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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第五章 恩師救出と教え子の旅路
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82話:勇者の王国脱出計画

 夜、ミルキアの領主館には不意の来客が訪れていて、館の主人ーー、グルトン=ミルキットが直々に応対していた。

 館にいる使用人達は王都で起きたことを、グルトン直々に聞かされていたので少しでも気を紛らわしたいのだろうと、使用人達は口を挟むことは無かった。


「ここが、娘の部屋だ」

「入っても良いんですか?」

「話に付き合ってくれるんじゃないのか? 良いから、入りなさい」


 グルトンは客人ーー、ジンを中へ引き入れる。いなくなってしまったとはいえ、娘の部屋に本人の許可なく見知らぬ男を部屋に入れるのは問題なのだが、今は問題にする人間はいなかった。


「これでいいか?」

「ええ、十分です」


 部屋の中でグルトンとジンが二人きりになると小声でそう呼びかける。ジンは足で床を叩くと、彼の影が床に広がっていき影の中から5人の女性が出てくる。すると、黒茶色の髪色をしている女性が一歩前に出る。


「お父様!」

「ヘレン!」


 ヘレンとグルトンの父娘はお互いを無事を確かめ合うように抱きしめ合う。ヘレンは自分を差しだしてからはまともに父親の安否を知ることが出来なかったから、こうして互いの安否を確認で来たことでようやく安心できたらしい。


「お父様、無事でよかったです。………あっ、それと、大丈夫なんでしょうか、結婚式があんなことになって」

「心配はない。陛下と私が何とかしておくよ。お前は気にするな」

「………はい、お任せします。宜しくお願いします」

「うん。………それで、君達が娘をパーティーに入れてくれるという、()たちかい?」


 グルトンは名残惜しくも娘との会話を打ち切る。そのまま、祈達の方に向き直る。


「話は聞いてるかもですけど、まだ、考え中です」

「……うん、それでいい。良い答えは期待しているが、両者が納得できる答えを出すべきだ」

「はい、分かりました」


 望が代表して応え、年上としてグルトンも余裕を持った態度で頷く。現状、考え中だと言われても気分を害するほど器は狭く無いようだった。しかし、ジンの方へ顔を向けるとその顔はとても厳つい物に代わる。


「さて、貴様、よく私の前に、おめおめと顔を出せたな………」


 グルトンの言葉の端々から、怒りを感じる程に冷たい声が聞こえる。ジンも心当たりはあるから何も言えなかった。


「どうします?」

「こうしてくれるわ!!」


 一足飛びでジンの頭を掴むと、掌に爆発を起こす。ジンは避ける素振りもなく、されるがままに爆発を受ける。


「……効かないとはいえ、熱い事には熱いんですがね」

「ちっ! やはり、無傷か!」


 激昂しているグルトンにあくまで冷静な対応をジンは心がけている。ジンの体には超至近距離で火属性魔法の爆発を喰らったというのに、傷がついている様子はない。


「一先ず、落ち着いて下さい、娘さんの無事と俺を殺す事のどちらが重要なんですか?」

「ちっ! 必ず、報いは受けさせるぞ」

「程々にしてくださいね」


 そんなこんなで、茶番は終わる。

 そのまま、用事を済ませることにする。


「それじゃ、私たちは出て行くから可能な限り素早く荷物を纏めて影魔法で執務室に来てくれ」

「りょ、了解です!」


 祈はピッ! と右手を挙げて敬礼する。微笑ましい光景に先程まで激昂していたグルトンも相好を崩している。取りあえず、旅人用の荷物バックを渡して荷物を纏めてもらう。グルトンとジンはそのまま部屋から出て行き、ジンはそのまま屋敷から出て行った。


*  *  *


「これで、大丈夫です」

「じゃあ、執務室まで行きますか」


 祈が足元に魔力を込めると影が広がり五人を飲み込む。影の中に移動すると、そこは一辺25mの立方体の部屋になっていて色んな荷物が保管されていた。


「バレない様に進みましょうか」

「執務室まで案内お願いします」

「はい、了解しました」


 ヘレンに案内を頼んで影に混ざりながら執務室まで移動する。執務室の中を少し見て、グルトン以外がいないことを確認すると、影から出てくる。


「ありがとうございました」

「……気にしないでくれ。それと魔力感知が高い人間には直ぐ気付かれるから、それに頼り切るのはやめておいた方がいいぞ」

「……気をつけます」

「うん、強くなるよ、君は」


 グルトンのアドバイスを祈は素直に受け止めた。影魔法に頼っているのは否定できなかったからだ。


「さて、今回は個人的にもう一つ依頼したいことがある」

「何でしょう?」

「ある御方を皇国まで護衛して欲しい」

「………受けます」


 少し考えた後に祈がそれを受け入れた。先程まで、望が話していたがいきなり祈が間に入って来たのでグルトンも少し驚いている。


「祈っ!」

「母さん。ここで断ったら、ヘレンさんが気にしすぎて移動するのにも面倒くさくなる。それに、御方っていうくらいだし目上の人物、それも王族クラスの、違う?」


 祈は望に咎められつつも自分の意見と考えを話す。グルトンも意外そうにしながらも首を縦に振る。


「まぁ、合っている」

「今後の事と、先生からの依頼の事を考えると依頼を受けて人脈作りながら、報酬を貰うべきだよ」

「むぅ、間違ってはいないけど」

「なら、受けて後腐れない様にするべきだよ」


 祈の考えを聞くと溜息を吐いて望も頷くことにした。


「……分かりました。じゃあ、護衛対象の元まで案内してもらえますか?」

「分かった。こっちだ」


 グルトンは彼の執務机の下に手を付けると取っ手部分を引っ張って隠し扉を開ける。

 そこには下へと続く階段が現れる。


「皆様方、そろそろ出発のお時間です」


 グルトンが地下室にいた人間に声を掛ける。地下室には何人もの人間がいた。


「あれ? 祈ちゃん達じゃない」

「………なんでみんながいるの?」


 そこにいたのは信壱と一緒に召喚され、現在はガイネア王国の王都にいる筈の四人ーー、東雲アスナ、式鳴幸次、村上佐助、宇佐美美雪がいた。双方、不思議そうにお互いがいることに首を傾げている。


「いや、ちょっとね」

「……深くは聞かないけど、って、伯爵、この人たちが護衛対象?」

「いや、その方達にはそちらの方々が護衛につくらしい」


 グルトンが指差した方向には数人の男女がダレていた。待ち時間が長かったのか、疲れているのがだらーん、としている。


「雷の人の守護者?」

「……おう」

「リーダーはどうしたの?」

「話せん」

「そう、ならいいや。私たちは今日中に出て行くけど、どうする?」

「ああ、そうだな。おい、お前ら、どうする?」


 祈が近づいて話しかけると、粗野ながらもちゃんと受け答えしてくれる。出発日時をどうするか聞かれるとちゃんと決めていなかったのか今決めようと仲間内に聞く。


「「「「「「「今日、行く」」」」」」」

「それじゃ、今日、出発するわ」

「りょうかーい」


 祈は軽く返事すると、グルトンの方から改めて護衛対象の人物を紹介される。


「では、改めて、今回の依頼の護衛対象、ガイネア王国第一王女のラティーナ=フォン=ガイネア様であります」


 グルトンが咳払いの後に厳かな口調で元クラスメイトを紹介される。


「ええと、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


 祈が代表して挨拶をして、ラティーナも挨拶を返す。一般的に貴族の礼儀にかなってはいなかったので傍にいた優夢よりも、少し年上そうな少女は眉にしわを刻んでいる。


「アンジェ、貴方も自己紹介なさい」

「……はい。初めまして、ラティーナ様の護衛騎士をしております、アンジェリカ=アレクシスと申します」

「よろしくお願いします」


 祈は礼儀正しく挨拶する。アンジェリカは祈をよくよく観察してみると、礼儀正しさは貴族よりも軍人寄りのそれの様な気がしてきた。もしかしたら、勇者を育てていたのは軍人のような人物なのかもしれない。アンジェリカはそう考えた、まぁ、間違ってはいない。自分達でも忘れかけているが、ジン達は一応元軍人だ。商人になっていたり、農民になっていたり、軍人としての生活を忘れかけていたりする。

 けれど、礼儀作法とかはやっぱり軍人寄りになってしまうのは否めない。


「それじゃあ、王国脱出について説明を始めますよ」


 望が手を叩いて話の雰囲気を変える。


「これが王国から皇国までの街道とかをまとめた地図らしいです」

「………この波及している線は何だい?」


 グルトンが気になった事を聞いてくる。この地図は現代日本の地理地図を参考に作っているので、単純な線と記号で作られてきたこの世界の地図と比べるとこの世界の地図が情けなく感じる。


「説明は、先生にしてもらってください。今日中に此処から出る予定なので、貴方にも迷惑はかけられませんし」

「そ、そうかい」


 望はグルトンの質問を素っ気なく一蹴すると説明に入る。


「この都市は東寄りの地理にあるので皇国までは一か月かそこら辺でしょうかね」

「ん~、長い、かな?」

「この世界の足ならそこまでですけど、身体強化できるなら二週間位ですかね。けど、馬車だと目立ちますし、私たちが抱えての移動になりますね」

「………なんか、大変ご迷惑をかけているようで、申し訳ありません」

「大丈夫。報酬は貰っているから、その分仕事はやり遂げる」


 ラティーナが申し訳なさそうにすると祈は気にしないで良いと慰める。


「まぁ、私達も皇国に早く行きたいので最西端の関所に向かうのが一番ですね」

「しかし、捜索隊なんかだと街に入るまでに検閲を敷くこともあるだろう。私はともかく殿下の髪色は目立つだろう。そこはどうするつもりだ?」

「一応、囮要員を放ってくれるそうなので、それを利用して捜索隊の目をごまかすと同時にこれを使います」


 祈は懐から二つの腕輪を取り出す。


「これは?」

「髪色を変えるための魔道具です。人体に無害でなおかつ自然な色合いに染色できます」

「それは、便利ですね」


 詰まるところ、囮と染髪の魔道具を利用して目立たずにこの国から抜け出そうという事だ。その意図に全員は賛成して意義は出なかったので話し合いを進める。


「じゃあ、そっちは別行動?」

「おう、俺達も髪色変えて皇国の関所を目指す。まぁ、別ルートで遠回りにはなっちまうが、俺達の方が足は速いからな」

「こういう行軍には慣れてるしね」

「地図があるだけ恵まれてるよ」

「それじゃあ、一番直通の道は私たちが使うから、それ以外はそっちで決めて」


 経路の話し合いも済んだので、いざ、出発することに。夜も深いので今のうちにこの都市から離れた場所まで移動する必要がある。


「それじゃあ、伯爵、打ち合わせ通りにお願いします」

「うむ、心得た」


 望がこの屋敷からの脱出法についてはグルトンの協力を頼んで、グルトンはこれを快く受け入れた。

 グルトンが返事をすると祈が影魔法で全員を自分の影の部屋に閉じ込めてグルトンの影に紛れる。グルトンは誰もいなくなった地下室から出ると、扉を隠して執務室からも出て行く寝室に戻ると一旦バルコニーに出る。

 ここで、祈は影を動かして物陰を通りながら見つからない様にスムーズに移動していく。暫く移動してミルキアから三キロは離れた地点につくと全員を解放する。


「ぶへぇ、疲れた~」

「はい、お疲れ」

「おんぶ~」

「はいはい」


 望が祈の事を労うと、祈は望に甘えていた。望が祈を背負うとここで雷の勇者の守護者達とは別れることになる。彼らはアスナたちを連れて祈達とは別方向の街道を進んでいく。


「私達も行きましょうか」


 望がそう声を掛けると他も頷きフードで顔を隠す事で夜の森の中を進んでいく。


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