作戦会議
次の日、夏休み前最後の登校日が終わると、荒崎は悠を連れて今日から夏休みの間まで同居する建物の案内をしていた。
「ずいぶん広いな」
一通り家の中を見終わると、悠はリビングにあるソファに腰掛けた。
家具も全て備え付けになっているようで、初期投資が少なくて済みそうだとひとまず安堵した。
「この後暗くなるまでまだ時間あるんで、荷物取りに行きますか?」
「そうするか」
悠がそう言うと、荒崎は悠にストラップのついた鍵を手渡した。
「これ、ここの鍵です!戻ってきたらこれ使って中入ってくださいね」
荒崎はそれだけ告げると、自身も荷物を取りに行ったのだろう、ものすごい速さで走って行ったようでドタバタとした足音が家の中に響いた。
悠も荷物を取ってこようとソファから立ち上がると、いまさっき荒崎から貰った鍵でドアを施錠し、自宅へ荷物を取りに戻った。
*
悠が自宅から荷物をとって戻る頃には、空がだいぶ暗くなってきていた。
来た時と同じように、荒崎から貰った鍵でドアを開き中へはいると、荒崎は既に戻っていたのか、家の中で動き回っている音がする。
リビングへと繋がる扉を開くと、そこに荒崎はいた。
「あ、おかえりなさい!」
「…ん」
父が死んでから、家に帰って誰かに出迎えられるということがなく、久しぶりの感覚に悠はなんとなく気恥ずかしくなり、荒崎から顔を背けた。
悠は早足で自身に宛てがわれた部屋に行き荷物を下ろすと、q2をカバンの中から出してやる。
カバンから出たq2は、興味深そうに部屋の中を探索していた。
*
荷解きが終わり部屋着に着替えてからq2を連れリビングに戻ると、荒崎がキッチンで呆然としながら立っていた。
「何やってんだ」
「あ、神無さん…。その、夕飯作ろうと思ってですね…」
「その辺は俺がやるって言っただろ」
悠は荒崎をキッチンから追い払うと、冷蔵庫を開いた。
あまり食材はないがなんとかなるだろうとシンクで手を洗うと、冷蔵庫に入っていた鶏肉と豆腐、卵を取り出すと調理に取り掛かる。
とりあえず、米をとぎ炊飯器にセットすると、冷蔵庫から取り出した鶏肉を1口大に切り、卵をときほぐす。鍋に水と出汁、醤油、酒等を適当に入れると沸くまでしばらく待つ。
沸騰してきたら、そこに切った鶏肉とスプーンで1口大の大きさにしながら豆腐を入れる。
そこから、鶏肉に火が入るまで暫く放置。火が入ったところで一旦コンロから下ろした。
米が炊けるまで放置して、その隙にテーブルの準備をした。
テーブルの準備は荒崎がやりたいと言うので、任せるとj9がからかうように荒崎の周りを飛び回っていた。
米がたけると、改めて鍋をコンロに乗せて火をつける。
一度湧かせて弱火にすると、溶きほぐしておいた卵を流し入れ完全に固まる一方手前で火を止める。
器に米を盛り、その上に鍋の中身を流し込んで丼飯が完成した。
器を持ってテーブルに行くと、先に座っていた荒崎が器を受け取りテーブルに置いた。
「美味そうですね!神無さんって料理できたんですね!」
「まあ、人並みには。味は保証しないけど」
荒崎が手を合わせて料理に箸をつける。
それを見て悠も自身の物に手をつけ、黙々と食べはじめた。
最近、悠は荒崎の前でなら気を抜いている自分がいることに気づいて、微妙な気持ちになったが今更気にすることでもないだろうと気持ちを入れ替えた。
*
「美味かったです!ごちそうさまでした!」
「そりゃあ良かった」
荒崎は自分の皿と神無の皿を持つとシンクに置いた。
悠は自分がやると言ったが、洗い物ぐらいは、と言われたため座りながら荒崎の様子を見ていた。
そこにq2がフヨフヨと浮かびながら寄ってくる。
『指揮体はどうする』
「捜索は明日からだな」
『おぉ!探索は任せろ!上から探してきてやるよォ!』
「そうだな。大凡の場所を探すのはお前と荒崎に任せる」
飛んでいた j9が悠の前に着地すると、q2が対抗するようにj9の上に乗った。
『おい!お前!俺の上に乗るんじゃねぇ!』
『気づかなかった。存在が矮小すぎて』
『ぶっ壊すぞお前!』
「やめろ、バカ」
悠はj9からq2を持ち上げ腕の中に囲うと、ため息をついた。
「なんで口を開けば喧嘩するんだ、お前たちは」
悠はq2をあやす様に手で撫でながら、呆れたように2機を見る。
『当機に非は無い』
『今回はお前が悪いだろ!俺の上に乗ってきたじゃねーか!』
「うるさい、2機とも鳥籠に入れるぞ」
「また喧嘩してるんですか?」
「そう。j9回収して部屋に置いてきてくれ。俺はq2を置いてくる」
悠は腕にq2を抱えたまま立ち上がると、自身の部屋へ行きq2を机の上に置いた。
「なるべく喧嘩しないようにしてくれ。いつも冷静なお前はどこにいったんだ」
『当機に非は無い。あの鳥頭が悪いだろう』
「しばらく頭冷やしとけ」
悠は部屋に鍵をかけるとリビングへと戻った。
リビングに戻ると荒崎はまだ戻っておらず、悠は手持ち無沙汰に椅子へ腰かけスマホの画面を開いた。
しばらく待っていると、荒崎がリビングへと戻ってきた。
「すみません!遅くなりました…」
「ああ、いいよ。…お前の方はどうだった」
「あー、大騒ぎ、とまではいきませんけどそれなりに騒いでましたね」
荒崎が話したタイミングで壁に何かが当たる音がした。
おそらくj9が暴れ回っているのだろうと、悠は無視を決め込んだ。
「まあ、ほっとけばいいだろ。…指揮体のことについて話したい」
「はい!神樹さんに教えてもらった個体ですね?」
「ああ。さっきj9には伝えたんだが、索敵をお前に任せたい。いけるか?」
「はい!任せてください!」
荒崎は頷くと、手を強く握りしめた。
「前回は役に立てなかったので、今回の働きで汚名返上させてもらいます!」
「明日から取り掛かるが、気楽に考えとけよ。お前力入りすぎると失敗するんだから」
「え!?なんで神無さんその事知ってるんですか?はっ!まさか咲夜に…」
「聞いてない。あいつの名前出すな」
悠は顔を顰めながら荒崎の言葉をさえぎった。
「というか、他の奴にも言われてるのか」
「いえ!さく…あの人に言われただけです!」
「まあ、そうだろうな」
悠からみても、荒崎は他人と手を組めるようなタイプには見えない。おそらく、荒崎はチームを組んでも上手く噛み合わず1人で狩りをしていたのだろう。
荒崎の抱魂機は単騎特攻と言うよりは、サポートの方がおそらく得意だ。
荒崎の周りにいた奴がj9の性能に気づかなかったという可能性もあるが、斑目がいたのだからそれは無いだろう。
悠はひとつあくびを漏らすと立ち上がった。
「神無さん、どっか行くんですか?」
「風呂入ってくる」
「あ!背中流しましょうか!」
「いらない、来たら殴る」
風呂に入ったらすぐに寝てしまおうと、悠は荒崎にその旨を伝えリビングから出た。
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