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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第五章 恩師救出と教え子の旅路
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73話:依頼の下準備

 ジンは祈達にある依頼をするためにも、先ずは下準備を急ぐ。

 期間は大体1ヶ月後になる予定。

 祈達に託す予定の依頼は護衛依頼だ。日時までは指定しないが無事に護衛対象を送り届けるのが目的になる依頼だ。大けがをさせたり、死亡させたりをすれば責任を取らなくてはいけない難しい依頼になる。信頼が無ければ依頼されることのない依頼だろう。

 しかし、それもまだ先の話。先ずは依頼内容にする予定の護衛対象を回収しに行く。

 護衛対象はヘレン=ミルエット。ジンの元先生だ。彼女は2週間後に政略結婚で今ガイネア王国内で一番勢力の強い公爵家ーー、ベント公爵家の嫡男のミシェル=ベント結婚することになる。この結婚でベント公爵派は国の内外に自分達の派閥の揺るぎなさを示せる。なぜなら、ヘレンはミゼール地方中に名を轟かせる魔法学の天才であり、今まで誰ともお見合い話も結婚話も持ち上がった事のない高嶺の花としても有名である為、彼女と結婚できるのは有能である証だとか貴族男性の間では言われている。実際の所は彼女が出した魔法学の功績によりミルエット伯爵に結婚の自由が認められていたので、彼女のお気に召さないのであれば結婚話を断られるのだ。

 つまり、彼女はミシェルを自分の結婚相手に相応しいと選んだことになり。高嶺の花が選んだ結婚相手が次期当主であればベント公爵派は盤石で安泰であることを簡単に示せる。

 これはジンが協力すると決めたフォルス公爵派の意向にそぐわない。それに個人的にもこの政略結婚を見逃すとよくない事が起こりそうだと考えた。少し考え、ジンは元先生に会いに行くことに決めた。


*  *  *


 ジンはガイネア王国の王都ーー、ガイネルスに来ていた。今は市場にいてそこそこに買い物を楽しんでいる。


「ありがとうございましたー!」

「はい、ありがとう」


 露店に出ていたオレンジジュースを飲む。飲みやすい冷たさで、喉をスッと通っていく。ご機嫌な気分で飲みながら市場を見回る。クーデターが起きてから4ヶ月が経っているとはいえ、民衆の表情は明るい。直近のニュースも影響しているのだろうが、民を虐げるような政治は行っていないのだろう。考えてみると、特に悪いことはやっていないのだろう。

 クーデターの表向きの理由は継承順位の不当性の主張であるのだから、特に間違ってはいない。いや、正妃と側妃の子供が同率である訳はないのだから、貴族位にある者は正当性に疑問視を抱くだろう。しかし、民衆に対しては言ったもん勝ちの所があるので、その後のフォローがしっかりできれば民衆からの支持を得て自分の主張の正当性を保証できる。


「先ずは伯爵に話を聞かなければな」


 ジンはニホン商会のガイネルス支部に向かう。そこで、ミルエット伯爵に手紙を書いて速達で届けさせる。それを貴賓室にて結果を待つ。

 数十分待っていると、ミルエット伯爵から直ぐに会うと返答が返ってきた。ジンは直ぐに支度して馬車でミルエット伯爵の王都別邸に向かう。ミルエット伯爵家の王都別邸にある応接室でジンは伯爵が来るまで考えを纏めていた。

 すると、応接室がノックされメイドからの入出の許可を求められる。ジンは入室を許可すると、メイドに案内されてミルエット伯爵家当主ーー、グルトン=ミルエットが入室してきた。彼は細身ではあるがしっかりと鍛えられている。何となく目元がヘレンに似ている、と言っても他の顔はヘレンと違って威厳のある顔立ちをしている。

 ジンとグルトンは互いに形式的な挨拶を交わすと本題に入る。


「それでニホン商会の会長が今日は一体何の用です?」

「いえ、伯爵の娘さんが結婚するとの事でしたので、最近は伯爵はどうなのかなと」

「不満はないよ、少し動きにくくはあるがね」


 ガイネア王国の国政はベント公爵を筆頭にする派閥とフォルス公爵を筆頭にする派閥がバチバチにやり合っているような状況だ。しかし、その二つの派閥にも属していない貴族もいて、そういう貴族は国王の主張を支持する国王派に属している。最近はベント公爵派の派閥が一番大きく、次点でフォルス公爵派、国王派は一番小さい派閥だ。

 ジンの予想では数ヶ月すればベント公爵派の勢いが収まり、クーデターを起こした責任を取らされるのかと思っていた。だが、そうはならず、ベント公爵は今でも存在感と権力はそのままで権勢をふるっている。その影響でフォルス公爵派と国王派の貴族を脅かしている。

 ミルエット伯爵は国王派に属していて、それを率いる公爵がベント公爵に幽閉され国王派の影響が下がってきている。そのためベント公爵の国王派の影響が強まってミルエット伯爵は動きにくくなっているのだろう。


「そうですか。実は最近学校を開きましてね」

「噂には聞いてるよ。中々に評判がいいようじゃないか」

「最近まで自分も生徒を持っていたんですが、特例で早めに卒業させましてね」

「それだけ優秀だったという事か?」

「ええ、贔屓目に見ても全員優秀でとても助かっていますよ」


 二人は中身のない会話をしているが、これには理由がある。

 ジンは少し上を見上げると指で空気を弾いて天井を撃ち抜く。するとくぐもった声が天井から聞こえてきた。


「いや、助かったよリョウ殿」

「良いんですか、反応が無くなったら確実にベント公爵からにらまれると思うのですが?」

「構わん。いてもいなくても睨まれてるんだから、いなくなってもらった方が動きやすいだろ?」

「否定はしませんよ。……それよりも自分に何か依頼があったのでは?」

「…………ああ、そうだな」


 ジンは返事の手紙に書かれていた依頼について言及する。


「今回の結婚、正直言えば納得いってない」

「でしょうね」

「しかし、断らせる選択肢が無かったのも事実だ。裏から色々手を回され脅迫でこの結婚を取り付けられた。娘にはつらい決断をさせてしまっただろう」

「娘さんの心情は察せませんが、伯爵も辛い決断をされたでしょう。それで、依頼の内容は?」

「……相変わらずだな。まぁいい、依頼内容は娘の暗殺阻止と誘拐だよ」

「暗殺ですか。黒幕は王室かフォルス公爵派か。いずれにせよ、ベント公爵派の影響が落ちそうな案件だ」

「ああ、二週間後王都で大規模に結婚式を挙げる予定だ。王都内を練りまわり、ベント公爵家の権威を誇る計画なんだ」

「派手なパレードになりますね」

「クーデターで下がった経済状況の立て直しを兼ねて集客要素のを増やそうと考えているみたいだ」

「自分のしでかしたことの尻拭いですかね」

「それもあるけど、副次的な効果に過ぎない。主目的はあくまでも権威を誇示する事だ」

「まぁ、下から報告はされてたんですけどね」

「お前の立場ならそうだろう」


 ジンは部下から報告された事の裏をここで取っていた。


「それじゃ、本題に入っていきましょうか」

「ああ。依頼内容はさっき話した通り。報酬に関しては決めかねているがね」

「…………」

「報酬の支払いは確約しよう。というより、もう君が決めてくれ。ほら、誓約の紙片も此処にあるし」


 ジンに対して何か報酬を出すのは現実的ではない。望めばある程度の物なら簡単に手に入るのが彼の立場であり、そうなってくると金で解決するしかないのだが彼に依頼すると貴族位を返上することを覚悟する位の金額を提示される可能性がある。


「いえ、報酬は娘さんの身柄というのはどうでしょう?」

「君が貰ってくれるというのかい?」

「そうじゃないです。偽の戸籍と名前を用意して戻れる時が来るまでニホン商会で働いてもらいます」

「具体的にはどういう扱いになるんだ?」

「別の国から連れてきた、魔法学の外部講師としてウチの学院に努めてもらいますよ。ま、最終的には本人の意思次第ですけどね」

「こっちとしては強制的に連れて行ってもらいたいのだがな」


 ジンは肩を竦めて応えると、それから少しの時間を細部を詰めて話し合いをする。ジンは依頼を受諾して正面から出て用意していた宿に戻っていく。


*  *  *


 ガイネア王国の王城の近くには大きな湖があり、そこには迎賓館が立っていたその二階の角部屋には桜色の長髪を持つ美女が悲しげな表情で黄昏ていた。

 彼女はヘレン=ミルエット。今は安全確保の目的で王城の迎賓館に軟禁されている。彼女には断る権利はなく実家の為にも軟禁されるしか選択肢はなかった。


(これで、良かったのかしら。………ううん、良かったの、お父様の為にも、弟の為にも今の私にはこれしかないんだから)


 最近のヘレンは信用できる相手に会うことが出来ず、心を許して誰かと話す事も出来ていない。孤独でいるというのは人間的に大きいストレスだ。ヘレンは割と精神的に追い詰められていたりする。今も思考の迷路に迷い込み、再三していた思考を繰り返し行っていたりする。そこに浮かぶ心情は後悔や不安が大きく占めている。


(でも、最後に、最後に会えるならジンに会いたかったな)


 ヘレンは窓辺に肘をつき夜空を見上げる。そこには夜に瞬く星だけが見えている。


「ジンに、会いたいな………」


 ポツリとつぶやいたその言葉は自分の耳にも入らなかった。

フォルス公爵の嫡男の名前を変更しました、後もそこそこ出てきますが忘れてもいいです。

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