32話:バカの後始末
ジンが国王を殺したころにはもう日はすっかり暮れていた。
取りあえず犯されていた人たちの諸々を回復させてやった。聖術を用いて純潔なり経験なりを一旦リセットしてやる。そうすると女性陣達から物凄く感謝された。ジンは照れ臭そうにしながら地下牢の開放を手伝うように指示して、その場から脱出した。
女性陣は指示通りに地下牢へ向かう、ジンは元王の私室に最高指揮官を部屋に置いて縄で縛り上げて置く。
「じゃ、頑張ってな」
ジンは最高指揮官の首元に管を繋いで、栄養を補給させる。これで死にはしないだろう。念のため商会員にも見張るように指示を出しておくことにする。
ジンが廊下に出て床に開けた大穴を覗き込むとまだ女性陣は、到着はしていないようだった。これ幸いにと大穴に飛び込んで牢屋から解放されていた男性陣に薬を何本か渡す。
王の逸物は粗末だったが、万が一という事もあるので大きくなる薬と元気になる薬を渡して置く。白衣のマッドサイエンティストが作った強力な奴なので効果は保証できる。何がとは言わないが、夜は頑張って欲しい。
そんなこんなでジンは後始末を商会関係者に任せて、全体的な始末を始めるために、懐から二つ折りの小さい板状の魔道具を起動させ、それを耳に当てる。
「もしもし、聞こえる?」
『ああ、聞こえるよ。で、終わったのかい?』
「ああ、万事滞りなく。本当なら今すぐに行動を開始して欲しいが証人を待たないといけない。大体、一週間くらいかなと思うけど。四ヶ国の城を移動してくれるなら多分三日くらいかな」
『仕方ない、報酬は上乗せだぞ』
「了解、期待しておいてくれ」
通話を切って上空を見上げる。上空では大きな羽音が聞こえ、城下町ではパニックになっていた。
まぁ、無理はない一体入り込むだけで国に災害をもたらす生物――、竜が上空を飛んでいるのだ。パニックにもなる。竜は城の上に飛び乗り魔法を発動させる。その効果により城が浮かび上がる。城は大勢の人間を乗せて西の方へ飛んでいった。
その日、四ヶ国で空を飛ぶ城が目撃された。
* * *
諸々を何とかした後、ジンはトウキョウに戻っていた。後の事は残してきた人間に任せる、ジンが戻ってくると、トウキョウにいる秘書たちと爺さんたち最高幹部が出迎えてくれた。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
ユリネがすぐに駆け寄ってきてジンをペタペタと触って、怪我の有無を確認する。周りには何人も人が居るので気恥しい。
「何ともない、疲れたから一旦寝る。後は任せても大丈夫?」
「はい! お任せください!」
そう言って、ユリネは自分の部下に軽く指示を出してジンについてジンの家へと向かう。ジンの家は日本の古民家の様な平屋の建物で、前世の祖父母と住んでいた家をモデルにしており、道場も併設されている。
「相変わらず、よく分からない趣味ですね」
「そんな事ないよ、アスタルテとかは気に入ってくれてたし」
「そういう事じゃないんですがね」
普通なら権力者は豪華絢爛な家を好む。しかし、ジンは質素な外観で実用性を重視している。
そんなジンの趣味にやれやれ、という様に肩をすくめてジンと一緒にジンの家へ入る。
「ユリネは今日の仕事はもうないの?」
「ええ、ノルマは終わらせましたし、今は久しぶりに休みです」
「そう」
そう言って居間に入って、床に腰を付け、ジンはちゃぶ台に突っ伏してだれている。ユリネは台所に立ってお茶を沸かして、お茶菓子の用意をしている。そんな後ろ姿は新妻の様な雰囲気を感じる。
「はい、どうぞです」
ユリネは急須に紅茶を淹れて湯呑に注ぐ、そしてちゃぶ台にクッキーを持ってくる。本当は緑茶や煎餅、柿の種の方が好みなのだが、もち米が無いので見送っている。ジンとしては白米も恋しくなっている。
「美味しいですか?」
「ああ、美味しいな」
「それはよかったです」
しかし、これはこれで気に入っているのでモソモソ食べている。
ユリネが和やかな雰囲気のままで、質問をしてきた。
「明日からの各国はどうします?」
「竜王様が各国を纏めて一つにつなぎ合わせてくれるそうだから、暫くは待機かな」
「残った貴族たちが抵抗してくることが予想されますが?」
「そこら辺は制圧してどうにかするよ。投降するなら、召し上げて実力に応じたポストを渡すしね」
「プライドが許さないと思いますが………」
ユリネは貴族の持つプライドを懸念した意見を出すが、直ぐに意味はないなと思い直す。
「土地的にあそこら辺は使えると思う?」
「問題はないと思いますよ。それに迷宮で手に入れられた秘密兵器もありますしね」
「土地が広がって生産に関しても問題はない。一先ず、計画が順調に進めば大丈夫かな」
「はい、今日は休んで明日から頑張っていきましょう」
「明日も休みたいんだけど………」
そこから、細々と話を続けて、夕食を作る時間になった。二人とも台所に立ち、料理を開始する。小鍋に具材を入れ、よく煮込む。柔らかくなるまで煮詰めて自作のコンソメを入れる。そのまま味を染み込ませるため、しっかりと煮込み続ける。
ジンはスープを作っているが、ユリネは豚肉のソテーを作っていた。豚肉を軽く下処理をして、豚肉に切れ込みを入れる。そのままフライパンに油を引いて焼き色が着くまで焼く。その時にワインや香草を使って香り付けをする。芳醇な香りが部屋の中に広がり、涎が溢れそうになる。
そのまま完成品を更に移し、盛り付けていく。付け合わせにサラダとパンを付ける。今回はちゃぶ台ではなく、ダイニングにあるテーブルを使う。二人で向き合って食べ始める。ユリネは元々貴族の令嬢だけれど、ここ数年で料理が上達してきた。アスタルテが教えているので上達が早いというのもあるのだろう。
「「いただきます」」
二人は声をそろえて食事のあいさつをする。
ジンは最初にソテーを口に入れる。際立たせた豚肉の旨味が口の中に広がる。それだけでも十分に美味しがポン酢がさわやかに味を調えている。普通に客に出せる料理だった。
ユリネはジンの作ったスープを舌で転がすように味わっている。その顔は大分満足げなので、ジンは内心ホッとする。
そのまま自作の料理たちに舌鼓を打って、話をする。
「これからニホン商会の危険度の認識は上がったよな」
「そうですね。下手な脅しは逆効果になるという事は今回の一件でほとんどの国は理解できたと思います」
「小国がこちらに突っかかってくることは無いかな?」
「落とした国土の事について突っかかるかもしれませんが今回の様な侵攻は少ないでしょう」
「聖王国の属国の力を削いだから皇国からの支援が入るかもな」
「それならありがたいですね」
皿の上の料理を平らげると、後片付けをしてメリアとジンは同じ寝室で床に着いたのだった。




