探索
悠は荒崎と昼間に訪れた公園まで向かうと、指揮体を探すことにした。
明日は学校も休みということもあり、時間を気にせず活動することができる。
夜の公園には人気がなく、真夏にもかかわらず空気が冷えている気がした。
「さて、と…」
(ここからどうするか…)
悠があたりの警戒をしながら指揮体の気配を探るもなかなか見つからない。
「…やっぱり移動してるな」
「一応、昼間の追跡で途中まで追うことが出来たのでそこまで案内しますか?」
「ああ、頼む」
悠は荒崎に案内を任せると、その後を追いつつ機械魔獣の気配を察知した。
「…荒崎」
「はい、わかってます。一応、機械魔獣を避けつつ移動します」
指揮体の配下である機械魔獣に存在が認識されると、指揮体に逃げられる恐れがある。そのため荒崎と悠は、機械魔獣に気づかれないように移動した。
しばらく移動すると荒崎が歩みを止めた。
「追えたのはここまでです。すみません…」
「いや、大丈夫だ。お前のおかげで案外何とかなりそうだ」
そう言うと、悠は足元に落ちていた機械の部品を拾いあげた。
「それは?」
「機械魔獣の古くなったパーツだな。この辺り一体に古いパーツが落ちてるってことは、機械魔獣はこの辺りに頻繁に来ている。つまり…」
「この近くに指揮体がいる、ってことですね」
悠が周囲を見渡すと周囲は高いビルで囲まれており、その中のいくつかは廃ビルとなっていた。
「とりあえず上に行くか」
「へ…?どうやって行くんですか?」
悠は荒崎の言葉に返事を返さず、1番近くにあるビルを見上げる。
「…q2」
『了解、霊力の流れを調整する』
悠が足に力を込め地を蹴る。そうすると、悠の体は一瞬でビルの3分の1程まで飛び上がる。悠はビルの窓のくぼみに手をかけると、そのまま体を持ち上げさらに上に登る。最後に足を使いビルを駆け上がるとあっという間に屋上まで到着した。
荒崎は悠の事を唖然としながら見ていたが、ハッとすると慌てて悠を追いかけるようにビルの外階段から上に登り始めた。
荒崎が息も絶え絶えに屋上に着くと、悠が難しそうな顔をしながら空を見ていた。
「やっと来たか…」
「遅れ、ました!すみま、せん」
荒崎は息を整えながら悠に応えると悠と同じように空を見てみた。
「空に、なにか?」
「いや、なんでもない。指揮体の位置がある程度わかった」
「本当ですか!?」
「ああ。お前が落ち着き次第向かうぞ」
*
荒崎の呼吸が落ち着くと、悠はビルからビルへと飛び移りながら移動を開始した。
荒崎は必死になりながら悠を追うが、どうしても悠との間に距離が空いた。
「神無さん、すみません。足でまといで…」
「構わない、まだ時間もあるしな。それよりも、着いたぞ」
そう言って悠が指さしたのはひとつの廃ビルだった。
そのビルは半年ほど前に放棄されたばかりで、他の廃ビルと比べると汚れや崩壊している部分が少なかった。
「あそこ、ですか?」
「ああ。多分な」
「偵察しますか?」
「昼間の二の舞になるだろうから却下」
悠は荒崎の提案を切り捨てるとq2に声をかける。
「いつも通りに、任せる」
『了解』
荒崎は悠とq2のやり取りを不思議そうに見る。
「どうするんです?」
「強行突破」
「え、それ危なくないんですか?」
「防御に霊力全振りするから問題ない。…お前はここで待機してろ」
「分かりました。周囲の警戒をしておきます!」
悠は荒崎を置いて目的のビルまで飛び移ると、装備を展開する。
『機械魔獣の反応無し。指揮体のみ確認』
「やるか…」
ビルの屋上から内階段を使い中に入る。足音を立てないよう警戒しながら、指揮体を探す。
はたして、それはいた。ビルの中階層の大部屋の中心に何かが蠢いている。
悠は刀を手にすると、気づかれないようにそっと、それに近づく。
それの正体がはっきり見えるところまで近づくと、悠は影からそれを覗き見た。
(なんだ、あれ…)
それは、人の体と機械をめちゃくちゃに組み合わせたものだった。人体をバラバラにし、何も考えずに機械に取り付けたかのような姿。
悠は思わず目を逸らすと、影に身を潜めたままどうするべきか考えた。
(とりあえず、相手の能力を知るところからか…)
悠は物陰から静かに姿を現すと指揮体に近寄り、そうして刀を振りかぶりそのままの勢いを殺さず刀を振り下ろす。
その瞬間、指揮体が大量のケーブルを悠に向かい吐き出した。
悠は後ろにさがりながらケーブルを全て切り落とし、指揮体と対峙した。
『調、律師…』
「…………」
指揮体が声を発する。悠は警戒しながらその声を聞く。
『なぜ、あの…人はいない、の…。こんなに、たく…さんたま…しいを、あつめ…たのに。なおら、ない…』
悠は訝しげに指揮体を見る。すると、あることに気づき確認しようと目を凝らす。
そうして確認できたものは、指揮体のパーツの一部についていた印。
(…まさ、か)
その印は、国に所属する調律師が抱魂機に付けることを義務付けられているものだった。
悠は思わず目を見開く。
(指揮体は抱魂機の末路…なのか?)
その時、指揮体が攻撃に転じる。悠は身を捻りそれを避けると刀を握る手に力を込めた。
(あれはここで壊す)
指揮体の攻撃を避けつつ、攻撃の隙を狙う。
すると、指揮体の攻撃にある特徴があることがわかった。
(人体の部分を狙われる時だけ防御に徹しているのか)
「q2!」
『了解。砲撃を開始する』
q2が機体の下部から銃口を出す。そうして、何発もの凶弾が部屋を埋めつくした。
だが弾が悠に当たることはなく、悠は弾丸の雨の中を迷わず進む。
指揮体は慌てたように人体部位を守るために動き始めた。
悠はその隙を見逃さず刀を一閃し、真っ二つに斬り裂いた。
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