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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
44/64

平穏

 








 藍原に付き合い店の中をプラプラしていると、ようやく買うものが決まったらしく、悠は先に店の外に出ていることにした。

 しばらく外で待っていると、藍原が店から出てくる。

「終わったか?」

「ここでの目的はね。次行きましょうか」

「まだあんの…?」

 悠は藍原に引きずられるように着いていくと、次に藍原が止まったのは最近流行っているカフェの前。

「ここ、1人だと入りにくかったから付き合ってくれる?」

「…わかった。もうどこにでもついて行くから早くしてくれ」

 悠は投げやりになりながら、藍原の後に続いてカフェの中に入った。

 藍原は終始ニコニコとしているが、悠は大分疲れてきた。

 正直、こういう風に誰かと出歩くことがあまりなかったため、慣れないことをしているということで精神的に疲弊する。

 椅子に座ると、背もたれに体重を預けようやく一息つけた。

「疲れたの?」

「…ん、少しな」

「じゃあ、甘いものでも食べて糖分補給しましょうか」

 藍原が席に置いてある電子メニューを開き、悠に見せてきたものは一言で言うなら糖分の暴力だった。

 これでもかと言わんばかりにクリームやチョコレートが山のように使われたパフェは、どう見ても1人前ではない。

 悠が顔を青ざめさせると、藍原に恐る恐る訪ねる。

「…これ、たのむのか?」

「うん。ひとりじゃ食べきれないけど神無くんいるし、いいよね?」

「まて、落ち着け。これは人間が食うものじゃない」

「え、パフェって食べ物でできてるよ?知らないの?」

「違う、そういうことじゃない。…あ、まて!やめろバカ!」

 悠の制止も虚しく、その巨大な糖分の塊は藍原によって注文された。

 若干の絶望を覚えながらも悠は、藍原が頼んだパフェが運ばれてくるのを大人しく待つことしかできなかった。

「お待たせしましたー!デラックス生クリームスペシャル盛りチョコバナナパフェです!」

 店員が持ってきたものは、写真で見るよりも明らかに大きく、悠は顔がひきつるのを感じた。

「すごい大きいね。ほら、食べよ?」

 藍原は悠にスプーンを渡すと、嬉しそうにクリームを掬い口に運ぶ。

「うん、おいしい!神無くんもたべなよ」

「…ああ」

 悠は意を決して、クリームにスプーンを突き立てる。

 どう考えても胸焼けする生クリームの塊を前に覚悟を決めて、スプーンを口に運ぶ。

 すると思っていた以上の甘さが口内を攻撃してきた。

 思わずむせてしまい、慌ててコーヒーを飲むとコーヒーの苦味で生クリームの甘さが中和される。

 こんなに甘ったるいものを平気そうな顔で食べている藍原に畏怖の念を向けながら、悠は一度深呼吸をしてパフェと向き合う。

 長い戦いになりそうだと覚悟を決めると、悠はさらにスプーンを生クリームの海に突っ込んだ。



 *



 ようやくパフェを食べ終わると、悠は胃に変な重たさを感じながらコーヒーをすする。

 藍原は満足そうに甘い紅茶を飲んでいるが、悠はもう既に限界を超えていた。

 このまま帰りたいと思うぐらい気分が悪い。

 そこで悠ははたと思う。藍原は悠にお礼をしたいから付き合えと言っていたが、むしろこれは藍原が好きに悠を連れ回しているだけで、悠にとっては疲労が蓄積するだけだ。

 最近のお礼とはこういうものなのかと、世間から離れすぎたのかと、自分を疑い始める。

 悠がそんなことを考えながら、口直しに無心でコーヒーを喉に流し込んでいると、藍原が何やらカバンから取り出す。

「…神無くん」

「つぎは、なんだ…」

 悠は疲れきった表情で藍原に答える。

 藍原は何やらソワソワとしながら、ひとつの箱を悠に渡した。

「なに…?」

「その、この間のお礼と今日付き合ってくれたお礼、なんだけど…」

 悠は藍原から渡された箱を手に取ると、封を開けようとする。

「あ!まって、後で開けて欲しい、かな…」

「…分かった」

 悠は藍原から言われたとおり、開けようとしていた箱をカバンに入れると次の予定を聞く。

「この後は?どこか行くのか?」

「あ、えっと、行きたい場所はまだあるんだけど、それはまた今度ね!」

 藍原が慌てながら何顔誤魔化すかのように手を振ると、悠から顔が見えないように隠した。

「どうした…?」

「なんでもない!えっと、神無くんは次いつ空いてるかなぁ、なんて…」

「…午前中なら基本いつでも空いてる」

「あ、そうなんだ。じゃあ今から1週間後とかは?」

「多分大丈夫だった、はず」

  「じゃあその日に、今日会った場所で待ち合わせでいい?」

「分かった」

「あ、詳しいことはまた後でメールするから!」

 悠は携帯を取り出すと、藍原に指定された日に予定を打ち込む。

 ついでにメールの確認もしたが、何もきていなかったためそのまま画面を閉じた。

「えっと、じゃあ、今日は解散ってことで…」

「…ん、分かった。じゃあまたな」

「うん。今日は付き合ってくれてありがとう」

 


 *



 カフェから出ると、悠は藍原と別れた後に、家に帰ることにした。

 どうせ荒崎はまた帰りが遅いのだろうし、何もやる気にならなかったため家に着いた瞬間、自室に直行する。

 藍原から受け取った箱を思い出し、カバンから取り出すと包装を解く。

 出てきた箱の蓋を開けると、中には銀色のリングが入っていた。

 リングには模様が彫られていて、そこを黒で装飾してあるシンプルなものだった。リングはチェーンに繋がれた状態で箱に入っていた。

 悠はリングを箱から取り出すとチェーンを手に取り目の前にぶら下げる。

 悠の様子を見ていたq2も、中のものが気になったのか悠の元へと寄ってきた。

『──指輪、か』

「これ、どうすればいいんだ…」

『不明── 一般的にこのような貴金属類を贈呈する行為は好いたもの同士で行われることが多い』

「なんだそれ」

『推奨──物品に対する感謝を伝えるのと同時に真意を聞き出す』

「…なるほど」

 悠はリングを机の上に置くと、携帯を手に取り藍原へとメールを送ろうとしたが、既に藍原からメールが届いていた。

 悠は藍原からのメールを開くと、内容を確認する。

 藍原から届いたメールには今日のお礼と、次の予定について書かれていた。

 悠は、予定は大丈夫だと返事を書いてリングのお礼を書き込みメールを送信する。

 そうしてしばらくすると、藍原からメールではなく電話がかかってくる。

 悠は藍原からの電話を出るかどうか迷ったが、結局通話ボタンを押し、携帯を耳元に近付けた。

「…はい」

【あ、藍原です。神無くんの携帯であってる、かな?】

「ああ、要件は?」

【えっと、大したことじゃないんだけど…。その、渡した、ブレゼントのことで…】

「…ああ、自分のと間違えたのか?」

【え!違うよ!そうじゃなくて、気に入って貰えたか心配で…。神無くんに似合いそうだと思って、つい買っちゃったんだよね…】

「へぇ…」

 悠は机の上にあるリングを手に取ると、藍原に言葉を紡ぐ。

「…まあ、ありがとう」

【あ、え、その…!なんだか気を使わせちゃったみたいでごめんね!おやすみ!】

 一方的にまくし立てられたあと、藍原に通話を切られた。

 悠はなんだかよく分からないまま、携帯を耳元から離すと、首を傾げた。

「なんだったんだ、一体…」

 悠は手の中でリングを遊ばせながら、今日神樹と話したことを思い返す。

 神樹と話したことで、相手がこちらにとって不利なものだという確証を得ることはできたが、神樹のところから出てくる際に気まずいままきてしまったためなんとなくモヤモヤとしたものが胸中に残る。

「まあ、後で、考えるか…」

 悠はベッドに倒れ込むと、目を伏せる。

 枕に顔を押し当て唸り声をあげると、q2が呆れたように悠の頭の横にやってきた。

『貴殿の思うがままに振る舞えば良い』

「…それが出来ればこんなに面倒なことになってない」

 q2はそれっきり沈黙してしまい、悠も何も言葉を発することなく夜が更けていった。

 








 

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