29話:大橋上の大戦争
トウガと指揮官の男との邂逅から十数分、トウガは大橋の上に立って大軍を迎え撃っていた。
「ウオォォォォ!」
「オウリャァァァ!」
「死ねぇぇぇぇ!」
決死の表情で兵士は武器を構えて、トウガに切りかかっていく。
トウガは生身の腕で弾く。金属音が聞こえ武器が弾かれる。
トウガは自分の腕を振り払うと、そのまま兵士は数十メートル先まで吹き飛んでいく。
「盾を構えて突撃しろ!」
「うおぉぉぉ!」
別の指揮官役の人間が指示すると、それに従って兵士は盾を前方に構えて突撃していく。トウガは落ち着いた様子で、連撃を食らわせる。トウガの拳は盾を撃ち抜き、兵士たちの体を貫く。
「グハァ!」「ぐうぁ」「たす、助けぇっ!」
前衛にいた人間は腹に穴が開けられて、全員絶命する。前衛陣は流石に怯んで顔が蒼くなり意気込んでいた気勢はなくなり踏み止まる。だが、逃げる事は許されない、逃げたら国に迷惑が掛かる。そんな事を思って戦意を奮い立たせ、武器を握り締め奇声を上げて突撃する。
すると、トウガは踵を返しそのまま全力で走り抜けていく。大勢の兵士はそれに驚いたようだがすぐに思考を切り替えて、それを追って全員で突撃していく。かなりの距離を進んで、橋の中間までくるといきなりトウガの体が上がっていく。いや、トウガが上がっていくのではなくて、自分達が下に下がっているのだと気付いた時にはもう遅い。橋が大きな駆動音と共に海の底へと沈んでいく。
「うわぁぁぁ!」
何百人の兵士が海に沈んでいく、しかも後続が勢いを殺しきれずに何百人も落下していく。だが、幸運なことに、全員泳げるようで驚いたものの鎧を着たままでもわりと自由に泳いでいく。全員怪我もなく泳ぐ分には支障はない。
いや、幸運ではなく、橋の下に落ちたのは不幸な事だったのだろう。
「おい、あれ! こっちに向かってくるぞ!」
橋の上からの声に全員の視線が一点に行く、そこには大量の背びれが兵士たちに向かっていくのが見える。兵士たちは、何とかそれから逃れようと全力で泳ぎ出すが逃げきれるはずもなく、全員大きな口に捕食されていく。
「か、海竜だ!」
兵士は危機を叫んだが、もう遅い。全員が海竜の腹の中に納まって、海が血色に染まる。その光景を見ていた兵士は、余りにも惨い光景に口を抑えて吐く。何人かの兵士は、対岸の方へ眼を向けるとそこにトウガは居なかった。その事にホッと安堵する。
「何か安心できることでもあるのか?」
兵士全員の背筋に冷たいものが流れる。命の危機に従って武器を後ろに振う。だがその武器は声の主には攻撃は当たらず、同僚の兵士に当たってしまう。
「ギャァ!」
「どこ行った!」
攻撃してしまった同僚は捨て置き、辺りを見回すがトウガの姿はどこにもない。
その時、トウガは大橋の入り口に立って拳を構えて立っていた。
「せぇあっ!」
トウガは勇ましい掛け声とともに腰を捻って正拳突きを一発撃ちこむ。トウガの拳からは大型の砂嵐が発生して前方にいた兵士全員が海に叩き落されて、海竜の餌になる。
トウガは向き直って、口を開く。
「さぁて、こっちの要求を伝えて置こう。四ヶ国それぞれの最高指揮官を引き渡せ、名指しするならそいつの命は保証しよう。で、どうする?」
「…………ぐっ!」
後方についていた兵士はさっきの兵士達より服装や装備は格が高そうだった。実力は分からないが、少なくとも偉い事は確かだ。
兵士は悔しそうな顔をしていて、何も答えない。トウガは余裕な顔をひけらかして、体を半身にとって待ち構えている。
「物量で圧し潰せ!あんな人間一人どうとでもなる!」
「うをぉぉぉ!」
指揮官らしき人間は全体に指示を出す。兵士たちは物量に任せて一気にトウガの事を捻じ伏せようと、突撃していく。長物を持った兵士が最初にトウガに到達する、トウガの体に槍や斧が刺さるが金属音が鳴り響き防がれる。
「オラァ!」
トウガが手刀を水平に振るうと、トウガに向けて槍を振っていた兵士は横に切断されて、その後ろにいた兵士までも水平に切断される。
「魔導師隊! 絨毯爆撃開始!」
指揮官が手を振って指示を出す。魔導師たちはロッドを手に取ってトウガに向ける。雷槍、炎槍、特大の火球がロッドの先から放出され、トウガに着弾して拡散していく。
熱風が周囲の植物を焼いて枯らしていく。
魔導師たちと指揮官は安堵の息を漏らす、これでやっと死んでくれたと。すると聞こえる筈のない音が聞こえる。全員が燃え盛る炎を見つめていると、トウガが飛び出してくる。
飛び出してきたトウガの姿はさっきまでと違っていた、臀部からは爬虫類の尾が生え部分、部分に鱗があって体表面が守らている。
「竜人か!」
指揮官は叫ぶ。頬を風が通り抜けると背後にいた魔導師たちが血飛沫を上げて爆散する。指揮官の首に尾が巻き付き、締め上げていく。
「おい、お前は最高指揮官か?」
「……ち、違う。最高指揮官の方々は、もっと後方にある本陣にて大きな作戦の指揮を執っておられる。あっちの方だ!」
「ふ~ん。なら、あっちか」
「なっ!」
指揮官は街道の先まで続く大軍を指差した。しかし、トウガは街道の先ではなく、森の奥の方へ視線を向ける。最高指揮官たちの居場所を当てられたことに驚愕する。
「嘘つきはぁ~」
「ひっ、や、やめぇ!」
トウガは指揮官の口の中に手を入れる。
「お仕置きだ!」
「ぎゃぽぉ!」
トウガは拳を握り締めると指揮官の頭が爆散する。それを見届けると大軍に目を向ける。大軍全体が震え、何人か逃げ出そうとしている。
「取りあえず、あっちか」
トウガは姿勢を低くして、全身に闘気を染み渡らせる。そのまま足のバネを使って森に向かって跳んで行く。
* * *
トウガが最高指揮官たちの元へ向かった後。街道に残された大軍はーー、
「お、お前ら! 当初の予定通り、橋を渡って都市に乗り込むぞ! 奴も都市の重鎮を人質に取ってしまえば、そう簡単にこちらを攻撃できないはずだ!」
隊長格の兵士は他の兵士を先導して、全隊で突撃していく。
侵攻軍はアカシカイキョウ大橋に辿り着いて、そのままトウキョウに向かって突き進んでいく。トウガが下にやった橋は元に戻っており、侵攻軍は気にすることなくそのまま進んでいく。侵攻軍は全力で前進していくと、トウキョウの城壁が見えてきた、城門の前には数人の兵士が待機している。それを見ても止まろうとしない辺り。数の暴力に任せて、圧し潰そうとしているのが見え見えである。
すると、数人の中から一人が出てきて、剣を抜いた。するとーー、
「なっ!」
剣を抜いた兵士が一瞬で視界から消える。
しかし、消えたわけでは、もちろんなく姿勢を低くして侵攻軍兵士の死角に入り、下段から敵を狙っていた。すると、下から一閃。斜めから逆袈裟切りに斬られて分断される。
そのまま門兵は踊るように剣を振って侵攻軍の人間を塞ぎとめていく。体は分断されていく。何人かその兵士を抜いて奥に入っていくが、奥に待ち構えていた兵士に全員がなぎ倒される。
「な、何だよ!何なんだよお前らぁ!」
侵攻軍は怯えを隠さずに、泣き叫ぶように問いかける。兵士は応えずに淡々と剣を振って侵攻軍を撃退していく。何百人も突撃してくるのに、門兵は一歩も引かずに剣で切り裂き続ける。息切れも起こさず、一定のペースで、作業の様に屠っていく。
「おい、事情が訊きたい一人は生かしておけ」
「了解です」
先輩と思われる門兵から指示があり、どれを生き残らせるか選別にかかる。目に付くのは後方に待機して指揮を執っている人間だが多少距離がある。そこは頑張り次第だが、あれを抑えれば後は先輩に任せておけば大丈夫だろう。
そう考えた門兵の行動は早い。一直線で後方の指揮官へ向かう。
「うわぁぁ。お、お前らぁ、私を守れぇ!」
指揮官は恐怖に腰を抜けそうになりながらも指示を出した。
門兵は狙いをブレさせずに一直線に駆け込んでいく。途中で間にいた兵士は全員斬り付けて黙らせる。飛びついてくる兵士たちは縦横無尽に動き回って躱していく。兵士を躱しきると指揮官の元に辿り着き、襟首を掴んで橋から飛び降りる。
「ギャァァァ!」
門兵は指揮官が残した断末魔の様な叫び声と共に橋の下に消えてゆく。しかし、無策で飛び降りたわけではもちろんなく、風の魔法でホバリングして泳ぐように空中を突き進んでいく。そして先輩たちの方へ着くと。
「確保完了。後はお願いします」
「了解した」
先輩門兵は槍に魔力を溜めて置いたのか、自分の武器をくるくる回して正面に構える。すると穂先から炎が漏れ出し、その炎は渦巻きだし嵐のように兵士たちを燃やし尽くそうと突き進んでいく。大橋を覆う様に炎の嵐は突き進み、橋の上にいた侵攻軍を焼き尽くしていく。
そんな橋の上の惨状を捕らえられた指揮官は恐怖の表情を湛えながら、辺りを見まわしている。現実の光景をいまだに信じられないようだ。
「先輩、やりすぎですよ」
「何言ってんだ。俺達の都市を落とすためにこんな大量の兵士を送り込んできたんだ。生かすも殺すも、自由だろう。それに何人か生き残ってる、治療すればちゃんと生き残れるだろう」
「だからと言って、これはやりすぎですよ。傷を治すのは誰だと思ってんですか?」
「治療院の人だろう」
「………もういいです。それより捕虜の尋問はどうします?」
後輩の門兵は溜息を吐きながら、捕えた指揮官に目を向ける。
「おう、そうだ。あんたに聞きたいことがあったんだ。色々聞かせてもらおうか」
「ひっ!た、助けてくれぇ!」
「質問に答えるなら、ある程度の身の安全は保障してやろう」
「…………何が、知りたいんだ?」
「そうだなぁ」
先輩門兵は後始末を同僚に任せて、尋問を開始する事にする。縄で縛り上げて、所属と目的を聞き出していく。
「しょ、所属は、シューユルム王国。目的は、トウキョウの占拠、および物資の奪取、です」
門兵たちの視線が冷たくなる、そんな視線を受けて指揮官は身動ぎしようにも威圧感に押されて動く事は出来ない。
「で、今回の作戦についての勝算は何だったんだ」
「それは、……ぐっ、せ、戦闘員の数が少ないと思い、攻め込めば簡単に落とせると上層部が判断しておりました。事実、我々もそう考えておりました」
「成程ね。戦闘員を大量に送り込めば、簡単に落とすことが出来て。少ない戦闘員も物量で簡単に吹き飛ばせる、って事か?」
「……はい」
指揮官は俯きがちに質問に答える。
すると、先輩が腹を抱えて笑い出す。
「…………、ははは! あっははははは! 傑作だな! そんな情報を簡単に鵜呑みにして、ここまで来るなんて馬鹿らしぜ! あはははは!」
指揮官は愕然とした表情を浮かべて、困惑した様子で尋ねる。
「ど、どういう事だ!?」
「あ? まだ気が付けないのか? 確かにこのトウキョウには非戦闘民は大勢いる。俺達ニホン商会の従業員数は大体三万人。戦闘員の数はその中で大体……ええと新兵含めても二千人位かな?」
「だったら、我々の作戦は成功確率は高いでは無いですか!? 何故こんなことに!?」
喚くように指揮官はみっともなく叫び出す。
「こっちは総勢四万人!負ける要素は無いだろう!」
「数の上では勝ってたな。だが、それは勝敗を決める要因にはならないだろ。勝敗はまた別の要因でも決められるだろ」
「一体それは?」
心底不思議そうに首を傾げて尋ねる。先輩はニイっと口角を釣り上げて笑うと。
「簡単な事だ。一人一人が強いんだよ」
分かりきったことを吐き捨てる様に先輩は応えた。
「う、嘘だぁ! 私でもレベルは五十なんだぞ。それをお前たちの方が高いとでもいうつもりか!」
「おうそうだ。ちなみに非戦闘民っていっても自衛できる程度には強い、彼らの平均レベルは五十だな。加えて門兵等の戦闘員は平均レベルが百五十だ」
「あ、有り得ない。お前らはここ三年で急成長した団体だ。そんな人間を潤沢に育てる環境などなかったはずだ。一体、どうやって!?」
「そいつは、キギョウヒミツと言う奴だそうだ。お前が知る必要はない」
先輩は冷たく言い放ち、指揮官の襟首を掴んで城門に入って、中にいた巡回兵に侵攻軍の指揮官を預けて。後の尋問は彼らに任せる事にする。
先輩は門の前に戻って、外壁に体を預ける。
「暇だなぁ~」
そうやって、今までのような日常を続けていくのだった。
* * *
トウガが跳んで行った森の中。そこには大軍が控えていた。豪華な天幕の周りに何十人の部隊が周りに展開されて護衛を行っている。中には何人か百レベルの猛者もいる。
「と~う~ちゃ~くっ!」
トウガは陽気な掛け声と共に上空から着地して周囲に衝撃波をまき散らした。何人かその衝撃に飛ばされていく。
「ここに今回の騒ぎの主導している、最高指揮官がいるって話だが。どれだ?」
トウガは小首を傾げて辺りを見渡す。何人かは立っているだけのトウガに気圧されて腰が引けている。
すると、大勢の兵士集団の中から一人の大男が出てきた。かなり重装備の人間で肌が一切見えない様になっていて、かなりの防御力を誇っている。立ち振る舞いからも防御力を誇示していることを感じる。
「貴様は、誰だ?」
「ああ、ニホン商会の関係者だ、っていえばわかるか?」
トウガは不敵な笑みを浮かべて鎧の大男に答える。そんなトウガの舐めた態度に、大男は鎧に隠れて見えないが不機嫌そうな顔でトウガを睨む。トウガはヘラヘラ笑いながらそのまま言葉を続ける。
「で、後ろにいるのが最高指揮官か。そいつら渡すなら後は命を助けるつもりだ」
「渡す気などない、お前の方こそ分かっているのか?お前を囲んでいるのは連合国軍の精鋭部隊だぞ」
「精鋭ねぇ」
トウガは周りにいる人間を馬鹿にしたような笑みを浮かべて、尋ねる。
「渡す気ないなら、退いてもらうぞ」
トウガの冷たい声と共に圧倒的な威圧感が周りを押しつぶしていく。大男は少し怯んだ様子があるも、それを隠すように小さい巾着袋から二メートル位の重厚感のある大楯を取り出した。
トウガは腰を落として拳を構える。
「どうした? そのままくればお前の拳は壊れるぞ」
「心配ありがとう。壊れるのはお前が先だから無駄な事だぞ」
「舐めるなよ」
大男は落ち着いてはいてもどきをはらんで低い声で勧告する。しかし態度とは裏腹に行動は防御の姿勢だった。にらみ合いになるかと思ったが、先に動いたのはトウガだった。一瞬で懐に入り、下から鳩尾に向けて突き上げを放つ。
「ぐはぁ!」
大男は衝撃を殺しきれず少し後ろに吹き飛ぶ。盾で防げたようだが、鎧まで衝撃が突き抜けてトウガの拳の形に凹む。痛みに耐えて大男はトウガを睨む。すると凹んだはずの大楯は瞬時に修復される。
トウガの方は割と全力で殴ったにも関わらず、仕留めるに至らなかったので残念そうな顔をしている。
「総員、突撃! 囲んで槍で突き刺せ!」
ウオオオオオ、と怒号の様な掛け声と共に周りにいた兵士が槍を構えて一斉に突撃してくる。トウガはよどみなく腕を動かし、全ての槍を捌いて明後日の方向へ流す。その際に全員の腹をぶち抜いておくのも忘れない。腹を貫かれた兵士はそのまま崩れ落ちる。
大男は大楯を構えて突撃する。逃げ道を用意させることは無く、トウガが兵士に対処した瞬間に距離を詰めて抑え込もうとしてくる。トウガは左手で抑え込み、カウンターで大楯を殴り付ける。
「無駄だ!」
「んな事ねぇよ」
軽い調子の声で大男に応じ、牽き搾るように拳を握ると。籠手が撃ち出され一撃で大男の体を鎧ごとを穴を開ける。そのまま大男は膝から崩れ落ちて、前のめりに倒れる。
倒れた大男を見下ろすとトウガは最高指揮官とその周りにいる取り巻きの兵士に語りかける。
「じゃあ、そいつを置いてくるなら。他の奴等に手は出さないで置いてやる」
トウガの眼光に全員がたじろぐ。
最高指揮官は周りの人間を頼るように見渡すが、誰も何も答えようとはしない。トウガの気迫が辺りを包み、全員の肌を突き刺す。
やがて、最高指揮官たちは自ら身柄を差し出してトウガに慈悲を乞うた。
「まぁ、素直に話すなら悪いようにはしない」
下った最高指揮官たちを縄で縛って背中に羽を生やすとそのままトウキョウの方へ飛んで行く。
* * *
トウガはジンの執務室に入る。そこにいるのは当然ジンで、書類仕事に精を出していた。今朝には通りで大規模な戦闘があったというのに、まるで日常を送っているかのように平常運転だった。
「どうだった?」
「レスから聞いているだろう。最高指揮官は全員捕縛して牢にぶち込んでおいてある」
「まあ、確認だ。他の奴等も全員捕虜にした事は聞いている」
ジンの手元は資料を作ったり、承認の印を押したり、忙しなく動いているが、それだけではない事をトウガは知っている。彼の固有スキルで常人が廃人になるくらいは働いているのだ、それだけでも驚かれることである。
トウガは話を変える事にする。
「で? これからの予定は?」
「明日には、四国全て潰す。指揮官も連れて簡単な証人にするつもり」
「はは、えげつねぇ」
自分達の国が滅ぶ様を見せつけられるなど辛いなんてものではないだろう。性格が悪いなんてものではない、容赦のない制裁方法にトウガはえげつないと思った。表情は軽く笑っている様だが、ジンのやろうとしていることを否定しない辺り彼もそれ位が妥当だと思っているのだろう。
ジンはトウガの方を見ることは無いが、和やかな会話を続ける。トウガはソファに座って、ソファ前の机にあった土地の利用法についての資料に目を通していく。内容的には大半を農耕地へと改造する予定である。
「土地の利用法は分かったが、改造と輸送はどうするつもりなんだ?」
「ドルムアース様に丸投げになるだろうね。元々そっちは任せるつもりだったしな、あっちもこういうのは乗り気になって協力してくれる。農作物の生産量を安定的に伸ばせるし、いままでよりも事業を拡大できる」
「出来るのか?」
「今までは国からの輸入品を加工してたからな。自分達で生産できるならコスト削減できる、値段の設定も自由にできる。ある程度は他の付き合いも残しつつ、独立できたらいいかな」
「今も独立しているようなモノだろう」
「国や権力からある程度離れておきたいんだよ。何もかも自由にできるとか勘違いされても鬱陶しいし」
心底鬱陶しそうに溜息を吐く。すると、書類仕事をいったん中断して、腕を上に伸ばす。ゴキゴキと身体をほぐし溜息と一緒に疲れも吐き出しておく。ふと、気になった質問をしておく。
「そう言えば、屋敷に帰ったのか? なんかすげぇ血生臭いんだけど」
「…………」
トウガは気まずそうに視線を逸らす。それだけでジンにとっては応えているようなものだ。
「臭いから風呂入ってこい」
「え~、良いじゃん、もうちっといさせてよ」
「………いや無理だ。お迎えが来たぞ」
溜息と共に扉に視線を向ける。するとバンと言う音と共に執務室の扉が開けられた。廊下にはメイド服の少女とワンピース姿の少女が立っていた。もちろん二人の少女はレミとアルナだった。その顔は大分不機嫌そうである。
「二人ともそいつを連れて、風呂に入れてこい」
「はい」
「了解しました」
レミとアルナは執務室内に入ってソファに寝転がってたトウガの頭と足首を掴んで上に担ぎ上げる。
「やめろ、離せ!」
「暴れないで下さい」
「そうそう、早くお風呂に入ろうね」
二人はジタバタ暴れて抵抗するトウガを無理矢理抑えて外に連れていく。駄々をこねている子供が連れ去られている様に見えて何となく微笑ましい。
すると入れ替わりでユリネが入ってきた。
「リョウ様。竜王様にはある程度話は通しておきました、終わり次第後処理の方もやってくれるそうです」
「うん、有難いな。他になんか言っていたか?」
「後で酒を奢ってくれ、と言ってました」
「要求のハードルが高そうだな。今度は何処のお酒が良いかな」
「おつまみも選ばないとですね。何が良いでしょう?」
うーん、と二人は頭を抱えて考える。明日には国を相手取らないといけないというのに呑気にも戦後処理について話している二人なのであった。




