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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第五章 恩師救出と教え子の旅路
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74話:4年ぶりの再会

 ジンはヘレンに会いに来ていた。と言っても、正攻法ではなく夜中にこっそりと忍び込む方式だ。字面だけ見るとやばいのだが、ジンにはそう言う目的はない。


「さて、警備は結構ザルかな?」


 ジンはメニューのマップで警備の配置と警備順路を調べていく。

 建物の構造は二階建ての大きめの建物だ。一つの部屋の前に二人の警備兵がいて、それ以外にも巡回している兵士が一つの階につき10人。上の方に気を配っている兵も何人かいるのが分かる。そして、湖の上に人工的に作られたであろう孤島の上に立っていて、そこに行くには一つしかない道を通るしかない。間違ってもザルな警備ではない。

 今、ヘレンは中央の部屋にいてミシェルと応対している様だ。話が終わらないと彼女の部屋を特定できないので、話が終わるのを今後の展開を考えながら待つことにする。


*  *  *


 今、ヘレンは会いたくもない人物と会っていた。しかし、彼女は表面上は愛想よく応対している。


「それでね、私の的確な指示で賊ども一網打尽にしながら、自らも前線に出て剣を振って賊の頭領を討ったのだよ。賊に墜ちていたとはいえ中々の武人ではあったが、最後は私の一閃で引導を渡したがね。君に見せられるのであれば理解してもらえると思うのだが……。いや、ご婦人には刺激が強いかもしれなかったな」


 ミシェルはやれやれと大仰に肩を竦めてリアクションする。

 ヘレンはかれこれ二時間ぐらいこうしてミシェルの自慢話を聞いている。毎回会うたびに似たような事を話してネタが尽きないのだなと思っていたが、話題が二週目に入った時点で話せることは少ないのだと思った。

 ヘレンが彼と話していて疲れるのは、時折、胸元に注がれる視線が不快に感じる所でもある。初対面の男性ならよくある事だが、不躾に注がれるその視線を不快に思わないはずがない。話すだけよりも、気疲れが半端じゃない。

 すると、応接室の扉がノックされる。


「入れ」

「……失礼します。ミシェル様、一週間後の警備の会議のお時間です」

「なに、もうそんな時間か。全く、立場があるというのも難しいものだね。愛しい君との時間をゆっくりと取れないなんて」


 大仰な態度でヘレンと別れるのを惜しむ。その猫なで声がヘレンの背筋を冷やし、鳥肌が立つ程に気持ち悪さを感じさせる。しかし、鋼の愛想笑いでそれらを封じ込める。


「ミシェル様。こちらの事は気にしないで下さい。私は部屋に戻っていますので」

「そうだね。では、行ってくるよ」


 ミシェルはヘレンの手の甲にキスするとその場から去っていく。

 ヘレンはそれを見送ると自分の部屋に護衛の騎士と共に戻っていく。護衛の騎士達はミシェルの部下である。彼らも時折、ヘレンの胸元やお尻の辺りをチラ見してくるので正直気分が悪かった。


「ここまでで大丈夫です。では」


 ヘレンは騎士達に一礼すると、用意された自室へ戻る。今はここが彼女の研究室にもなっている。今は色々な研究機材が用意されている。国から直接支援されている。今の状況は研究者にとっては夢のような場所であろう。しかし、彼女の研究は少しも進んでいない。というよりも身に入らなかった。

 部屋に戻った彼女は、寝所に寝転がって溜息を吐いていた。


「はぁ、嫌だなぁ」


 一人になったからか本音が口から出てくる。今回の結婚、ヘレンやミルエット家は認めたわけでは無い。脅迫で取り付けられただけ、心の底から気に入ってるわけではない。結婚してのメリットはないが、しないならしないでデメリットがあるからせざるを得なかった。

 本音で言えば自由な恋愛がしたかった、あんな男じゃなくてもっと他の別の良い人と人生を過ごしたかった。別に誰か良い人が居たわけではないが、こんな強制された結婚は嫌だった。


「何で、こんなことになっちゃったんだろう」


 心の底からヘレンは嫌だった。あんな男に自分の体を任せることも、これから一生あんな男の傍に居なくて行けない事も。けれども、もう仕方が無い事だった。だから、全てを諦めてあの男の人形になる事を決意する。

 ミシェルと別れてからどれ位たったのか、ノックする音が聞こえる。来客だろうか、正直、誰かに会いたい気分ではないが体を起こし、服装を整える。扉を開けると白髪に翆眼の青年が立っていた。


「………どちら様でしょうか?」


 ヘレンは警戒して尋ねる。今の彼女は一応、重要人物だ。男性と会うのに婚約者も同席させないのはミシェルが許さないだろう。


「お久しぶりです、先生」

「……先生? って、ことは、学校の生徒だったのかしら」

「いや、学校ではないんですがね。これなら、分かります?」


 そう言うと青年は自分の頭に手を翳すと髪と瞳の色が黒に代わる。その容姿はヘレンに見覚えがあった。


「………もしかして、ジン?」

「はい、お久しぶりです。先生」


 ジンは悪戯が成功したような顔を浮べてヘレンに改めて挨拶した。


*  *  *


 ジンは迎賓館からミシェルが退出するのを確認すると、ヘレンの行き先をマップで確認する。角の一室で止まった。どうやら、そこが彼女の居室らしい。ジンは事前に決めてた侵入方法で中に入る。

 と言っても、そう難しいことは無い。黒影魔法で潜りながら進むだけだ。影を伝いながら衛兵の目を誤魔化して進んでいく。館内には魔法を探知する為の魔道具もあるが、これは一定以上の放出された魔力を検知する物なので、魔力を垂れ流しにするような使い方をしない限り探知されることは無い。しかし、面倒なものは面倒なのでなるべく素早く移動していく。そのまま、移動を続けてヘレンの扉をノックする。出て行く前に警備していた兵士は薬打ち込んで眠らせた。

 しかし、ここまで来てジンはようやく緊張を自覚した。その緊張を抑えるために、少し胸を叩いて落ち着ける。緊張を納めると扉をノックする。すると、中から桜色の髪をした美女が出てきた。


「………どちら様でしょうか?」

「お久しぶりです、先生」

「……先生? って、ことは、学校の生徒だったのかしら」

「いや、学校ではないんですがね。これなら、分かります?」


 ヘレンの警戒を緩める為に自分の髪と瞳の色を黒に変える。それで、ヘレンの緊張が和らいでいくのが分かった。


「………もしかして、ジン?」

「はい、お久しぶりです。先生」


 ヘレンの顔が喜びに染まっていく。感極まったのかその瞳からはうっすらと涙が流れる。そのままジンに抱き着く。


「会えた! 会えた、会えた! ジンに会えたんだ!」

「先生、すみません。これは、ちょっと事だと思うんですが」


 婚約者のいる女性が見知らぬ男性に抱き着くのは流石に外聞が悪い。ヘレンもそれに気付いたのか慌ててジンから離れる。


「と、取りあえず、入る?」

「それじゃあ、失礼します」


 ヘレンに招かれてジンはヘレンの居室に入る。その際に少し裏工作するのも忘れない。眠らせた兵士の幻影を立たせておき、幻術を使ってこの部屋周囲には見回りには来させない様に思考を誘導させる。


「変わっていませんね」


 ジンはヘレンの居室内を見回すと一言呟く。


「コラ、レディの室内を見回すんじゃありません」

「すいません」


 なんだか懐かしいやり取りをする二人の間には和やかな空気が流れる。ヘレンには久しぶりにリラックスした空気を感じられた。ヘレンの冷え切った心にじんわりと暖かさが蘇ってくる。


「懐かしいわね。このやり取り」

「初めて王都のお屋敷に招かれたときですから、10年は前の事ですよ」

「そうか………。もう、そんなに経ってたのね」


 ヘレンは昔を懐かしむように顎に手を当てて物思いにふける。ジンはインベントリからマグカップと紅茶を取り出して、ヘレンに差しだす。ヘレンは有難そうにそれを受け取り、口をつける。

 そうしてようやく本題を聞きに行く。


「それで、今日はどうしてきたの?」

「先生が結婚すると聞きましたので、ちょっと、気になったので」

「そう、………聞いちゃったんだ」


 ヘレンは気落ちしたように肩を落とす。ジンはその様子に少し困惑した様子を見せた。実際には事情は全部聞いているので振りでしかないのだが。こんな反応されるとジンも素で困惑してしまう。


「でも、良いのよ。私も適齢期だったし、そろそろ結婚しないと周囲の眼もきつかったしね」


 自嘲気味に呟いてヘレンは笑う。ジンは少し顔に緊張を浮べる。


「先生は、良いんですか?」

「何が?」

「一応、噂は仕入れていましたので先生の状況は把握していますよ。ミシェル=ベントと結婚なされるとか」

「そうよ」


 遠回しに聞こうとするジンだったが、ヘレンは素直に認めて話を進める。


「今回の結婚は脅迫でされて取り付けられたと聞きました、先生は納得できていないのでは?」

「そんなことまで……。まぁ、納得はしづらいけど、貴族の政略結婚なんてそんなものだし」

「そうですかね? 仮想敵国にゴマを擦るような人間を信用するのは危険だと、オレは考えますがね」

「それは……、そうだけど」


 ミシェルの事が信用できないのはヘレンも同じではあるが、現在は情勢が違う。面倒くさい勢力が力を付けているから、こうなっているのだ。


「………ジンは、私をどうしたいの?」

「ウチの商会に招待しようかと思っています。噂位には聞いてるでしょう」

「まぁ、うん」

「訳アリの人間一人匿う位はドンとこいです」


 ヘレンにとっては魅力的な提案だった。魅力的だったから、ヘレンは押し留まった。


「………でも、ごめんなさい」

「先生、……ですが、「良いの、私は今の状況で、満足なの」


 覚悟の決まったヘレンの瞳に対してジンは何も言えなかった。彼女も生半可な覚悟で受けている訳では無いのだ。その瞳には見覚えがあった、復讐のような強い気持ちを胸に秘めた時に宿る独特の強い輝き。

 ジンは溜息を吐いてこのまま帰りの準備をする。


「失礼でしたね。半端な覚悟で出す、申し出ではありませんでした」

「気にしてないわ」

「では、二週間後楽しみにしててください」

「え?」

「それじゃあ、また」


 ジンは後ろを向きながら手を振って、部屋から出て行く。ヘレンが出した疑問の声は届かなかったようだ。


*  *  *


 ジンが出て行った後のヘレンは呆けていた。


「二週間後………?」


 彼女が聞かされていた結婚式の日程とは違っていた。結婚式は一週間後だったはずだ、つまり、自分の家族にも二週間後で予定がなされて、彼女は親族もいない結婚式に出席させられるかもしれない。その事が頭によぎり、不安がまた増してきた。


「どうしよう………」

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