闇中
荒崎との同居を始めた翌日、悠は布団から起き上がるとスマホで時間を確認した。
「…寝すぎた」
スマホの時間は午後の1時過ぎを指している。
悠は伸びをしながらリビングへ向かうと、荒崎がリビングでくつろいでいた。
「神無さん!おはようございます!!」
「…はよ」
悠はぼうっとしながらリビングの椅子に腰かけると、机に突っ伏す。
「寝すぎた…」
「疲れが溜まってるんですかね?色々ありましたし」
荒崎はグダっとしている悠をワタワタしながら起こそうとする。
「とりあえず、シャワー浴びてスッキリしましょう?」
「…ん、いってくる」
悠は荒崎に誘導されるままに風呂場へ行くとシャワーを浴び着替えた。
頭から水を被ったことで、幾分かクリアになった思考で今夜のことを考える。
濡れた髪を拭きながらリビングに戻ると、荒崎が先程と同じ場所で座っていた。
「さっきよりマシになりました?」
「だいぶな」
悠はソファを背に床に腰を下ろす。
そこで、スマホにマップを表示させ神樹に聞いた場所を探す。
「…千田か」
悠の生活圏内からは少し離れたその地区は、今は誰の縄張りでもない場所だ。
下見も兼ねて今から出かけようかと、荒崎に声をかけるべく横を見ると、荒崎はニコニコとしながら悠を見ていた。
「…なに」
「いえ!なんでもないです!」
荒崎は締りのない顔をしながら、ニコニコと笑っていたが、悠がマップを見せると、よく見える位置まで近づいてきた。
「千田、ですか。俺もあまり行ったことないんで情報とかなんも分からないんですけど、ここも神無さんの縄張りでしたよね?」
「そう。まあ、俺の縄張りってことになっているがあまり近づいたことがないんだよな…」
「そうなんですか?」
「ああ。あまり近づきたくないんだが、今回ばかりは仕方ないな」
「千田になんかあるんですか?」
「…まあ、色々」
悠は荒崎に準備をしたらリビングに来るように言うと、自身も部屋に戻りq2と貴重品だけを手に取るとカバンに入れリビングに戻る。
荒崎はまだ時間がかかりそうだと、悠はソファに腰掛けq2のメンテナンスをはじめた。
それから10分程すると荒崎がリビングに戻ってきたため、千田に向け出発した。
*
「…帰りたい」
「神無さん?大丈夫ですか?」
千田にある駅のひとつ、新水駅に着くと、夕方近いにもかかわらず人の多さに辟易する。
悠は既に疲労感を感じながらも、神樹の情報を元に指揮体が潜んでいそうな場所を探し始めたが、人が多く指揮体の気配をうまく探ることが出来ず、仕方なく適当に当たりをつけ暗くなるまで人が減るのを待つことにした。
駅から大学のキャンパスがある方へ行くと、人気の無い公園のベンチに座りながら夜を待つことにした。
その時、悠の後ろから人の話し声が聞こえてくる。悠はさりげなく耳をそばだてると、おそらく近くの大学に通う学生の話が聞こえた。
「…最近行方不明になる人達が異常に多い気がしない?」
「確かにね、隣の大学の子も何人か連れていかれたって噂だよ」
「怖いね。国の調律師の方達は何とかしてくれないのかな…」
悠は声の主達がその場から遠ざかると、荒崎にj9を出すように指示をした。
『仕事か!?』
「そうだ。上から大学のキャンパスがある方に行って指揮体を探せ」
「見つからないようにしろよ!お前目立ちたがりだからな!」
『マスターには言われたくないなぁ!』
j9は一声鳴くと空へと飛び上り、旋回をすると翼をはためかせ飛び去った。
j9が視界から消えると、悠は荒崎と公園から一番近い場所にある大学のキャンパスに向かい掲示板を探し始めた。
「掲示板なんか探してどうするんですか?」
「この地区周辺の情報がある。地域のイベントや行方不明者がどこで消えたか、つまり事件がどこら辺で起きたのか、とかな」
「…なるほど」
荒崎はあまりわかっていなそうな声を出すと、悠はため息をつきながら説明する。
「…行方不明者の消えた場所が分かればそこから指揮体の所在を特定できる」
「そんなことできるんですか!?」
「………」
悠は改めて、何故荒崎が1人で調律師として仕事をできていたのかが不思議になったが、国の調律師だったためある程度の情報が与えられていたのだろうと無理やり納得した。
しばらく大学のキャンパス内を歩くと、掲示板を見つけた。そこには行方不明者の情報が掲示されていたが、誰が行方不明なのかまでは書いてなかった。それでも、どこで消えたかの情報は掲示されていたので、そこから指揮体の位置を割り出そうと、悠はスマホのマップを開き、いくつかの場所にピンをつけた。
「あれだけで指揮体の場所分かるんですか?」
「…ある程度の場所は絞れた」
「すごいですね!俺なんか全然分かりませんよ!」
荒崎は悠のことを尊敬の念を込めた目でみたが、悠はそれを無視すると、そのままキャンパスの建物内に入り他の学生に紛れながら一番上まで登ると、見つからないよう屋上へ侵入し、物陰に身を潜めて指揮体の気配を探る。
「…いくつか怪しいところがあるな」
「どこですか?」
悠は先程マップにつけたピンを取り消すと、新しく3つのピンをつけた。
「この場所にj9を向かわせろ」
悠は3つのピンをつけたうちのひとつを指すと、荒崎にj9へ指示を伝えるよう言った。
荒崎がj9に指示を出し調査結果を待っている間に、悠は別の場所を探るため、意識を集中し始める。
j9に行かせた場所のちょうど向かいにある大学のキャンパスを、見逃しがないように意識を集中し索敵する。
すると、すぐにおかしな気配があることに気づいた。その気配は指揮体のものに似ているが、違うものだということが悠にはわかった。
その気配の持ち主は、おそらく指揮体の存在を隠蔽するために配置された機械魔獣だと、悠は推測した。
「…擬態した機械魔獣がいるな」
「どういうことですか?」
「指揮体のフリをしてる機械魔獣がいる」
その時、ちょうどj9から荒崎に連絡がきたようで、j9の方もおかしな気配を感じたらしく、あまり近づかないように周囲の調査を行ったらしい。
悠はひとつ残ったポイントにj9を向かわせるよう、荒崎に指示を出しj9が情報を持ってくることを待った。
しばらくすると、j9が偵察から戻ってくる。
j9は足で何かをつかみながら、器用に荒崎の頭に着地した。
『戻ったぞ!』
「j9おつかれ!なんかあったのか?」
『ああ!これなんだけどよォ…』
j9が足から離したものを、荒崎がキャッチすると悠に渡す。
「…羽?」
j9が持ってきたものは、薄い鉄で作られた羽だった。その羽を悠はマジマジと見ると顔を歪めた。
「…飛行能力がある機体だな」
「それだとなにかまずいんですか?」
「…お前のj9だけで指揮体に対応できるのか?」
「無理ではないですけど、正直きついですね…」
荒崎が顔を青くしながらようやく事態を理解する。荒崎は頭を抱え唸りながら、いい案は無いかと唸っていたが、悠の様子は先程とは違いどこか余裕があるように荒崎には見えた。
「なんかいい案あるんですか?」
「…まあ、いくつかある」
悠は荒崎に作戦の内容を伝え、指揮体が姿を現す時間になるのを待った。
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