67話:生徒の休日 その2
蓮人は昨日の事を思い出しながら街に出ていた。俊哉も一緒に街を歩いていた、向かう先は冒険者ギルド、彼らは冒険者登録をしようとしていた。別にジンに無断とか、止められているわけでは無い。
一回だけでも、荒事の空気に触れるべきだと思ったので訪れたのである。しばらく歩いていると、周りより、一際大きい建物が目の前にあった。冒険者ギルドトウキョウ支部である。
「堂々としてないと何だよな」
「新参者には割と優しい方みたいだけど、まだ怖いよね」
乾いた笑いを浮べながら、二人は建物の中へ入っていく。外観通りに中は広く、3階建てで奥には受付があり、入って右横には依頼書を張り付けた掲示板、左横は酒場になっている。冒険者登録をするために先ずは中央にある受付へ向かい、受付嬢へ話しかける。
「いらっしゃいませー、ご依頼ですかー!」
「ああ、いえ、登録をお願いしたくて、二人とも」
「分かりましたー! 字は書けますかー?」
「はい」
受付嬢から二人とも用紙を貰い、内容を書いていく。職業の欄は蓮人は大剣使い、俊哉は槍使いにして登録した。戦闘職なので有事の際は前線に出て戦わなければいけないが、元々戦うつもりで登録しているので何も不満はない。しかし、初心者の8級では戦闘は強制されるものではないので、今はあまり気にするものではないが。
「では、冒険者についての説明は必要ですかー?」
「「お願いします」」
「はいはーい、先ずは…、冒険者の等級は10段階に分かれていて、一番下が8級で、一番上が超級になります。お二人は8級から始まりになります。昇級には、それぞれに条件があります。それらは昇級時に説明いたしますのですが、分からなくなったら受付に聞いて頂ければお教えいたします。因みに8級は、20個の依頼をこなしたら昇格できます。等級に応じて受けられる依頼も変わりますのでその点もご注意ください。基本的には自分と同じ等級とそれ以下が受けられます。例えば5級なら、5、6、7、8級の依頼を受けられますね。依頼は重複させて受けられますが、あんまり受けすぎると期限切れとかで捌ききれないので注意してください。ここまでは理解できましたかー?」
「「はい」」
「依頼には緊急依頼というモノがあります、それは全員参加なので注意してくださいね。そんなに戦闘が得意でなくても後方で支援や炊き出しもあるので、そちらに入る事もできますが、お二人は関係なさそうですね」
先程までの、のんびりとした口調と違いはきはきとした口調で説明をつづけていく。諸注意と細かい点を済ませて受付嬢の説明は終了する。
「やはり、台本読んでの説明は疲れますねー。キャラが違いますー」
「………」
二人はその事に触れず苦笑いをして話題を逸らす。
反応が薄い事に不満げにしながらも、受付嬢は冒険者カードを二人に渡す。
「これで、お二人の冒険者登録は完了です。では、良い冒険者ライフをお送りくださーい」
二人は冒険者カードを受け取ると早速何か受けてみようと掲示板に向かう。
「何にしようか」
「手ごろなものが良いよな」
「これなんか良いんじゃね。あんまり遅くまでかからなそうだし」
「成程、『ポリネ草の採取』か。どういうのかもわかるし、これにするか」
常駐依頼のポリネ草の採取を受ける事に決めて、それを受理してもらう。二人は農業地帯の方へ向かう。徒歩と言えど、身体強化の魔法を使える二人で歩いていくので常人よりも早い時間で目的地に着く。そこにはポリネ草の群生地で、同じ目的の人間がせっせと採取をしている。二人も同じように屈んで丁寧に採取する。
十分集まると、森の方から呻き声の様な声が聞こえてきた。すると、ゴブリンが出てきた。それも三体。
しかし、蓮人達からは少し離れていて、別の若手衆が狙われている。
「くっ!」
「大丈夫かっ!」
前衛の人間がゴブリンの剣を受け止める。しかし、出てきたゴブリン三匹に前衛は一人多勢に無勢な状況であった。後衛の人間もいきなりの戦闘開始により準備に手間取っているようである。すると、更に不運がやって来る。
「「「「ギャギャ、ガガガガ」」」」
追加で何体かゴブリンがやってきた、流石に見ているだけではいられなくなったので、蓮人と俊哉は手を貸すことにする。他の若手たちは一目散に逃げて行った。薄情な奴等である。
「手を貸すぞ!」
横から狙われていた前衛への剣を蓮人が大剣で受け止め、他から迫ってきたゴブリンは俊哉が、槍を振ってゴブリン全体から距離を取らせる。すると準備が整ったのか、後ろからの援護が入ってきた。水弾や光弾が飛んでくる。
「ギャッ!」
「グガァッ!」
「ギャギャッ!」
魔法の攻撃が当たるたびにゴブリンが吹き飛んでいった。
前衛班も体勢を立て直し、切り返していき10分ほどで現れたゴブリン全てを倒した。
「すいません、助かりました」
「いや、助けられたようなら何よりです」
「はい、ありがとうございます」
助けたのはショートカットの似合う活発そうな少女である。後衛は大人しそうな魔法使いの女の子と大きめのバックパックを背負っている同じような女の子がいた。
「後衛が多いですね?」
「一人が森に入って、キノコを探しに行ってて」
「ああ、成程」
どうやら、四人パーティーを組んでて役割分担して複数の依頼をこなしているらしい。薬草集めなんかは人手が必要な部類で、キノコは知識が必要なモノなので複数よりは一人の方が集めやすい方だろう。
すると、森の茂みが揺れて一人の女の子が出てきた。
「おや、見慣れぬ御仁が立っておられる」
出てきた彼女はボーイッシュな雰囲気のある女の子で、芝居がかった物言いで頭にかぶっていた帽子を弄る。しかし、顔付きは少し焦っているように見える。
「森でなんかあったのか?」
出てきたのはゴブリン達が出てきた方だったのでこの少女が誘導したのではと思ったが、直接そう言って声を掛けるのは憚れるので取りあえずそう声を掛けた。
「いや、それがゴブリンが集落作ってたんだよ。今のは先遣隊みたいでさ、それを伝えようとって思ったんだけど、助けてもらってたみたいだね。助かったよ」
思い出したように焦った声で事情を説明する、どうやら集落の確認を優先していて、こちらへの伝達が遅れている様だった。
「集落か、だったら早めにギルドに戻って対策してもらうのが先決か」
「私もそう思います」
「早く行きましょう!」
全員で駆けだして馬車乗り場へ急ぐ、丁度馬車が来ていたので全員乗せてもらう。そのまま事情を説明して、全速力で冒険者ギルドへ向かう。
急いで中へ駆け込み、受付嬢へ内容を説明すると。
「そうですかー。ですが、丁度良かったかもですねー」
「どういうことです?」
「先程、新しい超級冒険者が出てきたのでその方に頼みましょうー」
「え? 超級冒険者って大金貨500枚が依頼の相場なんじゃないんですが?」
「いえいえー。暫くは高難度の依頼を優先的に処理するらしいので、これも回しておきましょう。人里に近いのなら優先度はこちらの方が高い訳ですし」
呑気な言葉を言いながら、仕事を新しい超級冒険者に回すための手続きを進めていく。
「噂をすれば、何とやらー。新しい超級冒険者の方が来ましたよー」
「?」
報告に来た全員が後ろを振り向くと、そこにはボロボロの黒いローブを羽織った気だるげな男が立っている。整った容姿に鋭い眼光、威圧するように大きい伸長も相まって、近寄りがたい雰囲気がある。というか、
「先生じゃん…」
俊哉がそう呟いた。普段よりだいぶ威圧的だが、恐らくこれが対外的に向けているものだろう。
「次の依頼で最後か?」
「はいー、それと最後に追加で依頼が発生しましたー」
「何があった?」
「人里近くでー、ゴブリンの集落が発生しましたー」
「成程。早めに処理しておこう」
ジンはそう言うと、チラッと蓮人を見た後は声を掛けることなく、ギルドの入り口から渡された最後の依頼をこなしに向かう。これをこなせば、高難度の依頼が無くなるので昇格はし難くなるが、無暗に命を落とすような事態は少なくなるだろう。
蓮人はジンの後ろ姿を見送ると今日の仕事を終了させ、家に帰る事にする。冒険者の彼女達と別れて自分の家に帰る。
「おかえりー」
ミナモが出迎えると、蓮人は複雑そうな顔をして顔を逸らしてしまう。ジンを見た後の自分の力の無さがちょっとだけ情けなく感じてしまった。
「…ただいま」
ただそれを気付かせないためにも少し声を張り上げて明るくする。ミナモは訝しそうにしながも、家に入れてあげる。その後は家でのんびりと過ごした。
* * *
信壱たちは何もない休日を満喫していた。本を読んだりしながら、自室の掃除や洗濯ものを手伝ったりをしている。日本にいた頃と少し違うが、穏やかな休日を過ごしている。
信壱は家から少し離れたところで弓の練習をしていた。今のところは百発百中で的に当ててはいるものの、体勢を崩しながら撃つのは安定しなかった。
後ろでは先輩である、アスナが見守っている。
「前に見た時よりもうまくなったよね」
「練習のたまものだし。何より、師匠の質が元とは違うからな」
「そうね。あの教えてくれてた人は競技用のやり方しか知らないわけだし。こんな所でヤバめの戦闘していた経験のある人と比べちゃいけないよ」
「同感ではある」
「それより動かない的を狙うだけでいいの?」
「今は姿勢をしっかりさせるのが先だそうだ。俺も狙ってみたいとは思うんだけど、少し崩しただけで外れるなら動くのを狙うのは難しいよ」
「そうかー。弓は大変そうだねー」
他人事な感想を述べるアスナに、信壱は苦笑いを浮かべる。すると、ふと思い出したことが、頭に浮かび尋ねてみることにする。
「部長は何を習ってるんです?」
「斥候職。色んな道具を使えるようになりたいけど、今はワイヤーについて習ってるよ」
「……似合ってますよ」
頭にターザンという言葉が浮かんだが、流石に言葉にするのは失礼だと思って声に出さない。すると、それを察したのかアスナは小石を拾い、弾いて信壱に当てる。
「……いてぇっすよ」
「余計な事を考えていたからよ」
ふんっ、と不機嫌そうに鼻を鳴らしてアスナはそっぽを向く。不満そうにしながらも信壱は訓練を積んでいく。今日の訓練でも姿勢を崩すと、的への命中率は下がってしまった。不満に思うももっと鍛錬を積もうと決心し家へ戻っていく。
今日の夕飯にハンバーグが出て、その決心は揺らぎそうになり、自分が情けなくなったのだがそれはまた別のお話。




