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神のいない世界  作者: ウニ
30/64

決行

 





 夜、昼間とは違い人の姿が無くなった千田の街を悠は昼間いた公園から見ていた。

 作戦の決行まではまだ時間がある。悠は公園のベンチに腰掛けると、ネオンが瞬く街を眺めながら時間を潰していた。

 荒崎もすでに持ち場に着いており、後は指揮体が現れるのを待つだけとなっている。

 q2を自由にさせながら、作戦の内容をもう一度確認する。

 悠の立てた作戦は簡単なものだ。

 まず、荒崎とj9で指揮体に近づき囮になる。その隙に悠がq2と周囲の機械魔獣を破壊し、その後でj9が指揮体の翼を破壊し撃墜、そこを悠が叩く、という至って古典的な手だ。

 悠が動くのはj9が指揮体を見つけ接触してからなので、それまでの間やることが無い悠は、自身の1番近くにいる機械魔獣の動きに注意を向けていた。

 指揮体以外の機械魔獣は飛行能力がないだろうと悠は踏んでいるが、実際のところは不明な事が多い。

 悠は油断せず、荒崎の合図を待った。



 *



 しばらくすると、夜空に赤い光が瞬く。

 荒崎とj9が指揮体と接触した合図だ。

 悠はベンチから立ち上がると、q2と共に夜の街を駆け抜ける。

『まもなく目標と接触』

「武装展開しろ」

『了解。──近接攻撃装備及び武器を展開』

 悠は一瞬の間に戦装束の姿へ変わると、大通りを抜けた先で機械魔獣の姿を視認した。

 走りながら刀を構えると、一瞬で機械魔獣に近づき首を切り落とす。

 首を切り落とされた機械魔獣はバランスを崩し、足をもつれさせ、その状態のまま動かなくなった。

 悠はたった今破壊した機械魔獣を見ることすらせず、機械魔獣を切った勢いを維持したまま、次に倒す機械魔獣がいる場所へと向かっていった。



 *



(これはやべぇかも…)

 悠が指揮体の手下である機械魔獣を倒している間、囮として動いていた荒崎は冷や汗をかきながら打開策を探していた。

 この指揮体を倒す作戦は、荒崎とj9は囮として指揮体の前に立ち時間を稼ぎ、その間に悠がその他の機械魔獣を破壊する、というものだった。

 だが、あまり良くない方に事態は動いていた。

 荒崎とj9は指揮体を足止めすることはできたのだが、指揮体の強さを見誤っていたことに、戦闘を始めてからしばらくして気づいた。

 最初のうちはj9の優勢に思えていた戦況も、今ではひっくり返され、j9は指揮体の攻撃を避けることしかできなくなっていた。

『おい、マスター!このままじゃあジリ貧だぞ!』

「わかってる!だから今考えてんだよ!」

 荒崎はイラついたように、爪を噛みながら思考を巡らせる。

 その時、荒崎に向かって指揮体からの攻撃が放たれた。

 慌てて横に飛ぶと、先程まで荒崎の立っていた場所に、無数の鉄の翼が刺さっていた。

『おいおい!大丈夫かマスター!?あと少し遅けりゃ蜂の巣じゃねぇか!』

 j9が指揮体に威嚇射撃を行いながら、荒崎から離れさせると、j9は荒崎の前に滞空する。

『さて、こっからどうする?』

「…神無さんが来るまで全力でアイツの足止めするぞ。j9、俺の霊力好きなだけ持ってけ!」

『おうよ!任せとけ、マスター!』

 荒崎がj9へ霊力を送り込むとj9の姿が変化した。

 霊力を纏った翼は紅く染まり、まるで炎を纏っているように見える。

 j9が翼をはためかせると、先程までの戦闘で出していたスピードの何倍もの速さで空に飛び上がる。

 そうして赤く染った翼から、鋼鉄の羽が弾丸のように指揮体に飛来する。

 指揮体はその羽に触れないよう避け、改めて荒崎へ攻撃を加えようと体制を整えようとしたが、そこをj9が叩く。

『死に損ないの骨董品がよぉ!いつまでもこの世にしがみついてんじゃねぇ!さっさと地獄に堕ちろ!』

 j9の撃ちだした無数の紅い羽が指揮体を襲う。

 j9の撃ちだした羽は指揮体を追尾しながら空を舞う。

 指揮体は慌てたようにj9から距離をとり羽の弾丸から逃れようとするが、そこに隙が生じた。

「j9!畳み掛けろ!」

『おう!』

 荒崎の号令と同時に、j9が指揮体へと肉薄する。

 それに気づいた指揮体が攻撃を防ごうと、自らの翼で身を庇う。

『そんなんじゃあ、防げねーよ!』

 至近距離から撃ち込まれた羽は指揮体の翼を突き破り、胴体に穴を開けた。

「やったか!?」

 j9の攻撃をまともに食らった指揮体は、切り揉みしながら地に落ちていく。

『これでやれてなきゃ相当ヤバいけどな!』

 霊力を全て使い果たした荒崎は息を荒くしながら、指揮体が落ちた場所に近づき破壊できたか確かめようとした。

 だが、次の瞬間、荒崎目掛けて無数の鉄の羽が放たれる。

「な…!」

 荒崎は慌てて避けようとするが、間に合わないと判断し両手で身を庇う。

「…っく!いってぇ…j9!」

 腕に無数の羽が突き刺さり、痛みがはしる。

 荒崎は顔を歪めながらもj9に指示を出すが、j9も先程の攻撃でいくつかの傷を負い、飛行できなくなっていた。

『無理だマスター!霊力が空っぽで弾丸が作れねぇし機体の損傷も激しい!これ以上ダメージ受けたら壊れちまう!』

「ちくしょう…!どうすりゃいいんだよ」

 荒崎は自身でも霊力が既に空っぽになっていることは自覚しているため、これ以上の戦闘は難しいと理解している。

 だが、荒崎の目の前には未だ活動を続ける指揮体がいる。

 指揮体はj9に撃ち抜かれた胴体を庇うように翼で傷がある場所を隠しながら、荒崎とj9の様子を伺っていたが、攻撃を仕掛けてこないとわかると空へ飛び上がり翼をはためかせ始める。

「やべぇ…!」

 荒崎は負傷し飛べなくなったj9を抱えると物陰に飛び込んだ。

 その瞬間、大量の鉄の羽が打ち出される。

 羽は荒崎が隠れている場所を破壊する勢いで打ち込まれ続ける。

「くそ、どうする…!一か八かで建物の間縫って逃げるか?」

 考えている間も、指揮体の砲撃が止む気配はなく、荒崎の隠れている壁が崩れ始めた。

「おいおい!まじかよ!」

 荒崎は慌てて物陰から飛び出すと、目の前に指揮体が現れた。

「…嘘だろ、おい!」

 指揮体は翼を震わせると、荒崎に向け羽を向け撃ち出す体制をとった。

 荒崎は来るであろう痛みに耐えるため目を瞑り、j9を自身の体で守るように身を縮こませる。

 だが、いつまで経っても痛みは襲ってこない。

 荒崎は恐る恐る目を開けると、指揮体がまるで困惑しているかのように周囲を見渡している。

  そうして、しばらくすると指揮体は空へと飛び去って行った。

「…はっ!まずい!j9、飛べるか?」

『飛行機能の回復だけならできるけどよ、攻撃はできそうにないぜ?』

「それで構わない!アイツ追いかけてくれ!」

『りょーかい!』

 少しの時間休むことができたおかげで、霊力がほんの僅かだが回復していた。

 荒崎はそれを全て、j9の飛行機能回復に回すと悠に指揮体について連絡を入れるためスマホを取りだしたが、スマホは画面が割れていて電源を押しても一向に動く気配がない。

 荒崎は苛立ったようにスマホをポケットに入れると、走り出す。

(指揮体が神無さんに遭遇するまでに、俺かj9が神無さんと合流できれば指揮体の情報を伝えられる!)

 荒崎は指揮体の追跡をj9に任せ、悠を探すため足に力を込めた。





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