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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
64/64

正気

 







 悠が目を覚ますと、眠りについた椅子の上ではなく斑目の運転する車の助手席に座っていた。

 悠はぼうっとしながら頭の上にクエスチョンマークを浮かべると、とりあえず今の状況を確認するために斑目をちらりと伺い見て、それから後部座席を鏡越しに見た。

「…ああ、悠くん起きた?よく寝てたから起こすのも可哀想だし俺が担いで来て乗せたんだよね」

 悠が目を覚ましたことに気づいた斑目が、前を見ながら悠に声をかける。

 悠は緩慢な動作で斑目の方を向いて口を開いた。

「…そうか、面倒かけた」

「このぐらい面倒でもないって。むしろ役得だった」

「死ねばいいのに」

「相変わらず口が悪いねぇ。でもそれも、今の俺にはご褒美だから、むしろもっとちょうだい」

 悠は斑目には何を言っても意味が無いと早々に悟ると、口を閉じて窓の外を向いて、斑目の存在を意識から消すことにした。

 それからしばらくの間は車内に沈黙が満ちていたが、斑目が不意に口を開いた。

「まあ、聞きたいこと色々あると思うから、それは次の目的地に着いてから話すよ」

「…どこに向かってるんだ?」

「んー?神樹さんのとこ」

「本気か…?」

「もちろん。ありさちゃんのこと、これ以上こっちに置いておく訳にも行かなくなったからね。この子は神樹さんに預かってもらおうと思ってる」

 悠は信じられないものを見るような目で斑目をみると、斑目もその視線の意味に気づいたのか苦笑しながらも、悠に答える。

「神樹さんのところ以上に安全な場所があればいいんだけどね。…まあ、探せばあるとは思うけど、そんな悠長なこと言ってられなくなったしね」

「もうバレたのか…?」

「正解!どうも上の動向が怪しいし、やけに情報の伝達が早いんだよね」

 どう思う?と斑目に振られるが、悠は特に何も答えずに話をそこで打ち切った。



 *



 神樹の工房は裏道のさらに奥の方に存在しているため、車で行くことがてきない。

 そのため斑目は、工房の近くにある駐車場に車を停めると夜になるのを待ってから湊川を背負って神樹の工房へと向かうことにした。

 荒崎は車内で夜になるのを待っている間、いつものうるささはどこへ置いてきたのかと聞きたくなるほど静かで、その反面斑目はウザったく悠に絡んでいた。

 悠はフードをすっぽりと被ることで斑目のことを視界から消していたが、声だけはどうにもならず苛立ちを顕に舌打ちをこぼした。

 だが、斑目は気にすることなく悠にちょっかいを出し続け、最終的には後ろで大人しくしていた荒崎の怒鳴り声によって、斑目はようやく動きをとめた。



 *



 湊川を背負った斑目を後ろ目に、悠は神樹の工房に繋がる扉の前に立つ。

 正直、悠には湊川がどうなろうと関係はないし、むしろ消えてしまえばいいとすら思っている。

 そんな相手を自分の安全地帯の中へ入れることに躊躇を覚えたが、ここまできて斑目が引くはずもないということは悠にも分かっていた。

 悠は諦めたようにため息をつくと、重い体を動かして扉を開いた。





 工房内はいつも通り機械の部品や、なんだかよく分からないもので溢れていて、案の定神樹の姿は見えなかった。

 悠は神樹がいるかどうか声をかけることもせずに、工房内へと足を踏み入れると、ガラクタのような金属部品が積み上げられている所へと一直線に向かう。

 そして、なんの躊躇いもなく、ガラクタで作られた塔を崩した。

「──おい、起きろ。斑目があんたに頼みたいことがあるらしい」

「…随分と手荒いモーニングコールだな。少しは躊躇しろっての」

 悠によって無理やり起こされた神樹は、だるそうにしながらも、バキバキと音を立てながら体をのばし、そうして斑目の方に視線を向けた。

「なに?またなんか面倒事持ってきたってこと?さすがに頻度高すぎるんじゃないの?」

「すいません…。けど、こっち側の人間で信用出来るやつが居ないもので」

「…まあ、金さえ払ってくれるなら、内容にもよるけど手を貸してやらないこともないけど。んで?今回は何を持ち込んだんだ、あんたは」

「匿って欲しい子がいるんです」

「あんたが今背負ってる子?国の調律師なんじゃないの?やだよ、目を覚ました瞬間に襲われるとか最悪じゃん」

「そうなった時は俺が対応するので、お願いします。今はあなたにしか頼める人がいないんです」

 斑目が頭を下げて神樹に頼み込むと、神樹は難しい顔をして考え込んでしまった。

 壁によりかかりながら二人の会話を聞いていた悠は、つまらなそうな顔をして二人から意識を離すと、同じように会話に参加せず作業台をじっと見つめている荒崎に視線を移した。

 荒崎はいつもと違い、一切言葉を発さずに何かを考えているようにみえた。

 人付き合いが得意ではなく、他人が何を考えているかなど全く分からないし興味もないが、荒崎がこの調子だと、何となく落ち着かない気持ちになる。

 悠はため息をつくと、仕方なく荒崎に近づいていき、その横に立った。

「…何考えてんの?」

「うぇっ…!?神無さん、急にどうしたんですか?神無さんから俺に話しかけてくるなんて…。ま、まさか!何か重大な秘密が手に入ったとかですか!?」

「…むしろそんなものが手に入ったら、お前に教えると思うか?」

「思いません!」

 荒崎は悠の問に即答すると、悠に話しかけられたのが嬉しいのか、いつも以上に締りのない顔をしている。

 そんな荒崎に呆れ顔になりながらも、本題に入ろうと口を開いた。

「お前、なんか悩んでるの?」

「えっ…!?なんで分かるんすか!?まさか神無さん、人の心の中を覗けるとか…」

「ないから。お前がわかりやすすぎるだけだろ」

 悠は呆れを通り越して荒崎のことが心配になってきた。

 こうも単純で、思ったことを全て表にさらけ出していて、よく国の調律師たちの中でやってこれたなと感心すら覚える。

 そんなことを考えていると、荒崎は覚悟を決めたように緊張した眼差しで口を開いた。

「…その、悩みってほどでもないと思うんですけど、俺とj9ってその、できることが、少ないなと思って…」

「そんな事で悩んでたのか?」

「え?」

「いや、お前等の力って汎用性高いし役立つこと多いだろ。そこまで気にすることか?」

 悠がそう言い切ると、荒崎は驚いたように目を丸くした。

「…俺は、神無さんの役に、立ててますか?」

「俺からの評価を一々気にする必要ないだろ。…というか、お前は索敵なら俺よりも上手くできるし、俺がお前に対して言うことは特にない」

「神無さん…!」

 荒崎は悠の言葉に何故か顔を赤くして、悠に見えないように両の手で顔を覆う。

 幾分か経つと顔から手を離し、俯いていた顔を上げる。

 そうして、まだ少し赤みの残る顔で悠を正面から見た。

「神無さん!俺、これからも今以上に頑張りますので!よろしくお願いします!」

「…………」

 急に元気になった荒崎を前に、悠は不思議そうな顔をしながら、悩みが無くなったのならいいかと騒ぎ始めた荒崎を静かにさせるために腕を振り上げた。





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