51話:地の勇者は苦労する
日本のどこかの住宅街、まだ昼前だが学生服を着た中学生くらいの女の子が歩いていた。
「楽しみだよね。誕生日プレゼント!」
「お姉ちゃんは何お願いしたの?」
「私? 私はやっぱり、現金五千円だよ!」
「はー、夢が無いプレゼントだね。花の中学生とは思えないよ」
「ええ、良いじゃん。母さんはプレゼントを考えなくても良いし。私は好きなモノをその範囲でちゃんと買える。どっちも損はしてないんだし別にいいんじゃない? というか、中学生に花を求めるなんてロリコンだけだと思うな」
「せめて、ぬいぐるみくらいは夢を見ていいんじゃない?」
「夢じゃお腹は膨れないのよ、願。目の前の現実だけは見なくちゃいけないでしょ」
住宅街を歩く中学生の二人は今日が誕生日らしく母親に何をねだったかを話し合っていた。彼女達の顔は瓜二つで、一目で双子だと分かる。双子の妹の方は願、姉の方の名前は祈と言う。
彼女たちは母子家庭で、母親が一人で二人を育てていた。父親は二人がまだ幼い時に、母親と離婚してから行方が知れないらしい。だから、彼女たちにとって親は母親だけであり、育ててくれた母にとても感謝している。
「にしても、お母さんへのプレゼントはイイの? あっちの誕生日も近いのに」
「それへの軍資金も含めてなのです」
祈はブイっとピースして鼻を鳴らす。彼女が買う予定の物は彼女に立っては値段が高いようである。願はそんな姉を呆れたように溜息を吐いて、少し早めに歩いて姉を置いていく。祈は慌ててその後へ着いていく。
十分くらい経った頃、彼女たちが住むマンションへと着いた。祈が鍵を開けて、二人で中に入っていく。部屋に入ると、祈は洗濯物を取り込んでいき、願は誕生日の為の料理の準備をする。母の帰りを待ちながら、自分達の誕生日会をやるための準備を進めていく。十数分家の中を掃除したりしていると、家のチャイムが鳴った。
「何だろう?」
「母さんがケーキでも頼んだじゃない? 受け取りはお願いしていい?」
「分かった」
願が宅配を受け取ろうと玄関へ向かい。覗き穴を見ると、緑色の服を着た太った配達員がいて小包を持っていた。それを確認すると、ハンコを持って外へ出る。
「は、っ!」
扉を開けられると同時に、腹を殴られ願は後ろへ吹っ飛ぶ。
「げぇ、がっは、ごっほ、なに、を?」
「どうしたの? 騒がし、い?」
「逃げ、て」
男は扉を閉めて、部屋の中にズカズカと入っていく。
「おいおい、そんな驚く事ないだろ。まぁ、一先ず悲鳴とかは上げるな、こいつ殺すぞ」
男はポケットからナイフを取り出して、願に突きつける。祈は何とか冷静さは取り戻し、了承の意味を込めて頷いておく。
「よ~し、取りあえず、奥へ行け」
祈は素直に指示に従って、後ろへ下がっていく。廊下の奥はリビングになっていて、そこには大量のご馳走が並んでいた。男はそれに目を付ける。
「お! 美味そうだ。そう言えば、今日はお前たちの誕生日だったな。誕生日会でもするのか?」
「…………」
「ん? だんまりかよ、つまらない」
男は息を吐いて、小包からビニール紐を取り出して願の体を縛り始め、それが終われば次に祈の事を縛り上げる。二人とも縛り終わったら隣の部屋に移し、二人が見ている前で、作られたご馳走に手を付け始める。二人は恨めしそうな眼付きで男の事を睨んでいる。
「なかなか、よく出来てるな。美味いぞ」
「…………」
「ははは、答えられねぇか。まっ、良いんだけどよ」
男は無遠慮にご馳走を食べていく、食べこぼしも気にせず、床に落としたり、口に付けたりと酷く食べ方が汚い。掃除もして綺麗にしていた床が汚れていく。
すると、玄関の方から鍵の開く音が聞こえてくる。祈と願の母親が帰ってきたのだろう。
「ただいまー」
呑気な声が聞こえてくる。母親は部屋の中の惨状に気付くはずもなく、リビングの扉を開けて初めて中の惨状に気付く。男を見ると顔を青ざめさせていく。
「おっと、何もするなよこいつの顔が人の目に見れなくさせてやろうか」
「っ!……」
男はナイフを取り出して願の顔に突きつける。母親はとても悔しそうにして抵抗する気はない。
「何で来たの?」
「何で? おいおい、酷いじゃねぇか、夫に向かって」
「あなたとの婚姻何て、当の昔に破棄したわよ。もう、貴方とは関係の無い他人なんだけど?」
「ひでぇじゃねぇか。あんなに愛しあったというのに」
「昔の貴方は素敵だと思ってたけどね。今は、家畜と変わらないみたいだけど」
「ああん! この糞アマ!」
男は不機嫌そうに机を叩く。どうやら、話の流れから男は二人の父親らしい。
「それで何の用?」
「ああ、金だよ、金。最近金欠だし、暫く養ってくれよ」
「義理が無いわ、意味もないし」
「言うことなら、聞かせてやるよ。お前の体も使ってな」
父親は二人の母親に掴みかかって、服を引っ張って剥がす。流石に、男の腕力にただのOLの彼女の腕力は勝てなかったのか、倒されて首を力づくで締め付け服をひん剥かれ始める。
(やめろ! やめろっ!)
睨み殺さんばかりに祈と願は父親を睨む。そして名前の通りに祈って願う、この状況を助けてくれるような誰かに。
すると、祈の体がいきなり光始めて、床に複雑な魔方陣が広がってゆく。そして、部屋の中にいた全員を包み込み、その後、光が収まった後には誰も残らなかった。
* * *
橙色の光柱が収まるとその場には二人の少女と強姦されそうになっているかもしれない女性と強姦しようとしている男性、若い青年が現れていた。
「「あ?」」
「「え?」」
「へぇ?」
全員が状況を飲み込めず呆然とするが、青年が素早く動き出し顔面を狙ってぶん殴る。
「ぐっ、うっく」
男は衝撃で気絶しそうになるが、無駄なタフネスで何とか立ち上がる。しかし、青年の方はコンパクトな動きで簡単に制圧してしまう。
「ふぅ」
「トウガ様」
「おっ、レスじゃねぇか。これは、リョウの悪だくみか?」
「いえ、どうやら勇者の召喚が行われたようです。そこの少女が勇者のようです。それであなたは顔合わせのために呼び出されたのでしょう」
「マジか。あ、あいつパクっとけ」
トウガは顎に手を当てて少し考える。今の状況を改善しなくてはいけないがいくらトウガでも足手まといを四人しかも不安要素のある人間を連れて動くのは難しい。どんな事にも人手は必要だが、今のトウガにはレスぐらいしかあてにはならない、しかも、此処が何処かもわかっていない。レスは影の空間に男を収納する。
「……レス、ここで何していた?」
「主が依頼で聖王国の貴族の討伐に」
「なるほどねぇ」
トウガは少し考えていると、様子を見ていた女性が話し掛けてきた。
「あの、少しいいでしょうか?」
「どうした?」
「それよりも貴方はこれをどうぞ」
レスは今更な事だが女性に毛布を手渡す。女性は毛布を羽織って再度質問する。
「ここは何処なのでしょう?」
「アンタ達から見たら、異世界ってところだな」
トウガは質問に簡潔に答える。けれども女性はそれだけでだいぶ状況を飲み込めたようで顔に手を当てて考え始める。トウガも似た様に考えを纏めていた。しかし、近くで仕事をしていたヌルから連絡が入った。
『レスさんー、貴族の人が動き始めたよー』
「分かりました」
レスは聖王国貴族に動きがある事を確認すると、トウガにそれを伝える。
「んー。近くに村はあったか?」
「エルフの村があったかと。彼女達をそこに送りますか?」
「ああ、そうしてくれ、あとのことは奴に投げればどうにかしてくれんだろう」
「かしこまりました」
トウガはレスに指された方角へ跳んで行く。それを呆然とした顔で三人の親子は見つめていた。
* * *
「では、皆さん。安全な場所へお送りいたしますのでこちらへ」
「プギィ!」
「え?」
「おや、神獣も一緒に召喚されていましたか」
「この子は?」
女の子――、祈の近くに白いウリボウがいた。レスはそれを神獣と呼んだので祈は何か知っているのか尋ねてきた。
「神獣と呼ばれる勇者のペットですね。その子の様子を見る限り、貴方が勇者なのでしょう?」
「勇者?」
首を傾げて気になった事を尋ねる祈だったが、レスに安全な所で話をすると言われてその通りに森を歩こうと思ったが、彼女らが靴を履いてない事に気付き、靴を用意して履かせてやる。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ、お気になさらず」
かなり離れているので魔法で移動するレス。そんなレスの魔法を見て親子は完全に異世界に来たことを悟った。
* * *
数分、レスの魔法で運ばれるとエルフの村に来ていた。
「わぁ、綺麗」
「美形の人が多いわね」
「我々に貸し出されている家がございますので、一旦そちらでお休みください」
「わ、分かりました」
レスに案内されたの祈達の知識で中世ヨーロッパの様な建築のされた古びた民家だ。レスが室内に案内すると、全員がそこに入り、レスはおもてなしの為に台所で色々行う。
「お茶が入りましたのでよかったらどうぞ」
「「「ありがとうございます」」」
という訳で、一息付けた段階でレスに質問が入る。
「あの、どうして今、異世界にいるのでしょう?」
「何故かは、分かりませんが。そちらのお嬢さんが勇者としてこちらに連れてこられたのでしょう」
そう言ってレスは祈を指差す。祈は驚いた顔をしているが、少しワクワクしている様に見える。
「勇者とは何でしょう?」
「さぁ?」
「さぁって」
「こちらも分からない物は分かりませんから」
「まぁ、そうですか」
母親としては複雑な所があるのだろう、女性は難しい顔をする。
「まぁ、細かい所は置いておいて、取りあえず、自己紹介をしましょうか」
レスはそう前置きした後に自分の自己紹介を始める。
「私の名前はレス。見ての通り人間ではありませんが、皆さんに危害を加えるつもりはありません」
「はい、私は千治望。東京で働いていたOLです。こっちの双子は私の子です」
「千治祈です」
「願です」
レスはその後いくつか質問して休んでもらおうと寝室へ案内する。
* * *
夜、召喚された千治親子は寝室で寄り合って話し始める。祈と願がぎゅっと、望を間で挟んで座り合っている。
「これから、どうしようか?」
「帰る方法、は見つからないよね」
「聞いてなかったけど、何かあるかな?」
祈と願は望に寄りかかって不安を漏らす。望も不安を抱えてはいたけど、娘たちの手前その不安を見せない様に二人の頭を撫でて落ち着ける。
「一先ず、レスさんの交渉は私に任せて。今日は一旦寝ましょう。久しぶりに三人で」
「うん」「はい」
「はい、良い子」
望はスーツを着たままだが、着替えをする心の余裕はなく、というより着替える服もなく。気疲れからなのか全員泥のように眠った。
暫くは投稿頻度が高くなると思います。
下にある☆☆☆☆☆で評価して貰えると、やる気が出てきますのでお願いします。




