23話:禁足地の襲撃者
「街の冒険者を襲う、謎の存在か……」
ライズが意味ありげに呟く。
「心当たりはないな。なんかそういう情報も入ってこないなら、本当に突発的に現れたという事になるな」
「強い魔物が突発的に現れるなら珍しい事でもないでしょうけど、門番さんの口振りから察するに襲われた冒険者も生きているのでしょう。だとしたら、とても奇妙ですね」
「そうだよな。魔物って基本は逃げられないなら皆殺しだし。気絶した後に身ぐるみ剥がされて、逃がされるのも不自然か」
ジンとアスタルテも話に加わり、謎の正体について考察を始める。
「というか、隊長かキイが知らべれば、良いんじゃないのか」
「そうか、キイ」
「はいっス!」
ライズに言われ、ジンはキイにやらせることにした。彼の能力よりも彼女の嗅覚の方が今の事態を正確に分析できるだろう。
それはさておき、キイが嗅覚探知を発動する。するとキイが、周りから漂う色んな匂いを感じ始める。ポカポカする匂い、どっしりとした匂い、キリッとした匂い。そして、その周りにあるトゲトゲとした敵意の匂い。それを感じると、キイがブンブンと激しく尻尾を振る。
それが敵を確認したものだと察すると、ジンは手で簡単に指示を出し、全員に警戒態勢を取らせる。全員が背中合わせで、全方位に警戒態勢を取る。その瞬間――、
ギィン!
草むらから、ジンに向かって人影が飛び出してきた。武器はない、素手で殴りかかってきた。ジンはそれを見切ってカウンターで相手を殴り飛ばす。なのに、金属音が響く。ジンもそれ相応の衝撃が拳に響き、顔を顰める。
人影は追撃せずに草むらの方へ引っ込む。
ジンは大きく息を吐いてから、腰に刺した鞘から、白い刀身の刀を抜く。この刀は黒鳥王の剣が、置き換わった姿である。ジンにとっては生前に使っていた刀と変わらないような使い心地で使えて、鞘も何処からか現れたのだ。非常に軽くて硬い素材で作られているので、どちらも、とても重宝している。
ジンが刀を抜いたと思ったら、いきなり何かが飛んでくる。ジンは刀を振って飛んできた奴を迎撃する。何かがはじける音と共に、小さい金属が足元に散らばる。弾丸のようにも思えるが、それにしては形が不揃いで手作りしたような感じがある。
ジン達は下手に動かず、相手からの攻撃を待つが。ジンに向けての弾丸以外に攻撃らしい攻撃は来ない。仕方ないので、ライズがスナイパーライフルを手元に顕現させ、弾道から襲撃者の方向を割り出し、狙いをつけて狙撃する。
「うっ!」
どうやら当たったらしい、少年のような声で呻き声が聞こえてくる。
すると、何の逆鱗に触れたのか、より苛烈さが増した攻撃が全方位から始まる。その攻撃はガルスが防いでいるので、他の人間に特に被害が出ることは無い。
反撃しなくては、どうしようもないので、ジンが構えて上に飛び上がる。森の木々よりも高く跳び上がり、辺りを見下ろす。すると、地上にいる仲間たちの周りには、年齢、種族はバラバラだったが明らかに統率の取れた集団が取り囲んでいた。仕方ないので、風魔法で自分の体を後押しして急降下しながら、先程、襲撃してきたであろう人影を斬り付けに行く。
「っ! くそぉ! この野郎ぉー!」
あと二メートルほどの距離まで接近してきたときに、人影が反応しジャンプでこっちに迫ってきた。ジンはまともに受ける気もないので、風魔法で強引に軌道を変えて躱して擦れ違いざまに斬り付ける。
ガァイィィン!
それなりの力は込めて切りつけたのにも関わらず、金属音のような音と共に刀が弾かれる。そのまま少し距離を取ってジンは着地する。刀で切りつけられたというのに、斬り付けられた所を痒そうに掻くだけで特に騒ぐ様子もない。
そのままジンは自分に見えるように相手の表示を映しだす。
◇ ◇ ◇
トウガ 種族:武人 性別:♂ 年齢:9歳
レベル:152
HP :22640
MP :11590
STR:26640
DEF:22590
RES:22560
AGI:22590
INT:22560
称号:地の勇者の守護者【最高位】 異世界転生者 竜人 限界突破者 不殺無敗の剣闘士 暴れん坊 無手の破壊王 元奴隷 解放者 逃亡者 怯える者 優しい子 守る者 元奴隷たちの支え 親分 力を操る者 襲撃者
コモンスキル
・戦闘スキル
体戦 (Lv5)
闘気術 (Lv8)
魔拳 (Lv6)
回し受け (Lv7)
投げ技 (Lv7)
締め技 (Lv8)
索敵 (Lv10)
覇気 (Lv10)
危機感知 (Lv10)
気配感知 (Lv10)
衝撃耐性 (Lv10)
斬撃耐性 (Lv8)
毒物耐性 (Lv9)
魔耐性 (Lv10)
火耐性 (Lv5)
水耐性 (Lv5)
風耐性 (Lv8)
雷耐性 (Lv9)
氷耐性 (Lv4)
地耐性 (Lv6)
軍団指揮 (Lv10)
戦術構想 (Lv7)
・魔法スキル
大地魔法 (Lv7)
火魔法 (Lv4)
水魔法 (Lv3)
雷魔法 (Lv5)
氷魔法 (Lv4)
強化魔法 (Lv9)
身体魔法 (Lv8)
魔力精密操作 (Lv8)
魔力浸透 (Lv8)
魔法付与 (Lv10)
魔力解放 (Lv5)
魔力譲渡 (Lv6)
・生活スキル
料理 (Lv3)
掃除 (Lv2)
共通語 (Lv6)
読み書き (Lv8)
計算 (Lv8)
鑑定 (Lv8)
鑑定遮断 (Lv8)
ベクトル操作 (Lv10)
・創作スキル
木工 (Lv4)
固有スキル
武人の境地 (Lv3)
拳の極み (Lv4)
竜のブレス (Lv4)
竜魔法 (Lv3)
竜化 (Lv2)
異世界人補正
【織田 信長】
覇王 (Lv10)
隔て無き交流 (Lv9)
【拳崎 太一】
武神への道 (Lv8)
乱拳無双 (Lv7)
ギフト
神の隠蔽
地神の祝福
・装備
武器:なし
防具:麻布の服
アクセサリー:なし
◇ ◇ ◇
ジンは警戒心を上げ、目の前の人物を観察し始める。
身長はジンと同じ位、体格もそう差がある訳じゃない。だが、発する威圧感は同等とは言えなかった。ジンの背筋に冷たい汗が流れる。この世界で、初めて死の危機に陥って、恐怖を感じているかもしれない。
ジンが悠長に相手を観察している間にも、トウガは攻撃を仕掛け続ける。全部、武器の無い肉弾戦であっても、脅威度は変わらない。肌が鋼鉄のようで、まるで刃が通る気がしない。襲い来る拳を全て刀で捌いていく。生きた心地がしない。何とか間合いから出ようにも、させまいと追撃を放ってくる。それを刀で防ごうにも、圧倒的な衝撃で腕がしびれる。二発目がすぐに来るが、流石に受け止めきれずに受け流そうとするが、流しきれない。余波だけで体が吹っ飛んでいった。
二、三回バウンドして森の木を背にして身を隠す。相手からの追撃はないが、手札を探っているだけだろう。大雑把そうに見えても、慎重で堅実な戦い方をする。亮の記憶の中にある、拳崎太一の戦い方にそっくりだった。相手は元とはいえ、超能力隊の隊長格。少なくとも能力で言えば自分と同等かそれ以上、今は種族が違っていてついている筋肉量も違っている。人間の筋肉量と、獣人の中でも最強と言われる竜人の筋肉量、比べるまでもなく後者の方が多い。
達人の技と強い種族の体、二つ合わせて今までのあった敵の中でも一番の強敵だった。このままでは負けてしまうだろう。
ジン一人だったらの話だけれど。
「うぅお!」
トウガに向かって、黒竜の太い腕が飛んでいく。トウガはそれを受け止めるが、それでも衝撃を受け止めきれず後ろに下げられる。いつの間にか巨大化して現れていたムーは、トウガを敵に定めることは無く。その後ろに控えていた人間たちに向かって突っ込む。
トウガはムーを止めようと回り込もうとするが、ジンが横から刀で斬り付けられジンの相手をせざるを得なくなる。ここでようやく、トウガに余裕が無くなった。ムーが戦闘に参加し始めた向こうの様子が気になるのだろう。
(リョウ様、敵の位置情報を読み取ります。出してください)
そう言われてジンは、頭の中にマップ情報を映す。これで、アスタルテ達は敵の配置が分かって、状況は変わっていくだろう。
アスタルテの方はもう大丈夫だろうと思い、目の前の敵に再度集中し直し、大きく息を吐いておく。
トウガは助けに行けたい衝動は抑え込み、目の前の敵をすぐに片付けて仲間の助けに入ろうと思考を切り替える。闘気を全身に纏わせ、ジンと向かい合って構え、口を開く。
「お前ら、何もんだぁ?」
「………お前たちから先に仕掛けたってのに、それを言うか」
「先にここに暮していたのは、俺達だ。そこに侵入してきた奴を追い払うのに理由が必要か?」
「それはその通りか。というか、俺達はここを直進して、この森の奥地に行きたいんだ。それを阻まれるいわれはないぞ」
トウガは驚いたような表情をするが、特に構えを崩すことは無かった。そして、もう話すことは無くなったという様に、ジンに殴り掛かっていく。
トウガはジンの懐に入ろうとするが、それをさせない様にジンが刀を捌く。なのでトウガは仕方なく間合いの外からジンに殴り掛かっていく。ジンの刀と斬り合っているのに、トウガの肌にはかすり傷一つない。闘気を纏っているのもあるが、素の防御力が高いのだろう。仕方がないので、ジンも闘気を出す。それを研ぎ澄ませ重ねていき、五重に胸と腕、脚に闘気を纏わせ、トウガに切り掛かっていく。
ジンは拳の間合いに入らせない様に刀を振る。トウガは技量で同等だと察して、技術で間合いに入っていく事は諦める。仕方は無いので、腕力で強引に入っていく。
トウガの拳で刀を殴りつけ強引に弾く。流石のジンも、大きく弾かれ大きな隙を見せる。トウガはガラ空きになった胸に拳を叩き込む。
「がはっ!」
ジンはそのまま後ろに吹き飛び、血を吐きながら倒れ込む。
「が、がはぁ!ぁぁがっ!」
「………」
血を吐きながら、倒れているジンを油断なく見つめ、トウガは拳を握ってもう一発殴りつけようとする。
* * *
一方、アスタルテ達は、反撃を開始していた。キイが前方に突っ込んでいく。その姿は変わっていて、狼を二足で立たせて、大きさも身長三メートル位まで巨大化したような姿になっていた。敵陣前方に突っ込んでいたキイを敵側も向かい撃ち始める。が、大狼化したキイの膂力には成す術はない。受け止めようにも、力負けしてキイに振り切られてしまう。しかも、本能なのか何なのか同時に闘気も纏っているので、手の付けようがない。
気を付けるのはキイだけじゃない、それを補助するように動いているリノアは厄介だった。障壁による防御はもちろん、障壁による足場の生成でキイの機動力を上げて、補助していたりしている。
敵側も強かった。ジンから貰った情報によると、敵の数は五人。一人はジンと一騎打ちしている。残りはキイが戦っているのは典型的な戦士タイプの三人であり、連携はしっかりと取れているがキイの機動力や膂力に翻弄されている、やられるのも時間の問題だったが。ここで一石投じられる。
何処からか、矢のようにキイに突っ込んでいく。狙いは首元、手に握ったナイフを全力で斬り付けようとしている。だが、見破られてるかのように、その間にアスタルテが入る。飛び出してきた敵は驚いているが硬直する、………ことは無く。狙いを変えてアスタルテを斬り付けようとする。が、突き出された腕を取られ逆に抑え込まれてしまう。
それを見たほかの三人は動揺してしまい、連携を乱す。そこをキイは突いて、連携を完全に崩す。一人の鳩尾に強力な蹴りを打ち込み、そのまま硬直が立ち直った敵は、拳でキイの顎に一発入れようとするが、障壁で防がれる。防がれて硬直している敵をキイの横薙ぎで薙ぎ払って木々に激突させる。残った一人は、薙ぎ払いで、隙だらけのキイの脇に蹴りを打ち込むが。サイドステップで、横に下がられて衝撃を殺される。だが、敵は諦めずに今度は真正面からキイの鼻に拳を打ち込もうとする。
しかし、それは敵わず、甘い匂いがしたと思ったら、急激な眠気に襲われて倒れて寝てしまった。
* * *
トウガはジンにとどめを刺そうとしていた。が、
「ぐっ!」
突然にジンの背中から闘気が伸び出て、トウガを突き刺そうとする。それをギリギリで躱し、カウンターでその付け根に拳を叩き込む。
「は?」
いきなりジンの体が煙になって消える。次の瞬間、横殴りの竜巻がトウガを襲う。
その威力はさっきまで喰らっていた刃よりも深くトウガの体に食い込み始めた。その発生源には当然ジンがいて、ジンは手元から暴風魔法を発動させていた。
暴風魔法は風魔法の上位魔法であり。暴風の名の通り制御が難しい。だが、込められる威力、速さ、回転速度、等は他の風の派生形の魔法とは違う。制御さえできれば、最強の風魔法だと言われている。
「いたたた! いってぇ、てのぉ!」
そんな暴風魔法を、手を薙いだだけで掻き消すトウガも異常である。
一応、切り札の暴風魔法が消されてもジンに動揺はない。そのまま次の手を打つ、ジンは天翼の重鎧の効果で、翼を作り出し、全て発射する。
トウガは捌こうにも、圧倒的な密度に防ぐしかなくなっていく。暴風魔法で、切り裂かれた傷が、羽によって開かれていく。ジンが羽の発射をやめる頃には、夥しい数の傷がつけられていた。
「はぁー、はぁー……」
トウガは息を荒くしているものの、その目に宿る闘争心に揺らぎはない。ジンはいきなり刀を投げつける。トウガはそれに驚くが対応は落ち着いていた。スレスレで避けて、横から弾いて刀を飛ばす。ジンに視線を戻すが、そこにジンは居ない。が、視界の端に影が見える。それを全力で追い、対応しようとするが。もうジンは攻撃態勢を済ませており、そのままライガの軽く手を添えただけの防御の上から掌底を打ち込み、心の中で呟いた。
(【継戦二心流】、【衝】)
ジンは、打ち込んだ掌をトウガの胸に当て、そのまま体を捻って足元から力を流動させて衝撃として打ち込む。
【衝】は攻撃を打ち込んだところから体のひねりで衝撃を相手の体に打ち込む型。時間を掛ければ衝撃も大きくできるが、数秒でも人の肋骨にひびを入れるくらいはできる。武器にも流用可能。
「はっぐがぁ!ああ、っあ!」
頑強なはず肌を通り過ぎて、その内部に衝撃が響く。驚きと衝撃でトウガは困惑するが、ジンは止まらない、そのまま顎、肩、腹の順に【衝】を打ち込む。
そうして、やっとトウガは膝をついて沈黙する。
「あ~、二度と戦いたくねぇ」
ジンは倒れ込んだトウガを見下ろして、ぼそりと、心底疲れた様に呟くのだった。
* * *
戦闘後、ジンは倒れたトウガを引き摺って仲間の元へ急ぐ。
こちらも戦闘は終わっていたようで、襲撃してきた人間を縛って纏めていた。トウガの種族とステータスから、こいつは縄じゃなくて鎖で縛っておこうとなる。魔法を封じる手錠もしっかりと付けて、身動きと魔法や魔術による抵抗を防ぐ。
「この先に何かあります?」
アスタルテは襲撃者達の目的は、この先にある何かを守る為なんだろうかと思い、ジンに周囲の情報を聞いてみる。
「ああ、………おっ、なんかあった」
アスタルテに言われてマップで探してみると、何か見つける。中規模の集団のようだった。難民キャンプのようにも思える。栄養状態とかもあまりよろしくはなく、何人か死にそうになっていたりする。
「………遠くに難民キャンプみたいな場所がある。何人か弱っている様だし、行ってやるか」
「はい、畏まりました」
行動予定を決め、それを全員に伝えて行動開始する。もちろん縛った捕虜を連れていくのは忘れない。少なくともいきなり攻撃されることは減るだろうと思って、多少乱暴ながらも連れていく。
スキル解説
・武人の境地
戦闘スキルのレベルが上がりやすくなる。MP以外のステータスに1000加算、スキルのレベルが上がる毎に1000ずつ加算される。
・拳の極み
拳で戦う拳術に関するスキルのレベルが上がりやすくなる。STRに1000加算。レベルが上がる毎に1000ずつ加算される。
・竜のブレス
魔力を消費して火炎放射が出来る。
・竜魔法
強化魔法の強化版で強化の度合いはこちらの方が大きい
・竜化
魔力を消費して竜の特性を体に発現させる。
・覇王
カリスマ性がアップする。全ステータスに1000加算、スキルのレベルが上がる毎に1000ずつ加算される。レベル50以上の配下の人間×100ずつステータスに加算される、これによるステータス変化は鑑定には反映されない。
・隔て無き交流
どんな生物であっても、共同体を形成できる知性を持つ生物であれば交流できる。レベルが上がれば、心を開きやすくなる。
・武神への道
職業武神につくためのスキルを習得しやすくなる。戦闘スキルのレベルが上がりやすくなる。MP以外のステータスに1000加算される。スキルのレベルが上がる毎に1000加算される。
・乱拳無双
リーチの長さにに応じて自身の能力が上がっていく。相手との距離が体表に近い程STRに割合分上昇。スキルのレベルが上がると上昇率も上がる。鑑定で確認できるステータスには反映されない。




