびの…日比野隆史…」
「へぇー。そっかそっか、ヒビノ君か…」
………アレ。なんだ急に、何故だか段々と、視界がぼやけてきた。
「………ヒビノ君、必ず………」
意識も、もっと朦朧としてきて………
「………絶対、必ず………」
アイギスの声が……聴こえて……来る……。
「犯人を捕まえてね」
…………俺の意識はプツりと切れた。
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