異変
今回は筆が進んだので早めの投稿です。
5限のグループ決めは既に教師が告知していたこともあり、スムーズに終わり、早めに帰れることになった。
悠はさっさと学校から出ると神樹を訪ねた。神樹はいつもと同じように作業台の上でガラクタと遊んでいるようだった。
「今日は早いなぁ。何かあったの?」
「あんたに聞きたいことがある」
「なに?」
「ここに、俺以外の調律師は来たか?」
「なんだって?」
神樹は驚いたように作業台から顔を上げた。
「あんた以外のこの地区にいる調律師を私は知らないね」
「そうか、じゃあもうひとつ」
悠はそう言って朝方机の上に置かれていた手紙を神樹に差し出す。
「なんだこれ?」
「今日学校に行ったら置いてあった。中身読んでみてくれ」
神樹は訝しげにしながらも手紙を開いた。
「…くふっ!あんたこれ!なんて書いてあるかわかんないんだけど!字汚ないな!」
「あんたにも読めないか」
悠は神樹から手紙を受け取るとそれをカバンに押し込んだ。
「さすがにそれは読めないわ。で、あんたはこの手紙どうすんの?」
「どうもしない。用があればそっちから接触してくるだろ」
「…まぁ、今はそれが賢明かもね。今日はどうすんの?後でまたガラクタ届けにくる?」
「戦果があればな」
「じゃあ、昨日の分の報酬はその時でいいか?今手持ちがなくてね」
「わかった」
悠はカバンからq2を出すと、そのまま神樹の元を後にした。
*
「さて、と」
『近辺に異常はない。ここからどう動く』
「どうするかな…」
悠は装備を身に纏うと、街を一望できるビルの屋上で手持ち無沙汰にしていた。
「少し、騒いでみるか?」
悠がその場から離れようと身を翻す、その時。
『警告──異常事態、何者かがこちらに向かってきている』
「へぇ…」
悠はq2の報告にピタリと足を止める。
「手紙の送り主か、はたまた全くの別人か…」
『相手がこちらに到着するまで205秒』
「…へぇ、やっぱり調律師か」
q2の索敵は先日のこともあり10kmまで拡大してある。
つまり、その人物はここまで5分とかからずその距離を移動できる者。そんな存在は調律師以外にはありえない。
『到着まで50秒』
「…まあ、いきなり殺し合いにはならないことを期待しておくか」
悠はビルの淵に立つと後ろを振り返った。
「さて、名前も知らない調律師さん。話し合いで解決はできるか?」
そこには、悠と同じ年頃の男が立っていた。
男は悠を見ると怒りを顕にし口を開く。
「お前、なんで手紙無視したんだよ!せっかく場を整えてやったのによォ!」
(あ、こいつ馬鹿だ)
男のその言葉だけで悠は全てを察した。
手紙の送り主とこの地区に来た調律師が同一人物であり、尚且つどうしようもない馬鹿だということを。
「…あの手紙お前が書いたのか。読みはしたがなんて書いてあるかわからなかったからな」
「はぁ?お前日本語わかんねぇのかよ」
「いや?お前の字が汚すぎて読めなかった」
悠がそう告げると男は荒っぽく、壁を殴った。
「お前俺の事馬鹿にしてんだろ!」
「…馬鹿にするも何も」
手紙を貰った時点で馬鹿なのはわかっていた悠は、今更この男の評価が変わることは無いのだが、男はそうもいかないようだった。
「ふざけやがって…!── j9来い!」
男が抱魂機の名を呼ぶと、傍らに大鷲の姿を模した機械が闇夜から現れる。
『およびかい?我がマスター』
「ああ!あの男をぶちのめせ!」
『はいよぉ!マスターの命令のままに!』
悠はため息をつくとq2に声をかける。
「援護は任せた」
『了解。━━近接攻撃武器展開、これより戦闘行動に移行』
悠はq2によって生み出された刀を手に取る。
「…面倒くさそうな奴だ」
そうして、悠は地を蹴った。
*
『おいおいおい!主人が前線に出てくるなんて、戦いの基礎も知らないのかぁ!?』
「騒ぐしか脳がない鳥頭は黙ってろ」
そう、悠の戦闘スタイルは他の調律師とは異なる。
本来調律師の戦闘は抱魂機を前線に出して戦うが、悠の抱魂機であるq2には戦闘を行う能力はない。
そのため、悠は自身の抱魂機、q2の能力を最大限に引き出す方法として自信が前線で戦うことを選択した。
『マスターの言う通り、随分とバカにしてくれんだなぁ!』
j9と呼ばれた抱魂機は自身の翼を大きく広げると、その羽の一枚一枚が弾丸のようになっているらしく、一斉に放出した。
「…q2」
『装備の強化開始━━完了』
悠は相手の打ち出した弾丸を避けるのではなく、自身の装備を強化し受け流した。
そうして、そのままの勢いでj9の翼に刃を突き立てる。
『グギャ!?なんなんだよお前は!』
悠に傷つけられたことが想定外だったのか、j9は慌てて悠から距離を取る。
「…降参してくれないか」
「はぁ?何言ってんだお前!これからが本番だろうが!!」
悠は刀を下ろすと相手の調律師をじっと見据えた。
「撤退してくれ。人殺しはできるなら、なるべく、したくないんだ」
悠は相手の挙動から目を離さずに告げる。
「バカにしやがって…!
…ああ、分かったよ!この場はお前に勝ちを譲ってやる!だが、このままで終わると思うなよ!」
そう吐き捨てると、男はビルの屋上から走り去っていく。その後ろを慌てながら、彼の抱魂機が追いかけていった。
「…あいつら、諦めるか?」
『その可能性は限りなく低いだろう』
「本当に、やってられないな…」
悠は刀から手を離すとq2と顔を見合せた。
「今日は神樹のところに行って帰るか」
『同意。精神的な疲労を回復するべき』
「…バカの相手は本当に疲れるからやりたくない」




