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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
63/64

解呪

 







 斑目に腕を引かれながら校舎へ入ると、斑目は迷うことなくその中の一室へと入っていく。

 悠も斑目の後に続いて中に入ると、荒崎が何やら忙しそうに機械をいじっていた。

「お、やってるじゃん。準備終わったー?」

「まだだわ!俺一人で全部終わるわけねぇだろ!」

「って、そう言うと思って悠くん連れてきたから、二人で頑張って」

「は!?神無さんにそんな雑用みたいなことさせられるわけないだろ!」

「…いや、やるけど。こんなこと早く終わらせたいし」

「えっ…!」

「お前は俺の事なんだと思ってるんだ?」

 道中で斑目に説明されたことを思い出しながら、荒崎の横に座り込み機械のパーツを手に取る。

「q2」

『それはこの凹みに押し込む』

「へぇー。じゃあこれは?」

 q2の指示を受けて、黙々とパーツを機械に差し込んでいると、荒崎はわたわたと慌てて自分の作業に戻っていった。



 *



 悠と荒崎が二人がかりで機械の調整を終えると、斑目の方も準備が整ったらしく湊川とe7を機械の前に連れてきた。

「悪いねぇ、こんなことさせちゃって。あとは俺がやるからね。悠くんは休んでていいから」

「…言われなくてもこれ以上手伝う気は無い」

「随分不機嫌だねぇ。まあ、報酬は弾むから機嫌直してくれよ?あ、荒崎にはまだ手伝ってもらうから」

「分かってるよ、さっさと始めようぜ」

 悠はこの後特にやることもないので、室内にあった椅子に腰かけると、q2を膝に乗せて荒崎と斑目を横目に外を覗く。

 荒崎と斑目が忙しなく動いている音を背後に、空を流れていく雲を見ていると、だんだんと眠くなってきた。

 このまま眠ってしまってもいいだろうかと、2人の様子をちらりと伺い見る。

 荒崎と斑目は悠のことを特に気にした様子もなく、作業を進めていた。

 不必要に絡まれる心配もなく、時間もまだまだかかりそうだと判断し、悠は眠気に逆らうことなく目を閉じた。



 *



「さて、と。それじゃあ始めようか?」

「おう。…んで、こっからは全部お前に丸投げしちまって良いんだよな?」

「構わないよ。というか、こっからは俺の領分だからお前には無理」

「なら、さっさとやれよ」

 斑目のいちいち癇に障る言い方に苛立ちを覚えながらも、荒崎はなんとか怒りを鎮めて斑目から離れる。

 斑目の持ち込んだ機械にe7を繋ぎ、湊川は目覚めた時に暴れないよう縄で縛ってある。

 荒崎は湊川とe7の様子を警戒しながら、斑目の動きに注意を向ける。

 斑目はr0を傍らに呼び寄せると、r0は心得たとばかりに機械から伸びるケーブルの一つを咥えた。

 そして、斑目が機械のスイッチを入れる。

 同時にr0が自身の霊力を機械に送り込み、機械が動くために必要な電力を霊力から変換し、さらに斑目がe7に干渉できるよう霊力のパスを開いた。

「…さて、ここからが難しいんだよなぁ」

 斑目は独り言のようにつぶやくと、機械のディスプレイに表示されているe7のプログラムを読み解いていく。

 その時斑目のそばに、悠に抱えられていたq2がふよふよと漂ってきた。

『──当機の演算能力を使えば、通常時の半分の時間で解読可能』

「へぇ、手伝ってくれるのかい?」

『肯定。解呪を速やかに終わらせる必要ができた』

 q2はそう言うと、自身のケーブルを伸ばし機会の内部へと潜り込ませた。

 斑目は後ろをちらりと伺い、椅子に座りながら眠っている悠をみる。

 荒崎が近づいて肩を揺すっても目を覚まさず、眠り続けている様子を見て申し訳なさそうにq2に話しかけた。

「…ありゃ、やっぱり悠くんまだフルで動けないか。君のご主人様のためにもちゃちゃっと済ませよう。頼むよq2」

『了解』



 *



 今回湊川がかけられている洗脳は、包魂機を介してその主人である調律師に影響を与えるものだということだけは、斑目の方で調べがついていた。

 そもそも、調律師を洗脳するなんてことはほぼ不可能に近い。

 調律師の傍には常に包魂機がいるため、主人の身に何か起これば包魂機は瞬時にその原因を排除するために動く。

 だからこそ、湊川を洗脳した相手は考えたのだろう。

 調律師本人を狙うのではなく、包魂機を通じて調律師本人に洗脳をかけた。

 どういう仕組みで洗脳をかけるかまでは分からなかったが包魂機を狙う方が、調律師本人を狙うよりは簡単にできるだろう。

 包魂機は自身の危険に対して、受動的なところがある。

 それは、自分の主人の身を守るために相手の攻撃や思考パターンを読み取るために必要な機能だが、今回はそこを突かれ、湊川は洗脳にかけられたと斑目は考えていた。

 そこで、わざわざこんな所にまで他人の包魂機に干渉するために必要な機械を運んできたのだ。

 機械の動作に不備はなく、q2の演算能力を借りられるということもあり、斑目は湊川にかけられた洗脳を予定よりも早く解呪できそうだと、ほっと胸を撫で下ろす。

 先程からe7のブログラムをみていると、ところどころおかしくなっている部分や、無理やり継ぎ接ぎにされている箇所が見つかった。

 q2が異常がある部分を見つけ出し、それを斑目が書き直す、という根気のいる作業を1時間ほどかけてようやく終わらせることができた。

 q2の情報処理能力と演算能力がなければ何倍もの時間がかかっていただろう。

 一応は一安心だと、ようやくまともに呼吸ができた気がする。

 安堵に胸をなでおろしていると、r0とq2が何かを警戒するように、後ろを振り返る。

 そこには、縄で縛られたまま何とかして抜け出そうとしている湊川の姿があった。

「あらま、もう起きちゃったの?」

「っつ…!斑目さん!これ外してください!!」

「それはまだできないかなぁ。だってありさちゃんさ、それ外したら悠くんのこと傷つけるでしょ?」

 斑目は湊川へと今にも飛びかかりに行きそうな荒崎を視線だけで抑えると、荒崎は渋々と言ったように動きをとめた。

「あいつは…!」

「俺さ、悠くんのこと気に入ってるんだよね。だからもしも、ありさちゃんが悠くんに手を出したら許せなくなるかもしれない」

「……っ」

 斑目の声のトーンで、湊川は理解する。

 斑目に逆らい何とかこの縄を抜け出したとしても、今の自分に待っているのは破滅だけだと。

 湊川は身体を震わせ斑目を仰ぎみる。

 斑目はいつものようにヘラヘラと笑いながら、湊川に声をかけた。

「あともう少しだからさ、そのままでいてくれよ?」

  湊川はそんな斑目に何も言うことができず、ただ口を閉じて頷くだけだった。



 *



「さて、と。それじゃあ仕上げにかかろうか」

「こっからは俺も手伝うんだよな?」

「まあね。ちゃんと指示通りにやってくれよ?」

 斑目は荒崎をそばに呼ぶと、未だに顔を青ざめて口を閉じ俯いている湊川の前にしゃがんだ。

「これからありさちゃんの洗脳解くから。少し荒療治になるけど我慢してね?」

「洗脳…?」

 湊川自身は自分が洗脳されているだなんて微塵も思っていない。

  洗脳によって、自分の意思で全て行っていると思い込まされているからだ。

 そんな湊川の様子に、斑目は湊川に気づかれないように顔をしかめると荒崎に声をかけた。

「お前はありさちゃんへの呼びかけと見張りを頼む。…できるな?」

「できるに決まってるだろうが」

「うん、いい返事だ。じゃ、はじめようか」

 斑目はまだ起動していないe7の頭部に手を乗せると、自身の霊力を送り込み無理やり覚醒させる。

『──────!?』

 e7は突然起動させられたことによるパニックで、四肢をめちゃくちゃに動かし、斑目の手から逃れようともがく。

「ありゃりゃ、ずいぶん元気が有り余ってるんだねぇ」

 斑目は苦労しながらもe7を押さえ込み、頭を介して湊川の認識を書き換えにかかる。

 包魂機のブログラムを修復するだけなら先程使った機械でも可能だが、人の頭の中身を整えることを目的に機械を介して行うと、頭の中に突然膨大な情報が流し込まれることになり、廃人になる。

 斑目はr0にe7を押さえさせると、r0の体の下でもがいているe7の頭部を掴む。

「さて、と。それじゃあ少ししんどいかもしれないけど、頑張ってね?」





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