取引
男が案内する場所は人通りの多い繁華街にある店のひとつらしく、悠は繁華街に入る前に渋々ながらも武装を解除しq2をカバンに隠した。
無言で男の後について行くと一つの店の前目男が止まった。
「…ファミレス?」
「そう、安くて美味い!庶民の味方だぜ?」
男はずんずんと悠を連れてファミレスの中へと入ると、店員に誘導された席に座った。
「ほら、君も座れよ。ここは俺の奢りだから気にせず頼んでいいよ」
悠は男の前の席に座ると、男に渡されたメニューを受け取った。
男は優のことを見ながら相変わらずニコニコとしている。
悠は気まづく思いながらも、男の視線から逃げるためメニューを開いたが、何かを口にする気にはなれなかったためドリンクバーのみ頼んだ。
男は空腹だったのか色々と頼んでいるのを見て悠は不思議そうに男をみた。
「ぅん?どうかした?」
「いや、あんたの目的がよく分からなくなっただけだ」
悠は男から逃げるように飲み物を取りに行くと、時間をかけて飲み物を選び席へと戻った。
席に戻ると既に男が頼んだ料理が何品が来ている。
男はそれらをつつきながら悠を待っていた。
「おかえりー、君ほんとにそれだけでよかったの?育ち盛りなんだからもっと食べなきゃダメだよー」
「…あんたほんとに何考えてるんだ」
「はは、俺なりに色々考えてるんだよ」
男は手元のサラダを口にほおりこむと、持っていたフォークを皿に置く。
「さて、それじゃあ本題に入る…まえに」
男が悠の頭を指さした。
「君フード外さないの?お店の中なんだし外した方がいいぜ?別に不細工な訳でもないんだから」
「うるさい、アンタには関係ないだろ。さっさと話せ」
男は降参するとでも言うように両手を軽くあげると、口を開いた。
「じゃあまず、抱魂機について話をしよう。抱魂機は俺たち調律師が魂を埋め込むことで自我を持つ兵器となる。ここまではどの調律師も知っている常識だ。じゃあここで問題だ。主人が死んだ抱魂機はどうなると思う?」
「…主人の死亡と同時に機能を停止させるんじゃないのか?」
悠が小首を傾げて答えると男は首を振った。
「まあ、半分正解かな。確かに抱魂機は主人が死んだあと自主的に機能を停止する個体もいるが大半は違う。──残りの抱魂機は主人の死が理解できない。だから助けようとする、自分の主人を」
「…どういうことだ」
「抱魂機は心のある機械だ。心があるからこそ自分の主人の怪我や病気を直そうと動く。けれど、死を理解できる抱魂機はあまり多くないらしいんだよね」
男は懐から先程の匣を出すと愛おしげに撫でる。
「君の抱魂機は知能が高いだろう?言葉も流暢に紡ぐし、人が作ったネットワークの中に入り込むこともできるだろうから日々知識が更新されていると思うんだけど、ちがう?」
「…確かにあんたの言う通り、q2はネットワークと繋がることができる。だが、それとあんたの話になんの関係がある」
「ここで重要なのは、君の抱魂機が自分の意思で情報を得ることができている、ということだ。たとえば、君の友達の荒崎くんの抱魂機で例えようか。彼の抱魂機は荒崎くんによって作られている。だから彼に似た性格だし知識も彼から得られるものに依存する。荒崎くんはきっと、自身の抱魂機に人間の死や生命についての話なんて恐くしていないだろう?つまり、彼の抱魂機は──」
「人間が死ぬということを知らない、って言いたいのか?」
「そう、大正解!やっぱり君は理解が早くて話しやすいね」
男ぱちぱちと手を叩きながら悠の言葉を肯定し、そうして一度水を口に含むとさらに言葉を紡ぐ。
「彼等はね、死を知らない。だから主人が死んでも死というものが分からないから直そうと思考する。そして、彼らは主人を直す方法を自分達が負傷した時のものを参考にする。抱魂機が負傷した時に俺達が行うことは2つ。1つは機体の修繕。そしてもうひとつは、魂の補強」
「まさか…」
「そう、そのまさかさ。抱魂機達は主人を直すという目的のために他者の魂を奪うんだ。けれど、人間は魂の補強や身体の修繕をした所で蘇ることは無い。けれど、抱魂機はそれを見てまだ足りないと考える。そうして人を殺していくうちにどんどん魂に穢れが溜まる。そうすると抱魂機は指揮体になる、って言うのが俺たち国に所属する調律師の仮説」
「…………」
悠は思わずカバンに入っている自身の抱魂機、q2をみる。q2は何も言葉を発することなくそこに佇んでいた。
「まあ、俺もこの話を最初に聞いた時はやべーなとか思ったりもしたんだけど、そういう抱魂機のおかげで今仕事あるし気にしないでおこうって思ったわけだよ、昔は」
「…今は違うのか?」
「まあね、今は余裕もあるし頭を使うことを覚えたもんでね。ひとつ疑問が浮かんだわけよ」
悠は無言で男の顔を見ると、手もとの飲み物に刺してあるストローをくるくるとまわし口をつける。
「国はこのことを知っているにもかかわらず、なんで俺たちを放置してるんだ、ってね。だって不思議じゃないかい?国は俺たちに抱魂機を作らせなければ指揮体が生まれることはないんだ。そして機械魔獣も生まれなくなる。だのに、国は抱魂機を作ることを推奨しているんだよ。これっておかしいだろう?」
「たしかにな…」
男の話は悠としても興味深い内容だったが正直に言って、悠は自分自身に害がなければ基本的にどうでもいいと考えるタイプだ。
そのため、抱魂機の末路について男の話を聞いてはいたが別にどうこうしようとは思わない。
悠はすっかり氷が溶けきってしまったグラスを指先でなぞりながら男の様子を伺った。
「まあ、そこで本題に入るわけなんだけど…」
「今までの話が本命なんじゃないのか?」
「違うぜ?今までの話は見逃してくれた借りの分だ。本命はこっから」
男は意味深に笑いながら悠に視線を合わせる。
「君にお願いがあるんだよね」
「………」
「ああ、そんなに身構えないでくれよ?簡単なことなんだ。…君に国のことを調べてほしい」
「拒否する」
悠は席から立ち上がろうと腰を浮かせた。
すると、男は慌てたように悠を引き止め、悠が思いもしないことを口にした。
「まてまてまて!もちろんタダでという訳じゃない。君の父親、神無 隼に関する情報を提供する!」
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