65話:先生の休日
遅くなり申し訳ございません。五話を一気に公開いたしますが、暫く更新が出来そうにありません。
ジンは授業の傍らで本職の仕事の方も進めていた。正直、ジンの本職って言われても詳しく決まってはいないのだが。今は各国の支部長達とこれからの方針を話し終わった所だった。
「そういや俺は何の仕事してんだ」
どうやら、自分でも自分の仕事が分からないらしい。色んなことに手を出し過ぎた憐れな男の末路だろう。
「疲れてるんですか?」
「ああー、そうかも」
心配そうに声を掛けるユリネに同意するように頷く。思えば、ここまで疲労を自覚するのは初めてな気がする。前世は仕事内容があれだっただけに、疲れを感じる暇というものが無かった。
「平和な証かな………?」
「……どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
今はまだ平和な日常だが、近いうちにこれは崩れ去る。厄介者が運んでくる厄介事は明日に来る。なぜなら、明日はフォルス公爵一派がこっちにやってくる。先触れの使者が会議の前にやってきた。その手紙を今読み込んでいる。
「内容はどんな感じです?」
「怒れる軍勢が怒涛の勢いで押し寄せる」
「………」
「何てのじゃないよ。交渉の席を持ちましょうって事だね。そのうえで蓮人をどうするのか、話し合いたいらしい」
「サッサと手放しても良かったのでは?」
「抱えておくだけで牽制になるんだ。手放したら何を要求されるか」
ククク、と笑ってジンはユリネの懸念をはらってやる。少なくとも蓮人を抱えているのなら無茶な要求をすることは無いだろう。要求するなら蓮人の身柄を確保するか協力関係を構築した後だろう。
「一番の要求は何だろう。…やっぱ武器かな」
「でしょうね。現状我々意外には大量生産は難しいですし」
ニホン商会が各国への主力商品の一つとして拳銃やライフル等の銃器がある。しかし、取り扱いや手入れの難しさ、技術の高度さからいまの所ニホン商会以外では製造はされていない。取り扱いや手入れは習ったりすれば何とかなるが、製造技術に関してはこの世界の技術では一歩も踏み出せない。それを欲しがるのはごく自然な事である。
「まぁ、渡す気はないよ。変な苦情つけられても困るしね」
「こちらも管理が大変なので、そうしてくれると嬉しいです」
「ほいよー」
ヘラッと笑いながらユリネの注意を聞き入れて他の仕事を片付けていく。
* * *
翌日、ジンはユリネと共にフォルス公爵派の人間たちとの面談に臨んでいた。
応接室にいるのは、ニホン商会側にジン、ユリネの二人。フォルス公爵派側に、ネフィル、フォルス公爵、護衛の騎士が二人。
ネフィルから挨拶をして、話し合いが始まった。
「本日はお招きくださり感謝します」
「いえ、こちらの方もご迷惑をおかけしたようで謝罪します」
ネフィルが感謝を述べた後に、ジンは謝罪をして頭を下げる。ジンはミナモが前にやらかしたことを最初に謝罪をしておく。一応、ミナモとの繋がりは示してはいないが言い訳用に謝っておく。
加えて、詳しく話を聞かれる前に別の話し合いに入ってくる。
「早速ですが、お話があるとの事なので聞かせていただけますか?」
「……それでは、単刀直入にお願いいたしますが、我々の活動に協力をお願いいたします」
「それはベント公爵率いるガイネア王国本国政府に対する貴方がたの活動、いや、組織に対する支援って事でよろしいですか?」
「ええ、現在の我が国の情勢をどこまでご存じなのですか?」
ネフィルはニホン商会がどこまで掴んでいるのかを聞いてきた。
「第三妃が産んだ第一王子が生まれた後直ぐに、正妃が第二王子が産んだとか。それで国王が第二王子の方を王太子に認め。それに不満を持ったベント公爵家が影響下に置いていた軍を引っ張ってきて。親王派の人間と貴方がたを粛清したとか」
「ええ、大筋はその通りです」
「今の情勢はベント公爵家有利です。一発逆転要素として私たちに協力を?」
「言ってしまえばその通りです」
ぶっちゃけた様にネフィルは溜息と共に本音を吐き出す。普段ならこういうのは心の内を仕舞っているのだろう。それだけジンの事を信用しているのか、それともそう思わせるのが目的なのか。一概には判断がしにくい。
(厄介な)
「貴方がたの最終的な目標とそこに至るまでの具体的な手段を教えていただけますか?」
「ええ、分かりました」
ネフィルの話では、ベント公爵の正当性を堕とし、自分らの正当性を主張する事で自分達を正当な主権政府へと昇格させる。それが今後の目標。その具体的な手段としては、情報収集と正当性を主張する為に勇者との協力体制を整える事。無論、本国政府側もその事は理解していてあちらも勇者を確保している筈なのでそれに対抗する為にこちらも有利になる協力者もしくは組織を探して協力を持ちかけている。
「あちらは帝国と協力体制を気付いているとの事ですが」
「こちらは既に皇国との交渉段階に入っています。協力を取り付けられるのは時間の問題かと」
「こちらが参加する事のメリットは?」
「こちらのこちら側が提示できるメリットを記載しておきました。ご確認を」
「………なるほど」
ジンはザッと紙の内容をさらって読み込む。中身はこちらの利になっているとこも多くあるので、大半は飲み込んでも大丈夫だろう。幾つかは削らないといけない事はあるけど。
その事を伝え相談しながら話は進んでいく。
「今日は別のお話もあるとの事ですが、そちらについてもお聞かせ願いますか?」
「……分かりました。先ずは我々から貴方がたが回収した勇者様に会わせて貰えますか」
「ほう、いずれからバレたのか気になるところですが、聞いても?」
「ふふふ、秘密です」
「………了解です。今連れてきますので、少々お待ちを」
ジンは扉を開けて数十秒後、ジンは首元掴んで蓮人を連れてきた。その後、蓮人を対面のソファに座らせて前の机に紅茶を用意してやる。因みに、授業の日程は五日やったら二日休みの日程でやっている。今日は休日の初日である。
「えーと、お久しぶりです?」
「ええ、ご無沙汰しております。そちらの生活には慣れましたか?」
「え、ええ、まぁ、なんとか」
ネフィルは可愛らしい笑みを浮かべながら蓮人の近況を聞く。しかし、聞かれた蓮人はネフィルから感じる変な迫力に押されしどろもどろになりながら答える。
「それでは、いくつか確認したいのですが……」
「は、はい。な、何でもどうぞ!」
蓮人はネフィルの美貌に注目しているのなんでもとか口を滑らせている。あんまりそう言う言葉は使うなよと注意していたのだが、すっぽ抜けている様だ。
「今のこの世界の情報はどれ位把握されていますか?」
「ええと、皆さん方がピンチになっていることは聞いています。具体的に、お、あ、いや、私がやれることは無いと思うのですが」
「そんな事はありません。勇者様がいるだけで兵や民は希望を持ち、それだけではなく各方面に対して有効的に正当性を示すことが出来ます」
「……しかしですね」
自信の無い蓮人に発破をかけるように強い言葉で鼓舞するネフィル。ちょっと見ただけでも一方通行な会話であった。
暫く話して蓮人はジンに助けを求めた。
「先生、何かいい案ありますか?」
「……んー、特級冒険者になるってのがあるけど。どうかな?」
「成程、それならばまぁ」
「そんな簡単になれるんです、それ?」
「普通は成れない。基準としては、一級モンスターを三体討伐、もしくは一級迷宮を一つ制覇。その上で王族に推薦してもらう」
「どれくらいでなれますかね、その域に?」
「低く見積もってもあと三か月と半月鍛錬すればそっちの国では平均的な特級冒険者の水準になると思うよ」
どこまで通用するか分からないが、大体の予想を伝えて置く。鍛錬するにはネフィルの許可や諸々手続きが必要ではあるのだが、チラリとネフィルの事を見る。すると、深々と溜息を吐いた後にこう言った。
「勇者様、ここでの鍛錬が終わったら我々に協力してくれますか?」
「今はまだ確約は出来ませんが、前向きに結論を出そうと思います」
不確定な言葉を使い結論を先延ばしにする蓮人、もちろんネフィルも気付いているが、話にいきなり飛びついてくるような人間を信用するのは危険だと考え今はそれで我慢することにする。
「一応、こちら側についてくれるための条件です。ご確認し、協力への検討要素にしてください」
ネフィルは最後に付いて来てくれる際の、利益を書いておいた紙を差し出し、判断材料にしてもらう。その後、数分話してネフィル達は本拠地へ帰っていく。
* * *
ネフィル達を見送った後にジンは蓮人と話をする。ユリネは別の部屋へ向かい幾つかの資料を集めに向かう。
「ああは言ったが、どうする?」
「難しいです。正直、面倒臭い事はごめんですから、どうしようかなと」
「お前が上流階級の人間と一生関わらないってのは無理な話だと思うよ。お前の世間での評価はひいき目なしに見ても優秀で、立場としての評価も良い。ただの平民になっても引き抜かれるのは時間の問題だろうよ」
「なーんで、こんな事に」
「諦めろ。ああいうタイプはしつこいぞ。相談は乗ってやるから、自分で考えな」
頭を抱える蓮人を突き放したように自分で考えさせるジン。彼自身の今後の問題なので当たり前の事なのだが。
「どうしようもなくなったら言いな」
「分かったッス」
蓮人は「ごちそうさま」と告げて応接室から自分の家に戻っていった。それと入れ替わるようにユリネが入ってきた。
「何かあった?」
「情報が入りました。どうやら今回のガイネア王国の騒動はベント公爵が誰かにそそのかされて起こしたようです」
「特定は?」
「いまの所はまだ」
「……ユリネはどう思う?」
「個人的には帝国が怪しいかと」
「何で?」
「帝国は今回の騒動が起こる前は王国と良好な関係ではありませんでした。王国に進行した事もあれば獣王国に進行する際に王国に邪魔もされています。今回の事で王国はともかく獣王国へ進行するのはだいぶ楽になるかと」
「……俺は、聖王国だと思うな」
「え、どうしてです?」
いきなり鎖国中でありほぼ関係の無い聖王国が話題に上がり、ユリネが首を傾げる。
「一つ目は戦闘用の人員を積極的に囲い始めている事だ。例年に比べてガンジ王国へ奴隷狩りに行く頻度も増えているみたいだしな」
「まぁ、そう言う報告は聞いていますが」
まだそれだと判断材料が少ないのではないのか? そう思ったが続きを聞いていく。
「二つ目は、国境上は知らんが、首都内外への人の出入りが最近多い」
「そう言えば、オーガストもそんな事を言ってましたね」
「最後に三つ目、勇者の仲間を聖王国は追い出し始めた」
「え、?」
「正確には資金も渡しているけど早く死ぬように魔物に襲われやすくなるように細工して王都の外へ追い出してる」
「悪質ですね」
ユリネは聖王国の悪質な行いに訝しそうに顔を歪める。因みにオーガストとは聖王国の支部を統括する男性の名前である。
「そう言えば、追い出された人間はどうしたのです? 死んだのですか?」
「いや、回収してここで匿ってるよ。バレたら大変だろうけどね」
「私にもちゃんと伝えて下さいよ。隠してたんですか?」
「いや、最近は忙しくてな。言う暇がなかった、すまん」
「今日は、忙しくないんですよね」
「ああ、まぁ」
「なら今日は私にいろいろ付き合ってくださいね」
ユリネはジンを引っ張って外へ連れ出す。ジンはユリネに誘われるままに外の街へ出て行く。
* * *
商業エリアに来た。ジンは街を見渡すと活気ある風景が目に移り、満足げに微笑む。
「満足そうですね」
「自分のやる事が上手くいってるのは見てるのは気持ちいよ。ユリネはどう?」
「私は貴方とこうやって歩けるだけで満足ですよ」
ユリネはジンの腕に抱き着いてもたれかかるようにともに歩いていく。昔と違い、今はジンの方が身長が高いのでお似合いの恋人のように周りからは見える。街を歩く女性陣からは羨望の眼差しを、男性陣からは嫉妬の眼差しを向けられるが二人は気にせず。商業エリアを見回っていく。
「おーい! そこのお二人さん! 肉串いらねぇか!」
「おお、美味そう。食べる?」
「では、私は二つ」「じゃあ、俺は五つ」
「あいよ! 合計七本で、大銅貨七枚ね!」
「はい」と代金を渡すと塩をふんだんに使った肉串を受け取り。食べ歩きしながら、辺りを観光していく。建築様式は中世ヨーロッパが半々と現代風の鉄筋コンクリートが二割に和風建築が三割なので見てるだけで飽きず、観光してて楽しい。
* * *
「見れば、見る程。不思議な建築ですよね。これも昔の事から?」
「ああ、割とうろ覚えだったけど、下が優秀でよかった」
ネイロや他のニホン商会幹部クラスの人間にはジン達が転生者であることを伝えている。その事をふまえてこの世界の水準を超えた知識の出所を全員に知らせてある。あんまり隠しておくと不和を生むからそれを避けたいのである。
「貴方の知識があったからこそここまでの街を作れたんです」
もっと、誇って下さい、という様にユリネはジンを鼓舞する。ジンは少し恥ずかしそうにしながら、ユリネと共に商業エリアを見回っていく。すると、見覚えのある顔ぶれを見つけた。するとあちらも気付いたのか、こっちに声を掛けてくる。
「先生、こんにちはー!」
「ああ、こんにちわ。皆は買い物か?」
「いや、バイトしてるの」
祈はいつもの四人で同じ制服を着て喫茶店を手伝っている様だった。
「精が出るね。ランチはやってる?」
「はい!」
「じゃ、二人分」
「はい。二名様、あんなーい!」
元気な声で祈はジンとユリネを二階のテラス席に案内する。取りあえず、ジンはバーガーセット、ユリネはパスタセットを頼む。
「あの少女がそうですか?」
「ああ。どう思う?」
「ちょっと、世間知らずそうですが、良い子そうではありますね」
「ひでぇ」
世間知らずで騙されそうであるという、ユリネの辛辣な評価に評価にジンは苦笑いしながら雑談しながら料理が出てくるのを待っている。
「お待たせしましたー!」
祈が元気な声で二つの料理を持ってきた。
どっちもジンがプロデュースし、各々の店がアレンジしているものを出しているのでジンも知らない味になっている。ここの店は少々スパイシーな味付けに凝っているようである。カレーとかと違うが中々癖のある味ではある。
「こだわりは出るよなぁ」
「職人はこだわりますからね。どういうジャンルでもこういうものでしょう」
各人のこだわりを感じるものは多々あるが、料理はそれを一番感じやすい。すると、ピークが終わって人がはけてきたのか暇になった祈が話をしに来た。
「どうでしたか!」
「美味しかったよ」
「そうですか。それは優夢ちゃんが作ったんですよ。やっぱり美味しいですよね」
「へー、そうなんだ」
ジンは優夢が料理をしているというのは意外に思った。少なくとも亮として彼女と過ごしていた時には彼女が料理をしていたという記憶はない。亮と別れた後に始めたのだろう。
「ご馳走さん。チップおいておくから取っといて」
「あ、ありがとうございます!」
ジンは詮索されない様にしながら、チップとして銀貨を置いて喫茶店から出て行く。ユリネもジンに続いて喫茶店から出て行く。
* * *
夜になりジンの家にてジンは他の守護者のリーダーたちで集まっていた。六人でちゃぶ台を囲んでいる。中心のちゃぶ台には複数枚の書類が並べられている。
「再来週の授業では盗賊狩りをやろうと思う」
「………」
大半の奴等は深刻そうな顔をしている。仕方ない、戦闘経験の浅い素人を実戦に放り込むのだから、慎重な対応を取らざるをえない。先ず、まともに対敵してまともに対人戦闘を行えるのかが問題になってくる。緊張して、使い物にならなければそれこそ危なくなる。
「どれ位、緊張しなくなるかだよな」
「私達も初めての頃はどうだったかな?」
「何回か、吐いてたよなぁ」
カガリは昔の事を懐かしむように遠い目をする。確かに何人かは現実の厳しさに耐えられず心を壊しかけたり、吐いたりしていたのだ。
「昔を思い出すのも良いが。どうするか、決めないといけないぞ」
「まだ、早いかなって私は思う」
「けど、この辺りで学ばせておいた方がいいと思うんだがな」
いつ、対人戦を積ませるか、そこが問題になっているが。懸念事項は沢山あるのでちゃんとクリアさせておきたい。
するとここで、ちゃぶ台から少し離れて寝転がりながら新聞を見ていた、トウガが口を開いた。
「そんな難しく考える程でもないんじゃない?」
「どうして?」
「今回の目的ってなんだ?」
「他人と自分の命をどうするのか。本気で自分の身を守ることの大切さを教える」
「なら、一先ず。盗賊の退治に関しては俺達でやって後の生死を決めさせるってのはどうだ?」
「どういうこと?」
「先ず、被害の程度と状況。放って置くことの大変さと悲惨さを目に焼き付けさせる。その上で、奴らの生死を委ねさせるってのはどうだ?」
「難しい選択だろうな」
「だからこそさせるって事か?」
「おう。殺しを経験させるのはまた後でも遅くはない筈だ」
言われてみればその通りだと、取りあえず、トウガの案を採用しようと思う。一手で全部解決させるのが難しいのなら、小分けにして順番に解決していくのがいい。
トウガの案を採用してカリキュラムを組むことにする。今回の授業は全員で取り組むことになりそうである。
(憂鬱だ)
頭痛がするように頭を抑えつつ再来週の面倒ごとの為の準備を静かに進めていく。夜は更けていき、静かな休日の夜を元同僚達と過ごしていく。




