正体
行き先を告げずに歩いていく悠の後を荒崎が追いかける。
荒崎は悠についてしばらく歩くと、周囲の景色に見覚えがあることに気がついた。
「もしかして、さっきのメール神樹さんからですか?」
「ああ」
それから何分もしないうちに神樹の工房にたどり着くと、悠は先に荒崎を扉の中に押し込み、荒崎を盾にするように中に入った。
「あの…どうしたんですか?」
「一応、保険で」
それだけ言うと、悠は荒崎を押しながら前に進む。
そして作業台が見えた瞬間、荒崎の顔目掛けて何かが噴射された。
「うわっ…!」
荒崎は慌てたように服の袖で顔を拭う。
悠はそんな荒崎の様子を横目に見ながら神樹の姿を探すと、神樹はすぐに姿を現した。
「あらら?君が引っかかったのか。残念」
「またくだらないことやってるんだな」
「あんたが引っかかってくれる方が私的には面白かったんだよなぁ」
神樹は残念そうに言いながら、手に持っていたタオルを荒崎に渡し作業台へと向かう。
「それ、ただの着色した水だから体に害はないよ。んで、まあ本題なんだけども…」
「何かわかったのか?」
「まあね」
作業台の上に乗っていたパーツを1つ手に取ると悠に放り投げる。
「そこに書いてある紋章、この国が所有してる兵器についてるやつなんだよな」
「へぇ…」
悠はまじまじと紋章をみる。傷や汚れによって分かりにくくなっているが、そこには確かに国の象徴になっている桜が描かれていた。
隣で覗き込んできた荒崎にパーツを渡すと、神樹に話を促す。
「あんたが破壊した戦車は生産数が限られてるタイプのやつだった。デザインからして多分5年ぐらい前のモデルだろうな」
「元の使用者の特定は?」
「そこまで調べるのは私には難しい、というか無理。けど、それともうひとつ、鳥型の指揮体について情報を進呈しよう。その指揮体ね、荒崎くんの包魂機…j9の旧型だってことがわかった」
「え!?本当なんですか!」
「ホントなんだよなぁ、これが。まあこれも誰の包魂機だったかまではわからないけど」
荒崎が驚きながら、指揮体の断片に手を伸ばす。
そうしてひとつのパーツを手に取ると、まじまじと眺めながら、ぽつりと声を漏らす。
「…機械魔獣ってなんなんですかね」
「包魂機の残り滓みたいなものだろ」
「まあ、知ってる人間の間ではそういうことにはなってるけど…実際のとこはホントなんなんだろうね」
「ちょっと、待ってください…」
「うん、どうした?」
荒崎が表情を暗くしながら悠と神樹に向け声を出す。荒崎はまるで真実だと信じられないような顔をしながら、恐る恐る口を開いた。
「さっき指揮体は包魂機の残り滓だって、神無さんいいましたよね…?」
「そうだな」
「つまり、それは…包魂機が、機械魔獣を産みだす指揮体になる、ってこと…ですか」
「お前にしては珍しく冴えてるな。…お前の言うように包魂機は主人が死んだ後指揮体になる」
全部が全部そうなるわけじゃないけどな。
悠がそう告げると、荒崎は喉をふるわせ声を出す。
「このこと、国の上層部は…」
「全部知ってる。知っててお前らを手元に置いてるんだよ」
「なんで…!なんで国はそんな大事なことを説明しないんですか!?俺たちが間接的に機械魔獣を産みだしてるようなものじゃないですか!?」
荒崎は大声で喚きながら、悠に問いかける。
「知らない。…だが、これで分かっただろ?俺と神樹がどうして国にいい顔をしないかってことが。あいつらは常に自身の利益を追っている。その過程で発生する犠牲は瑣末なものだと切り捨て知らん顔だ。俺はそういう腐ったヤツらの事が本当に気に食わない」
悠はひと呼吸おき荒崎の目を真っ直ぐと見る。
「だから、俺はそんな腐った頭の悪い国の奴らに一泡吹かせたいと常日頃から考えてる。今ようやく、あいつらをひっくり返せそうな情報が入りそうなんだ」
「なら…!」
荒崎が俯いていた顔を勢いよく上げると、悠の肩をがっしりと掴む。
「俺にも手伝わせてください!今の話聞いて頭ん中怒りでぐっちゃぐちゃになってて、何すればいいのか分からないんですけど…!国がやってる事は良くないことだってことだけは理解できたんで!」
「…おまえ、言ってること自分で理解できてるか?」
悠は荒崎の手を肩から離させると、すいと荒崎に視線を合わせる。
「俺たちが今やろうとしてんのは、国の画している情報をむき出しにする、って言う国家反逆だ。何せ国の根幹からぶっ壊してめちゃくちゃにしてやろうとしてるんだからな。それを理解した上でもう一度聞くが…」
「わかってます!さすがに俺でも分かります!全部理解した上で神無さんの傍にいることを選んでるんです!」
「本気で言ってるのか?」
「勿論です!信じられませんか?」
「まあ…。お前敵に解されて寝返りそう」
「そんなことしませんよ!?」
荒崎が唸りながら、どうにか悠に信じてもらおうと行動を起こす。
荒崎は悠の前に跪いて、悠の手をとると真剣な眼差しで悠の事を見る。
「俺の全てを貴方に捧げます。この命も心も全て」
「…は」
「俺があなたに害を成す存在となったその時は、あなたの手で俺を始末して下さい」
悠が呆然としながら固まっていると、蚊帳の外になっていた神樹が吹き出した。
「…っふふふ!荒崎くん、それプロポーズみたいじゃん!いいの?こんな朴念仁で」
神樹は笑いが収まらないのか腹を抱えながら、笑い転げている。
そんな神樹の姿をきょとりとしながら荒崎は見ていたが、自分の言ったことを思い出し、言葉の内容を思い返すと一気に顔を真っ赤に染めあげた。
「いえ!そんなつもりじゃなくてですね!?いや、神無さんのことは好きです!なんですけど、その…!」
「…ああ、うん。わかってるから落ち着け」
悠は慌て始めた荒崎をなんとも言えない表情で見ながら、爆笑している神樹の頭を叩く。
「お前はいい加減に落ち着け」
「ははっ!いやね、面白くて…!荒崎君ほんと面白いね。今ので一生分笑った気がするわ」
樹は、まだ笑いの余韻が治まらないのか、時折頬をひくつかせながら深呼吸をしはじめた。
「…はぁ、面白い。でもまあ、荒崎くん君にぞっこんみたいだし、協力してもらっても大丈夫なんじゃない?」
「…本気でそう思うか?」
「本気だって。たまには人のこと信用しろっての」
神樹は悠の額をぱちんと弾くと、まだ混乱している荒崎に向き合う。
「私は荒崎くんのことを信じて情報を渡す。けどもし裏切ったら…」
「裏切りません!絶対、最後まで神無さんにおともさせていただきます!」
「ならよし!ほら、こんな言ってる子がさすがに裏切らないでしょ」
「その根拠の無い自身はどこから来てるんだ…」
悠はため息をつくと疲れたように目を閉じ、目頭を押さえる。
「…分かった。とりあえずお前のことは信じる。が、他人に情報をリークしたら殺す」
「はい!お願いします!」
「荒崎くん、そこはいい返事したらダメなとこだろ?」
悠はこれからのことを考えると、どうしても良いようにことが進むとは思えず頭を抱えた。
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