信念
悠が指揮体に刃を向けている頃、荒崎は湊川と向かい合い、重い口を開こうとしていた。
「…引き返してくれ」
「いやです。私があの男から先輩を助けるんです。あいつが先輩を脅してるんだってちゃんと分かってます。だから私が、先輩をあの男から絶対に助けるので待っててください」
「…本気で、そう思ってんのか?神無さんが無理やり俺のことを従えてるって?」
「そうですよ、先輩があんな男について行く意味が無いですもん。あんな、なんの力もない弱い男に先輩が従うわけがないです!絶対脅されるか洗脳されるかしたんですよね!?だから私が先輩を救ってみせる!先輩も抵抗しないで大人しく私に救われてください!」
「…お前、おかしいぞ」
荒崎は空を舞っていたj9を呼び戻すと、湊川へ銃口を向けた。
湊川は少し悲しそうな顔をすると、覚悟を決めたように自身の包魂機、e7を傍に呼ぶ。
「これ以上お前と話すのは無駄だってことは馬鹿な俺でも分かった。けど、一つだけ教えてくれ」
「なんですか?」
「俺が神無さんのそばにいることを伝えたのはどこの誰だ。お前が情報を受け取った相手の名前を教えろ」
「…それは言えません。そもそも先輩は私が助けるのでその情報いらないですよね?私の元に戻ってきてくれたら分かりますよ。それと私を撤退させるつもりなら諦めた方がいいです。絶対に退きませんから」
湊川はe7の首筋を撫でながら荒崎を指し、e7に指示を出す。
「…e7お願い、先輩の目を覚まさして!」
『それがあなたの望みなら』
e7は腰を高く上げ、いつでも飛びかかれるような体勢を取ると瞳を鋭くし荒崎を捉えた。
「j9!湊川を倒すぞ…!」
『オーケーだ、マスター!このバカ女をぶち殺してやろうぜ!』
荒崎の呼び声に応えたj9が翼をはためかせて、湊川を睨みつける。
「──行くぞ!」
「e7!」
2人の声に従いそれぞれの包魂機が己の力をぶつけ、戦闘が始まった。
*
荒崎と湊川の戦いはしばらくすると、僅かに荒崎の方が優勢となっていた。
e7が空にいるj9に飛び掛り、なんとか爪を立てようとするが、j9はe7の攻撃をひらりと避けながら翼を広げ鋼鉄の羽を撃ち出す。
e7が空中で身を捩りながらj9の攻撃を躱すと、再度爪を伸ばしj9を捉えるため、上を見上げた。
だがe7の視界にj9が映らない。
ならばと、e7は耳を立てj9の発する音を捉えようとする。
e7が空からの奇襲に警戒していると、真横から凄まじい衝撃がe7を襲う。
『っつ!?なにが…』
e7は衝撃を受け流すために、力に逆らわず体を浮かせ空中で受身をとる。
先程までe7がいた場所には、j9がホバリングをしながら陣取っていた。
j9は自身の体当たりで吹き飛んだe7を嘲笑うように口を開く。
『おいおいおい!そんなに弱くて良く今まで生きてこれたなぁ!お前もう引退した方がいいんじゃねぇか?』
e7はギチギチと音をさせながら牙を食いしばり、j9を睨めつけた。
そして、牙をむき出しにしながらj9を威嚇し咆哮をひとつすると、勢いよくj9に飛びかかる。
『あなたのような野蛮なモノに、そのようなことを言われる筋合いはありません!』
e7がj9に飛びかかると、それをひょいと躱しながらj9はケラケラと笑う。
『そんな遅せぇ攻撃が当たると思ってんのかよ!てめぇのモデルが俊敏性に特化したモンでも、使い手がカスだとその程度の事しかできねぇんだな!』
『避けてばかりで攻撃をしないあなたの方が余程腑抜けではないですか!鳥の頭というのはやはり一つのことしかできないように作られているのでしょうか?』
『お前ほんとになんも分かってねぇんだなぁ。てめぇが俺に勝つ可能性なんて万に一つもねぇのによォ!』
『何を言って…』
『おしゃべりは終いだ!本気で殺しあおうぜ!…なぁ!!』
j9は口を閉じた代わりに翼を大きく広げると、そこから大量の羽をe7に向けて撃ち出す。
e7が慌てて後ずさるのを確認すると、j9は横目で自身の主人の様子を伺う。
荒崎はj9とe7の戦闘をちらりとみたが、それっきり二機の戦闘を気にすることなく、目の前にいる湊川へ銃口を向けていた。
荒崎に銃口を向けられている湊川は、乱れた呼吸を整える余裕もなく焦りながらも自身の手に持つナイフを強く握ると、e7に助けを求めるように視線でなにやら合図をしていたが、e7は湊川を気にしている余裕が無いようで、j9の繰り出す攻撃を避けながら何とか一撃を入れようと奮闘していた。
湊川はそれを見て、助けは期待できないと察したらしく、ナイフの切っ先を荒崎へと向けた。
「…私、先輩のこと傷つけたくないんです。だから」
「話し合いはもう終わったじゃねぇか。さっきそう言っただろ?…お互い譲る気がないんだからよ、残された方法はこれだけだ。それにお前さ、俺に傷をつけることを心配してる場合か?」
荒崎は湊川の胴を狙いながら引き金に掛ける指へ力を込める。
湊川は脅えたように荒崎を見るが、荒崎は湊川に合わせた照準をズレないよう両の手で銃を構えた。
先に動いたのは、湊川だった。
体の前にナイフを持ってくると、地を蹴った。
荒崎の弾が当たらないように、ジグザグに走りながら荒崎の下まで突っ込む。
湊川が動いたことで、荒崎も対抗するように何発が弾を打ち込み、湊川を牽制するようにデタラメに引き金を引き、弾丸をばら撒く。
だが、弾は湊川に当たることなく素通りすると、湊川は勝利を確信し口元を歪ませた。
荒崎の体に一気に接近すると、その身にナイフを突き立てるため、腕を勢いよく振り上げた。
次の瞬間、湊川の世界が逆さまになった。
そのことを疑問に思う間もなく、足で強く踏みつけられた腹に感じる鈍い痛みで顔を歪ませると、それと同時に眼前に突きつけられる銃口。
そして、冷たく鋭い荒崎の瞳に至近距離で睨まれ痛みと恐怖で動けなくなる。
荒崎は銃を両手で持ち直すと、弾丸を外さないよう慎重に狙いを定めた。
湊川はそんな荒崎の様子に、見逃してもらえないと言う事実を今更ながらに悟り、全身が震え上がった。
荒崎はそんな湊川の様子を気にすることなく、引き金に指をかける。
そうして指に力を込めながら、ゆっくりと引き金を強く押した。
荒崎の持つ拳銃から1発の弾丸が放たれる。湊川へ向けて撃ち出された弾丸は真っ直ぐに湊川の頭を貫くかに思われたが、その直後、凄まじい音が辺りに響き渡った。
何かが倒壊するような音と同時に凄まじい揺れが周囲一帯を襲い、荒崎の放った弾は揺れによって体制を崩した荒崎の足の下からかろうじて逃れた湊川の真横を通り過ぎる。
だが荒崎はそんなことを気にもしていないのか、体制を整えると未だに音が聞こえる方向をじっと見ている。
湊川はその隙を逃さず、e7と共に荒崎の前から撤退した。
荒崎は呆然としながらも、状況を把握するためにj9を呼び寄せる。
「j9、お前なにか見えるか!?」
『残念ながら粉塵でなんも見えねぇよ!だがあの方角──』
「神無さんが向かった方向…!」
そう、音が聞こえた所は悠が指揮体を破壊するために向かった遊園施設がある場所だ。
荒崎はいてもたってもいられずに、その場所へと走り出す。
『おい!あの女の足止めはいいのかよ!?』
「もうあいつは逃げただろ!それに今は、神無さんの方が心配だ!j9、先に行って様子を見てきてくれ!」
『…ったくよぉ!後であいつに怒られたらマスターが弁解しろよ!』
j9は荒崎よりも先に遊園施設へと向かうため、翼をはためかせた。




