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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
47/64

討伐 下

 






 遊園施設へと辿り着いた悠は、あたりの静けさにどこか異様なものを感じていた。

 荒崎が外で暴れて陽動がうまくいっているとしても、内側に機械魔獣が一体もいないのはさすがにおかしい。

 悠は刀が腰にしっかりと差してあることを確認してから、遊園施設の中へと足を踏み出した。

 遊園施設の中は草木が伸び茂り、手入れのされていない地面のコンクリートに割れ目が広がっている。

 入口に設置されている噴水は水が止まりただのオブジェと化して、枯れ草などで汚れてしまっていた。

 それらのものを気にすることなく悠が奥へと進んでいくと、機械魔獣の残骸が所々に散らばっており、まるで何かに食われたかのように四肢が引きちぎられていた。

 悠は残骸のひとつに近寄ると、その傍にしゃがみこんで破壊された機械魔獣の裂傷を確認する。

 確認した機械魔獣の傷跡は、引きちぎられ、ケーブルや胴体の鉄板がまるで強引にネジ切られたような歪な形になっていた。

 悠は顔をしかめるとその場から立ち上がり、ここよりもさらに奥にある、遊園施設の中心部へと歩みを進める。

 この遊園施設の中央には、大きな観覧車が設置されていて、まだこの場所が人々の憩いの場となっていた時は人気アトラクションのひとつだった。

 だが今では、塗装が剥げ落ち錆び付いた無惨な姿を晒している。

 そしてその観覧車には、蜘蛛の糸によって無数の機械魔獣がつるし上げられていた。

「…q2」

『推測。この場所は指揮体の食料保存に使われていると考えられる。そして此処を根城としている指揮体は、恐らくだが自身の作った機械魔獣を喰らい、共喰いを行うことで力をつけている』

「最悪だな…」

 指揮体は本来、人を襲い、その生命力を霊力へ変換することで力を得ている。

 たとえ機械魔獣を喰らったところで、得られる霊力は微々たるものだ。そのため本来なら指揮体が機械魔獣を喰らうことはない。

 だが、例外もある。

 それは──

『倒錯個体の反応検知、警戒を』

「やっぱりか…」

 倒錯個体、それは通常の指揮体とは異なるメカニズムで霊力を得ることができる、イレギュラーの存在だ。

 通常の指揮体が人の魂を喰らい霊力を得るのに対して、倒錯個体は同族である機械魔獣を捕食することで通常の指揮体とは異なり、効率的に霊力を得ることができる個体のことを指す。

 このタイプの指揮体は自身で造った機械魔獣を喰らい、効率的にかつ簡単に霊力の補充を行うことができるため短期間で強くなる。

 今回の個体も恐らくは、そうして霊力を得ることで、急激に力をつけているのだろう。

 悠は想定していた以上に面倒な相手だと、音を出さないように小さく舌打ちをひとつこぼす。

 指揮体が機械魔獣を造る際にも霊力は消費されるが、倒錯個体は機械魔獣を造るのに必要な霊力よりも機械魔獣から得られる霊力の方が多いため、倒錯個体は実質無限に霊力を稼ぐことができる。

 悠は周囲の警戒を強め気を引き締めると、改めてq2に指揮体の気配を追跡開始させて、遊園施設の捜索を再開した。



 *



 悠がq2と共に指揮体を追っている時、荒崎はj9と共に機械魔獣の数の多さに押されていた。

『マスター!これじゃあキリがねぇよ!!どうすんだ!?』

「あともう少し耐えろ!罠を仕掛けた場所に誘導出来ればこっちの勝ちだ!」

『わかってるけどよォ!これ抑えきれるか!?』

 荒崎はj9とともに、悠があらかじめ仕掛けておいた爆弾のある場所に機械魔獣の群れを誘導していたが、数が多くまとめて誘導することが難しい。

 j9が機械魔獣の進路を弾丸で塞ぎながら誘導しようとするが、数が多いため一筋縄ではいかなかった。

 荒崎は自身の腰についているホルスターから拳銃を取りだすと、群れの最後尾に狙いを定め引き金を引く。

 弾丸は霊力を込めてから発射しているため、着弾した瞬間霊力が反応を起こして半径20mを巻き込む爆発を起こす。

 荒崎は拳銃を構え、もう一度狙いを定めてから弾丸を何発も機械魔獣に向けて撃ち込んでいくと、機械魔獣は慌てたように弾丸から逃げながら地雷原の方へと近づいていく。

 荒崎はj9に指示を出すと、さらに機械魔獣の動きを制限しながら追い込む。

 そうして、機械魔獣を目的地まで上手く誘導すると、安全圏まで離れてから悠があらかじめ荒崎へと渡しておいたスイッチを取り出す。そうして、そこに一つだけついているボタンを押し込んだ。

「これで終わりだ!」

 カチリ、と音を立てた次の瞬間、機械魔獣の逃げ込んだ場所が凄まじい音を立てて炎に包まれる。

 炎に巻かれた機械魔獣達が甲高い断末魔の悲鳴をあげながら、活動を停止させていく。

 その様を見ながら、荒崎は口角を上げた。

「ざまあみろ、バカがよぉ!」

『喜んでるところ悪いが、次の客が来たぜ?マスター!』

 荒崎がj9の言葉に振り返ると、そこには──

「湊川…」

「こんな所にいたんですね、先輩。まだあの人の所にいるんですか?…あの人を殺せば、先輩は私の所に帰ってきてくれますか?」

 荒崎は湊川を睨みつけると、j9に戦闘態勢を取らせる。

「…神無さんの邪魔はさせねぇ」

 そうして、荒崎と湊川の戦いの火蓋がきって落とされた。



 *



 悠はしばらくq2の指示に従い遊園施設を探索していたが、ある場所に来た時q2の動きが止まる。

 そこは、かつては大きなお城を模した施設があったところだが、今は荒れ果てて見るも無残な姿を晒していた。

「指揮体の反応はどうなってる?」

『内部に複数体、機械魔獣の反応がある。指揮体の反応もあるが明確な位置は不明』

「了解。…行くぞ」

 城の入口を探すと崩れかけている扉をみつけた。悠か扉に手をかけると、扉は軋んだ音を立てながら道を作った。

 扉の中を覗くと、真っ黒な空間が無限に拡がっている。

 悠は腰に差した刀に手を掛けながら、慎重に城の中へと足を踏み入れた。

 城の内部は外の様子と同じように荒れ果てて、至る所にヒビが入っている。

 床には崩れた瓦礫が積み重なり通路を塞ぎ、まるで足止めをされているようなもどかしさを感じる。

 悠は足下の障害物に注意しながら奥へ奥へと進んでいく。

 しばらく廊下を進むと眼前に階段が現れた。

『──索敵結果、階下に機械魔獣と指揮体の反応あり』

「…わかった」

 悠はq2に従い、下へと向かう階段に足をかける。

 一番下まで降りると、上階と異なり暗く細い1本の道がロウソクの火で照らされて長く伸びている。

 そしてそこには、大量の蜘蛛の巣が張られていた。

「当たり、だな」

『指揮体の反応が近い。警戒を』

 悠は蜘蛛の巣に触れないよう歩みを進めていく。

 奥に進むにつれて、悠にも機械魔獣と指揮体の反応が感じ取れるようになってきた。

 悠は音を立てないよう慎重に、機械魔獣の気配がある場所まで近づく。

 一本道の終わりの先に、広い空間がある。

 その空間は炎の光で照らされており、他の場所とは違う空気が流れていることがわかった。

 悠はその空間に出る前に、壁に体を貼り付けて影に身を潜めると廊下の外の様子を伺う。

 廊下の先の空間は、かつては大きなダンスホールだったのか、天井には大きなシャンデリアがぶら下がり、いくつも置かれている小さな机の上には何本もの蝋燭が灯る。蝋燭の火はその広い空間を照らしだし、部屋にいる機械魔獣の姿をうつしだす。

「5体か…」

 部屋の中で自由に動いている機械魔獣は、まるでそこが自分たちの安住の地かのように安心しきっているのか各々が自由に動いている。

『──指揮体発見』

「蜘蛛だな、しかもかなりでかいやつ。…気持ち悪い」

『推奨、先に周囲の機械魔獣を始末』

 機械魔獣に囲まれるようにして、1匹の大きな指揮体が身を休めていた。

 その指揮体は悠が予想していた通り、蜘蛛の形を模した機体をしており、顔の部分についている大きな顎がカチカチと音を立てながら開閉している。

「…速攻で周りの雑魚を始末する。援護は任せた」

『了解。──砲門開口、一斉射撃を開始』

 その瞬間、悠は物陰から飛び出し機械魔獣たちの前に身を躍らせると、その背後からq2によって放たれた弾丸が機械魔獣達へ飛来する。

 突然の襲撃にフリーズしている機械魔獣を一刀両断にしていくと、何体かが今更ながらに慌てて動き始めた。

 だが既に悠は機械魔獣の間合いの内側に入り込み、たたらを踏んだところを切り裂いていく。

 機械魔獣たちはたいした抵抗もできないまま、悠とq2によって一掃された。

 自身の配下が破壊されたことで怒りを顕にしている蜘蛛の指揮体は、空気を切り裂くような鳴き声を上げながら複眼で悠を捉えた。

「…ここからが本番だ」

『失敗は許されない』

「わかってる」

 悠は指揮体に向き直ると、両の手で刀を構え切っ先を眼前の敵へと向けた。

 





 


 

 


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