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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第二章 守護者達の旅行記
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17話:継戦二心流

 ジンが死にそうになっている一方で、アスタルテ達の方も余裕がなかった。

 二十階層から下にいたゾンビ達が、何かに引き付けられるように二人の方へ群がっていく。二人はアスタルテ、オメガブラックを前に、メリアの影からゾンビが這い出てアスタルテの援護に向かう。数は多いが、二人で連携を取って頑張って耐えていた。


(今は耐えれていますが、どうなることか。逃げ道がないのは辛い。メリアのお蔭で数の差は対抗できてるにしても限りがある、この事態を一気に覆す一手が欲しい)


 アスタルテは綺麗な顔に焦燥を滲ませて、大勢のゾンビへナイフを振って首を飛ばしていく。メリアは後ろでゾンビを操っている傍にはクラッシュブラックがいて、近づいてくるモノを砲撃で仕留めていく。オメガブラックは大剣を振り続け、迷宮の壁を破壊し続けながら迫ってくるゾンビを斬り刻んでいく。


*  *  *


 ボスゾンビのアラに倒され、ジンの頭には走馬灯のような光景が流れていく。

 母の死体を埋めた事、悲惨な母の死体の前で復讐を誓ったこと、母との楽しかった日々、次々と自分の過去を振り返っていき、その後にジンは見慣れない、いや、ジンの記憶の中にあった東郷亮の記憶の中にある光景が出てくる。

 幼馴染と別れた後に亮は父の故郷へと訪れていて、そこには亮の父方の祖父がいて武術の道場を開いていたのでそこに亮も入門することになった。そこの門下生は一時を除き、亮一人だった。だから、祖父は付きっきりで亮の事を見てくれた。

 足腰が出来てないと山道を走らせたり、何千と素振りをさせられたり、数時間ぶっ続けで組み手をさせられたり、出るとこ出れば問題になりそうな事をぶっ続けでやり続けていた。

 その中で亮は祖父と共に流派の中の奥義になる技の会得に励んでいた。それを習得できれば、超人的な身体能力が獲得できるらしい。実際、祖父は、80歳入っているのに対し五十キロの荷物を片手で持ち上げられるほどの怪力を持っていた。


「ちがーう!もっと!こう!腹に力を入れて、こう!」


 亮は祖父に腹をバシバシ叩かれながらも、奥義の会得しようと頑張っていた。呼吸を変えて酸素の放出を抑える事で、大量の酸素を肺に入れる、同時に血圧を上げて一拍で全身に行き渡らせる酸素、エネルギーの


「ほれほれ、どうした。そんなんじゃ、継戦二心流の奥義を会得するどころか、惚れた女も満足に守ることもできんじゃろうて」

「うえぇ。いや、可愛い孫の腹をバンバカ殴るもんじゃないでしょ」

「かかか。かわいい孫とは出たもんじゃな、今の儂らは師匠と弟子、このくらいの指導はあって当然じゃろう」


 額に脂汗を滲ませて、蹲っている亮に祖父は木刀で(つつ)いて立たせようとして、それに亮が文句を言うが、鼻で笑って一蹴し、指導を再開させる。亮の方も言っても無駄だと悟ったのか、立ち上がって鍛錬を再開させる。


「いいか、亮よ。(われ)らが継戦二心流は、戦い続けることを目的にしている、刀を持てばそれを振い、弓があればそれを引き、槍があればそれで刺す、そして武器が折られれば拳を握ってそれを振う。そうやって、我が流派は生き意地汚く生きてきた」

「自分たちで生き意地汚いとかいうんだ」

「しょうがなかろう、我らが先祖もそうやって戦場の中に生きてきた。誰よりも強くなり、生きていく為に奥義を作って、型を作って、その場、その場の戦場を生き抜いてきた」

「技や体を鍛えてきたの?」

「お前の体もそうだ。我らは血も鍛えてきた、力の強い者同士で縁を結んで、血に合わせてその武術の形を変えて新しい世代に繋いできた。血が繋がっていれば技は最大の効果を発揮する。この時代には合わんがな」


 祖父の目は遠い過去を見るように寂しげに語った。


「だからこそ、うちの流派はこの平和な時代は廃れている。普通の流派は心、技、体の三つを求めて健全な研鑽に励んでいくだろう。だが、この流派は戦う事しか頭にない。技と体は磨くが、心は育てん」

「戦うことがこの流派が育てる心って事?」

「まぁ、そんなもんじゃ。だとしても戦場で戦う以外にこの流派の術を生かすには厳しいがのぉ。ま、重い荷物を運ぶのには重宝しているがな」

「最終的な使い道がしょぼい。ご先祖様が浮かばれなさそう」

「はぁ、何を言うのだこの弟子は。ほれ、型の稽古に移ろう。先ずはーー、」


 走馬灯のように、ジンの頭の中に亮が祖父と過ごした稽古の思い出がよみがえっていく。


*  *  *


 だが、次第にスキルの力で現実に引き戻され、意識が戻され、傷が回復していく。

 今まで誰かと戦ってきて違和感があった。戦いの中で亮の祖父から習った技を使ってきたことはあった。そのたびに少し違和感があった。走馬灯の中で答えが少し見つかった。

 ジンはゆっくりと構えを取る。アラはジンの動きを感じ取り、返すように構えを取る。そうして、形の良い口唇が開かれる。


「ナンデタツノ?モウ仲間モ無事ジャナサソウナノニ?」


 喋れることにジンは呆気にとられる。


「喋れたの?」

「ウン。ココニ来タ人ミンナ驚クンダケド、ナンデ?」

「そりゃぁ、いきなりゾンビが喋ったら驚くだろ」

「ソウナノ?」

「うん」


 毒気を抜かれるようだが、相手は純粋に自分の行動に驚かれることに疑問を持っているようだった。会話が出来そうだったので、回復の時間稼ぎも兼ねて質問してみることにする。


「そういえば何で人と戦うんだ?」

「……ウン?貴方ハ自分ノ家ニ入ッタ人ヲ無事ニオ土産渡シテ返スノ?」

「ははは、それはごもっとも。じゃあ、何で君は俺と戦うんだ?」

「私ハココデ生マレタ。ココヨリ前ノ記憶ハナイ、何モナイカラココヲ守ルノ」

「そう、じゃあーー、」

「モウイイ、貴方ノ傷ガ回復シテル。時間稼ギニハ付キ合ワナイ」

「そう。じゃあ、こっちも十分」


 ジンの傷はほぼ回復し終えた、行動に支障がなくなったので呼吸を整え、集中し始める。

 すると、ジンの中に他の意識が芽生えている気がした。何かが体の中で熱くなっていくのを感じる。

 が、それを今出すのは、何となく違いそうなのでそれを何とか押さえつけようと意識を集中すると。“ソレ”は素直に従い大人しくなる。

 気を取り直し、ジンは前方の敵に意識を向けなおす。目の前のアラは先程とあまり変わらない隙の無い構えを取ってジンに向き直っている。だがジンは違った。


(サッキマデト、違ウ?)


 型の形は変わらないが、先程よりも軽く構えていて、体から余分な力が抜けているようだった。呼吸の音も、気迫もさっきのよりも研ぎ澄まされている。

 アラの中で警戒度が上がった。僅か十数秒の間に明らかに目の前の人物の能力が変わった。油断はできない。だから、全力で仕留めることにした。

 まず先にアラが間合いを詰める。槍の刃には光が纏われていて、先程と同じように光の部分だけ変幻自在に動いていく。そのまま四つに分かれて四方向からジンを狙う。

 が、ジンの剣が振られると同時に、四方向から来ていた光刃が弾かれて消える。そのまま、ジンはアラに真正面から突っ込んでいく。アラは慌てて槍を構えてジンから振られる剣を捌いていく。膂力も先程よりも強化されている、受け止めれば槍どころか体まで使えなくなりそうだった。だからアラは必死に捌く。技で受け流し、決して刃を合わせることはなく神業的な能力で必死になって捌いていく。

 このままでは削られるだけだと感じ、光球を出現させ距離を取って不規則な軌道でジンを狙う。光球はアラの指示に従って、ジンに迫るがアラの目には追いきれない速度で剣が振られて光球を全て切り裂かれる。


(不味イ)


 先程よりもかなりパワーアップしたジンに、強い危機感を覚えるアラ。だからこっちも手札をきることにする。

 下がっていたアラの体を明るい光が包み込む。瞬間アラの体が消える。かと思えば、ジンの背後に槍を振り終えた態勢でいるアラがいた。ジンの右手は離れ、下に落ちていた。


「くっ!」

「サセナイ!」


 ジンは離れようと、落ちた腕をもう片方の腕で拾い上げ離れようとするが。もう一度アラの体を光が包み込み、アラの姿が消えた瞬間、ジンの体に衝撃が響く。


「かはっ!」


 見えない攻撃がジンの体に響いていく、そのまま壁を背にしてジンは攻撃を受け続け、壁際に追い込まれていく。


「最後!」


 アラは勝利を確信して、光に包まれた体で槍を突きだしジンを串刺しにしようとする。

 が、ジンの姿がいきなり消える。だが、アラの勢いは止まらないそのまま壁と激突する。体の方は無事だったが、槍が深くまで突き刺さり、抜くには少しだけ時間がかかりそうだった。

 それを見逃すジンではない。ジンはアラに接近していつの間にか接着していた右の拳を鳩尾に打ち込み、そのまま立ち止まって連撃を打ち込んでいく。アラはジンの拳をなすすべなく受け続ける、聖術を纏わされた拳はジワジワとアラの体に響いていく。このままでは本気で滅されると感じ取ったアラは、最後の手段を取った。

 アラがジンの連撃を無理矢理我慢して、槍を手に取りジンの拳の衝撃にのって奥へ吹っ飛ばされる。そのまま受け身を取って、すぐに立ち上がり槍を構える。

 アラの槍には光が蓄積されていく、それと同時に彼女の周りには光球が複数生成されていく。

 ジンはその姿を見ると同時に、吹き飛ばされた剣を引き抜き、剣に魔力を溜める。っと、同時に自分の中にある“ソレ”を目覚めさせる。するとジンの体から白い燐光が発生する。その燐光から黒い腕が出現し、燐光が段々とその姿を形成していく。完成していくその姿は、黒い角、黒い鱗に黒い皮膚、歯は白く、緑色の大きな瞳が付いている大きな黒竜だった。

 そしてどちらからともなく、力が溜まりきるのを感じ取るのと同時に動き出す。先に動くのはジンだった、抜いた剣を構えて走り、黒竜もそれに続く。


「ウラアアアァァァ!!!」


 アラがそうやって呟くと、ジンめがけて構えていた槍を全力で突き出す。それと同時に、周りに浮いていていた数十個の光球から光線が発射されジンに襲い掛かる。もちろん槍からも先程撃った光の砲撃よりも図太い光線が撃ち出される。光球からの光線がジンの逃げ道を封じ、真正面からの光線がジンを滅ぼそうと迫っていく。

 だけどジンの瞳には微塵も諦めの念はない、真正面からその光の砲撃を見据え剣を構えてそのまま振う。


(継戦二心流、斬)


 ジンは心の中の呟きと同時に光の砲撃に剣を合わせ、そのまま光の砲撃を切って突き進み始める。【斬】は刃が最も薄く鋭くなるように構え、それを一ミリのズレもない様に振るう技。振う刃が良質ならば斬鉄だってできる。

 そうやって、光の砲撃をアラごと切り伏せようとする。しかし、直前で戻されたアラの槍に受け止められる。

 だけど、このままでは終わる訳がない、黒竜が消えたかと思うと、それまで剣に宿ってたよりも倍以上の魔力が宿り、更に聖術が強化される。受け止められたので下がるのではなくて下に押し込む。防御を剝がされたアラへ下から切り上げる。


「裂く!」


 こっちも継戦二心流の技、【裂】。【斬】の様に斬り付けた刃の裏から拳でさらに押し出して、無理矢理相手を裂く。喰い込んだ刃を無理やり押し込める技だ。

 アラの腹に剣が刺さったから、今回は蹴り上げるようにして無理矢理縦に引き裂いた。


「剣が無事なうちに!」


 ジンは今の技で剣の限界が近い事を悟った。素早く入り口に戻って、アスタルテ達より前に出ると、纏わせていた聖術を拡散させて前方広範囲を浄化して殲滅する。そこで限界を迎えた剣は自壊してしまった。


「お、終わった~」

「あ、ありがとうございます」


 メリアは背中から倒れ込み疲労を表していて、アスタルテは疲労を見せていてもジンにちゃんとお礼を言った。


「いや、俺も不用意に近づいて迷惑かけたな」

「そ、そんなことありません。あそこで助けに入ってくれなかったら、私たちは死んでいたでしょう。非常に助かりました」

「俺の我儘で連れてきたんだ。守れるとこではちゃんと守るさ」


 バツが悪そうに頬を掻いて謝るジンに、慌ててアスタルテがかぶり振ってお礼を言う。だがジンの中では筋を通せなかったのか、申し訳なさそうに頭を下げる。


「ちょっと~、良い雰囲気出してないで。私を助けてよ~」

「ん?ああ、すまないな」


 そう言ってジンは近づいて、手を貸して引っ張り上げてやる。すると一気にメリアが距離を詰めてジンに抱き着く。ジンもいきなりの事だったのと、大技を使った直後だったので、そのまま押し倒される。


「ふへへ、ありがとぉ~」


 メリアはスリスリと頬を擦り合わせる。ジンは何も言わずにメリアに抱き着き返す。


「ふぇ!ちょっ!ちょと、リョウちゃん!?」

「りょ、リョウ様!何やってるんですか!そんなに、大きいのが良いんですか!」


 メリアとアスタルテの抗議も虚しく、ジンは疲労が出てきてそのまま眠ってしまった。いつの間にか出てきた黒竜はその光景を眠たそうな瞳で見つめていた。

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