疑心
悠が目を覚ますといつもと違う天井が目に入った。
上体を起こし軽く伸びをすると、あくびをひとつ漏らす。
「…q2」
『確認、体に問題は』
「ない。お陰様でな」
『霊力の調整も終わっている。ほぼ万全の状態になっている筈だ』
悠はベッドから足を下ろしスマホで時間を確認すると、11時を少しすぎた時間が表示される。
「寝すぎた…」
『疲労具合を考えると妥当な休息時間だ』
悠がq2と話をしているとドアが前触れもなく開かれる。
「ありゃ、もう起きてたの?体大丈夫か?」
「問題ない」
ドアを開いたのは神樹だった。神樹の後ろにj9が見えるということは、荒崎は既に起きているのだろう。
「なら良かった。飯あるから早く顔洗ってこいよ」
神樹はそう言うとドアを開けたままの状態で、ストッパーをかけて部屋から離れた。
悠はしばらくの間ぼうっとしていたが、のそりと立ち上がるとシャワールームへ向かった。
*
悠が身支度を整え神樹の元へ向かうと、既に荒崎は食事をとっていた。
「あ、神無さん!おはようございます!体は大丈夫ですか?俺のせいで怪我させてしまって、本当申し訳ないです…」
荒崎は悠に気づくとわざわざ立ち上がり、挨拶をする。
そんな荒崎のことをうっとおしそうにしながらも、悠は返事を返した。
「お前が気にすることじゃない、俺が勝手にやったことだ。怪我も完治してる」
「でも、俺のせいで神無さんが怪我をしたのは事実なので…」
悠が呆れたように荒崎を見て口を開こうとすると、そこに神樹が現れた。
「起きてそうそう辛気臭い顔するもんじゃないぞ?…ほらこれあんたの分、嫌かもしれないけど食え」
神樹は手に持っていた皿を悠に押し付ける。
「それ食べたら昨日のパーツについて教えてやるよ。部屋に持ってけ」
悠は恨めしげに神樹を見るが、神樹は素知らぬ顔をして作業台に戻った。
部屋にまた戻るのは面倒だったため、仕方なく悠は荒崎の隣の空いている椅子に座ると、皿の上に乗っていたサンドイッチに手をつけた。
「なんだ。あんた人がいるところでも飯食えるようになったの?」
神樹は驚いたように悠をみるが、悠はそれに答えることなく黙々とサンドイッチを口に運んだ。
「神無さん普通に飯食いますよね?」
「はぁ?こいつ人前じゃあ絶対に食わないけど」
「…え」
荒崎は驚いたように悠をみた。
「…お前が毎日買ってくるから、慣れた」
「なに?荒崎くんのことパシリにしてんの」
「違う」
神樹が口元に手を当て笑いを噛み殺しながら荒崎に続きを促す。
「いや、神無さん学校でなんも食べてなかったんで色々渡したんですよ」
「ああ、学校ねぇ。確かに食べないわ、不特定多数が活動してるとこで気、抜けないもんなあ」
神樹は納得したように頷いた。
「けど、それで食べるようになったって、荒崎くんどんだけぐいぐいいったんだ?」
神樹がケラケラも可笑しそうに笑いながら、2人を面白そうに見ている間に、悠は無言でサンドイッチを食べ切ると皿を片付けようと立ち上がったが、神樹に制止される。
「そこで待ってなすぐ片付けてくるから」
神樹は荒崎の分も皿を回収すると住居スペースの方へ回っていった。
*
「さて、昨日のパーツについだが、分かったことはあまり多くない。けれども面白いことがわかった」
神樹は作業台の上にパーツを載せると、パーツに書いてある印を指さす。
「これは国の調律師が自分の抱魂機につける印だ。荒崎くんはよく知ってるんじゃないか?」
「はい、これj9にもつけてました」
「ほかには?」
「気が早い。だがま、そうだな、重要なのはこれからだ。このパーツの金属片なんだが抱魂機に使われるものと同じ金属だった」
神樹の言っている意味が分からないのか、荒崎は首を傾げた。
「機械魔獣を構成する金属は基本的に混ざりものだ。だから、抱魂機よりも脆い。けれども、このパーツには不純物が含まれていないんだ。つまり…」
「…やっぱりか」
悠が呟くと神樹は薄く笑う。
「あんたならその可能性を考えてると思ったよ。結論として、このパーツは抱魂機のものだ。…ということは」
「あの指揮体はかつて抱魂機だった」
「そういうこと」
悠は厳しい顔をしながら神樹の手元にあるパーツを見る。
あの時現れた男は恐らく国の調律師。そして、その場にいた悠に全て忘れろと言った。つまり、国はこのことを知っていて尚且つ、部外者に知られる訳にはいかない理由があったと考えられる。
「きな臭いな」
「だろう?これ、結構やばいことだと思うんだよな」
「どういうことですか?」
ひとり何も分かっていない荒崎が、不思議そうに神樹と悠の二人を交互に見た。
悠はため息をつきながら、荒崎に話を噛み砕いて伝える。
「調律師の造る抱魂機が、何らかの原因で機械魔獣を生み出す指揮体になる可能性がある」
「それってめちゃくちゃヤバいじゃないですか!?」
「ヤバいどころじゃないんだなぁ、これが」
神樹が作業台の前から立ち上がり、伸びをすると重要なことをサラリと口にした。
「さらに言うと、国のお偉いさんがたは、抱魂機が指揮体になる可能性があることを知っていて、その上で抱魂機の事を調律師には黙っているってことだ」
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