69話:観戦の感想会
助けた村の一画を借り、全員で卓を囲む。それぞれの前に紅茶も用意してやる。
そこで今回の反省会をすることにした。殺したというより、殺すための決断をしたことが精神的に来るものがあったりするんだろう。
「傷心中かもしれませんが、反省会をしていきましょうね」
「はい……」
落ち込んだ声が響いてくる。普通に生きてればしない経験を行ったのだから、精神的に負担があるのは納得できる事である。
ジンは内心で溜息を吐きつつ、話を進めていく。
「じゃあ、今日の感想を菜花さんからどうぞ」
「……初めての価値観の人だった。違い過ぎて、ここが異世界だってのと今ままでは恵まれてるのが分かった」
「殺しておくべきだったとは思ったけど、どうにかできないのかとも思った」
「今回は自分で殺さなかったけど、自分で殺すって事はまた違うのかもとか思った」
その他、聞いてくるのは初めて人が目の前で死んでしまったことによる衝撃が大きかったようである。姫たちの反応は異世界組と違いドライであった。
「まぁ、人道に反したのはあっちだからね。不必要に責任を持ったりするのは自分の為にも、相手の為にもならない。やってしまったのなら、それに償わせるのが道理だと思うよ」
「同じく。別に貴方達は間違ったことはしてないんだし。それでも罪悪感を持つなら、殺しちゃった人間の数だけ人を助けなさい。悪党を殺した贖罪ならそれで十分だよ。それに今回村の人達を助けたんだしそれを誇りに思うべきだと思うよ」
今回の事を姫たちはフォローする。盗賊の棟梁を殺したことについては責任はないと説いて心的負担を軽減させてやる。姫たちの言葉を受けて全員ちょっと気持ちが持ち直した。
続いてトウガが感想を話し始めた。
「命の奪い合いなんて割と頻発して起こる。こっちにその気がなくとも、どこぞの悪党が突っかかるし、不必要に揉め事起こそうとする奴らもポンポコ出てくる。で、お前らも目的の為なら目の前の存在を殺す必要だって出てくる。そんな時、どうする?」
「………」
「………」
「「「「………」」」」
全員が口を塞ぐ。流石に今回の事があった後直ぐに殺しの覚悟を問われるとは思わなかったんだろう。しかし、トウガの眼は本気だ。誤魔化しは効かない。
「……まだ分かんない。けど、その時は、その時は……? んんん? 殺されるくらいなら、殺してでも生き残ってやる!」
「……ふっ、くくく、ははははっ! イイ感じにイカれてるねぇ! ぁあ、で、お前は?」
祈の解答を気に入ったのかトウガはケラケラ笑う。彼としては正解な回答であったようだ、表情は見えないが愉快そうにしている。そして菜花の方を向く。目線を向けられた菜花は体を震わせるが、目に闘志を宿らせながらしっかりと答える。
「正直したくない。けど、目的があるから、それに沿って突き進んでやる」
「うん、良いね! まだ青いが、そいううのイイと思うよ」
トウガは上機嫌に声を弾ませる。二人の答えを相当気に入ったようである。
最後にジンからの言葉。
「殺し殺されはしょうがないと思うよ。もし、お前たちが人なりなんなりを殺しちゃったとしても俺は別に責めたりはしない。この世は弱肉強食だ。だから、色んな悪意に対応できるように鍛えなさい。やりたくないで、済ませられるほど社会は甘くない」
「……はい」
ジンの批評で今日の授業を締める事にした。
しかし、旧知の人物と折角会えたのに今すぐ引き離すのは酷だと思ったので話す時間を作ってやることにする。自由時間を取ってやり、暫くは交流を深めさせてやる。今の今まで張りつめていた気分を旧友との交流で癒してもらうことにする。旧友というには大分容姿が変わっているが。
「それで、この世界に来た時の事故で、その姿に?」
「はい、大分慣れましたけどね」
「治したりは出来ないの?」
「復元する力も効かないみたいで。特に不便はないのでご心配なく」
元の綺麗な顔を知っていると悲壮感はあるが、それでも彼女の笑みは綺麗であった。それを無意識で流しているので、女の菜花も少し見惚れて恥ずかしそうにする。
「どうしました?」
「気にしなくていいわ」
菜花は後輩の身体の心配よりも、貞操の心配の方が重い気がしてくるのであった。
* * *
話し合う事も無くなり、手持ち無沙汰なのでジン達を手伝いに行く。
ジンは攫われていた男手は回復させて村の修復に駆り出している。資材に関しては丸太を魔法で乾燥させて木材に加工して、釘は地属性の魔法で加工して作成する。それを男手を指揮しながらなんとかしている。
「先生。少し相談があります」
「はい、聞きますよ」
作業の手は止めずに優夢の話を聞く、と言っても、スキルでだいぶ遠くの方で作業して話を聞きやすくはしたのだが。
「で、話って?」
「手紙のやり取りがしたくて………」
「成程。優夢嬢の手紙は俺が菜花嬢の近くに置いたメイドに渡すから、ソッチは逆の様にしてくれ」
「わ、分かりました」
「はい、承知致しました」
ジンは作業に戻り、数十分してある程度復興を手伝うと、生徒達を元の場所へ送り返した。
* * *
菜花達は城に戻されると、メイドに今日あった話を伝える。アスタルテは頷いて任せるように返した。
「それでは、湯浴みの準備はしておきましたので、そちらへ参りましょう」
「あ、ありがとうございます」
一礼するとアスタルテは入浴の準備を整えていたのか、タオルなんかをもって菜花達を湯浴み場へと連れていく。
到着するとアスタルテは連れていかれた三人の全ての服を剥いで、大量の手で隅々まで洗い上げると湯船に入れていった。この湯舟はお風呂生活を懐かしんだ菜花達の為にまだ貴族には流通がない浴槽技術をニホン商会本部から許可を貰ってアスタルテが作った場所である。
「はふー」
「ふー」
「ぁー」
菜花達が入浴中でも、アスタルテは色々準備したりしている。入浴後の服だったり、水分補給用の飲料を用意したりして彼女たちの世話に余念がない。
「アスタルテさん」
「何でしょう?」
「今日の授業についてどう思った?」
「特に何も」
アスタルテはドライな反応を返す。彼女の前世にとっては殺し合いはすぐ隣で起こっていた事だ、気にする気にしないでは無くてやらない切れなかったのだ。
「そうですか」
「何かありましたか?」
アスタルテは本来なら彼女の心のケアは別に仕事ではない。身の回りの世話さえしていれば得に文句を言われるわけではない。こうして話に乗ってあげるのは彼女の面倒見の良さの表れであろう。
「いや、カルチャーショックというか、初めて人が死んでいく光景を見てね。やったことを考えれば当然と言えば当然なんだけど………」
「目の前で誰かが死んだのがショックだったと?」
「まぁ、平たく言えば」
湯船に浸かりながら菜花はぼやく。隣で湯に浸かっている琴葉も少し、話に耳を傾ける。
「直ぐにどうも、こうもないと思いますし。こればっかりは場数を踏むしか慣れる術はないかと思いますよ。まぁ、慣れすぎるのもどうかと思いますけど」
「そういうモノですか?」
「大切にする人命は選ばなければいけないでしょう」
菜花はそういうモノかと湯に浸かり、身を任せて疲れを取るのだった。
* * *
ジンと共に帰ってきた祈達はジンが総括した話を聞かされて今日は解散になった。
家に帰ってきた祈達は着替えて料理を作った後にリビングに集まった。祈の膝元には白いウリボウが寝ていた。
「そういえば、その子がいたね」
「うん、風の勇者の子で思い出して」
「名前つけたの?」
「つけてなかった………」
本気で忘れていたのか祈はウリボウを持ち上げて名前を考える。
「………トンテキ」
じゅるり、という音が聞こえてきそうな声で祈は大切な神獣の名前を決めるのだった。




