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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
58/64

発明

 






 神樹に、ポケットに隠していた小瓶がバレていた斑目は、バツが悪そうな顔をしてしぶしぶとポケットから小瓶を取り出した。

「…これ、気づいてたんですか」

「まあね。自分で作ったものがひとつでもなくなったらさすがに気づくでしょ。でもまぁ?調律師のアンタがそれを欲しくなっちゃう気持ちもわからなくはないからな。一つだけ問題の答えがわかった報酬としてあげるよ」

 神樹と斑目の話についていけていない荒崎は、ひとり頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 神樹はその様子に気づいたのか、手に持っていた小瓶を荒崎に投げて渡す。

「…ぅおっ!……これ、本当に霊力なんですか?」

 神樹に渡されたそれを、しげしげと見るもそれが霊力だとは言っていたが、霊力を察知する能力が低い荒崎にはさっぱり分からなかった。

 首をかしげながら小瓶をくるくると回していると、神樹の押し殺したような笑い声が聞こえてくる。

「それ一応私が、まあ色々いじくってようやく実体化させることができた霊力なんだよね」

「…本当に霊力なんですか?なんて言うか、神樹さんのこと疑うわけじゃないんですけど信じ難いというか、そもそも──」

「霊力に実体はなく、光で編まれた極小の物質で、調律師のみが感じることができる謎の多いもの、っていうのが今までの定説、だったんだよねぇ」

 荒崎の言葉に被せるように、斑目が口を挟む。

 荒崎はムッとしながらも、斑目の説明に同意した。

 霊力は目には見えないモノで空気中に漂う粒子のようなもの、というのが一般的に知られていることだ。

 そのため、霊力を見るためには、調律師が1度体内に取り込み包魂機を介してようやく人間の目で見えるようになる。

 目に見えないということは、触れることもできないということで、霊力は物質として考えられていなかった。

 荒崎は改めて、手の中にある小瓶に視線を落とす。

 小瓶の中には薄青色に光る液体が、瓶の動きに合わせて揺れている。

 もし、この瓶の中身が本当に霊力なのだとしたら、とんでもなくすごいことなのではと、ようやく考えが現状に追いついてくる。

「これ、本当に霊力なんですか…?」

「まあね。あいつに手伝ってもらって、ようやくここまで辿り着けた。霊力の実体化に成功したのは最近なんだよ。ここまで本当に長かったわ」

「このこと、他に知ってる人はいるんですか?」

「いるわけないじゃん。基本的にこの霊力はあいつの治療にしか使わないって決めてるから。他の人間にホイホイ配ってたらそれこそ国に目をつけられて面倒だし、なによりも霊力を実体化する方法誰にも教えたくないしね」

 斑目の疑問にそう答えると、ぶつぶつと文句を言いながら神樹はもうひとつ小瓶を棚から取り出した。

「今からあいつの治療するから、ちょっと退いてて」

 神樹はそう言うと、悠の近くにいた荒崎を後ろに下がらせて、小瓶の蓋を開けた。

 小瓶を傾け、中身の液体を手の上に出すと、それは液体と言うよりもスライムのようで、零れることなく神樹の手の中に収まる。

「荒崎くん、あいつがさっき起きたって言ってたよね」

「はい!起きてたのは少しの間だけでしたけど…」

「うん、知ってる。これ使うと霊力の補充はできるんだけど、体は半強制的に継ぎ足された霊力を受け入れるために結構疲労するからな。起きたってことは前回ぶち込んだ霊力が定着してきたってことだから、経過は順調ってこと」

 神樹は手の中にあるスライムのような霊力を握り、少しずつ悠の体に落としていく。

 霊力は悠の体に触れると、淡い光を放ちながら悠の体に吸い込まれていって、最後の一滴まで落としきると、悠の体が僅かに身動ぎをした。

 神樹は悠の様子を伺いながら、悠の霊力が完全に回復するまでの目測を測る。

 悠の体に軽く触れながら、そのまま指を這わせていく。

「あとは、2本ぐらいこいつをぶち込めば霊力の値が正常な状態まで戻るかな。多分3日ぐらいでこいつ起きあがれるようになるだろうから、またその時に来なよ」



 *



 神樹に部屋から追い出され、ついでに工房からも追い出された荒崎と斑目は特に行く場所もないため、家に帰ることにした。

 家の中は、夕方ということもあり昼間よりも多少暗くなっていた。

「…お前いつまでここにいんの?」

「んー?まあ、俺の気が済むまで…かなぁ」

「あんた、ここにいて大丈夫なのか?」

 荒崎はj9とソファの上で戯れながら、未だに家にいる斑目になんとも言えない顔になる。

 斑目は、悠に協力しているとはいえ未だ国の調律師であることに変わりはない。

 つまり、国からの司令を受けて動かなくてはならないこともある。

 それにブラスで、悠の目的を考えると、斑目が悠に協力していることが国にバレたらまずいことになるということぐらいは荒崎にもわかった。

「まあねぇ、色々仕事は回ってきてはいるんだけど、俺の部下たち優秀なんだよね。俺がいちいち指示出して動く必要ってそんなにないんだよなぁ」

「へぇ…」

 荒崎は斑目のその返答に気のない返事をしながら、j9の羽の先端をつまみ、翼を広げてちょっかいを出しながら斑目の話に耳を傾ける。

「…ま、あと三日経てば悠くんも回復するみたいだし、そのぐらいのタイミングで1度撤退するからさ」

 斑目は座っている椅子の背もたれに背中をぐっと押し当て伸びをすると、欠伸をひとつこぼした。



 *



 3日というのは短いようで長い時間だった。

 荒崎は、はやる気持ちを抑えながらも、もうすぐで悠に会えるのだと鼻歌を歌いながら道を歩いていた。

 神樹からの連絡が来るまで、特にやることもなかった荒崎は夏休みの宿題に手をつけながら、日々ソワソワとしながら過ごしていた。

 斑目に宿題を手伝ってもらいながらも、どこか心ここにあらずといった様子て、ふとした瞬間にぼうっとしては斑目にちょっかいをかけられる。

 その度に斑目へちょっとした仕返しをしながら、何とか宿題を半分ほど終わらせることができた。

 残り半分を切っている夏休みに少し残念な気持ちになりながらも、今日の荒崎の心中は晴れやかに澄み渡っていた。

 昨日の夜、神樹から送られてきた連絡で今日の昼過ぎには悠が家に帰れると言われ、まるで遠足の前の日のような子供みたいに、前日からソワソワとしていた。

 家のリビングを行ったり来たりしながら、何度も時計を確認してようやく時間になった時には、家の鍵をかけるのを忘れるほどの勢いで外に飛び出した。

「お前がようやく静かになると思うと、悠くん様々って感じになるねぇ。お前悠くん信者かなにかなの?」

 神樹の工房に着くと、斑目が先に工房のドアを開きながら小言をブチブチとこぼす。

 荒崎はそんな様子の斑目の事など気にもせず、斑目を押すようにして工房の中へと足を踏み入れた。



 *



「ああ、来たね。やっぱり指定した時間より早く来たんだ」

「神無さんと早く会いたくて…。指定された時間より少し早めにきました…」

  「まあ、それも込みで予想済みだったしいいんだけどね。ほら、あんたらはそこ座って少し待ってな。あいつの事呼んでくるから」

 工房の中でいつも通りにガラクタをいじっていた神樹は、荒崎と斑目のことを認識すると悠を呼ぶために奥の重厚な扉を開け中へと入っていった。

 残されたふたりは特にすることも無く、手持ち無沙汰になりながら神樹が戻ってくるのを大人しく待つことにした。











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