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神のいない世界  作者: ウニ
27/64

予定

 






 神樹から教えてもらった指揮体については、もうすぐ夏休みということもあり、休みに入ってから本格的に動くということになった。

 主に荒崎が、無茶をするなと強く悠を説得したせいだが。

 そんなことよりも、悠には重大な問題があった。

 月曜日までに髪色をどうにかしてこいという担任からの指導を、どう躱すかということについてだ。

 結局月曜日までいい案が浮かばず、残りの登校期間をサボるという対策ぐらいしか考えつかなかったが、何故か荒崎が自信満々で何とかしたと言っているため様子見も兼ねて学校へ向かうことにした。

 悠はいつも通りフードを目深に被りそっと教室へと入る。

 案の定、担任の教師はまだ来ておらずひとまず安心すると自分の席に荷物を置いた。

 それからしばらくすると、荒崎が登校してきたのが教室の窓から確認できた。

 荒崎はチャイムギリギリに教室に飛び込んでくると、満面の笑みで悠に向かい親指を立てる。

 悠はそれを無視すると教室に担任が入ってくるのを待った。

 そうして、いつも通りの時間に担任が教室に入ってくると何やら様子がおかしい。

 担任は悠のことをまるで恐る恐るというようにみると、安心したように息を深く吐き出しホームルームをはじめた。

 悠はその担任の様子に違和感を覚えたが、何も言ってこないのなら良いかと特に気にすることなくその日の授業を終えた。

「神無さん、明日で学校終わりですし夏休みの予定立てませんか!?」

「いや、お前あいつに何したの?」

 悠は結局帰りのホームルームが終わっても担任に何か言われることも無く、むしろ悠が近づくと恐ろしいものを見てしまったかのような反応で避けられたため、何も聞くことができなかったのだ。

「え?何もしてませんよ、俺は」

「…お前、怖いわ」

「え!?なんでですか!?」

 悠は両腕で自分の身を隠すように体を抱え、荒崎から距離を取ろうと体を引いた。

「いや!本当にたいしたことしてないんですって!ただ咲夜にお願いを…」

「は?」

「そのですね、咲夜にどうしたらいいか、って相談したら何とかしてくれるって言うんで…」

 咲夜…斑目に頼み事をしたという荒崎を悠が信じられないものを見るように見ると、その視線に耐えられなかったのか、荒崎はさらに言葉をつのる。

「でも!結果的になんもなかったので!俺の作戦は成功ですよ!」

「…お前、あのバカに借り作ってどうすんの?」

 悠のその一言に荒崎の体がピシッと動きを止める。

 そうして、油の切れたブリキ人形のようにギシギシとでも言いそうな動きで悠の顔を見た。

「…ファミレスの食事1回で何とかなりませんかね?」

「知るかバカ」

 今更になってワタワタと慌て始める荒崎を横目に、悠はさっさとカバンに荷物を詰めると荒崎をつま先で小突く。

「さっさと荷物まとめろ」

「はい!すぐに!」

 荒崎は悠の言葉に瞬時に反応すると、素早く荷物をカバンに詰め込み先に行った悠のことを追いかけた。



 *



 悠と荒崎は駅の近くにあるジャンクフードの店に入ると、適当に注文をして奥の席を陣取った。

 悠は飲み物のストローに口をつけると、つまらなそうに窓の外を行き来している車を眺めていた。

「あの、俺の話聞いてました?」

「…ぅん?聞いてた聞いてた、あれだろ?隣のクラスのやつがパンイチになったやつ」

「そんな話してませんけど!?てかそれなんですか!微妙に気になる話ですね!?」

 荒崎は大きなため息をつくと、キリッとしながら悠に話しかける。

「そのパンイチの話は置いといて、夏休みの話ですよ!」

「…ああ、なんだっけ?」

「夏休みの間は俺が用意した家で過ごしてもらうって話ですよ!」

「…今からでも拒否したい。というか逃げたい」

 悠はげっそりとしながら手元のポテトフライを何本か取るとバツ印を作る。

 悠はふと、荒崎の言葉の中に気になることがあることに気づく。

「…家を用意した?」

「はい!ちゃんと広めの家を用意しましたよ!」

「…マジか」

 悠は顔を手で覆い天を仰ぐと、顔を覆った手の隙間から荒崎を覗き見る。

「お前、ガチすぎて気持ち悪い」

「なんでですか!?」

 荒崎は心外だとでも言いたそうに悠のことを凝視したが、悠は本気で気持ち悪いものを見るように顔を歪めた。

「というか、金はどっから出てきたんだよ」

 家を用意したと一言で言うのは簡単だが、お金の問題がある。

 悠はもはや諦めた様子で荒崎に尋ねると、荒崎は自信満々で胸を張る。

「ちゃんと俺の金ですよ!一応これでも国に所属してましたからね、貯金はバッチリです!」

「いや、俺も払うから後で金額教えろ」

「大丈夫です!神無さんに迷惑はかけられませんから!」

 悠が何度か説得しようと試みたが、荒崎は意地でも首を縦に振らず、悠は諦めるしかなかった。

「わかった。けど、その代わり家事は俺がやる。これが最低条件だ」

「え!俺がやりますよ!大丈夫です、今のとこ電子レンジの爆発1回だけなので」

「おーけー、お前なにもやるな」



 *



 結局、家事全般は悠がやることに決まった。

 悠が荒崎に電子レンジを爆発させた経緯をきいてみると、電子レンジの中に卵をそのままぶち込んだ、と聞いて悠は頭を抱え荒崎をキッチンに入れるのは絶対にやめようと決意した。

 悠は行儀が悪いとわかっていながら、ストローの先をガジガジと噛むと荒崎をジト目で見る。

 荒崎は、そんな悠の視線耐えられないのか身を縮こませるように席の隅のほうに寄っていた。

「…お前が勝手に決めるのはいつもの事だが、これはやりすぎだろう」

 悠の手元にあるスマホには荒崎が買ったという物件の情報が提示されている。

 そこには物件の場所や近辺の様子、そして物件の金額が表示されていた。

「俺の目がおかしいのか?明らかにぜろが2~3個ほど多い気がするんだが?」

 荒崎は挙動不審になりながら視線をウロウロとさせるが、悠はスマホに示されている物件の値段を指しながらさらに荒崎を問いつめていく。

「返品してこい」

 悠は口角を上げ笑みを浮かべながら荒崎を見るが、目が全く笑っておらず、荒崎は悠のその顔に情けない声を上げながらも決して首を縦には振らず身を震わせた。

「あの、ですね…。実はその物件…」

「めちゃくちゃ高いな」

「いや!元値はそうなんですけど、安くしてもらえたん、ですよ…」

 荒崎が恐る恐る悠に本来の価格を伝えると、悠の怒りは少しは納まったように思えた。

「また斑目に頼んだのか?」

「いや、家は別の人に頼みました。以前、国の任務を受けた時に救助した人がいたんですけど、その人が借りを返したいからなんでも一つだけできる範囲で手を貸してくれるって連絡先を教えてもらったんで、今回はその人に頼んだんですよ」

「身元は」

「信用できる人です!詳しいことは言えませんが悪い人では無いので大丈夫です!」

「へぇ…。お前ちゃんと仕事してたんだ」

「神無さんほどではないですけど、一応調律師としてそれなりの実力はありますからね!」

 悠は小首を傾げながら思案すると、大きく息を吐いた。

「まあ、お前が信用するって言うならいいけど。値引きしていくらぐらいだったんだ?」

「半分より下にはなりましたよ!」

「…ふーん」

 悠は物件の値段が高すぎることを理由に、夏休みの間の同居を有耶無耶にしたかったが、ここまでされてしまうとさすがにここで断るのは心が痛む。たとえ断る相手が荒崎だとしても。

  仕方ない、と悠はここに来てようやく荒崎から逃げることを諦めた。

 









 

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