13話:冒険都市ルーカス
2020年 1月8日:改稿しました。
・貨幣価値について
貨幣価値は、大銅貨から始まり、例外を除いて十枚ごとに貨幣価値が上がっていく。順番は小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨の順に価値が高くなっていく。銅貨一枚の価値は、現実社会で約十円の価値がある。
冒険都市ルーカスは、その都市の定住人の数は、約三万人と少ないが。この都市に住んでいる冒険者は、約三万五千人いて冒険者ギルドが、それらをすべてまとめている。そのため、ギルドの監視が強く一般人に手を出す冒険者の数は少ない、だが、冒険者同士の諍いが絶えず、日常的にどこかで、冒険者同士が争っている為、町での喧嘩は見世物としての意味合いが強いものになっていた。
「お~、流石に人が多いな、はぐれないように気を付けないとな」
「そうですね。手でもつなぎますか?」
「冗談?」
「………」
予想以上に活気の溢れる街並みに驚きつつも、取りあえず目的の場所――、冒険者ギルドを目指していた。
「にしても、色んな人種がいるね」
「そうですね。獣人に、ドワーフ、エルフ。人間の方が多いとはいえ、他を合わせたら半々くらいになるんじゃないですかね?」
今はローブのフードを被って、ギルドに続くメインストリートを歩いている。ジンはともかくアスタルテに関しては、かなりの美少女なので、余計な騒ぎになることを避けるために、ジンがローブを付けさせている。
数分したら、ギルドに到着した。
中に入って、回りを見渡してみると小綺麗で広く。左側には掲示板があって、たくさんの紙がそこに張り付けられていた。もう片方は、飲食スペースになっているのか、料理を食べたり、酒を飲んだりしていた。
あちら、こちらで騒いでいるが、今入ってきた見慣れない子供に全員の目が向く、大半はすぐに興味をなくして、すぐに目線を元に戻すが、酔っ払いや人相の悪い者は、ニヤニヤとした顔をしていた。
その中の一人が、ヅカヅカと近づいてきて、
「おい」
ジン達の正面に立って、ニヤニヤ笑いながら話しかける。完全に格下であると舐めていた。
だけれどジン達は、その言葉を無視して受付の方へ進んでいき、一番空いている受付嬢の所に行くと、口を開く。
「冒険者の登録をしたいんですけど、手続きお願いできますか?」
なるべく丁寧に受付嬢に話しかけるジン。無視された冒険者の男は、顔を真っ赤にしてプルプルさせて震えている。
「……はい、分かりました」
受付嬢は後ろをチラリと見て、いいのかと思ったが、いったん端に置いておいて、ギルドの説明を開始する。
「冒険者ギルドでは、登録した冒険者様に向けてお仕事の仲介、斡旋、依頼などを行っています。基本的にギルドでは、それ以外の事は行っていません。また、ギルド所属の冒険者が、無所属の方に危害を加えたりすると、ギルドの方から相応のペナルティーが与えられます。ですが、冒険者同士で諍いを起こした場合に関しては、ギルドは不介入です。求められれば仲介位はしますが」
「そういう事だ。だからてめぇを、ここでぶっ飛ばしても、上からは何も、お咎めはないという事だ」
先程無視した冒険者の男がジンの肩に手を回して語りかけてきた。その表情は、笑み浮べていても、怒りが出ていることがまるわかりだった。
「セルガさん! まだ彼らには説明中ですしここはギルドの受付です! 一般の方もいらっしゃいますし、ここで騒ぎになるような事は困ります!」
ジンに説明していた受付嬢は、ジンが無視した冒険者――、セルガという男を咎め出す。
セルガは受付嬢の忠告を無視して、ジンに突っかかり続ける。
「おい、小僧。ここはおめぇみたいな、人生舐め腐っているような、クソガキが来るところじゃねぇ。選りすぐりの戦士が来るところだ、てめぇみたいなチビが来るところじゃねぇんだよ!わかったら、サッサとそこの雌ガキ置いて、荷物纏めてとっと帰れ!!」
ジンは、特に気分を害した様子もなく、アスタルテも何か感じた様子もなくセルガの方は向かず、受付嬢の方を向いていた。
「冒険者の階級については、どうなっているんですか?」
「へ?」
ジンはセルガを無視して、説明の続きを促す。受付嬢はジンの予想外の言動に、間抜けな声を出す。
セルガの方は、青筋を浮べて顔を歪めてジンを睨み付ける。その姿を見て、受付嬢はあたふたとしている。周りの人間は様子を窺うか、大声でセルガを囃したてている。
「冒険者の階級は、どうなっているんですか? 試験とかは、あるんでしょうか?」
完全にセルガを無視して、ジンは受付嬢への質問を続けていく。でも状況を飲み込めず、あたふたして説明はされていない。セルガは、プライドを傷つけられたと思ったのか、体を震わせて、後ろに下がって、自分の武器に手をかける。
「ちょっ!セルガさん!何しようとしているんですか!?」
受付嬢は、慌ててセルガに声をかけるが。彼は聞く耳を待たないようで、鬼のような形相で、自身の腰に差していた剣を抜く。
「うるせぇ、アニー!ここまで、虚仮にされて黙っていられるか!」
そう言うと同時に、ジンに向けて切りかかる。力の限り、怒号と共にジンを切り殺そうと襲い掛かる。
「がぁぇ!!」
「え?」
受付嬢――、アニーは仰天した、切り掛かっていった筈のセルガの体が、吹き飛ばされてそのまま壁を突き破って、メインストリートの真ん中まで吹っ飛んでいった。ジンの背中からは、“白い手”がつきだしていて。直接見たわけでは無いが、それが拳を作って、超高速で突き出されることでセルガが吹き飛んだのだとかろうじて分かった。何回か地面に派手にバウンドしたが、死にはしなかっただろう。けど、暫くはまともに仕事が出来ない事は確実だった。“手”はセルガが落とした武器を手に取るとそのまま握りつぶす。
周りの人間は、一気にジン達から目線を外して、仲間たちと話を始める。目を付けられたら、セルガと同じ運命をたどることは目に見えているから。
「お姉さん。説明の続き、お願いしてくれますか?」
ジンは、何も騒ぎは起こらなかったと平然とした顔で、説明の続きをお願いする。背中から生え出た“手”は背中の方へ縮み、元通りになる。
「へ?え!あ………、は、はい!えっとですね、冒険者の階級は、八級、七級、六級、五級、四級、三級、二級、一級、特級、超級の十階級に分けられます。依頼を解決していくか、魔物なんかを討伐していくことで昇格していきます。それと、三級から上に昇級するときには、試験があります。ですが、各支部のギルドマスターからの、推薦があれば一気に昇格する事も可能です。迷宮に入る場合は、六級以上になってからがお薦めです。一応は登録したら入れるようにはなりますが、その場合はダンジョン監督官から色々言われますので六級まで上げておいた方が無難です」
「登録するには、どうすればいいですか?」
「身分証を出してもらえますか。こちらで冒険者登録して、身分証に冒険者カードの機能を追加いたします」
そう言われて、二人は身分証を出して、アニーに手渡す。アニーは受け取ると奥に引っ込み、何かしらの魔道具に、カードを入れて、ガチャガチャと音が鳴り、最後にチーンと鳴る。完了した身分証――、冒険者カードを二人に返す。
「これで登録完了になります。死なない様に、気をつけて頑張って下さい」
「はい」
二人は、声をそろえて返事する。受け取った、身分証は白いカードに変わっていて、右上の端に八級と書かれていた。ジンは少しだけ口を綻ばせ、嬉しそうにしている。
その後は、受付から離れて依頼が張ってある掲示板に行ってみる。
ジン達は今八級なので、雑用とか採取系の依頼が多かった。
「え~と、『ポリネ草の採取』、『ドブさらい』、『部屋の掃除』色々あるけど、雑用が多いか」
「そうですね。で、どれを受けます?」
「今日は受けなくても、良いんじゃない。流石に、色々あって疲れたから、宿取って明日またこよう」
「かしこまりました」
アスタルテは静かに頷き。近場の宿の部屋を取る。アスタルテとの相部屋だ。しかし、彼らの年齢からイヤラシイ展開は期待できない。
「明日は初めての依頼ですが、大丈夫ですか?」
「誰にモノを言ってるんだ」
ジンはアスタルテに心配されるが、心配無用という風に返す。
「慢心はダメですよ。油断すると、足を掬われるんですから」
「わかってる。最大限警戒はするし、準備もして挑むよ。それに、お前の方の準備はどうなってるんだ?」
油断はしないと返して、アスタルテの方の準備の進捗を聞く。
「こちらは万全ですよ。ナイフも研いできましたし、投げナイフの残弾もばっちりです」
準備万端と、誇らしげに胸を張る。
「まぁ、お前は準備するものが少ないからな」
「準備には付き合いましたよ」
「そうだけど、ねぇ」
少しだけ不満げに、口を尖らせるジン。
「もう、明後日には迷宮にいくんですから、しっかりしてくださいな。というか、今まで、聞いてきませんでしたけれど。どの迷宮に行くんです?」
腑抜けた態度のジンに喝を入れて、聞いていなかった迷宮の名前を聞く。
「ああ、そういえば言ってなかったな。俺達が入るのは、『天使の忌み地』ってところだ」
「『天使の忌み地』、ですか」
「知ってたか?」
「いえ、知りませんでした。よかったら、教えてくださいませんか?」
「わかった」
ジンは、アスタルテの頼みを快く了承して、説明を始める。
『天使の忌み地』は、難易度二級の迷宮で、ゾンビや、スケルトンなどの、アンデットが多数湧いて出る。さらに、そこで死んだ者は、何であろうと背中に翼の生えた姿になって、生前よりも底上げされた能力値のゾンビとして甦るらしい。その姿が、天使のように見える事から、『天使の忌み地』と呼ばれるようになったんだとか。
「二級ですか」
「ああ。まぁ、俺は聖術が使えるし、マップが見られるから、道に迷う事もないだろう。だが、油断だけはしないようにしないといけないな」
「そう、ですね」
割と真剣な表情で注意されたので、その言葉を飲み込むように頷く。
「ですが、どうしてその迷宮にしたんですか?」
他の迷宮など探せば幾らでもあるのだから、そっちでもいいのでは、と思い、そう尋ねてみる。
「あの迷宮には、住人がいるんだよ」
「住人ですか?」
「そう、住人」
アスタルテには抽象的過ぎて、目的が分からない。なので、もう少し掘り下げて聞くことにした。
「貴方様が、興味を引くようなことがその住人にあるのですか?」
「興味というか、必要だから選ぶ感じかな。まぁ、必要なくても興味あるから、会いに行こうとは思っていたけど」
ジンは若干、苦笑い気味に微笑して、肩をすくめる。アスタルテは、ますます困惑するが、少し思い当たることがあったので、続けて尋ねる。
「もしかして、私たちの同類がいます?」
「ああ、その通りだ。しかも、今回会いに行くのは木原だよ。上手く引き込めれば、有益な人材になるだろ」
「あの人、ですか」
少し気乗りしなさそうな、様子でジンを見るアスタルテ。だけどジンの方は、ワクワクした様子で木原という人物に会いたがっている。
「あのマッ、失礼、狙撃手兼整備士のあの人が居た方が、今後有益になることの方が多いんでしょうが、リスクが高くありません?」
アスタルテは言外に、あいつだけはやめとけと、ジンに忠告する。
「そこは、どうするかによるよ。要は、あいつを受け止められるほどの、受け皿があればいいんだろ」
「そうかもしれませんが、そう簡単に用意できませんし。そもそもあの人が、私たちに協力してくれるかは不明なんですし」
木原が協力するか、否か、それは確かに重要で、難しい問題だった。
木原は、整備の腕が良く。亮も、玲子も、度々お世話になっていたこともあったが、いかんせん人柄に問題があった。男女問わずの好色家で、亮と玲子もセクハラの被害にあっている。しかも、私生活ではかなりだらしない人間で、自室の中が、ゴミで立ち入れないような事もしばしばあった。
でも、引き入れる事での、メリットも多いのでやっぱり勧誘しない手はない。そのことをアスタルテに伝えると、彼女も同様の事は思っていたのか、渋々協力する事に決めた。
その後は宿に帰り、自室に戻って就寝した。
* * *
日課の早朝訓練を終わらせて、朝一にギルドへ向かう。
早朝にもかかわらず、ギルドはやっていて。受付の中にはアニーも窓口に立っていた。
ジンとアスタルテの二人は、そのまま掲示板の方へ向かい常駐の採取系依頼である、『ポリネ草の採取』を受けることにした。
依頼を受けるための台紙を手に取ると、アニーのいる窓口へ行った。
「『ポリネ草の採取』ね。まぁ、初めてだし、身の丈に合った依頼だと思うわ」
アニーは、そう言って依頼の台紙に二人の名前を書いて、引き出しへ入れる。
「一応、形とか、生態がわからなければ、図鑑を見せるけど」
そう言って、別の引き出しを開けて、図鑑を取り出し二人に尋ねる。
「いえ、地元でよく取っていたので、大丈夫です」
そう言って首を横に振って断ると、ジンは早速アスタルテを引き連れて都市の外へ出ることにした。
都市の外へ出て、近くの草原まで来た。辺りには草花が生い茂り、草の香りがしていた。
今回の目的のポリネ草は、日当たりの良いとこならどこにでも生える薬草で。平民向けの傷薬や病気用の薬に使われたり、下級のポーションの作成にも使用されたりする、ひじょうに汎用性の高い薬草である。
少し見渡すだけで、割と生えていたりする。ジン達は、早速しゃがみ込んで、採取を開始する。そのまま一時間ぐらい、世間話も交えながら作業する。
最終的に、十キロくらい集められたので、それを担いでギルドに戻る。
ギルドに着くと、人相の悪い男達が、入り口周りにたむろっていた。
ジン達は、それらを無視していこうとそのまま入り口を突っ切ろうとすると。
「待てよ」
入り口を足でふさがれ、そう呼び止められた。
「何だよ」
特に何か感じたわけでもなく、用件を聞く。
「何だよ、はないだろ、昨日は俺の仲間を派手に吹っ飛ばしてくれたそうじゃないか。今日はそれについて、話があるからこうしてここで待っていてやったんだぜ」
ニヤニヤ、笑いながらジン達を取り囲んでいく。ギルドの入り口は狭いため塞ぐことにはなっていないが、ジン達の事は無駄に隙もなく取り囲んでいる。
ジン達は、自然と担いでいた袋を下ろし背中合わせで、男達に向かい合う。いつ帰ってくるかもわからない新人を待つなんて暇な奴らである。
「あれは、あいつから絡んできたから、やり返してやっただけだ。殺してないなら、お前らに咎められる筋合いはないぞ」
ジンは、一応正論をぶつけてみるが。
「はっ! そんなもん、関係ねぇな。俺達は仲間傷つけられて怒ってるし、気に食わねぇテメェをいたぶれれば、それで十分なんだよ。ああ、その後は、借金奴隷として売り捌いてやるから感謝しな。俺達、四級パーティー『灰色の剣』に舐めた態度取った事を、不細工な主人の前で後悔しな」
全く効果はなかった。しかも、なんか奴隷にするとか言っている。色んな意味で、ぶっ飛んだ集団だという事がわかった。この調子なら、新人を甘い言葉で勧誘して、高額な情報料を請求して奴隷落ちさせてきたりしたんだろう。あの時のあの男と話さなくて良かったと思った。
これ以上は、話を聞いてても有益な情報は取れないと感じて、二人は拳を構える。
「はあぁ?お前らバカか?抵抗して、勝てる相手だと思ってんのか?」
男達はジン達の行動を馬鹿にしながら、武器を抜かず、笑いながら構えを取る。
「お粗末だな」
ジンは、お粗末な構えを取る男達を嘲笑して、手をクイクイと手招きする。
「あ?」
男達は、馬鹿にされたのが癇に障ったのか、そのまま殴りかかってくる。本当に隙だらけで、思わず笑みがこぼれてしまう。ますます、男達は怒りのボルテージを上げて、襲い掛かる。だが、傷つけて商品価値を落としたくはないのか、まだ、無手のまま突っ込んでくる。
ジンに突き出されて腕を、身体強化で掴んでそのまま握りつぶす。そのまま足を上げて、男の腹に蹴りを入れる。その時に、腕を掴んだままだったので、片腕がちぎれる。そのまま吹き飛んで、後ろにあった壁に突き刺さる。
「はっ!?」
男達は、信じられない光景を目にして、その場で固まる。ジンは吹き飛ばした男の腕をそばに捨てて、男達に殴り掛かる。近場の男の顔面に拳を叩き込む。そのまま周りを取り囲んでいた、人間たちを巻き込んで吹き飛ぶ。その騒動に乗じて、アスタルテは男達の視界の外から、背後から手刀を連撃でたたき込み続けて、自分の前方を取り囲んでいた人間の半数を気絶させる。ジンは高速移動で、鳩尾に拳を打ち込んで上に打ち上げながら、残りの全員を気絶させる。
数十秒後には、ジン達の前に立ち塞がっていた人物たちは地に伏せていた。
「…………、騒ぎ起こしちゃったし、後始末しておくか」
頭をかいて、溜息をつく。そのまま、男達を路地裏に詰めて転移で、薬草を取っていた草原に出る。草原に来たら、アスタルテと共に男達の装備と武器を剥ぎ取り、冒険者カードを奪っていった。(冒険者は個人で、冒険者ギルドに口座を作ってお金を預けられる。冒険者カードがあればそれを引き出せるが、強引に奪った場合はもちろん罰則がある。今回の場合は迷惑をかけられたため、奪ったとしても問題はない。目撃者も多いため、後から文句を言われることはない)装備を剥ぎ取り、服と武器を奪うと、武器と防具は売れそうなのでインベントリに入れておくが、服は臭くて汚かったので燃やしておく。一応ちぎった腕を、後遺症の無いように繋げてやる。青空の下、草原の上に、全裸のおっさんが並んでいるが、特に感情は込めずに見下ろしてそのまま転移で元の路地裏に戻って、何食わぬ顔でギルドの扉に戻ってくる。
* * *
ギルドに戻って、アニーの受付に向かう。
「依頼達成しました。査定お願いします」
そう言って、十キロの薬草を詰めた麻袋をカウンターに乗せる。
「はい、確かに受け取りました。え~と、重さは十キロですので、報酬は銅貨二十枚ですね」
アニーは笑顔で、薬草を天秤に乗せ測りとり、査定額を出す。その額に納得して、きっちりと受け取り、続けて質問する。
「アニーさん。ここでは、魔物の素材の買い取りを行っていますか?」
「…………はい、やっていますが。何を売りたいんですか?」
今ジン達は、特に何かを持っているようには見えない。ローブを着ているから、下に何か持っているのかもしれないが、それでも大きな袋を持っていれば目立つはず。だが、彼らのローブが膨らんでる様子はない。一応『空間袋』という魔道具を使えば、ある程度は容量を気にせず運び込むことが出来るが。この年齢でそんな高価なものを持っているのは、不自然である。しかし、次の光景を見て、アニーは目を見開いて言葉を失う。
ジンはローブの下から小さな小袋を取り出して、傾け始める。袋口に魔方陣が映し出されて、そこから大量の魔物の素材が排出されていく。排出された魔物は、ハンターベアー、サイコボア、ゴブリンジェネラル、オークジェネラル、オーガナイト、キングスパイダー、ダッシュシープ、ブラックホーン等。四級もそうだが、三級や二級の魔物の素材も割と混ざっていた。
「へ? え? えええ!」
彼女も、周りもびっくりしている。昨日、冒険者として登録した新人の子供が、ベテランの冒険者も取れないような素材を、大量にカウンターに押し込んだのだから、その場の全員が目を疑った。
だが、職員たちの対応は迅速だった。直ぐに硬直から、立ち直り職員十数名集めて、素材を運び出していく。そのまま鑑定と査定を進めていく、アニーはジン達にしばらく経ったら呼ぶので、近くで待っててほしいと声をかける。
言われた通りに、ジン達は窓口から離れて近くに置かれていたソファに腰を下ろして報告を待つことに決めた。待っている間は暇なので、アスタルテと明日の予定を立てていく。数十分後、アニーが受付から出て、ジン達を呼びに来た。
「査定が終わりました。それと、貴方がたのランクの昇格が決まりましたので冒険者カードの提示をお願いします」
「分かりました」
ソファから立ち上がって、受付の方へ向かう。そこで冒険者カードを提出する、アニーはそれを受け取りまた奥に引っ込んで、魔道具にカードを入れる。ガチャガチャと音が鳴って、最後にチーンと音が鳴ると、それを取って戻ってくる。
「はい、冒険者ランクが四級に上がりました。ギルドマスターに報告すれば、もっと上がりそうですが、どうしますか?」
アニーは、首を傾げて尋ねる。
「時間がかかりそうですからいいです。三級の昇格試験があるなら、受けてみたいんですが」
「え? いいんですか?」
「はい、ギルドマスターへの連絡は不要です。それよりも三級の昇格試験について、教えてくれませんか?」
「ええ………、は、はい」
あまりにもあっさりと、裏口の昇格を蹴るもんだから、少し驚く。が、さっきの光景の方が驚けるのか、反応は薄い。そのまま口を開いて、説明を開始する。
「三級への昇格試験は、期限は無期限でこちら指定する依頼をおこなって頂きます。指定する依頼は、十個で、それら全部を達成することで、昇格となります。無論、試験期間は無期限ですが、依頼の達成期間はそれぞれに設けられているので、上手く調整して受けないと期限切れになって達成できなくなり、試験が最初からになります。そこら辺は、気を付けてというのが、注意事項になりますね」
スケジュール管理と本人の資質を見極めるための試験であると、ジンは考えた。だが、明日には迷宮に向かわないといけない、のでまた後程受けることにする。
「どうされます? 今から受けます?」
アニーは、今までの彼を見てきて、即答で「はい」と答えそうだから、聞いてみた。
「いや、いいです。売却代をいただけますか?」
「え? え~と、はい。今ご用意いたしますね」
少し意外だと思ったが、アニーはそう言って、奥に引っ込んで代金を下ろしてくる。
「どうぞ。内訳は、金貨五枚、銀貨が百二十五枚となります」
小銭を混ぜておいたのは、アニーから、額が大きすぎると店で使いにくいだろうという、気遣いだ。そう言って、ジンは丁寧に数えて確認を済ませると、
「ありがとうございます」
丁寧にお礼を言って、空間袋のような袋を取り出して、全部突っ込む。
用はなくなったので、踵を返し宿に帰っていく。その後ろ姿をアニーは右手を振って見送った。
* * *
「必要なものは、だいぶ揃ってきたか」
ジン達は、一旦宿屋に戻って、荷物の整理をして、纏めていた荷物リストをもとに、商店街で買い物をしていた。さっきの店で、薬、衣類、水、食料、燃料を買い揃えられたので、次は、ダンジョンの探索に使える道具を買い込むために、大型の雑貨店――、ニホン商会支店に来ていた。一応、ここにある商品は全部タダで手に入るが、別にいい、とジンが押し切って、割引価格で手に入るようになっている。
それはさておき、ここでは冒険都市といわれるとこに建てただけあって、迷宮関連の物が大量に並んでいた。けむり玉、道標、製図道具、キャンプ用具、非常食、照明等、サバイバル用品が多く売られている。いずれもジンが、考案、設計、試作して、販売し始めたものである。魔術も組み合わせたので元の製品たちよりも、品質が数倍近く上がっている。
「どれも必要がなさそうですね」
興味が無さそうに、白けた目で見ている。
「そうでもないだろ。けむり玉、キャンプ用具、照明ぐらいは買っていった方がいいかもね」
そう言って、ジンは買い物かごに、けむり玉を三十個、キャンプ用具三セット、照明六個。木原も合流させる事も視野に入れて買っている。
会計を済ませて、品物をインベントリに全部しまって、宿へと帰る。
明日は、初めての迷宮に若干緊張しながらも、ワクワクしながら寝た。
・モンスター解説
・ハンターベアー:体長三メートルの熊型の魔物。家族以外の集団と、群れることは基本的にない。頭がよく、気配を殺して動いたり、待ち伏せをしたり、罠をはったりする等、狩人と似た行動を取るため名付けられた。生息場所は森の入り口近く討伐難易度3級
・サイコボア:体長二メートルの猪型の魔物。体毛が茶色い、目玉が赤と黄色の縞々模様。見た目と違って、とても臆病。敵に出くわしたら、幻惑の魔法をかけて退散する。生息場所は森の奥深く。討伐難易度:3級
・ゴブリンジェネラル:ゴブリン上位個体。普通のゴブリンが、平均身長百二十センチなのに対して、ジェネラルは、身長が二メートルある。筋肉質の太い腕をしていて、膂力はオークと同じ位。下位個体のゴブリンを、五十匹ほど使役可能。身体強化魔法の使用も可能。生息場所は選ばない。討伐難易度、単体の場合4級、下位個体同伴の場合3級。
・オークジェネラル:オークの上位個体。オークと体格は変わらないが、ぜい肉だらけの下位個体と違って筋肉質。何処からか拾ってきた兜や鎧を付けている。身体強化の魔法も使用可能。下位個体のオーク十体まで使役可能。生息場所は選ばない。討伐難易度:単体なら4級、下位個体同伴なら3級。
・オーガナイト:オーガの上位個体。身長三メートルぐらいで、剣と盾を装備している。剣術のスキルを持っていて、身体強化魔法と火魔法を使用可能。生息場所は洞窟。下位個体のオーガを二体使役できる。討伐難易度:単体なら3級、下位個体同伴なら2級
・キングスパイダー:体長五メートルの蜘蛛形の魔物。体色は黒。粘着性を調整できる糸を生成できる。普段は個体で行動する。中級ポーションでも解毒できない毒を吐く。生息場所は、崖、大きめな森などの、大規模な蜘蛛の巣をはれる場所。討伐難易度:2級
・ダッシュシープ:体長三メートルの羊型の魔物。風の魔法を使った加速できる。集団で行動していて、人に良くなつく為、家畜として飼われていたりする。だが、野生種は警戒心が高く、攻撃的だが、素材の性能は野生種の方が上。毛と肉にプレミアがついていて、アスタルテの装備にも使われている。人に飼いならされていることもあるが、主な生息地は平地の草原。討伐難易度:単体なら5級、集団だと2級
・ブラックホーン:体長2メートルの牛とヤギを足し合わせたような魔物。少数で行動していて知能が高く、高度な連携をよく取り、強靭な革と樋爪を持つ。縄張り意識が強いが、縄張りを出るのなら無駄に追わない。風魔法と、水魔法、土魔法を使える。皮は対刃性、魔法耐性が高く、ジンの防具にも使われている。生息地は山岳地の高所や岩場らへん。討伐難易度:個体、群れ、問わず2級。




