不穏
悠はさっさと終わらせてもらおうと大人しく彼らの後に続きついて行くと、人気のない外階段の踊り場に連れていかれる。
最後に入った生徒がしっかりと入口のドアを閉めると彼らはじっと悠をみた。
「要件は?」
悠は男子達を急かすが、一向に誰も口を開かない。悠は彼らにバレないようにため息をつくと、彼らを押しのけ校舎内に戻ろうとした、その時、一人が優の腕をつかみ口を開いた。
「お前、むかつくんだよ。今までどんなことにも我関せずの態度とってたくせに、荒崎のやつが転入してきてからでかい態度しやがって!」
その1人を皮切りに、全員が一気にまくしたててくる。
曰く、最近の悠は調子に乗っている、なんにもできないくせに荒崎を利用して好き勝手している、委員長の弱みを握って脅してる、等々彼らは様々なことを悠にぶつけたが、正直悠には訳が分からなかった。
そもそも荒崎はあっちが勝手にくっついて来ているだけで、むしろ熨斗つけて国に送り返したいぐらいだ。委員長もそもそも、あれは以前からあんな感じだ。もし課外授業のことを言っているのだとすれば、それこそ悠に言うのはお門違いだろう。なにせ、委員長は彼らに相談した上で、協力が得られず仕方なく悠に頼みに来たらしいのだし。
悠は掴まれていた腕を振り払うと、くだらなそうに彼らを見た。
「それだけか?」
「は?」
「要件がそれだけなら帰らせてもらう。くだらない意地の張り合いに付き合うつもりは無い」
今度こそ彼らの制止も聞かず踊り場から出ようと目の前の男子を押しのけ、入口のドアノブに手をかけた。
何も行動しないくせに、無駄に高いプライドを持っている人間と話すのは面倒なだけだ。悠はさっさと帰ろうとカバンを背負い直した、その時。
「バカにしやがって…!」
1人の男子が悠の肩を掴むと、思いっきり踊り場の柵に悠の体を突き飛ばした。
そして、柵から嫌な音が響く。
悠がやばい、と思った時には既に遅く、悠の体は宙に投げ出されていた。
彼らの方を見ると、明らかに顔色を悪くしながら落ちていく悠のことを呆然と見ていた。
落ちた衝撃でフードが外れ視界が広がる。悠はちらりと下を見ると舌打ちをしたい気分になった。
この程度の高さから落ちたところで、無傷で着地することはできるが、そんなことができるのは調律師しかいない。自身が調律師であることがバレれば面倒なことになるのは確実だ。そのためあまり周りの人間に調律師である事を悟られたくはない。
落下することを選択したが、カバンに入っているq2のことを考え、庇うようにカバンを空中で抱え直すと、体が勢いよく地面に叩きつけられる。
「…っつ」
思わずうめき声を出しながら、強く目を閉じる。
痛みが来ることはわかっていたため構えていたが、それでも痛いものは痛い。
カバンの中にいるq2が動いている気配を感じながら、なんとか体を起こそうと腕に力を入れるが上手く体が動かない。
落下した場所の近くにいた教師と思しき人影が慌てながら悠に走りよってくる。
『──肉体の治癒を開始、完全修復まで453秒』
悠はq2のその言葉を聞くと、何とか起き上がりその場に座り込む。
「君!大丈夫か!?」
「…まあ、多分。大丈夫です」
悠は立ち上がろうと足に力を入れるが、まだ完全には回復していないため立つことができなかった。
「大丈夫なわけないだろう!?肩を貸すから、保健室まで行こう!」
その教師の肩を借りながら、何とか立ち上がると悠は保健室へと連行された。
その最中、斑目他の約束を思い出したが、なんとかなるだろうと意識の外へとほおり投げる。
保健室のベットに腰掛けると、悠を連れてきた教師が担任を連れてくると言い、保健室から出ていった。
悠はまだ痛む体を誤魔化すようにカバンを抱きながら、深く息をした。
そうして待っていると、保健室に悠の担任ともう1人現れた。
「保護者としてきちゃった」
「帰れ」
担任が連れてきた人物は斑目だった。
悠は担任の教師を恨めしげに睨むと、教師は優の視線から逃げるように斑目と話をして保健室から出ていった。
「突き落とされたんだって?」
「アンタには関係ない。そもそもどうやってここに入ったんだ」
「つめたいなぁ。まあ、俺ぐらいになるとどこに入り込むのも簡単なことなんだよねぇ」
斑目は悠に近づくと手を伸ばし背をさする。
「…………」
「痛むかい?保護者として君を突き落とした生徒について聞くように言われてるんだけど、誰かわかる?」
悠が無言で抗議すると、斑目の手が止まった。
「まあ、詳しく言いたくなければ言わなくてもいいさ。まだそれほどの仲でもないし」
「…なら聞くな」
「まあ、これはただの確認だったし。なんなら犯人知ってるし、これから伝えに行くんだけど」
「…なんで知ってるんだよ」
悠が気持ち悪いものを見るように、斑目から距離を取ろうと身を引く。
「え、その反応酷くない?たまたま見てただけだって!君が外階段から突き飛ばされて、そのあと何人かの子が走りながら逃げてったの。…いや、ほんとだよ?ストーカーとかじゃないから!」
「そもそも、ここにいる時点で気持ち悪い」
「まあ、保険みたいなものだったんだけど…」
「…へぇ。俺が来ないと思ったのか」
「いや、まあ、信用はしてたよ!」
斑目が顔をひきつらせながら、誤魔化そうと視線をうろつかせる。
悠はそんな斑目を気にすることなくカバンを開き、q2の様子を伺う。
『──治癒完了、しばらくの安静を推奨』
「…了解」
q2の声におざなりに返事をするとカバンを閉め、フードを被り直し立ち上がるために足に力を入れるが、斑目に押し止められる。
「なに…」
「これから君の担任の先生のとこ行ってくるからここで待ってるように」
斑目は一方的に告げると保健室を出ていった。
一人取り残された悠は、仕方なく斑目をその場で待つことにした。
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