襲来
悠は戦装束を身にまとい、建物の周辺を探索していた。
q2も初めて訪れた場所に興味があるのか、自由に動き回っている。
林のような静まり返っている場所をプラプラしていると、都会の喧騒から隔離されたようで、煩わしものから開放された気分になる。
悠がなぜこんな所でぶらついているのかと言うと、湊川ありさがここに来ることは確定しているが、具体的にいつ現れるかは不明なため、1箇所に留まっているよりも適当に動くことで不審に思われないようにするためだ。
何らかの調査のために来ていると思わせることが出来れば御の字だと、斑目には言われている。
そのため、特に隠れることもせず堂々としている訳だが、一向に現れる気配がない。
悠は特に疲労を感じている訳では無いが、こうも動きがないと退屈になってくる。
そもそもなぜ、確実に現れると確信しているのか斑目に尋ねたが、どうも悠のことを過大評価しているようにしか感じなかった。
*
「あの子が確実にここに来る理由?そんなの悠くんがここに来るからに決まってるじゃん」
「…それが分からない。なんで俺が来るとあの女も来ることになるんだよ」
「だって、国の上層部は君に目をつけてるからねぇ」
「はぁ…?」
悠はなんだかよくわからないような、顔をして斑目をみるが、斑目はなんでもないように口を開く。
「ていうか、当然じゃない?悠くん、今まで何人の国の調律師を返り討ちにしてきた考えてみなよ?」
「…そんなもの覚えてるわけないだろ」
「だろうねぇ…。けどお偉いさんがたはしっかり覚えてるみたいでさぁ、君のこと狙ってる人結構多いんだよね」
「なんだそれ…」
「まあ、つまり?ありさちゃんのことを操ってる奴も君のこと狙ってるみたいでさ、あわよくば悠くんにも洗脳かけて自分の手足にしたいみたいよ?」
「…悪趣味なやつだな」
悠は顔を歪ませ嫌悪感をむき出しに、斑目をみる。
斑目も悠と同じ気持ちのようで、どこか不機嫌そうな雰囲気が出ていた。
「ま、ありさちゃんはここで返してもらうし、悠くんのことも渡さないけどね…」
「…お前も気持ち悪いな」
「酷くない!?ここは、ありがとう斑目さん!すっごく頼りになるぅ!って、俺の事見直す場面でしょ!?」
裏声を出して、いかにも傷つきましたとでも言わんばかりに身を縮こませた斑目を前に、悠は声を低くして呟く。
「…俺は今すぐ帰ってもいいんだけど」
「軽い冗談でしたー!…さて、悠くんはその辺ぶらついてきてください!はい、解散!」
*
斑目とのやり取りを思い出すと、頭が痛くなり思わず目をきつく閉じる。
ようやく頭痛が治まって目を開くと、眼前にq2がいた。
q2はただそこにいるだけで言葉も発さず、ふよふよと浮遊している。
それだけでq2の意図を汲んだ悠は、斑目の待機している校舎のある方へと歩を進め始めた。
この辺りをしばらく散策していたが、随分と木が生い茂っていて、この中で一人の人間を見つけるのは難しいだろうと、わざと見つかるように開けた場所へと向かう。
校舎の近くには比較的開けた場所が多く、悠は斑目の荒崎の視界に入りやすい場所を目指し、駆けていく。
そろそろか、と悠は足を止めるとこちらを見ている斑目の視線を感じた。
悠はあえてそちらを見ずに、まるで何かを探しているような動作をして、相手の油断を誘った。
地面に手を置いて、何かを見つけたかのように首をかしげ、完全に油断していると思わせるように振る舞う。
その時、何かが一直線に悠へと向かい突っ込んできた。
悠は驚いた振りをして転がりながら横にズレると、何かはそのまま奥の木に突っ込んで急停止した。
『警告、湊川ありさの包魂機を確認』
「…分かってる。予定通り逃げるぞ」
『了解』
悠がq2と共に校舎へ向かい走り出すと、背後から凄まじい勢いで湊川ありさの包魂機であるe7が追いかけてくる。
「…俺、病み上がりなんだけどさ、なんでこんなことしてるんだろうな」
『貴殿があの男の頼みを聞いたからだ』
「判断、早まったか…?」
悠はまだ万全ではない体を無理やり動かし、全速力でe7から逃げる。
足に霊力を回し、今の自分が出せる全速力で駆けているが、振り切れる気がしない。
e7が爪を伸ばし、悠の足を狙って飛びかかる。
その事に気づいた悠は、e7の攻撃を避けながらも斑目の言っていたことが真実なのだと確信する。
湊川ありさが悠を斃すためにここに来たのなら、足ではなく胴体、もしくは頭を狙うだろう。
だがe7は悠の足を執拗なまでに狙って攻撃を仕掛けてくる。
つまりそれは、悠のことを生け捕りにしたい誰かの指示で動いているということを示唆していた。
「このまま斑目の所まで連れてくぞ」
『了解、だがこのままでは──』
「分かってる」
悠はq2に返事を返すと、後ろから突っ込んでくるe7を確認し、その場で飛び上がる。
自身の真上にある木の枝にぶら下がり、体を持ち上げると、そのまま木を伝ってe7から距離を取った。
e7は一瞬虚をつかれたように動きを止めたが、すぐに我に返ると、悠のあとを追うように木の上に登ってきた。
悠はe7が呆けた一瞬で距離をとり、躊躇うことなく木から木へと飛び移る。
『残りおよそ200m程で指定されたポイントに到着』
「了解」
斑目と事前に決めておいたポイントが見えてくる。
悠はe7が自分を追ってきていることを確認し、意識を前に向けた。
すると、ポイントの場所に人影が現れる。
悠は木から飛び降り人影の前に着地すると、声をかけた。
「…また会ったな」
「そうね。あなたは嫌そうだけど、私はずっとあなたに会いたかった」
人影は湊川ありさだった。
湊川ありさがこの場所で悠のことを待ち構えているのは作戦通りだった。
悠がe7を誘導し、自身の動きを盛大に湊川に伝えることで、湊川が自分のことをにきちんと見つけられるように罠を張っていたのだ。
まんまと引っかかった湊川を見据え、悠はここまで作戦が上手くいったことに安堵しながら、それをおくびにも出さず、あくまでたまたま遭遇したかのように振る舞う。
「…あんたさえ居なければ、あんたが死ねば!全部元通りになる!」
「随分な暴論だな」
「好きにいえばいいわ。ここであんたを殺して荒崎先輩も斑目さんも助けてみせる!──e7!」
湊川の号令と同時にe7が姿を現し悠の首にその爪を伸ばした。
そして──
『──謀ったの…?』
『……………』
e7の体は斑目の包魂機、r0によって噛み砕かれた。
r0は悠の傍で待機しながら、e7を仕留める好機を伺っていた。
r0は顎を引いて噛み砕いたe7の体を引きずって、悠から距離を置く。
「…うそ」
「嘘じゃないんだよねぇ、これが」
「…お前が来るなら俺がここにいる意味ないだろ」
「いや、まあ、そうなんだけどね?気になって」
悪びれもせず姿を現した斑目は、いつものようにヘラヘラと笑いながら湊川に近づいていく。
「斑目さんも、その男に騙されてる!そいつは最低な奴なんですよ!?なんでそんな人とあなたが手を組んでいるんですか!?」
湊川の口は癇癪を起こしたように、次から次へと言葉が飛びしてくる。
斑目はそんな湊川のことを、まるで駄々をこねる子供を見るような目で見ると、湊川の方に手を伸ばせば触れられる位置まで進む。
そして湊川の方に手を伸ばした。
「ありさちゃん、俺はこれから君に少しだけ酷いことをする。だから、先に謝っとくね。──ごめんねありさちゃん?」
「なに…!」
そう言って斑目は湊川の首筋に触れると、湊川は急にその場へ崩れ落ちた。
「…ふぅ、ここで抵抗されてたらまずかったよ」
「…呆気ないな」
「まあ、ここからが本番だしね」
斑目は湊川の体を背負うと、校舎へ向かい歩き始めた。
悠も斑目のあとを追いかけて校舎へ向かおうとしたが、ふと後ろを振り返る。
木々の間には木の葉が揺れているだけで、何の異常もないように見えるが、まるで何かに呼ばれるかのような錯覚をした。
フラフラとそちらへと誘われるように足を動かそうとした瞬間、腕を斑目に掴まれた。
「…悠くん、それは錯覚だ。戻っておいで」
「………………」
悠は名残惜しそうに、森の奥をじっと見つめていたが、斑目が腕を話す気がないとわかると未練を断ち切るように頭を振った。
「ん、良い子だ。じゃあ戻ろうか」
斑目に腕を引かれながら、悠は自身が向かおうとしていた方向とは逆の方向へと足を進めた。
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