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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第四章 召喚勇者と見守る守護者
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68話:戦闘訓練 観戦の巻

 一週間経つと全体的に武器の扱いに慣れてきた。見ていると、勇者は武器の練度が高い。やはり、その人に合ったものを支給されているのだろうか?

 考察はほどほどに休日が開けた最初の日。今日は朝から校庭に全員が集まっていた。


「ええと、では先日お伝えしていた通りに、特別な授業をしていきましょうね。では、班ごとに分かれて下さい」

「はーい」


 間延びした返事と共に全員決めていた班の通りに分かれる。

 ジンは体をほぐしながら、話を始める。


「今日は外に出ての実習の授業になります。それぞれの勇者の守護者の場所まで飛ばしますので、気を付けて」


 そう言うとジンは床を叩いて強制的に何処かへ全員を飛ばす。そのまま、全員を見送ると、自分もどこかへ飛んでいく。


*  *  *


 祈は周囲の景色が歪んだと思ったら何処かへ飛ばされていた。周りには、願と望、優夢、それとセルリアがいた。


「ここは何処なんだろうね」

「近くに村が見えるけど、活気がないような。しかし、ここで何をするんだろう?」

「後で説明するみたいだから、ここで待っててくれ」

「えと、貴方は?」

「お前の守護者の最高位の奴だ」

「ああ~」


 祈からの質問に何処からか出てきた男が答える。その姿は異様というほかない格好をしていた。頭には官帽、鍛え上げられた体にロングコートを着込み、シュッとした雰囲気を醸し出している。それだけならなにも不思議ではないのだが、それらをぶち壊す要素が顔に張り付いている。


「で、その仮面は何?」

「身バレ防止用だ。あいつのセンスだからどうにもな」


 男の顔にはペストマスクが付いており、所々を機械で補強しているメカニカルな部分が目立つ。

 そんな仮面をつけながら、不満そうな声で溜息を吐く仮面の男、とても面倒くさそうにしているのが言葉と態度からわかる。


「いやいや、お待たせ」

「ちょ、ちょっと、待って!」

「ここ、どこ?」


 猫の様に首筋を掴まれた女の子が二人、仮面の男と同じようなマスクをつけた男と一緒に出てきた。顔立ちは祈達と同じ日本人顔で服装はジャージになっている。男の方は、いったん戻ると今度はまた別の女の子を取り出して戻ってきた。


「ええと、先生?」

「そうだよ。それじゃ、今日は道徳の授業をします」

「具体的には何するの?」


 出てきた男はジンだったようである。そのままジンは今日やる科目の説明に入る。連れてきた女の子についての説明はないらしい。


「今日は皆にこの世界についての道徳を学んでもらいましょう」

「はい」


 諦めたように頷く一同。頼めばしてくれるだろうが、説明が終わった後で良いと後回しにする。


「そんなこんなで今日は特別ゲストをお互いに連れてきましたー。地の勇者の一行と風の勇者とそのお仲間さんでーす」


 適当な紹介で場を流そうとするが、お互いに見逃せない人を発見した。


「ゆ、優夢ちゃん?」

「な、菜花さん!」


 お互いに知り合いだったようで思わぬ再会に驚いている。菜花はそれだけではないようだろうが。ジンは予想していなかったので少しだけ驚いているが、一つ咳払いすると注意を自分に向ける。


「お話はあとでさせてあげるから、今は先生の話を聞いてくれよー」

「はい、すみません」

「……聞く意味あるの?」

「どうやって帰るんだい?」

「………」


 帰る手段が現状ジンに運んでもらうしかないので菜花は渋々いう事に従う。顔には前面に不満を浮べていたが、ジンは気にしないことにする。


「それじゃ。皆であの村に行こうか。っと、その前にこれを着てくれ」


 全員に白いローブを渡す。全員がそれを着込むと効果を説明する。


「それを着ていると、顔を正確に認識できなくなって別の顔に補完されるんだ。素性をあんまり明確にしない様にする為にもつけといてね。それじゃ、付いて来て」


 そう言うと、ジンは村の方に体を向けて歩き始める。全員それに続いて歩きだす。もう一人の男ーー、トウガも付いて行く。顔を隠しているが不満を出すことなく後ろから付いて行く。


*  *  *


 村に着くと、ジンとトウガ以外の人間は絶句していたのだ。

 村は荒れ果てていてかろうじて見えるのはお年寄りの無事だけが認識できる。いる筈であろう村の若い衆が消えている。唯一いるお年寄りたちも怪我をしていたり、死にそうな老人もちらほら見える。


「息はあるな。トウガ、応急処置を手伝ってくれ」

「ほいよ」

「他は村中に散って、重傷者をあんまり動かさない様にここへもってきてくれ」

「は、はい!」



 ジンは老人たちに近づき、聖法を掛けて傷を治していく。黄金の光に包まれた老人は傷が回復していく。その後、全員に村中の人間をここに集めるよう言いつけ、全員が村に散って村中にいた人間を一か所に集める。


「大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ない」


 ジンとトウガは応急処置をしたりして骨を固定したり出血を抑える。他も手伝おうとしたが、ジン達の手際が良くて見てるしかできない。


「一先ずこれで回復させよう」

「……ああ、……あ、う! ここは?」


 回復させてると一番近くにいた老人が目を覚ました。相当困惑しているようで体の痛みを感じることなく体を動かそうとする。


「爺さん。寝てるんだ、死ぬぞ」

「あ、ああ、すまないねぇ」

「寝てて良いよ。質問は答えられる?」

「……問題ない」


 治療を続けながら、ジンは老人に色々聞いていく。

 この惨状は盗賊によるもので、昨日襲われたばかりだったそう。村の若い男衆が駆り出され応戦したが数と練度に押され、結果は敗北。男数人と子供そして若い女衆が連れ去られた。食糧も貯えも略奪し、残されたのは怪我した老人だけだった。


「成程ね。どっちから来たかわかる?」

「あっちの林の方から。多分、山の方の崖にある洞窟に拠点を作ってるんだろうな」

「洞窟か」

洞穴(ほらあな)位の大きさだったはずなんだが」


 地属性の魔法が使える奴がいるなら、拡張は簡単にできる。思ったより規模が大きそうな団体であることが予想できた。


「任せろ。村の住人は何とかしてやるから、家に入れて休ませるぞ」

「はい」


 全員で協力して怪我した老人を家の中に運んで寝かせる。

 それが終わると、村の中心で一息つく。地魔法で椅子を作ると全員で周りを囲みそこで一旦話し合うことにした。


「そう言う気分じゃないと思うけど聞くが。どう、思った?」

「……助けないととは、思う。けど、怖い」

「どんな風に怖い?」

「殺されるのと、殺しに行くかもしれないのが怖い」

「他は?」

「……殺さなくちゃいけないと思うと、体が震えてくる」

「あんまり関わりになりたくない」


 祈達は順々に自分の答えを述べていく。まだ、幼さを残した少女達の口から人の生死について語らせるのは、酷に思えるがジンは心を鬼にして順々に聞き出していく。


「ね、ねぇ。今から、どうするの?」

「山の洞窟に入って盗賊どもを処理する。ただ、今回は盗賊達の生死をどうするかは君達に任せる。考えて、決断しなさい」

「な、何で? やだよ! なんでそんな事しなくちゃ言えないの!」


 菜花が騒ぎ始める。こっちに来ての不満が溜まって、さっきのジンの言葉で爆発したようだ。


「貴方は私の守護者何だよね!」

「そうだね」

「じゃあ、アンタが全部守ってくれればいいじゃない! 私は戦いたくなんてない! なのに何で押しつけてくるの!」

「そんなもんさ」

「嫌だよ! こんなの理不尽だよ!」


 泣き喚く、抑圧されたストレスを全部開放するように大声を張り上げて菜花は泣き喚く。それを遮ろうとする者はいない、転移してきた人物たちは皆同じ様な不安を抱えてきた。今は菜花だけが吐き出しているが何処かで切れれば皆一様に吐き出し始めるだろう。


「こんな所に連れてこられて、全部捨てさせられて、挙句の果てには人を殺せって! そんなのないよ! なんでそんな、嫌だよ! 私に何しろっていうの!」

「グゥゥゥ!」


 菜花が大声を張り上げていると、彼女の影から白い竜が出現し彼女を守るように立つ。その目は細められ、鋭い瞳でジンを睨み付けている。ジンは睨みつけられても動じることなく、暗い瞳で見返してやる。竜はたじろいで菜花を抱えて少し後ろへ下がる。


「別にこれから先も殺し合いを続けろとか言うつもりはない。そもそも君はこれからどうしたいの? 三千人位殺して英雄にでもなりたいの?」

「っう。ち、違う!」

「何したいの?」

「家に、地球に帰りたい」

「ごめん。それは無理だ。それ以外にはあるかい?」

「分かんない。何をすればいいのかも分かんないし、これからどうしたいのかも」


 気持ちはわかる。彼女の事はよく知っているからこそ、不憫に思う。

 彼女は大企業の重役の娘だった。頭も良くて、運動もできる優等生なのだ。普通に暮らしていれば、大災害に合ったとしてもそれなりの生活をできるし、将来も安泰だったはずだろう。不憫な子である。ジンが最後に会った時とは変わって、弱々しく体を抱えて悶えている。いやまぁ、妹分はこんな感じだった気がするけど。

 しかし、ジンも考えを変える気はない。ここで厳しい言葉を告げる。


「そんなの元の世界でも一緒だろ」

「っ!」

「先が見えないのも、これからが分からないのも、あっちにいた頃と何も変わらない。もしかしたら、こっちのほうが辛いかもしれない。それでも俺は君に生きてて欲しい。苦しいだろうが、飲み干せ。現状を嘆き続けてでも先に進むように努力をし続けろ。それに苦しいのは、お前の隣にいる奴もだろ」

「……はい」


 心が痛くなってるのをジンは感じる。こんな言葉を掛けたいわけでは無いが、言わなきゃ何処かで苦労する。


「それじゃあ、ここまで聞いてなんだが、どうする?」

「……取りあえず、行ってみる。何が出来るか、分かんないけど」

「行きます! 覚悟は決めました!」


 菜花と祈は覚悟を固めたようだ。他も覚悟を決めたようで頷いてる。

 しかし、気になったので別の事を尋ねる。


「姫様達はどうしますか?」

「協力はしますが。……そもそも此処って何処なんです?」

「ええと、小国地帯の一つの、クロノック王国、その東端ですね」

「ああ、そう言えば属国の一つにそんな国が」


 菜花と一緒に来た少女ーー、サテラはそんな事を呟く。彼女は国政に関わる事は少ないとしても、教養の一つとして覚えているのだ。と言っても、末端の国は記憶がぼやけているが中堅国位ならサテラも覚えている。


「じゃあ、早めに済ませましょう。村人をさらったって事はナニカする気なのでしょうから」

「……あんまり考えたくない」

「考えなくて済むように、早めに済ませましょう」

「その前に一ついい?」

「はい、何でしょう」

「貴方達は何なの? ペスト本人? それともまた別の誰か?」


 サテラから質問が来た、彼女の前ではペストとして前に現れていたので、この仮面をつけてれば不思議に思われるのは無理はない。しかし、ジンはペストでは無いのでそこはちゃんと説明しておく。


「俺はペストでは無いです。彼女の守護者ではありますが、また違う奴です。因みにそいつは俺の上司ですね。先日はどうも失礼しました」

「そう、ですか」


 サテラは残念そうな声を出し、小さく溜息を吐く。トウガは呆れている雰囲気がある。まぁ、実際呆れていても無理はない。ジンはそれら全てをバッサリ切り捨てて山へ全員を先導していく。


*  *  *


「ええと、入り口は三つ。見張り付きか」

「分かるんです?」

「ああ。今日は俺が何とかする。本格的な実戦はまた後で、今日の所は俺達で処理する、よっ」


 ジンは説明しながら弓を構え、そのまま射る。弓は綺麗な弧を描きながら何本にも分かれ、見えなくなる。ジンは着弾を確認すると、一番近い入口へ向かう。

 先頭はトウガが歩き、その後ろにジンがいるその後ろに少女達が付いて行く。伏兵がいないことは確認済みなので、恐れることなく進んでいく。少女達もジンを信用してその後ろにつく。


「そろそろ、発見されるな。トウガ」

「おうよ」


 気合を入れて拳を合わせると、トウガは跳躍し入り口前に来ると鳩尾に拳を打ち込んで気絶させる。二人いたが声を出すことなく両方倒れた。


「入り口は少し入り組んでるが中はかなり広く作られてるな。上手い奴がいる」

「面倒な。構成人数は?」

「中には七十と少し、外へ遠征に出てるのが十数人かな」

「戻ってきそうか?」

「いや、今日出発したばかりみたい。明日には帰ってくるだろうけど、少し騒ぎを起こした程度なら帰って来ないだろうな」

「じゃあ、予定通りに」


 トウガは洞窟の入り口から中に入り、ジンの案内に従って奥の部屋へ向かう。入り組んでいる入り口付近には巡回中の盗賊が奇襲を仕掛けていたりしたがトウガやジンが一瞬で倒してしまうので、他は反応は出来るがその前に倒れてる状態が出来上がっていく。

 ジンは菜花と琴葉も反応できているのが以外に思ったが、アスタルテが育てたんだろうと当たりを付ける。すると、祈達が質問する。


「今更こんな事言うのもあれだけど、ジャージで大丈夫なの?」

「んー、大丈夫大丈夫。マシンガンやRPG打ち込んでも破れたり、着ている人に傷がつく事なかったから、大丈夫」

「何で出来てるの?」

「というか、頭出てるんだけど」

「不満なら、俺達と同じになるけど」

「………」


 全員考え込む、まぁ、取りあえずジン達がいれば安全だろうと思い。取りあえず、ジンに寄る事で対処する。ジンは歩きにくそうにするが、何も言わずに全員を引っ張って歩いていく。


「トウガ」

「ん?」

「そこの角を右に行くとデカいホールになってる」

「んんー、お、本当」

「残り全員いるけど、手伝うか?」

「いいよ、俺だけで充分」


 トウガは軽く断ると、角を曲がって中へ入っていく。ジン達もそれに続いて中へ入ろうとするが、入っていったトウガが同時に吹っ飛んできた。ジンは吹っ飛んできたトウガを優しく受け止めてやる。


「力負けか、珍しいね」

「なわけあるか。空中で押し出されただけだ」

「どうだか」

「んな事より、手を貸せ。周りの掃除だけで良いから」

「承知致した」


 改めてホールを見ると、ジンはビックリした、中は広いのは分かっていたが改めてみると、野球のスタジアムくらいは大きく、高さもかなりある。普通の魔法使いだけではここまで出来るとは思えない。それよりも驚いたのは魔物がいた事だ。


「珍しいな、単眼巨人(サイクロプス)が三体か」

「あれは俺が倒す。他のは任せるぞ」

「あいよ」


 ジンとトウガは仮面をかぶり直す。ジンは刀を抜き、トウガは構えを取る。伏兵は気にしなくても良い。気になるのは、ホールの奥にある部屋。


「よっ」

「お?」


 トウガは一足飛びで単眼巨人の懐に入り、一撃打ち込んで腹を撃ち抜く。出血と腑抜けた声と共に単眼巨人は崩れ落ちる。ここでようやく、盗賊達がトウガに切り掛かっていく。


「ぐっ!」

「あっ」

「ググッ!」


 トウガを狙う盗賊達の後ろから、ジンは殺さない様に手加減して打撃を加える。別に殺しても良いのだが後の事も考えると、こっちの方がいいと考えた。


「くそ! こっちの方がマズい! おい、お前はそいつを足止めしとけ! そいつはこっちだ!」

「グウガァ!」

「ガガァ!」

「やっちまえ!」

「グアアアァ!!」


 盗賊達は単眼巨人の相手をしているトウガより、ジンの方を強敵認定したのか。一体の単眼巨人にトウガの足止めを任せ、もう一体をジンに襲わせ、それに便乗してジンを襲いに行くようである。

 ジンは別に狙われたところで余裕は崩さない。単眼巨人の攻撃は全て無視して、盗賊だけを狙っていく。トウガもただ見ているだけではない、狙われている方は魔法で地面を操り、剣状に操り胸を貫いて倒す。そのまま、ジンを狙っている方に向かって拳を握って全力で振り抜く。そのまま、単眼巨人は吹き飛び、壁へ激突する。

 ジンはその間も盗賊達を無力化していく。手際よく無力化して最後に頭領と相対する。


「一応、言っとく。投降しろ」

「する訳ねぇだろ!」

「だろうね」


 ジンは頭領を気絶させることなく足と身体をインベントリから取り出した鎖を巻き付け、転倒させて無力化させる。ジンはトウガの方を見ると、直に終わりそうであった。

 単眼巨人は拳を振り回しトウガを狙うが、トウガはすべて捌いてジンの用事が終わるのを待ち、それが終わるのを確認すると拳を握って腰を入れて、単眼巨人の胸を撃ち抜く。


「終わったな」

「終わってねぇ、終わる訳がねぇ! まだだ、おめぇらも運が悪いなぁ」

「そうか」


 意味深な言葉を喚いているが、全部無視しする。最後のジンは足の鎖を解き、入り口近くで待機していた全員の前に戻る。


「取りあえず、全員でこれの処遇を話し合え」

「こ、殺しちゃうの?」

「自由にしろ」

「判断材料がないよ。どうすれば」

「そっちの二人から意見を貰ったり、そっちの部屋をのぞいて判断してみ。別にお前たちが殺す必要はないから、殺したくなったらこれに吸収させてくれ」


 ジンの影から全身真っ黒なオオサンショウオのような生物が出てきた。ジンは一回抱えると、祈に渡し、盗賊の棟梁を繋いでる鎖を菜花に渡す。


「じゃあ、任せる。好きにしてくれ」

「は、はい」


 サンショウオと盗賊の棟梁を渡し、アジトの中を見に行く。ジンは子分たちを処理しに行く。奥の部屋に入るとそ手への出口に繋がる通路と、財宝、食料、それと何かの台座が用意されていた。

 トウガは食料を探っていて、ジンは何かの台座を調べていく。


(これは、転送用の魔方陣だな。なんで盗賊がこんなものを? 俺達のとは術式の系統が違うな、俺達から流されたモノじゃないな)


 自分達の中に横領や横流しをしている者がいたら探さないといけないと思っていたが、そんな事がないと安心した。続いて出てきた疑問は、なぜこれをこんな所に配備されているのかという事だ。

 正直に言って、使われている素材は貴重なものだ、少なくとも市場に簡単に出てくるモノではない。そんな貴重なモノを無尽蔵に使えるのか、それとも何かしらの目的があってここに設置したのか。

 ジンは思考するのは一旦置いておき、何か資料が無いか部屋を探すことにする。部屋の中には書物なんかは少ないので探すのは難しくない。資料を手に取って中を読み込んでいく。

 すると、宝を漁っていたトウガが声を掛けてきた。


「何調べてるんだ?」

「んー、そこの台座の事。転移の魔方陣だとよ」

「んー、面倒な事だ」


 トウガも同じようなことを思ったようだが、自分に出来ることは無いと宝の物色を続けていく。

 数分位、ジンは資料と睨めっこをしていると、ふと、台座が光を放ちだす。すると中心から空間が歪み、茶髪の男が出てきた。

 ジンも男も驚いているが、対応はジンの方が早かった。拳銃を手に出現させ茶髪の男の四肢の付け根を狙って撃ち抜く。


「ぐうぁ!」

「少し黙ってろ」

「ふぐぅ! ぐぐぅ、ううぅ!」


 取りあえずジンは話を聞くために拘束する。男はいきなり拘束してきたジンに驚いている様だが抵抗できずに唸るだけである。ジンは取りあえず体を探って装着物を探っていく。すると、ネックレスが出てきた。普通のならジンも放っていたが、普通のではなかったからジンは厳しい目で睨んでいる。

 出てきたネックレスは目がデザインされた盾に、旗と剣が交差しているのが刻印されている。それは調査段階で見覚えがあるジンの仇の傭兵団の物である。つまり、この男はここ数年、情報のない傭兵団の構成員なのである。情報を引き出そうと思ったがお使いをしに来た奴が中心にいるとは考えにくいので、少し改造することにした。


「恨んで良いよ。少し痛いから」

「ふぐぅ、ぐぐぐぐぅ、ぐぅ! ぐぅ! ぐぅ!」


 ジンの掌から黒い液体が這い出て、男の顔を覆っていく。数秒すると液体が染み入りそこには何も変化のない男の頭部がある。外見上の変化はない、しかし、その中身は色々置き換わっていってしあっている。もうここにかつての男はいない、あるのは男と同じ思考と身体を持ちジンに忠実な人形になった何かだけである。


「『洗脳魔法 テセウスの船』ってね」

「えげつねぇ。そいつは何なんだ?」

「ゴミ共の下っ端だよ。こいつの目的もわかってるし、処理していくわ」


 ジンは手袋をはめ直し回収していた盗賊達の改造を始める。麻酔もないのに自分の体を底から弄られ始めるのだ、激痛が流れるなんてものでは形容できない程の痛みが全身を駆け巡っていく。

 数分で全員の姿形を組み替える、そしてメニューの能力を応用してステータスの隠蔽も行う。これで盗賊ではなくどこからどう見ても村人として扱われるだろう。


「うん、これで一先ず。処置は終わり。おい」

「ハい」

「お前は予定通りにこれらを回収しろ。素性はバレない様にバレたら自死して証拠隠滅しろ」

「ハイ、分リましタ」


 男は何かの小箱を開き底から広がった闇が盗賊達を包み男が小箱を閉めようとすると闇が小箱へ戻っていき、完全に蓋をされると盗賊達の姿も消え男は小箱を懐へ戻す。そのまま台座へ戻り転移を行い何処かへ行ってしまった。


「そろそろ外へ出るか」

「宝はどうする?」

「持ってくか」

「さんせーい!」


 トウガはウキウキした口調で宝を大きめの袋に回収していく。ジンはインベントリに全部入れて回収する。回収量は一目瞭然であった。


「くそ、ズルいぞ」

「スペックの差だ、諦めろ。まぁ、お前が回収したのは自由にしろ。他は村に寄付するか」

「おお、太っ腹だね。んじゃ、有難く回収させてもらうよ」


 トウガは袋を背負い、先へ出て行ったジンに付いて行った。


*  *  *


 ジン達が盗賊のアジトの奥へ入っていくと、他は鎖に繋がれた盗賊の棟梁とよく分からない黒い爬虫類を貰い、どうすればいいか迷っていた。なのでセルリアが沈黙を破り、行動を開始させる。


「あそこの部屋に何かあるって言ってたよね」

「は、はい」

「見てみますか」

「……クソっ、クソっ!」


 悪態をつきながら盗賊の棟梁は引き摺られていき、ジンに指し示された部屋に全員で入っていく。そこには吐き気のするような光景があった。

 檻に閉じ込められている村人らしき集団。そこには弄ばれて死んだ様な表情で横たわる女性達、隅にある箱には人の物と思われる手が見えている。


「なに、これ……」

「うっ………」


 全員気持ち悪くなって口を抑え始める。想像以上のひどさに目に入れるのすら辛い。吐き気が昇ってくる。胸の奥が熱くなってきて、何かが口から出てきそうである。

 棟梁は途端に自慢げな顔で今までやってきたことを自慢を始める。


「ははは、すげぇだろ。旦那や恋人、家族の前でヤルってなると、すげぇ気持ち良いし、上がっちまって大体は壊しちまうんだけどな。それでも抵抗するやつは暴力でねじ伏せて壊すのが楽しいんだよ。ははは」


 倫理観の欠けた発言に全員が顔を顰める。そんな言葉に沸々と怒りが沸き上がっている。菜花が声を張り上げて欠けた倫理観に向かって疑問をぶつける。


「なんでそんな事が出来るの! この人たちは貴方達に何かしたわけじゃないんでしょう!?」

「まぁ、そうだな。だが、俺達の眼に着いた。だから、犯して壊して殺してやったんだよ」

「理由になってないわよ!」

「ああ? 別にいいだろ。むしろ、冴えねぇ人生に彩をやって人の役に立てたんだから、感謝して欲しいくらいだぜ」

「する訳ないじゃない! 人の命を簡単に奪っておいて、何が感謝しろよ。ふざけないでよ」

「で、それでどうすんだ。殺すか? そんなあめぇことほざくお前に出来るかわかんないけどな。へ、あのへんな男もバカな事するぜ、覚悟のねぇやつをここに入れるなんてよ」

「このぉ!」


 水と油。彼らの相性は最悪である。人を殺す覚悟がまだ決まってない菜花の心情を言い当て、嘲るように挑発している。

 するとここで祈が口挟んできた。


「構わない方が良いよ。どうせ、死刑は確定だし」

「そうですね。未来ないモノの戯言ですから、一々反論しても意味ないです」

「そんなのよりも村人たちの開放が優先」

「あ、うん。ごめんね」


 年下な祈達の方がしっかりしている現実に、菜花は自分が情けなくなってしまった。しかし、気持ちを落ち着かせ、村人たちの開放を手伝うことにする。


「安心してください。味方ですから」

「あ、ああ、ありがとう」

「すみません。助かりました」


 村人はお礼を言うと、菜花達を手伝いながら外へ出て行く。部屋にあった遺体も大切に抱えながら外へ運びだしていく。


「十分片付けたでしょう。それをもって外へ行きましょう」

「はい」


 セルリアがそう声を掛けると、鎖で引っ張り棟梁を連れていく。口汚く開放するように棟梁は訴えるが、菜花達はどうするかを考える。


「どうしようか、これ」

「この子に食べさせるそうですけど」

「どうすれば。良いんでしょう」


 黒い爬虫類君はとぼけた顔をしながら祈に抱えられている。モチモチした触感を気に入ったようである。


「ふざけんな! 離せ!」

「サッサと済まそう。…お願いできる?」

「………♪」


 爬虫類君は頭領の足元から取り込んでいく。しかし、喰い千切るというよりは飲み込んでいく方式の様で棟梁は恐怖を顔に浮べながら、周りに助けを求める。


「や、やめてくれぇ! 悪かった、助けてくれぇ! まだ、まだ、死にたくねぇよ! やめてくれぇ! あああああああああ!」


 断末魔と共に棟梁は爬虫類君に丸のみにされる。そこにはもう何も残らなかった。爬虫類君はまた祈に抱えられている。祈は目の前で人を殺されても要因は棟梁にあったと思うことにして爬虫類君をかわいがることにする。


「終わった?」

「先生……」


 人の死を目の前で見せつけられても冷静でいられるように努力しているようである。

 ジンは罪悪感を刺激しない様に、後処理を進めていく。その後村に案内してもらい、この村の一か所を借りて反省会を行うことにする。

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