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神のいない世界  作者: ウニ
裏 表
43/64

予定外

 






 翌日、神樹の元へ向かい、見つけた糸を渡すと神樹は顔を顰めながら悠に警告した。

「…こいつ、相当厄介な相手だぞ。ただ糸を吐き出すだけのやつならお前一人でもお釣りがでるだろうが、この糸、相当厄介な物だ。なにせ純粋に硬いからこの糸を切る事が難しいし、それに加えて強力な粘着力もあるときた。そのせいで刃物で切るってことの難易度が馬鹿みたいに上がってる。…もうこれお前みたいな近接戦闘タイプを殺しにきてるだろ」

「…へぇ、それで?」

「この指揮体を破壊するなら、近づかずに遠方から攻撃するか、怪我を覚悟で突っ込んで本体をやるかのどちらかだろうが…。敵さんもそれは予想しているだろうから、遠距離で攻撃するのは難しいだろうな」

 神樹が苦虫を噛み潰したような顔をすると、悠は首を傾げながら考える。

 神樹が言うように、面倒な敵だということは分かっているが、それでも倒さなければ周囲の人間を次々に襲うだろう。

 この指揮体を破壊するためには、どんな方法を使っても敵の懐に入り込む必要がある。

 その方法がない訳では無いが、それには多少のリスクがついてまわる。

 神樹は黙り込んだ悠の肩を掴み、真剣な表情で口を開いた。

「今回の指揮体、あんただけじゃ絶対不利だ。かと言って、荒崎くんと始末しに行ったとしても、彼の戦闘スタイルと能力じゃ決定打は打ち込めない。あんたが中心の戦闘になる。せめてもう1人どこかでみつくろったほうがいい。…それができないなら今回の奴から手を引け」

「却下だ、俺一人でもヤツを始末しに行く」

「私の話聞いてたか?あんた1人じゃ勝てないんだ!むざむざ死にに行くようなものだぞ!」

「それでも、方法が無いわけじゃない」

「あんた、まさか…」

「この話は終わりだ。…またくる」

「待て!」

 悠は神樹の制止を聞かずに工房から出ると、舌打ちをひとつこぼす。

 悠にも今回の敵を始末することが難しいことぐらい理解している。

 それでも、機械魔獣──指揮体は破壊しなければならない。

 指揮体を倒せば、国の隠蔽している情報も、父の残した包魂機の情報も手に入る。

 掌を強く握ると、悠は前へ一歩踏み出した。



 *



 悠が工房から出ていった後、神樹は若干の後悔をしながら、自身の頭に手を当てた。

 ああいう言い方をしても、1度決めたことは頑なに変えない頑固なやつだということは知っていたが、それでも今回の敵は悠1人の手には負えないだろうと警告した。

 結局、それは悠の考えを変えることはできなかったが。

 それでも神樹は、悠の事が心配だったのだ。

 まるで死に急ぐように生きていた、悠の過去を知っているからこそ余計に不安になるし心配もする。

「…ほんと、死ぬんじゃないぞ悠。今更私が言っても遅いかも知んないけど」

 神樹はポツリと零すと、悠が出ていった扉を見つめていた。



 *



 悠は神樹の工房から離れ、しばらく1人でぼうっと街を歩いていた。

 フラフラと何も考えずに歩いていると、神樹から報酬を貰い損ねたことを思い出し、大きなため息をつく。

 そもそも報酬の話をする所ではなかったなと、独りごちるとようやく足を止めた。

 そこはかつてこの国の皇族が住居としていた場所だった。

 今では破棄され荒れ放題になっているが、かつては日本で最も美しい場所として、人々の間で囁かれていたらしい。

 近くに置いてあるベンチに腰を下ろすと、悠は顔を押えどうするべきか考える。

 もちろん、指揮体は倒す。だが、指揮体そもそもの情報が少なく、得られた情報だけでも敵が強敵であるということは揺るぎない事実だ。

 戦闘に荒崎を連れていったとしても、神樹の言うように恐らくはまともに相対できないだろう。

 そうなれば、悠が先陣を切り突っ込むしか他に方法はない。

 最悪のことを考え始めた頭を振ると、1度全ての情報を頭から追い出した。

 一人でいるとどうしても嫌なことばかり考える。

 以前一人でいた頃は、そもそもこんな気持ちにはならなかった。

 常に一人で敵と相対し、死ぬ事など恐れていなかった。

 だと言うのに今は、死に対して少しの不安を覚える。

 自分のことなのによく分からない。何故こんなにも不安感を覚えるのだろう。

 悠は1度仕切り直した方がいいだろうと、頭を振るとその場から立ち上がり伸びをした。

 その時、人の気配を感じてそちらに視線を移す。

 その人物も悠に気づいたのか、驚いたように瞳を丸くした。

「神無くん?」

「…藍原か」

「こんなとこで何してるの?」

「それはこっちのセリフだ」

 悠に気づいた藍原は、悠の下まで駆け寄ると不思議そうに小首を傾げる。

「私は、ここが近道になるから使ってるの。それにこの場所は静かだから考え事するのにもちょうどいいし」

「へぇ」

「神無くんは何してたの?」

「別に、何もしてない」

 藍原は答えをはぐらかす悠に不満を覚えたのか、瞳をスっと細め小声で呟く。

「…仕事の事考えてたの?」

「お前には関係ない」

 悠が藍原の疑問を切り捨てると、藍原は不満を隠そうともせずに悠の腕を掴んだ。

「…なに」

「この間のお礼、神無くんはいらないって言ってたけど私は納得してないから。今付き合ってもらうことに決めたの」

「はぁ…?」

「あなたの事だから課題だって夏休み始まってすぐに終わらせただろうし、こんな所で1人でいるってことは暇なんでしょ?やることないなら私に付き合ってよ」

 藍原は強引に悠に迫ると、悠は諦めたように息を吐いた。



 *



 藍原に腕を引かれるままについて行くと、突然藍原が動きを止めた。

「…神無くん」

「うん?」

「今ここは学校じゃないし、そこまで治安が悪い場所でもないと思うの」

「そうだな」

 悠は藍原が何を言いたいのかよくわからず首を傾げる。

 そんな悠のことを、まるでイタズラを思いついた子供のような顔で笑いながら藍原は悠のフードに手を伸ばした。

「これ、外してくれる?」

「…なんのために」

「見てると暑いから」

「それだけで?」

「そう。けれどあえて言うのなら、私が不審者と一緒に歩いていると思われるのが嫌だから」

 悠は顔を顰めると、藍原の手を払い不機嫌だということを露わにする。

「それこそ今更だろ。何を気にしてるんだよ」

「随分強情なのね。別に綺麗な顔してるんだから隠す必要ないと思うけど」

「うるせぇ」

 そんな風に言い合っていると、藍原は意地になって悠のフードを外そうと強行してきたため、悠はため息をついて荒い手つきでフードを外した。

 藍原に負けたようで、若干の不満を覚えたがフードを取ったことで藍原が大人しくなったため良かったことにする。

 藍原は機嫌よく、悠の腕を引きながら街を歩いていると、ある店の前で止まった。

「ここ、前から気になってたの」

「…この店か?」

「そうなの。ちょっと付き合ってくれる?」

「まあ、そのぐらいならいいけど」

 藍原に腕を引かれるがまま店に入ると、中は落ち着いた雰囲気で女子が好きそうな小物やアクセサリーが所狭しと並んでいた。

 悠は物珍しさでキョロキョロとしながら、藍原が店員と話しているのを横目に目の前の置物を手に取る。

 動物をモチーフにした木彫りの置物は、キラキラとした石などで装飾されていて、チープな作りのものだがやけに存在感を放つ。

 悠はしばらく品物を物色していたがふと視線を上げると、横に藍原が並んで悠の手元のものを見ていた。

「それ可愛いでしょ?」

「…そうか?」

 悠は手の中にあるそれを藍原に渡すと、別のものを見ようと店の中を一周することにした。


 






 

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