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神のいない世界  作者: ウニ
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枯渇

 






 荒崎は目立たないようにとタクシーを使い、神樹のもとへ倒れた悠を連れていった。

 神樹の工房へ着いた頃にはすっかり日が昇っていて、朝日の光が目に染みる。

 朝の光にやられた瞳を治そうと瞬きをする。そうして、悠を背負い直すと、ドアノブに手をかけ少しだけ開き中の様子を伺い神樹の姿を探す。

 工房内の見える範囲には神樹の姿はなく、荒崎はドアの隙間を広げる。そこから室内へと身を滑り込ませ、神樹を探そうと室内を見渡すと、丁度奥の扉から神樹が姿を現した。

「あらま。こんな朝早くからどうした?」

「神樹さん!神無さんが…」

「あー、なるほど。わかった」

 荒崎の背に乗っている悠を見て全て察した神樹は、いつもの部屋に荒崎を誘導し、悠を下ろさせた。

「私が言ってた指揮体退治、上手くいった?」

「なんとか破壊できました。ほとんど神無さんのおかげですけど…」

「やっぱり、なんか異常事態が発生した?」

「…やっぱり、ってことはなんか知ってたんですか」

 荒崎が声を低くしながら神樹に詰め寄る。

 何かを知っていながら、それを伝えず悠を危険な目に合わせたのなら容赦はしないと視線を強くする。

「いやいや!まさか、そんなことするわけないだろ!私と彼は共犯者なんだから。…指揮体が彷徨いてんのは知ってたけど、どんな能力のやつとかは知らなかったんだよねぇ」

「じゃあ、さっきのあれはどういう意味なんですか」

「あー、あの辺変な噂が多いから心配してたんだよ」

「噂?」

「そ、なーんかきな臭いんだよね、あの辺。でもま、それは多分君らには関係ない事だから気にしなくていいよ。…んで?そっちは何があった?荒崎くんも霊力空っぽだし、こいつも相当やられてるし」

 神樹は悠の体をに触れながら、容態を確認した。

 外傷はほとんど癒えているが、恐らく中身がまだ治りきっていないのと、血を流し過ぎたことが原因で目を覚まさないのだろうと当たりをつけると、増血剤を戸棚から取りだし悠の腕に点滴をつける。

「指揮体が二機居たんです…。それで、上手く作戦通りに動けなくなって…」

 荒崎は悠を治療する神樹を見ながら、重い口を開き起きたことを伝える。

「なるほどねぇ。その指揮体、パーツとか持ってきた?」

「いえ、何を持ってくればいいのかわからなかったので、j9を見張りにさせて置いてきました」

「おっけ。後でこいつが起きたら取ってきてくれ」

 神樹は悠の体に手をかざし霊力を整えはじめた。その様子を荒崎はじっと見ていたが、神樹がふと何かを思い出したかのように声をあげる。

「荒崎くんもあとで見てあげるから待っててな」

「俺も良いんですか?」

「だって君、今専属の人いないでしょ?こいつの後だけど、何人見るも変わらないからな。変に気にしなくていいよ」

「ありがとうございます…!」



 *



 悠の霊力調整が終わった後、神樹に体内の霊力を整えてもらった荒崎は与えられた部屋にあるベッドに横になっていた。

 霊力を整えてもらったおかげで体は楽になったが、荒崎の気分は沈んだままだった。

 思い出すのは、夜の事。何もできず悠の足を引っ張る事しかできなかった自分に不甲斐なさを覚える。

 自分の無力さに苛立ち、強く拳を握りしめどうすれば強くなれるか考えるが、考えることが苦手な荒崎は何も名案が思いつかなかった。

 けれども、このままではダメだということだけは理解できた。

 手っ取り早く強くなる方法など思い付かず、鍛錬あるのみ、と考えた荒崎はまず体力を増やし体を鍛えようと決意した。

 これまでの戦闘では他の調律師と同じように、包魂機であるj9に任せきりで、自分が動いて戦うということは考えることすらなかったが、悠の戦闘スタイルを見て、今までの常識が覆され視界が開けた気がしていた。

 荒崎は心中で決意すると、悠が目覚めてから己がやるべきことをまとめるためにスマホ取り出しノートを開いた。

 今度こそ、悠と肩を並べて戦えるように、荒崎は自分に今できることをやろうと気を引き締めた。



 *



 瞳に刺さる明るい光によって意識を強制的に浮上させられる。

 体はまだ休み足りないと言わんばかりに気だるく、起き上がることすら億劫になり、悠はそのまま眠ってしまおうかと瞼を掌で覆う。

 しばらくそうしていたが、昨夜倒した2機の指揮体の事が頭をよぎった。

 ひとつ欠伸を洩らし寝そべった状態で体を伸ばすと、バキバキという音が鳴る。

 何度か瞬きをして目を覚ますと、怠い体に力を入れ上体を起こした。

 辺りを見渡すと、この場所が神樹の工房にある一室だということがわかった。

 自身が今まで横になっていたベッドを見ると、枕の横に自身の服が畳まれて置かれており、その上にq2が鎮座している。

 頭を掻きながら立ち上がると、欠伸を噛み殺しながら部屋に唯一あるドアを開けるためノブに手をかける。

 すると、外側からドアが勢いよく開かれ、悠はよろめきながら後ろに下がった。

「…なんなんだ」

「ああ!起きたのか、良かった!」

 悠はジト目で侵入者─神樹を見ると、神樹は悪気などないと言いたげに手をひらひらと振る。

「あんたが倒した指揮体のパーツ、持ってきてもらおうと思って」

「…あいつ、荒崎は持ってきてないのか?」

「何持ってくればいいかわかんないからって、j9だけ置いてここ来たんだよ」

「なるほど…。わかった、取りに行ってくる」

「あと、荒崎くんはもう指揮体のところに向かってるから早めに行ってあげろよな」

 神樹はそう言うと、部屋から出ていった。

 悠は着替えるために、その上に乗るq2にどいてもらおうと声をかける。

「…起きろ」

『貴殿が目覚める1時間前には再起動していた』

「神樹に修理してもらったのか」

『貴殿の霊力調整も既に完了している』

 q2はふわりと浮かび上がると、滑らかな曲線を描きながら空を滑る。

 悠はその様子をしばらく見ていたが、神樹に言われたことを思い出し着替えに手を伸ばした。



 *



 神樹に挨拶してからq2と共に工房を出ると、午後の2時をまわっていた。

 悠は最寄りの駅に向かうと昨日と同じように千田駅で降り、最後に指揮体と戦った倉庫まで多少駆け足になりながら向かった。

 荒崎の姿を探すと、倉庫内で話し声が聞こえる。

 悠は躊躇うことなく倉庫のドアを開け中に入ると、そこには荒崎とj9の姿があった。

「あ、神無さん!体をもう大丈夫なんですか?」

 荒崎は倉庫内に入ってきた悠に気がつくと、笑顔で駆け寄ってくる。

「大丈夫だ。怪我ももう治ってる」

「なら良かったです…。昨夜は俺がヘマしたせいで、すみませんでした!」

 悠は頭を下げて謝罪する荒崎を、不思議そうに首を傾げた。

「お前は悪くないだろ。昨日は俺の下調べか少なすぎたのが原因だし」

「そんなことは…!」

「いいから。もうこの話は終わり」

 荒崎の言葉を遮り指揮体に向かう悠の姿を、荒崎はじっと見つめていた。

「…あなたが良くても俺は良くないんですよ」

 そうぽつりと呟いた荒崎の声は悠の耳には届かなかった。







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