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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第四章 召喚勇者と見守る守護者
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55話:火の勇者はほっとかれる

 セイムント聖王国 その王都(通称、聖都) その中心にある王城からは天を貫く赤い光が出現していた。その光景は神話の様に神々しく信心深いものが多い聖王国ではその光景に心が動き、その場で泣き崩れる者もあらわれた。数十秒すると光は収まり何事もなかったような空模様が出てきた。


*  *  *


 王城の中庭、そこには三十人前後の人間が呆然と立っていた。全員はあまりの非現実さに愕然としているようである。大半の人間の姿は学生服を着て高校生くらいの少年少女達だった。


「何が何だか、分かんねぇな」


 派手な外見の男子生徒はぼそりと呟き、頭を押さえその場に蹲る。しかし彼を慰める者は誰もいなかった。全員が現状の整理に手いっぱいで他を気にするものが居なかったのが正解である。


「レディース、アーンド、ジェントルメーン!! 少年少女の皆さーん! こんにちは、そして、初めまして!!」


 拡声器を使って拡声させたかのような大音量の声が中には、そして城内全体を揺らす。

 全員が一斉にそこを振り向くとそこには全身が赤い色の軍服を纏って、両手を広げながら高らかに笑っている男が立っていた。その仕草一つとっても、全身から胡散臭さが滲みだしている。


「誰だ!」

「いやいやー、お久しぶりですね、皆さん! いや、初めましてと言うべきかね! って、さっき言ったか!」

「何者なのか答えろよ!」

「そう、カッカしないの。将来、剥げちまうぞ」


 生徒達からの反応を気にすることは無く、男は声を気にすることは無いが再度問いかけてくる生徒の方へ近づく。その動きは尋常ではないことは全員に分かった。何の音も振動もなくいつの間にかその生徒の後ろに立って気軽に声を語りかけているのだから。

 かわいそうな事にその生徒はうまく息が出来ていない。自分を簡単に殺せる存在を初めて感じたのだから、無理はない。生徒たちの体が恐怖に固まる、強張る、上手く行動できない。目の前の存在が人の形をしているだけの何か別の次元に生きる生き物を見ている様だった。


「あー、そうそう、アンタだ。あんたが担任の先生、だったな」

「は、ハイ!」


 男は小柄な女性を指差し素性を言い当てる。あてられた女性はたじろぎ男に真っすぐ目を向ける。気になっているというよりは恐怖で目を逸らせないようだった。

 そこでようやく第三者の声が聞こえてきた。


「お待ちなさい。それ以上の接触は許容できませんよ」


 横から威厳のある暖かい声が聞こえてきた。威厳があるのはその恰好から、優しさがあるのはその性別から感じられた。

 白銀の髪色に彫りのある顔立ち意志の強さを感じる銀色の瞳に陶器のような白い肌、生気の感じさせない彫刻だと思う人もいるが彼女から感じられる活力にあふれる佇まいにそんな考えはすぐさまなくなっていくだろう。

 その少女の周りには、武装した人間が両隣に陣取っている。


「やぁやぁ、姫さん。で、いいのかな?」

「構いません」


 男の無礼な態度を気にすることなく、姫の少女は許可を出す。


「んじゃ、姫さん。この人がこの集団のリーダーだ。ま、変わるかもしれないけど」

「へぇっ! ちょっと、勝手に押さないで下さい」

「認めていないようですが?」

「暫定的だからね。これから変わっていくでしょ。それと、先生。その態度はいただけないね、生徒達が不安になるよ」

「っ!」


 男に指摘されて周囲を見ると、生徒達が縋るような目で先生の事を見ている。それを見た担任は、うっ、とたじろいでしまう。


「姫さん。代表者たちで話しておいて、生徒達にはまた明日お話を聞きましょ。この人数から徴収するのは骨でしょう」

「……そうですね。では、そうさせてもらえますか」

「………分かりました。この方々の言葉に甘えて皆、一先ず休みなさい。これからの事はおって通達するから」


 項垂れていても、教師らしく一声かけて周りにいた騎士に案内される。

 すると、姫は今更のように気付いて全員に言葉を告げる。


「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はセイムント聖王国王女、リンフェル=ノム=セイムントです。以後、お見知りおきを」

「それじゃ、俺もしておくか。名前はカガリだ。素性は後で話すから気になるなら聞いてくれ」


 そう言うとカガリは騎士達に案内される先生の後を追う。

 リンフェルは騎士達に指示を出して、生徒全員を王城の部屋を分配していく。


*  *  *


 王城のとある一室。そこは応接室の様になっていて、先生、リンフェル、カガリの三人が座っていた。その周りには騎士達が立ってリンフェルを警護している。しかし、その注意はほぼカガリに集中している。


「それで、勇者召喚らしき現象により、勇者様らしき方々の出現が確認されて今に至る訳です」


 極めて冷静な口調でリンフェルは状況を整理していく。その冷静な口調で頭を整理できたのか先生は色んな事を聞き始める。


「あの質問いいですか?」

「構いませんが、こちらからも質問しても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「では、先にそちらの質問からどうぞ」


 リンフェルは質問をまず聞くことにした。


「ええと、あ、私、新見頼子(にいみよりこ)です。あ、こっちの言い方ならヨリコ=ニイミになるんですかね。それで聞きたい事っていうのは、此処が何処かなのですが」

「ここはセイムント聖王国ですね。その首都になります」

「それで、日本とか中国とかアメリカなんかに聞き覚えは?」

「チュウゴク? アメリカ? その言葉には聞き覚えはありませんがそんな国があるんですか?」

「あ、はい。私たちのいたところにはありました。それで、勇者召喚とは?」

「ちょうど八百年前位に六聖神から託された”召喚石”により、異界から勇者が現れると伝えられてきて、実際にこうして現れました」

「それが私達だと?」

「赤く巨大な光の後に現れた大勢の人間、この際あなたが勇者かどうかはおいておくとしてあの中に勇者がいたとしても不思議ではありません」


 リンフェルは努めて冷静に頼子の質問に答えていく。すると今度はリンフェルが質問を開始した。


「それでヨリコ様。単刀直入に聞きます、貴方がたの誰が勇者なのですか?」

「さ、さぁ?」

「…………分からないんですか?」

「まぁ、何も言われずにここに連れてこられたので」

「成程、明日は勇者を見つける為に時間を費やすべきですかね」

「そうなんですかね」

「そうです。早めに見つけないと貴族が介入してきて面倒な事になります」


 リンフェルは冷静にすべてを説明していく。今の自国の現状なんかもまとめて話した。

 すべてを聞き終えると頼子は頭を掻き、そのまま頭を抱える。


「………そんなマズい状況だなんて。そのうち国が終わるんじゃないですか」

「随分率直に言ってくれますね。ま、問題ないです。貴方がこの状況をマズいと思うのであれば、この状況を打開する為に貴方がたに協力をしてもらいたいのです」

「具体的には?」

「先ず、勇者様を台頭させ王権の正当性を主張します。その後に王族の有用性を主張した身を扇動、貴族院を解散まで追い込みます」

「それを私たちが協力する為のメリットは? いや、利点は何ですか?」

「利点としましては、第一にこの国の情勢が安定することになります。貴方がたが元の世界に帰るなら状況を安定させた方が探しやすいのでは?」

「…………」

「二番目にこの国で貴方がたの立場が安定します。今のあなた方は立場がかなり不安定です。立場を安定させることにより貴族の干渉を未然に防いだりして、煩わしい問題に巻き込まれなくて済みます」

「……その代わり貴方達の傘下について、いう事を聞いてくれと?」

「貴族達からしたら関わりにくくなるでしょう。少なくとも権力による強引な手は使いづらくなるはずです。それ以外に関しては自己責任になりますが」


 頼子の生徒達は中学を卒業したばかりの高校生である。名誉、金、異性、社会経験の少ない彼れを惑わす材料ならいくらでも用意できる。頼子もその可能性に行きついたがどうしようもないと頭を抱え始める。

 確かに欲に目が眩み間違いを犯したとしたらそれは個人の責任であろう、だが、それを事前に伝えておくのは教師である自分の役目なのではないか? 教師としての責任感が頼子の頭を悩ませる。


「ま、教師さんや。そう悩む事はあるめぇ。この世界は何があっても非はそいつにあるのが道理なんだ。取りあえず、問題点は出してやれ。それを問題に思い、対処しようとするか、無視するかはそいつら次第じゃねぇか? 従ってお前さんの役割はちゃんと問題を出してやる、それだけだ」

「……出来るでしょうか?」

「あんたは役目を全うしろ、そこから先は生徒の領分だ」


 今まで黙っていたカガリが横から声を掛けてきた。その言葉には頼子の胸の内に響き、前向きに考えられそうになった。頼子は自分が単純だと思いながらも前を向くことにした。


「申し訳ありませんが、明日勇者を調べ出す前に私と話をさせてもらえますか?」

「構いませんよ」


 リンフェルは頼子の望みに素直に頷く。それをカガリは意外に思いながらも成り行きを見守ることにした。その後、リンフェルは頼子を騎士達に任せてカガリと向き合う。


「質問をよろしいですか?」

「何でもどうぞ」


 リンフェルの要望にカガリは余裕そうな表情で答える。座っているソファに深く腰を掛けて背中を背もたれに預ける。


「では、貴方はどういった組織に所属しているのですか?」

「おお、いきなりそれですか。取りあえず、俺は色んな所に手を突っ込んであるから具体的にどこかの組織に根を下ろしてはいないかな」

「…………特に注力している組織は何処ですか?」

「それだと、一番はニホン商会かな。あそこは、居心地がいいからね」


 リンフェルからの質問をカガリはのらりくらりと躱して答えている。答えの信憑性は彼の態度からかなり薄いものだったが、それでも別に情報源がある訳ではないので、リンフェルはそれを信じるしかなかった。

 リンフェルは不満そうな顔をしながら別の質問を始める。


「ここへはなぜ来たのですか?」

「勇者と一緒に召喚されたとは思わないのかい?」

「勇者候補様方が着ていた服と系統からして違います。であれば、同一の組織には属していない事がそこから分かります」

「まぁ、七割正解ってところかな?」

「では、残りの三割は?」

「俺も一応、召喚によって呼び出されたのさ。それにコイツもな」

「ピィッ!」

「鳥、ですか」


 カガリは懐から小鳥を取り出す。彼が召喚直後に上から声を掛けたのもこの子を捕まえたかったからだ。


「こいつは守護神獣だな。勇者を守るために神様が力を与えた獣さ」

「守護者に守護神獣ですか」

「神様は勇者に対して過保護だよな~」


 カガリはヘラヘラ笑ってぼやく。リンフェルは色々頭を悩ませるが、これ以上聞いても話をうまく呑み込めないだろうと考える。そんな中、突然扉が開いた。扉を開けたのは肥えた男だった。服装がキラキラしていて目が痛くなってくる。カガリは一目見ただけで呆れた目線を向ける。


「ご機嫌麗しゅう存じます。リンフェル様」

「何のようです? セイハード卿、今は人払いをしていたはずですが」


 リンフェルからは表情が消えて、無表情でセイハードとか言う太った貴族に質問する。

 セイハードは余裕綽々と言った顔で応える。王族の事を軽く見ている証拠だ。


「いえ、リンフェル様がどこの馬の骨ともわからぬ輩と話していたと聞いたのでね。御身を心配し、参上した次第です」

「そうですか。ですが、ここには騎士もいます。守る人間が増えれば彼らの能力の低下を招きます。疑問が無くなったのであればここでお引き取りを」

「り、--」


 セイハードが言葉を続けようとした所で、銃声が鳴った。

 撃ったのはカガリ。その手には拳銃が握られているが顔の方向はリンフェルと向き合ったままだ。銃弾はセイハードの頬を掠り、後ろの壁に突き刺さる。数ミリズレていたら、即死の自分が脳裏に浮かび腰が抜ける。


「黙れ樽。話なら後でにしろ」


 さっきの陽気な声とは違い、周りを威圧するような低い声が聞こえてくる。部屋にいる者をみな平等に竦み上がらせる迫力が込められた。


「っひっ………っ」

「失せろ、お前と話すような事もない」


 もう一発、拳銃を鳴らしセイハードに掠らせる。今度はセイハードに向き直っていた。


「ヒッ、あっ、きっきさっ!」


 セイハードが文句を言おうとした所、口に拳銃を突っ込まれて強制的に黙らせられた。


「もう一度だけだ、失せろ」

「はっひっ!」


 セイハードは恐怖に顔を染めながら、大急ぎで後退り部屋から大きな体を揺らしてどこかへ去ってしまった。カガリはそんなセイハードの後ろ姿を見送るとソファに座りなおす。リンフェルももう一度、カガリと向き合う。


「少々、手荒だったと思いますが、助かりました」

「気にするな、責任の所在はこっちに渡して置いてくれ」

「…………感謝はします。それともう一つお節介をいいですか?」

「フッ、駆け引き上手な事だな。聞くだけ聞いてやるよ」


 カガリは不遜な態度を崩さず偉そうに許可を出す。リンフェルはその事を気にせず質問をする。


「貴方が、いえ、貴方がたが勇者様を気にする目的は? 貴方は聖神様に対して信仰心を向けているとは言えないと思うので、聖神様に言われたからで自分を変えるという人ではないと思うのです」

「………一応、ダチだったからな、それにダチの頼みだったからなのもある。それに俺が必要な部分だけ助けてやるだけだ、それ以上は期待するな」


 カガリはそう言うと、窓から飛び降り空を飛んで出て行く。リンフェルは疑問を解消する時間はなくその様子を見送る事しかできなかった。

 するとその後、追い出したセイハードが戻ってきた。カガリは何処だと大勢の兵士を引き連れてリンフェルは尋ねるが、また来るでしょう、とだけ告げて彼女は自室へ戻っていった。

 セイハードは面子を潰され怒り心頭であったが流石に怒鳴り散らしつつも、引き下がっていった。


*  *  *


 場面は変わって、王城のとある一室。

 そこにはまだ気づいてはいないが勇者として召喚された少年がいた。


「一体、何なんだよいきなりこんなことになったし、よくわかんないままこんな所に来て」


 少年は愚痴っていた。

 少年の名前は緋山(ひやま)勇樹(ゆうき)。高校一年生になっていたばかりの男子生徒だった。しかし、彼は入学式が終わり、クラスで最初のホームルームが終わると彼を中心にして彼のクラス全体を包み込むように魔方陣が出現し気付いたらここにいた。


「目の前に、いたはずなんだけどな」


 脳裏にあるのは後悔だけ、目の前にいたはずの大切な幼馴染が今この場にはいなかった。いや、もしかしたらこっちの世界に来ていないだけなのかもしれない。そうしたらすぐにでも帰りたくなってきた。大切な幼馴染の安否が気になり急に不安になってきた。


「どこ行っちまったんだよ、優夢(ゆめ)


 壊れそうな自分の心を支える様に少しだけ息を吐く。

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