目覚
神樹は斑目と荒崎の2人を置いて奥のドアをくぐると、悠のいる部屋まで向かい、ノックもせずに部屋の扉を開けた。
「ほら、おきろー。迎えがきてんぞ」
「………ぅん?なに…が」
「まだ寝ぼけてんのか?荒崎くんと変態調律師がお前のこと迎えにきたから。上行くぞ」
神樹の声で目を覚ました悠は、体を起き上がらせはしたものの、ベッドの上でうつらうつらとしていた。
神樹の言葉を聞いても、まだ覚醒しきっていないのか腕の中にいるq2をすりすりとさすっている。
神樹はため息をつくと、悠のそばに近づき頭を掴んで揺さぶった。
「いつまでもここにいられても困るから家帰れ」
「…やめろ、吐く」
「なら早く動け」
悠は渋々といったようにベッドから足を下ろす。
ベッドの下にあった自分の靴を見つけ出して履くと、神樹に投げられた上着を顔で受け取る。
上着を羽織ると、服の冷たさに思わず身震いした。
「さむ…」
「そんなこと言ってられるの今のうちだけだからな?外は炎天下だよ。まあ、夕方だから多少はマシだろうけどな」
悠はq2を抱え直すと、神樹の後に続いてのそのそと歩き始めた。
まだ完全に調子が戻っていないのか、どこかフラフラとした足取りで階段を上る神樹の後についていく。
階段を登りきると、ドアの前で神樹が待ちくたびれたように待っていた。
「…まだ動きにくいか?」
「まあ、ぼちぼち…」
悠もようやく目が覚めてきたようで、一応言われたことに対しての受け答えはできるようになってきた。
神樹は最終確認として、扉を開ける前に悠の首筋に手を当てる。
枯渇していた霊力の補充はできている。脈拍も正常な値をしている。
自身の治療の結果に満足すると悠から離れ、扉に手をかけた。
*
扉を開くと、いまかいまかと待ち構えていた荒崎と目が合う。
荒崎は悠の姿を認識すると、飛び上がる勢いで悠に突進すると、悠に抱きついた。
「神無さん!よかった!生きてる!」
「…まて、落ち着け、締まってる……」
悠が荒崎の腕を叩いて離すように促すも、荒崎は中々悠から離れようとしない。
荒崎の腕で首が絞められているため、喉の奥から変な声が出る。
悠の意識がブラックアウトしそうになった時、ようやく荒崎が悠から離れていった。
悠は咳き込みながらも呼吸を整えようと、深呼吸をしながら辺りを見ると、斑目に猫のように首根っこを掴まれた荒崎がいた。
「こらこら。お前さ、せっかく悠くん起きてきたのにまた眠らせる気か?」
「そんなことするわけないだろ!今のは、あれだ!興奮しただけ!!」
「興奮して悠くんのこと落とすなよ…」
呆れたように荒崎の頭を叩きながら、斑目は悠へと視線を移す。
「悠くん、大丈夫?このバカのせいでごめんねぇ」
「…なんでお前までいるんだ」
「えー?だって悠くんのこと心配だったし」
「ダウト」
「即答!?酷くない?」
そんなふうに悠と斑目が茶番をしていると、後ろから神樹の咳払いが聞こえた。
「あんたたち、会えて嬉しいのはわかったから早く家に帰れ。私もそろそろ1人で休みたいんだよ」
「ああ、すみません。すぐに出ていきますよ」
神樹が眠そうにあくびをかみ殺すのをみて、斑目は荒崎を掴み外へと向かう。
悠は神樹を振り返り、前を行く2人に聞こえないように神樹へと声をかけた。
「…面倒をかけたな」
「気にするなよ。私とあんたの仲だろ。まあでも、今度からはなるべくこんなことにならないようにはしてくれよ」
「善処はする」
*
悠が荒崎と斑目のあとを追いかけて工房から出ると、一気に外の蒸し暑い空気に包まれる。
夏特有のじっとりとした暑さに顔を顰めながら、先に行く2人を目で追う。
荒崎は斑目に腕を掴まれながら、何かを喚いて斑目の腕を引き剥がそうと奮闘していた。
悠は呆れながらそんなふたりに近づくと、荒崎の後ろに周りこむ。
そして、勝手に荒崎が背負っていたカバンの中にq2を押し込んだ。
「え!?ちょっ!神無さん!?何入れたんですか!?」
「q2いれた。俺カバン持ってないし。お前に任せる」
「ちょっと待ってください!中にj9もいるんですけど!絶対喧嘩になるじゃないですか!ああ、もうほら!中で大暴れしてますよこれ…」
荒崎が早速喧嘩を始めた2機をどうにか収めようとあたふたしているのを尻目に、悠は斑目へと言葉をかけた。
「用件は?」
「なにが?」
「お前がなんの意味もなく俺のところに来るわけないだろ。急ぎの用件か何か俺に頼みたいことでもあるんじゃないのか?」
「…さすが、俺のことよく分かってるねぇ」
「茶化すな。さっさと話せ」
「…それは、君たちの家に帰ってからにしようか。あまり人に聞かれたくないんだよね」
斑目はこれ以上ここで話すつもりは無いようで、二機を宥めるのに必死になっている荒崎の元へと行ってしまった。
「…いや、というか当然のように家に来るのか、お前は」
悠はぽつりと零すと、すでに荒崎のもとにいる斑目の様子をじっとみていたが、やがて諦めたようにため息を吐いた。
*
悠が久しぶりに家に帰ると、家の中は思っていたよりも綺麗に保たれていた。
荒崎のカバンから飛び出してきたq2が部屋の中をふよふよと飛び回りはじめる。
『予想よりも室内の環境が保たれている』
『お前の予想が外れてスカッとしたわ』
『──貴殿の頭の悪さは予想通りだ』
『お前またぶっ壊してやろうか!?』
q2の煽りを真に受けたj9が、部屋の中でq2を追い掛け回して部屋の中が一気に騒がしくなる。
二機の繰り広げるこの光景は、いつもの事だと無視することに決めると、悠は荒崎に声をかけてから1度自分の部屋へ戻ることにした。
自身の部屋のドアを開けると、1番にしたことはスマホの充電だ。
神樹は未だにガラケーでスマホの充電器など持っているはずもなく、充電のできなかった悠のスマホは電源が切れていた。
久しぶりにディスプレイに光が点ると、悠は送られてきていたメールを確認しようと画面の上で指を滑らせる。
メールボックスを更新すると、届いていたメールは大抵のものは広告などの大したものではなかったが、ボックスの1番上に藍原から送られてきていたメールが表示された。
藍原からのメールは5日ほど前に送られてきたもので、今返事をするのも後でするのも大して変わらないだろうとメールの文面を見ることなくスマホの画面を消した。
スマホを部屋に置いてリビングへと向かうと、j9とq2はまだ部屋の中を駆け回っているようで、随分と騒がしい。
悠はもはや気にすることすら億劫に感じ、二機を無視して斑目に話しかけた。
「…おい、なにしてんだ」
「んー?悠くん待ってる間暇だったからさ、遊んでた」
斑目は何故かソファの上でうつ伏せになって眠っている荒崎をつついて、弄り回していた。
悠はそんな斑目の行為に呆れながらも、荒崎をつついていた斑目の手を払う。
「あらら、悠くん拗ねたの?俺が荒崎に構ってるから」
「しね」
「うわ、酷い」
「そんなこと微塵も思ってないだろう。──早く話せ」
斑目と軽口の叩きあいの応酬をするのも慣れてきが、けれど今は斑目との応酬を続ける気にはならない。
悠は斑目をせっついて食卓の椅子に座らせると、自身も斑目の向かいに腰を下ろした。
「じゃあ、どこから話そうかな…」
「最初から全部、包み隠さずに話せ。…ひとつでも嘘をついたら殺すぞ」
「おーけー、分かった」
斑目は降参だとでも言うように両手をあげ、首を振った。
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