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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第二章 守護者達の旅行記
16/151

12話:街道での遭遇

 ジンとアスタルテの二人は、快晴の天気の中、ジンとはガイネア王国王都からの街道を東に直進して、二、三個の宿場町などを超えていき、大分隣国に近づいてきた頃。


「隣国には、もう入りましたかね?」

「いや、まだの筈だよ。今日の夕方くらいに関所に着く。そこの近くにある、町に泊まるつもり。その次の町に目的の迷宮がある。準備に関してはそっちでしよう」


 それから軽口を言いあいながら、二人は街道を進んでいく。魔法で身体能力をあげて、時速六十キロで進んでいるので、既に何回か馬車や人間を高速で追い越していっている。そして西に日が傾いてくると、堅牢な砦が街道を塞ぐように立っている。

 そのすぐそばまで来ると、大きな扉が見えてきた。扉の前には、数人の兵士が警備をしている。ジン達はその手前から魔法による強化を解いて減速して、常識的な速度で砦に近づく。すると、兵士の一人が近づいてきて、話しかけてきた。


「ここからは、ガロリド皇国になる。なにようだ?」


 子供二人だけで近づいてきたのが不審に思われたのか、疑わしそうに問いかけてくる。


「ガロリド皇国にある。迷宮の一つの近くで知り合いと待ち合わせをしているので、ガロリド皇国に入りたいのです。入国を認めていただけませんか?」


 一先ず、アスタルテが砦の兵士と話す。実際の関係性はともかく、ジンよりもアスタルテの方が年上であるので、その方が、不自然さがないと思っての事だ。


「そうか。それはすまなかったな、身分証があれば見せてもらえるかな? 無ければ、少しついてきてもらおう」


 アスタルテが答えた理由に納得して、兵士は身分証の提示を求める。だが、ジンとアスタルテは、そういうものを持っていなかったので、正直に申し出て、兵士に別の場所に案内してもらう。

 大きな扉の隣にある、小さい扉を開いて中に案内される。中は個室になっていて、別の場所へつながるだろう扉と、部屋の中央に置かれた水晶、それと事務用に置かれたであろう質素な机があった。


「じゃあ、それに順番に、手をついてくれるか。犯罪歴がないか確認するから」


 兵士はそう言って、中央の水晶を指差す。

 二人は言われるままに、手を付ける。すると、水晶は二人が手に触れた時、青い光を放った。


「ふむ。二人とも犯罪歴はないと。名前をおしえてもらえるか」

「リョウです」

「アスタルテです」


 二人は兵士に、名前を伝える。兵士は腰を掛けて、机に向かってなにか書き始めた。(ジンが名前を変えているのは、ジンの母親を殺した男に身バレするのを防ぐためである)


 その後、二人にいくつか質問して、紙に記入する。そしてその紙を、机の上に置いてあった魔道具に入れる。ガチャガチャと音を立て始める、最後にチーンと音が鳴って二枚のカードが出てくる。


「ほい。じゃあ、これがお前たちの身分証になるから、なくすんじゃないぞ」


 そう言って、プラスチック製の様な、灰色のカードを二人に手渡す。渡した後に、手を裏返して一言。


「銀貨二枚」


 ニヤリと笑ったいい笑顔で、証明書の代金を要求する。中々にいい根性しているようだ。

 ジンは、財布から銀貨四枚出して、それを手渡す。


「ああ、それ自分のステータス見れたりするから、結構便利だぞ。冒険者登録をするときにも使うから、冒険者になるんだったらちゃんと持っておけよ」


 そう助言を送って、入った時とは別の扉を開けて、二人を外に案内する。


「じゃあな。お二人さん気を付けていくんだぞ」


 最後に背中をバンバン叩いて、兵士は二人を送り出す。


「はい。ありがとうございました」


 ジン達は、お礼を言ってその場を去っていく。


*  *  *


 証明書を発行してもらった後、ジンとアスタルテの二人は街道を普通の速度で歩いて、宿場町に向かっていた。日は傾いているが、日が落ちる前に何とかたどり着くだろうと思ってのんびりと歩いているのだ。


「こういう証明書があるんだな、俺そういうの知らなかったんだけど」

「貴族は自分の家紋とかで、ああいった関所は通れますからね。平民も理由がない限り外国に行くことなんてないでしょうし。知らなくても不思議なことではないんじゃないかと思います」

「これからも使えるんだったら、得したのかな? 王都で作っていた方がよかったかもしれないが」

「どっちでもよかったんじゃないんですか。値段が変わるのかもしれませんが、作ったんですから、もう遅いですよ」


 もう終わったことに、ぐちぐち言うよりはもう割り切って、おく方がいいだろう。


「そんなこと言ってる間に、もう街が見えてきましたよ。明日には、別の町に行くんですから宿取って準備しましょ」


 その後は、何も言わずに宿に行って部屋を取って、体を休め明日に備えた。


*  *  *


 朝、早朝に訓練を済ませて、宿からチェックアウトしてそのまま町に出ていった。

 そのまま街道に出て、かなりの速度で、突き進んでいく。


 数分走ると、ジンは物騒な光景が目に入り足を止める。アスタルテも気が付いたのか、ほぼ同時に止まる。二人の視線の先には、二キロ先に高級そうな馬車とそれを取り囲むように護衛する兵士、そしてそれらの安全を脅かすような顔が豚になっているオークたちの姿だった。

 オークは二十体前後で、鼻息荒くして馬車に襲い掛かっている。オークという魔物は、ゴブリンやオーガと同じくらいにポピュラーな魔物で。顔が豚になっていて、見た目の通りに鼻が利く。体格も大きく、ブヨブヨとした体で、腕力が成人男性の二倍くらいはある。人間や似たような種の女性を攫って、苗床にして子孫を増やすらしい。


 見たとこ、陣形組んで戦っているので、ちゃんと護衛と対処が出来ているのだろう。加えて、豪華な貴族服を着た、二十代くらいに見える男性が短杖をもって、兵士たちに支援魔法をかけている。パワーアップした兵士は、オークと剣で切りあう。このままいけば、数分で簡単に制圧できるだろうと思い、街道をどう通ろうかと考えていると——、


「まずいですね」


 そういうアスタルテの、目線の先には十数匹のオークの援軍。それだけなら、まだ問題はない。問題は、その後ろにいるオークの上位個体だ。オーク等のヒト型の魔物は、進化をしやすく、そしてその幅が広いことが特徴としてあげられる。上位個体は、能力値が上がり、同種の通常個体を統率することが特徴としてあげられる。なので、冒険者の依頼として、この事態に対処する場合、既存の難易度から二つぐらいは上がる。

 今回出てきた、個体はオークアーチャー二体と、オークメイジが一体。どちらも遠距離に偏っているが、オークメイジは頭がよく、使う魔法の威力もばかにならない。油断すれば、魔法で体が吹き飛ぶことになる。

 貴族達は、瞬く間に取り囲まれ劣勢に押し込まれる。魔力がもうないのか、貴族は少し顔色が悪そうであった。


「どうします?」


 ここをどうするかを尋ねる。助けに行けばいくで、大変なことになる、行かないならいかないで、気分が悪い。微妙に難しい選択を迫られているが。まぁ、目の前で死なれても気分が悪いので、一先ず助けに入ることを決める。魔法を使って、身体能力をあげ、走り出す。


*  *  *


 ひどい災難だ。

 公爵貴族の務めとして領地の視察をしていた。今回は同行者もいるため、護衛の人数も増やした。それがあだとなったのか、魔物に襲い掛かられた。ただの魔物なら問題ない、私も支援魔法で護衛の力を強化していく。オークは残り半数になった時――、


「森から、オークの援軍です!上位種も確認できます!」


 味方から要らぬ報告が上がった。取りあえず、援軍が来たという方向を見てみると。さらに最悪なことに、オークメイジとオークアーチャーがいた。二種類とも遠距離型で、オークメイジの方は頭が良い、こちらが疲弊するのを待っていたのだろうか。このままだと厳しい。現に味方の負傷が出始めた、どっちが先に全滅するか、分からなくなってきた。味方騎士に向かってとどめを刺そうとするオークをどうにかしようと、短杖向けるが。直ぐにその必要がなくなった。


 小さい影が、オークと騎士の間に入る。オークは気にせずそのまま、影ごと突き刺そうとするが。影に剣を捌かれ、空を突き刺す。オークは慌てて剣を戻そうとするが、影は伸びた腕を踏み、そのまま剣を振り払って、首を切ってしまう。オークの体は、とどめを刺されそうだった騎士の横に倒れ込み首は、空中をくるくると回転して、影―いや少年に掴まれる。そしてその少年は、そのまま一言だけ告げる。


「助太刀しましょう」


 公爵たちを安心させるように語りかけて、オークたちに冷たい眼差しを向けながら。


*  *  *


 ジンは掴んだ頭を近場にいたオークに投げつける。力加減を間違えたのか、オークと一緒に兵士の一人が巻き込まれる。


「うぉ!」

「ぐぎゃぁぁ!」


 幸いなことに死んでいないので、後で回復薬をやって許してもらおうと思う。

 そんな余計なことを、思いながらも体は動き続ける。剣を鞘に納めて腰に構え、居合切りの構えを取る。オークは隙だらけに見えるジンに向かっていく。それを見ていた公爵は、援護しようと短杖を向けて魔力を集中させる。が、空中から降りてきたアスタルテが短杖を掴み、魔力を霧散させる。


「援護無用」


 簡潔に要望を伝えて、手を離し別の所へ援護に向かう。

 アスタルテに目を奪われていた公爵だが、オークと対面するジンの方に目を向けると、オークとジンとの距離はあと五メートルのとこまで迫っていた。すると、ジンがそのまま踏み込み、少し跳躍してオークの顔に近づく。その瞬間に閃光と轟音が辺りの者に襲い掛かる。

 視界を回復させ公爵が、ジン方を見てもジンは、別のオークに抜いた剣を回るように振り抜く。バッサリと切り捨てて次の魔物に移る。オークたちは、さっきの轟音と閃光に立ちすくんでいて、完全にジン達にされるがままだ。通常種のオークを倒し終わり、残りの、街道端にいるオークに目を向けた。

 上位個体たちは、手下がやられたことに怒っているのか、他の対象には目を向けずジンの方を睨み付けていた。

 オークメイジが呪文を唱え始めて、オークアーチャーは弓を構える。そしてオークアーチャーの弓に続けて、オークメイジの特大の水球がジンに向けて発射される。ジンの後ろには怪我した兵士が多数と、公爵が乗る馬車があり、避ける訳にはいかない状況だった。


「その場で動かぬように」


 負傷者の配置を把握して、剣を抜いたまま切り込む。

 誰も動かなかった。注意に従ったのではなく、ジンに気圧されて誰も動くことが出来なかった。

 誰にも制止されずにジンは、水球に突撃して、縦に一閃。すると二つに分かれ、Yの字に分かれていき、矢を巻き込んで、それぞれ別々に着弾する。今ので、怪我をした人間は、誰もいない。

 オークメイジとオークアーチャーは、次弾を放とうとしたが、いきなり視界が変わる。空を飛びくるくる空中を回転して、落下時にその原因に気付く。頭のない自分の体と、その近くにいて自分の体の解体を始める小さい人間の姿に。


「ぐぎゃぁあぁ」


 断末魔を上げて三匹とも絶命した。

 続いて公爵と兵士たちが歓声を上げて、拍手した。


*  *  *


「いや~、ありがとう。助かったよ」


 嬉しそうに顔を綻ばせ、ジンとアスタルテに礼を言う公爵。


「いえ、私たちも街道を進んでいた途中でしたので、助けになれたのであれば何よりです」


 丁寧に言葉を返すアスタルテ。ジンは何も言わずアスタルテの横に立っている。


「それにしてもまだ幼い、いや若いのにたいしたものだね。我々が苦戦していた、魔物相手に一方的に殲滅するとは、将来が楽しみだね」


 人のよさそうな笑みを向けて、ニコニコと二人を褒め称える公爵。


「日頃から鍛錬を積んでいたので、その結果を出せたのでしょう。護衛の騎士様方がいなかったら、既に突破されている所に、遭遇していたでしょうから、護衛の方々のお蔭でもあります」


 近場で観察していたことを隠し、にこやかに護衛の騎士を褒める。(なお、オークが倒した騎士の数より、ジン達の戦いに巻き込まれた騎士の数の方が多い)


 話し合いはアスタルテに任せて、ジンは黙ってその場を離れ、オークを投げ飛ばしてしまった騎士の方へ向かう。アスタルテや公爵はそれを止めることなく、話を続ける。(アスタルテは気付いていたが、公爵は気配を感じ取れずにいなくなっていたことに気付いていない)

 吹き飛ばしてしまった騎士へ向かい、聖術で治療を開始する。金色の暖かい光に包まれて、騎士の傷が回復していく。一般的な聖術よりも、治りが早い。それぞれの患部に適度な魔力量で、人体の構造を把握しているからこそ、やれる行いである。一、二分で見える怪我は治し終わり、後は本人の目覚めを待つだけとなった。


「あの~。少しよろしいですか?」


 ジンは、後ろから声を掛けられて振り向く。

 振り返った先には、少女が二人歳はジンと同じ位か、少し低いくらいだろう。二人ともとても可愛らしく、将来が楽しみな容姿をしていた。片方は、白い色をしていて少しだけ緑色が混じっている髪をしていて、シンプルな白いカーディガンを着て、ペールオレンジの長いスカートで全体的に緩く陽だまりのような雰囲気だった。

 もう片方は、暗いオレンジ色の髪をして、黒いコートと、その中は白いシンプルなワンピースだった。服だけはボーイッシュな雰囲気だがその中身はとても可愛らしい女の子である。

 そんな二人は興味深いものを見るような感じで、ジンに近づいて話しかけてきた。


「はい、何でしょう?」

「先程はお助けいただきありがとうございます」

「いえ、世は情けって事で」


 ジンはこうしてお礼を言われることになれていない。気恥ずかしさを誤魔化すというか紛らわすために彼女達のステータスを見てみる。


◇  ◇  ◇


サテラ=ミル=クルス  種族:人間 性別:♀ 年齢:8歳


レベル:14

HP :190

MP :190

STR:190

DEF:190

RES:190

AGI:190

INT:190


称号:ガロリド皇国第五皇女 魔法狂い


コモンスキル


・戦闘スキル

棒術(Lv1)

拳術(Lv1)

剣術(Lv3)


・魔法スキル

魔術(Lv5)

水魔法(Lv2)

地魔法(Lv3)

風魔法(Lv3)

魔力操作(Lv5)

魔力感知(Lv6)

魔力視認(Lv1)

魔力回路形成(Lv2)



・生活スキル

鑑定(Lv4)

計算(Lv6)

舞踏(Lv4)

話術(Lv5)

読み書き(Lv8)

共通語(Lv8)


・創作スキル

編み物(Lv6)

裁縫(Lv5)

園芸(Lv4)

魔道具制作(Lv2)


固有スキル

王族威光(Lv2)


ギフト

なし


・装備

武器:ミスリルの短杖

防具:シルクのドレス

アクセサリ:防魔の腕輪


◇  ◇  ◇

 

エリーゼ=レズモンド(前世:神田 美奈) 種族:人間 性別:♀ 年齢:7歳


レベル:25

HP :300

MP :300

STR:300

DEF:300

RES:300

AGI:300

INT:300


称号:異世界転生者 レズモンド公爵家次女 


コモンスキル


・戦闘スキル

短剣術(Lv3)

棒術(Lv1)


・魔法スキル

魔力操作(Lv7)

魔力感知(Lv3)

魔術(Lv5)

風魔法(Lv5)


・生活スキル

鑑定(Lv5)

計算(Lv9)

舞踏(Lv7)

話術(Lv8)

読み書き(Lv8)

共通語(Lv8)

隠蔽(Lv10)

料理(Lv6)

掃除(Lv5)


・創作スキル

編み物(Lv6)

裁縫(Lv5)

園芸(Lv4)


固有スキル

異世界人補正

神田(かんだ) 美奈(みな)

目覚めのキス(Lv2)


ギフト

風神の祝福


・装備

武器:賢樹の短杖 疑神暗器

防具:シルクのドレス

アクセサリ: 追い風のネックレス


◇  ◇  ◇


(こんなところに転生者がいた)


 幸か不幸か、予想していなかった出会いに、普通に王侯貴族と接するよりも緊張度が増した。

 しかも、ジンが王族とこんなまじかで、話をするのは、人生で初めてである。緊張するなという方に無理がある。


「この先に東ですと、ルーカスの町でしょうか?」

「そうですね。調べたら、色々な人種の人が集まる町らしいですから、あそこからなら冒険者を始めるのに面倒ごとが少なそうなので、お供と一緒に始めようと思いまして」


 関係性に関しては、食い違いが起こるといけないので、出発前に話し合っていた通りに答える。


「ああ、すいません。遅れてしまいましたが、自己紹介させていただきますと。レズモンド公爵家次女のエリーゼと申します」


 白髪の少女——、エリーゼが遅い自己紹介をはじめ、


「現皇王、ガイド=ミロ=クルス=ガロリドが孫娘、サテラ=ミル=クルスですわ」


 続いて、オレンジ髪の少女――、サテラが自己紹介を済ます。そして二人は期待を帯びた眼差しで、ジンの事を見つめる。ジンは苦笑いしながらも口を開いて期待に応える。


「初めまして。リョウと申します。貴族ではないので申し上げられる家名はございませんが、皇女殿下と公爵令嬢のお二人にお会いできて光栄であります」


 恭しい態度で、二人の前に跪いて自己紹介する。ジンは何となくままごとをやっているような気分になった。

 すると、ここで公爵がアスタルテを連れてこっちに来た。


「いや、リョウ君。娘と皇女殿下のお相手ありがとう。本来なら、うちに来てもらって色々なことを聞かせてほしいんだが、何やら予定があるそうだね。手持ちにあるのがこれしかなくて申し訳ないが、治療費と報奨金を合わせたものと、これは我が公爵家のメダルだ。どこかで、問題が起こったなら私たち公爵家の人間が、その後ろ盾になろうという証明のようなものだと思ってくれ」

「ありがとうございます」


 そう言って、公爵はそれらを強引にジン達に押し付ける。ジンは呆けた態度で受け取り、反射的にお礼を言った。


「では、我々も行くとこがございますから、この辺で失礼させてもらいましょう。さぁ、エリー、サテラ様、馬車に戻りましょう」


 公爵は予定があるのか、ジンに二人を近づけさせたくないのか、サッサと二人を連れて、その場を立ち去って行ってしまう。

 立ち去って行ってしまった公爵たちを見送り、ジンがアスタルテに話しかける。


「ラッキーだった、て、考えるべきかな?」

「公爵家の後ろ盾なんて、普通は取れるものではありませんからね。運が良かったのでしょう」

「なんか、こう、運がいいとさ、後になって不幸になりそうで、怖いよね」

「それは、感性の違いなのでは?今の幸運を、感じたからこそ普通の出来事を、辛く感じてしまうのだと思います。幸か不幸かなんて、本人が決める事なんですから」

「そうか……」


 達観しているな、と思ったが、詳しくは聞いていないが28歳で死んだ自分とは違って、少しくらいは長く生きているはずなので、精神年齢に関しては自分よりは大人なはずである。そう思うと不思議じゃないのかと、考え直して、頭をかく。


「取りあえず、出発するか」

「そうですね」


 想定外のトラブルに首を突っ込んだが、結果的にはプラスになった出来事である。ここは気持ちを入れ替えて、目的地に向かうのがベストだろう。


「そういえば、最初の抜刀、あの技はどうやって使ったんです?」


 アスタルテは気になっていた事を聞いてきた。


「難しい事じゃないよ。少し危険だけど、レールガンみたいに電磁力で加速させて、打ち出すように抜いて、切りつけたんだよ。刀なら、もうちょっとスッパリ斬れるんだけど……」

「…? 剣と刀って何か違いとか、あるんですか?」

「う~ん。いまの所は、感覚的な違いかもしれないけど、刀は斬撃、剣は刺突に特化している感じかな?まぁ、こっちに来て、初めて剣を触ったし。色々、体験しないと分かんないかな?」

「なるほど」


 そうして、その日の夕方には冒険都市ルーカスにたどり着いた。


*  *  *


「ふふ、あの方たちは、楽しそうな方たちでしたね」


 サテラはご機嫌な顔で、向かいに座るレズモンド公爵とエリーゼに語りかける。


「結局、あの剣技に関しては聞きそびれてしまいましたね」


 肩をすくめて、少し残念そうに受け答えるエリーゼ。


「私の憶測でよければ、申し上げられますがいかがいたしましょう?」


 レズモンド公爵は、ジンの戦い方を鑑賞出来ていたため、自分の中で仮説を立てていた。

 サテラが「よろしく頼むわ」というと、「御意」といって自分の考えを話し始めた。

 簡単にまとめるとこんな感じ。


・雷の魔法を、剣と体に纏わせて切り捨てていた。

・閃光と轟音で、敵、味方問わずダメージを与える。

・密集しているのなら、そのまますべての敵を切り捨てることも可能であろうという事。


 そこまで公爵が話し終わると、サテラ達に目を向ける。


「私もその通りだと感じました。ですが、そんな事をしたら体を常時攻撃し続けるようなものよ。まともな人間の思考だとは思えない。それに私たちが近づいた時には、彼はどこにもけがを負っている様子は見られませんでした。雷に強い耐性があるのか、それともそういった魔道具でも所持しているのか」

「魔道具だったら、そういった道具を付けているようには見えませんでしたよ。手や足には、装備品は見えませんでしたし。指輪とかの装備品もなかったですし。後は、雷耐性が高いから、でしょうか?」

「それもあるだろうが、私たちが鑑定したときは、そういった耐性の項目は見えなかった。つまり、私たちには見えないように隠していたという事になる。鑑定は万能ではないが、見えないのであれば見ることは出来ない様になっている。鑑定遮断のスキルは、隠す事しかできない。鑑定偽装なら、鑑定の結果に偽の情報を映し出せるが、年齢的に無理がある。鑑定遮断をレベル10にあげて、魔力操作も極めないといけない。そうなると、それだけを集中してあげていったとしても5年はかかる。あそこまでの剣術も極めるとしたら、かなり特殊な環境じゃないと育てることは出来ない」

「公爵は、彼がどこからか送られてきた刺客だと思うのですか?」


 サテラは、公爵を咎めるように視線を向けて問いかける。


「いえ、個人的にはその可能性は低いかと」

「どうしてですか?お父様」


 ジンを刺客と断定していたような口調であったのに、それを180度転換させて別の意見を言う父親に、問いかけるエリーゼ。


「先ずは彼らの行動理由だ、多分だけれど嘘はついてない。偶然に発見したのを、好奇心で近づいて倒したと、言っていた。恐らく、我々に恩を売って内部に入り込もうとしているわけでは無く好奇心で近づいた、もしくは遠くから上位個体の出現が見えて手助けするために登場したのか。まぁ、いずれにせよ我が家に取り入ろうとして戦闘に介入したのではなく、ほぼ善意で、こちらの手助けをしてくれたのでしょう」

「他の理由は何ですの?」


 先ず、というからには、次があるのだ。サテラにはそちらの方が、本命に思えて問いかけた。


「腕試し、でしょうな」

「腕試し、ですか?」


 何となく、納得がいくようないかないような、そんな気分になって不思議そうに小首を傾げる。


「彼が使っていた剣技。あれはどこの国にも、あんな危ない剣術を平気な顔して使える者はいないでしょう。実戦では初めて使うため、取りあえずの実験体が欲しかったのではないかと。あの攻撃を受けられるものなど、武器も含めて限りがあるでしょうからね」

「では、お父様。彼らをここで、放してしまってよかったんですか? あの年であそこまで有能な人材なんて他にいないと思いますが……。他に取られてもよいと?」


 エリーゼは人材の流出を懸念した。


「そうは言ってない。そのための布石として、あのメダルを授与したのだ。ああいう相手は、下手に権力でいう事を聞かせるよりも、自分の所に来るのを待ちの姿勢が正しいだろう。来てもらえたら儲けものと考えていた方が、負担とかも少ない。メダルを渡したんだし、敵対する気はないという事だけ伝わっていればいいよ。彼と敵対する道なんて、良い事なんて一つもないわけですし」

「そう、ですか」


 一先ずは、それで納得しようと、エリーゼは飲み込むように頷く。


(あの時の彼の後ろ姿。あの時の、あの人みたい、だったけど)


 エリーゼは、自身の記憶から、前の自分の記憶を思い出し、かぶりを振ってその記憶を追いやる。思い出しても意味がなく、考えるだけでもむなしい記憶だから。そっと蓋をするように、別の事を考え始める。けど、彼女の脳裏には、自分たちを必死で守るあの姿がちらついていた。


「まぁ、お二人は学園を飛び級でご卒業したのですから、今は見聞を広めていくことがよろしいでしょう。この視察が終わったら、エリーは都市の代官と、商会経営を始めるし、サテラ様は城で魔法の研究を続けていかれるのでしょう? 今回の事の様なイレギュラーなことに遭遇出来て、見識を広められて良かったと考えるべきですな」


 娘の表情の変化を察したのか、公爵は陽気な声を出して話題を変える。


「そういえば、エリー。貴方は、自分の商会の名前はもう決めたの?」

「え?ええ、一応決めましたよ」

「そうなの?だったら、教えて頂戴!」


 サテラは、少しワクワクしたように、エリーゼに彼女の商会の名前を尋ねる。


「私の商会の名前は、カンダにしようかと」

「ふ~ん。なんか意味があったりするの?」

「特には。強いて言えば、何となく、でしょうか?」


 エリーゼは、静かに微笑み決めた理由を伝える。


「一応、大事な事なんだし、理由もちゃんと会って決めた方が、良いと思うけどね」

「それは人によるんじゃないですか?まぁ、経営し始めたら、中々貴方様とも遊べなくなってしまいますが、よかったら遊びに来てくださいますと嬉しいです」

「ふふ、だったら頻繁に遊びに行っちゃおうかしら。だったら、貴方もちゃんと私に顔を見せに来て頂戴。貴方だったらちゃんと歓迎するわ」

「お互いのお母様に、怒られない程度だったら、私は構いませんよ」


 可愛らしく微笑みながら、お互いに、遊びに来てほしい、と誘い、それを承諾するエリーゼとサテラ。

 公爵は、そんな二人の様子を微笑ましそうに、朗らかに笑って見守っている。


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