崩壊
50話目です。
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悠の持つ力、「過剰暴走」とは使用者である悠の体内にある霊力を凄まじい勢いで狂わせ暴走させることで一時的にだが、物理限界を超えた超人的な力を得ることができるものだ。
悠の体には青白い痣が浮かび上がり、痣が蛇のように体を覆い全身に広がっていく。
悠の体の周りを凄まじい濃度の霊力が吹き荒れ、光の奔流を生み出した。
悠が閉じていた瞳を開くと、虹彩までもが蒼く怪しげに光り、口角が歪に上がる。ここに今の悠の姿を見ることができる人がいれば、悠のことを恐らく鬼と喩えただろう。
それほどまでに今の悠の姿は妖しく、命あるものが見れば恐怖心を抱くものだった。
『──体内に保持されている霊力の奔流を確認。貴殿の活動限界まで残り295秒』
q2が無機質な声で悠にタイムリミットを伝えるが、悠はq2の言葉に返事を返すことなく視線のみで武器の催促をする。
q2はどこか不満げな様子を醸し出しながらも、大人しく悠の手中に大剣を創り出した。
「………壊してバラして斬り飛ばす。だから、無様に喘いで鳴いて、抵抗して見せろ。──廃棄物」
悠は怯えた様子を見せながら後退する指揮体を挑発すると、大剣を肩に担ぎ前に歩みでる。
「どうした、逃げるのか?さっきまでの威勢はどこにいったんだ?」
指揮体は先程とは変わった様子の悠に、僅かな恐怖心を抱きながらも何かを探るようにゆっくりと悠から距離をとる。
悠はそんな指揮体を嘲笑うかのように、ゆっくりと確実に指揮体との距離を縮めていく。q2が悠を窘めるように言葉を発した。
『残り時間が減ってきている。遊んでいる暇はない』
「…分かってる。さっさと片付けろって言いたいんだろ」
悠が溜息をつきながら首を振ると、次の瞬間にはもうその場におらず、指揮体の真上に移動していた。
「ほら、気合い入れろよ廃棄物。せめて俺のタイムリミットギリギリまで耐えてみせろ」
指揮体は真上からの一撃を避けようとどうにか体をひねるが、それでも僅かに、悠の持つ大剣が機体に傷をつける。
指揮体は今の悠に勝つことは難しいと思ったのか、逃げの体制を取り始めた。だが、今の悠がそれを許すはずもない。
「おい、どこに行くつもりだ?今更逃げるなんて許されると思ってるのか?」
悠は手に持っていた大剣を容赦なく力任せに指揮体へと投げつけると、大剣はまるで砲弾のように指揮体に向かい一直線に進む。
指揮体は慌ててそれを避けようとするが、凄まじい速さで飛来する大剣を避けることができずに、機体の中央に大剣が突き刺さる。
喉を震わせて悲鳴をあげながら大剣を体から抜こうとがむしゃらに藻掻くが、もがけば藻掻くほど指揮体の体は大剣によって内から破壊されていく。
悠は面白そうにその様子を見ながら、片手をあげると指揮体に向けてかざす。
すると大剣が悠の下へ戻ろうとするかのように刀身を振動させ、指揮体から抜け出そうと動き始める。
その大剣の動きによって指揮体の体はどんどん崩れ、崩壊していく。
指揮体は慌てて大剣の動きを止めようと四肢を使い暴れるが、先程悠によって斬り落とされた脚は数が少なく大剣を抑えることができない。
めちゃくちゃに残っている足を振り回し、なんとか大剣を破壊しようと激しく動くも、全て空回りに終わる。
悠は刀を手に取ると、指揮体に1歩ずつゆっくりと近寄っていく。
まるでその姿は、死刑執行人のように指揮体には見えただろう。
ガチガチと大顎を震わせながら、必死にもがく様は、まるで糸に絡まった獲物同然だ。
悠は指揮体の目の前に立つと刀を振り上げる。
「機体のど真ん中ぶち抜いても死なない、ってことはコアはこっちにあるのか?」
刀を勢いよく振り下ろし指揮体の脳天に突き刺すと、そのままぐりぐりとえぐるように刀を動かし、口角を上げる。
指揮体は身体を震わせると痙攣を起こし、足がめちゃくちゃに動き回る。
悠は大した抵抗の出来なくなった指揮体を前に、必要以上に指揮体を痛めつけ、苦痛を与えていく。
何度も刀を脳天から引き抜き突き立て、悠は悶え苦しむ指揮体を口角を上げながら嬲る。指揮体の身体が痙攣し、そして、手足の動きがピタリと止まり耳障りな鳴き声が止んだ。
悠は指揮体が完全に沈黙した事を確認すると、指揮体に突き刺していた刀を抜き取り、刃についた汚れを振り払い鞘に刃を納めると、動かなくなった指揮体に興味が無くなったのか、パーツの回収をすることすらせずに踵を返した。
『──活動限界に到達。これより霊力の回復に移る』
指揮体の破壊とほぼ同時に「過剰暴走」のタイムリミットとなった。
悠の体に絡みつくように現れていた青白い痣が、すうっと薄くなり消えていく。
それと同時に悠の体から力が抜け、立つことが困難になり凄まじい痛みが悠の体を襲う。悠はたまらず地面に膝をつき荒い息を吐き出した。
「過剰暴走」の影響で内蔵が傷つけられ口から血を吐き出しながらも、なんとか呼吸を整えるために自身の体の痛みを誤魔化そうと力の入らない両手に力を込め自らの体を抱く。
「…q2──」
『核の破壊は問題なく実行された。だが…』
何かが稼働するような音が悠の背後から聞こえる。
悠が訝しげに後ろを振り向くと、指揮体の身体がひび割れその中から小さな四角いものが押し出されていた。
「なに、が…」
『対象機が溜め込んでいた霊力を貯蔵していたバッテリーだ。もう間もなく臨界を迎え、爆発する』
「…は、冗談だろ」
『爆発による被害は恐らくこの場にある建物のみ。周囲への被害は抑えられる』
「いや、俺とお前…死ぬだろ」
悠は「過剰暴走」を使用した直後は、霊力の枯渇による疲労でまともに体が動かせなくなる。逃げることも動くこともできないこの状況はどう足掻いても、絶体絶命だ。
『──指揮体のバッテリーをコンクリートの壁で覆い蓋をすることで、隔壁を作り爆発被害を最小まで抑える。さらに貴殿の身は当機がバリケードを創ることで爆発によるダメージを防ぐ。無傷とはいかないだろうが、死は免れることができると予想』
「…わかった、お前に任せる」
悠はq2の提案を実行する他ないと、腹を括り指示を出し、体内に残った僅かな霊力をq2へ譲渡した。
「こんなのでも、ないよりはマシ、だろ…」
『霊力の充填を確認。──貴殿の周囲に防壁を創造、さらに指揮体のバッテリーを隔離………完了』
q2は指揮体のバッテリー周囲を最小限の大きさで創ったコンクリートの壁で覆うと、悠の周りを同じようにコンクリートで創られた壁が覆いはじめる。
体を動かすことができない悠は、少しでも消費する霊力を抑えるために辛うじて動く手足を使い、可能な限り体を小さくし、急所を隠すように丸くなる。
そんな悠の傍らに寄り添うようにq2が身を寄せ、悠の体を守るようにケーブルの腕を伸ばした。
そして悠が目を閉じて衝撃に備えた次の瞬間、瞼越しにも目が眩むような閃光が辺りに広がり、轟音が響き渡る。
凄まじい揺れとともに、悠のいる建物は崩れていく。
悠がいるフロアは地下ということもあり、上からたくさんの瓦礫が降り注いできた。
q2の防壁によって守られている悠にその瓦礫が降り注ぐことは無かったが、段々と壁にヒビが入る。
悠はそれを見ながら、傍にいるq2に手を伸ばし、その頭部を撫でた。
「…おまえは、」
『貴殿の望むがままに。──当機は此処に在る』
q2のその言葉に、悠は安心したように表情を緩めた。
「また、後で…」
全身の疲労と痛みから飛び飛びになる意識を何とか繋いでいた悠だったが、ついに意識を保つことが困難になりその瞼が落ちる。そしてその瞬間、q2の創り出した壁が崩壊し、崩れた壁から生じた瓦礫は悠の姿を隠すように覆い被さった。
容赦なく上から降り注ぐ瓦礫は、粉塵を巻き上げながら次から次へと崩れていき、そこに建物が存在していたという事実はあっという間に消え失せた。
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