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勇者の守護者〜誰かのために出来る事〜  作者: Dr.醤油煎餅
第一章 成り上がりの守護者
15/151

番外編1-1:盗賊退治、その報酬

 最近、ここら辺にいる、盗賊が活発に行動している。ジン達は、それを狩りに来た。

 理由は、いくつかあるが、最大の理由は、レベル上げと金を用意する為である。程度にもよるが、盗賊を狩ればレベルが上がるし、捕まえて売ればいい金にもなる。

 情報は、最近有名になっている為に簡単に入手できた。活動範囲から、大体の拠点の位置も特定できた。今日はアスタルテもいる為から多少の無茶もできる。懸念点は盗賊に対して領主の動きがない事だろう。


「う~ん。三つ位潰したけど、有力な情報はなしか」

「簡単に決着が着くとは、思いませんよ。この盗賊団は、何か所にも拠点を作って。策を張り巡らして、奇襲や略奪を繰り返しているようですから。全滅させるのは、相当難しいはずですよ」


 潰し終えた盗賊から、情報を聞き出していくが、本拠地に繋がるような、有力な情報は得られない。手に入れられた情報と言えば、盗賊団の名前は『骸骨団(スケルトンズ)』。(名前からして、海賊の方に付けられそうなもんだが。其処には突っ込むまいと、二人は思った)それと、棟梁は、レベル78らしい。

 だが、ジンには、メニューからの、マップがある。集団の名前が知れたのであれば、それを検索して、全拠点と関係者の位置を全て特定できる。

 それを、思って、ジンは検索を開始した。

 すると出るわ、出るわ。総勢五百人規模のかなりの大型の盗賊団で、拠点の数は大小合わせて、20個以上ある。二時間くらい観察してみるが、棟梁は、大きな拠点を中心に見回っている。たぶん、大きい拠点で、小さい拠点の状況を見回っているのだろう。それぞれの繋がりが強い。となると、即行で仕掛けないとバレて対策されるだろう。

 ふとマップを見ると、棟梁のいる位置が変わっていた。マップ上だと森の中に建っている、何かしらの大きな建築物の中だ。調べてみると其処に繋がる道が隠されるように小道が作られていた。招待が出来る道なのだろう、。マップ情報から見てみると、どうやら奴隷商会のようだった。こんな森の中に作られていて盗賊団の棟梁が関わっているとなると、真面目に商売しているようには感じない。

 ジンは、アスタルテにマップを見せて、情報を共有する。


「この情報によれば、この奴隷商会は、まともな経営を行っていないようですね。国に、報告すれば対策してくれるでしょうが。まぁ、この手の商人は、裏で貴族とつながっているのが相場ですね」

「じゃ、どうしようか?」

「こいつらの存在をすべて公表して、その貴族の存在を明らかにした上で、全員殲滅する必要がありますね。私の空間転移で、この棟梁が奴隷商館に籠っている間に、すべての拠点を制圧、確保するのがベストでしょうか?」


 アスタルテはスキル『偽る魔術師』を使って空間の存在を騙し、空間に直接穴を開けることが出来るようになった。ジンも習ってはいるが、まだその域までは習得できていないので、今回の作戦は機動力に関してはアスタルテ頼りになる。

 取りあえず、作戦を立てる必要があるので、近くの町へ転移して、宿を取って休むことにした。その日は作戦を立て、二日後に作戦決行だと決めた。


*  *  *


 この日、日中から骸骨団は宴をしていた、だいぶ前に、上物の女を奴隷商会が仕入れたので、気分が良いと、大金を恵んでくれた。これはもう宴会をするしかない。そう思って、町中から略奪してきた、酒を用意して、つまみを用意して、昼間から宴会を始めた。他の拠点でも同じようになっているだろう。

 村から攫ってきた少女を侍らしたり、(もてあそ)んでいたりしながら、下卑た声を上げて、それぞれが宴会を楽しんでいた、付き合わされる少女たちは、何も楽しくはないが。

 まぁ、お天道様は見ているというか、何というか、そんな宴会も、数分後に終わりを迎える。空から降ってきた、黒い人影によって。


「あ~あ。数は、多かったな。捕らえた奴は、ひい、ふう、みぃ、っと、う~ん、人数はかなり多いな、取りあえず、日中は棟梁があそこに籠っているから、その内に殲滅するために頑張るか」


 気乗りしない様子で、襲撃してきた顔を隠した少年が、剣を振って血を払う。

 その様子を遠巻きに、捕えられていた少女達が、安堵半分、恐怖半分に様子を見ていた。

 その後、少年が黙祷して、立ち去った後には、顔だけ出して、苦悶の表情で埋められている、盗賊達だけ残っていた。


*  *  *


「いや~、旦那!!もう直ぐ、オークションが開催されますな!!」

「はっはっはっ、よかった、よかった。こうして、数は揃えられていたのだからな。終わった後も、また頼むよ」


 上機嫌に、ジョッキを片手に、太った男一人と、筋肉質な男二人が、笑いあっていた。


「それにしても、こんな状況になっているっていうのに、国軍は何しているんでしょうねぇ~」

「ふっ、お前~、それは、俺たちが、このあたりの領主の娘を誘拐して、脅しているからだろぅ」

「「「ぎゃははは!!!」」」


 汚い笑い声で、国軍が動かされない理由を語っていく。


「あ!やべぇ、もうこんな時間だ。旦那、すまんが、俺は此処で失礼するぜ。新しい奴らも、ちゃんと調教しておけよ」

「ふっ!わかっておるわい」


 そう言って筋肉質な男の一人が、立ち上がると、一瞬で消えた。


「相も変わらず、便利なスキルよのぉ」


 ニヤニヤ笑いながら、羨ましそうな声で、盗賊団の頭らしき人間を褒める。


*  *  *


 棟梁が、定期見回りに来ると、いつもと様子が違った。警戒する為、何時ものように少し拠点たちから、離れた位置から、様子を観察する。いつもなら、警戒しているが、騒がしい声が聞こえてくるモノなのだが。今は、何も聞こえず、不気味な程静かだった。


(寝てる訳じゃねぇ。なんか、おかしいな。見張りもいないとなると、なんかあったのか?)


 そう思って、警戒しながら、確認するために拠点に近づく。

 拠点の中を見ると、あり得ないはずの光景が目に映っていた。


(おい! あの小娘。領主の娘じゃねぇか!)


 森の洋館の地下に幽閉してあるはずの領主の娘が、見張りもいなく拠点の中心で佇んでいた。


(ちっ!あのデブの所為か?だが、今日の朝はいたが、どうやって抜け出してきたんだ?)


 仲間になっている、奴隷商人の事を思い浮かべる。が、そんな事をしても奴にメリットもないし、小娘が自力で抜け出せるとも思えない。


(ああ!もう、分からねぇ!とにかく、確認することが先だ!)


 酔いが残っているのか、投げやりな思考で、不用意に近づいていく。


「おいおい、お嬢様、こんなところでどうしたのですかねぇ?良ければ、私が、あるべき場所へお送りいたしましょうか?」


 鼻につく声で、妙に芝居がかった、所作で近づいて、領主の娘らしき人物に声をかける。

 だが、領主の娘らしき人物は、まるで人形のように動かない。ただ、最初に見かけた通りに、微笑みながら、地面に腰を下ろしていた。()()()()()()()()()()()


 そこから先は、棟梁にとって運が良かったとしか、言えない。

 突然、領主の娘が、閃光と轟音立てて、自爆した。いや、肉片は飛び散らなかったから、爆弾が爆発しただけなのであろうが。

 棟梁は、間一髪、短距離転移で、逃げ出した。棟梁の固有スキルは、『転移』。魔力を使って、自身が意識した場所へ、移動ができる。魔力の消費に応じて、跳べる距離が変化する。

 棟梁は、転移が出来たはいいが。転移した先は風下だったようで、燃え盛る炎と、黒煙が向かってくる。


「くそっ!」


 棟梁は、もう一回転移して、風下から逃れる。


(なんだ? 国軍の仕業か? だとしても魔力が感じられなかった。マジで、何がどうなってやがる!?)


 酔いは完全に冷め、落ち着いて周囲を見渡す。魔力を全身に纏わせて、身体能力を向上させることで、警戒範囲をさらに広げる。


プシュッ


 若干、気の抜ける音が鳴ったかと思ったら、自身の右足から、力が抜けた。


「ぐっ!」


 その後、燃えるような痛みが襲ってきた。


「おい!コソコソ、隠れていねぇで!出てこい!」


 棟梁は、近くにいるかどうかわからない、襲撃者に向かって激昂する。修羅場は、切り抜けてきたのだろう。彼は、激昂しながらも、冷静に事態の把握に努めて、周囲を警戒する。だが、彼が確認できる範囲では、何かがいるような気配は、感じられない。


プシュッ、プシュッ、プシュッ、


 また、気の抜けるような音と共に、棟梁の四肢が使えなくなっていく。襲撃者は、棟梁を生かして捕らえられたいのか、急所は外して、狙っているようだ。

 棟梁は焦っていた。相手がその気になれば、自分など瞬殺だろう。ここまで、されて生きているのは、相手側に何らかの思惑があるからに、違いはない。ならば、どうするか、冷静に頭を回す。

 すると、ガサッと、音がして草むらから影が現れた。

 影の形はヒト型で、棟梁よりも背が低く、まるで子供のような姿をしていた。影の手元には、剣が握られていた、特に意匠も、飾りも凝っていない、武骨な剣だった。

 影が現れたと当時に、足元が歪んでいく。地面が歪み、さっきまでそこにはなかったものが、現れ始める。


(生首!?)


 現れたのは、彼の部下の生首だった。いや、正確には、首を地面に埋められて、いる彼の部下たちの姿だった。盗賊達は、さっきの爆発でモノが飛んできたり、炎で燃えたり、棟梁が暴れたことによって、顔にけがを負っているものがたくさんいた。だが、うめき声を上げることなく、その場で身じろぎせず埋まっている。


「おい!こ、これは、お前がやったのか!?どうなんだ?!」


 影は、頭領に質問されても、何も返さず、一歩、一歩、ゆっくりと近づいていく。


「動くな!動くんじゃねぇ!」


 焦りを前面に出して、喚き散らし、大声を上げる。冷静な思考は吹っ飛んで、身の保身のために喚く。さっきまで、酒盛りを楽しみ、他者を陥れることに快楽を感じていた者の姿はない。いるのは、四肢を使えなくされ、ただ、目の前の者に、恐怖し、自分の命を握られた、敗北者の姿だった。


「ま、待ってくれ!なぁ、おまえは、どこかの村の、生き残りか?なぁ、その時は、悪かったよ。だからって、これはないだろう。なぁ!!命は、命だけは見逃してくれ!」


 見逃してくれ、と見苦しく喚き続け、自分がやってきたことに、何の反省もなく、図々しく命乞いを続ける。

 影は、何か感じたわけでもなく、歩を進めて近づいていく。そして、棟梁に手を付けて、魔力を展開させ、地属性の魔法を発動させた。棟梁の周りの地面を陥没させていき、棟梁を生き埋めにし始める。


「待て! なんだこれは! 出せ! 出せ!」


 棟梁は、見苦しく騒ぎ続けるが、やがて、何処からか現れた“手”に、頭を掴まれて、表情が変わっていく、始めのうちは、不愉快そうに大声を上げて、抵抗していたが。段々と、生気は抜け落ち、声は出さず、苦悶の表情を浮かべて、周りの生首と同じようになっていった。

 最後は体を埋められ、頭だけの苦悶の表情を浮かべた、物言わぬオブジェになっていた。


*  *  *


 ジンとアスタルテは棟梁を捕縛して地中に埋めた後、森の中の洋館に向かっていた。

 洋館の中には、年齢層が若い女性が多数捕まっていた。扱いがひどいのか、病気やけがを負っている者も少なくは無い。

 ジンは、まず洋館周辺の警備状態を確認した。警備は森の中だからなのか少ないが。それぞれの侵入経路を手練れが塞ぎ、各地を巡回の警備員が見回って異常を確認しあうという布陣で中々に統率の取れた動きで、油断なく洋館を警備していた。これでは何処か一点でも騒ぎを起こせば、直ちに全警備が駆け付けてくるだろう。仮に警戒をかいくぐって入っても、何かしら罠や警備員がいるのだろう。

 まぁ、姿を消せるアスタルテとジンには関係ない。既に何回も侵入して、マップも使って洋館内の間取りと周辺の地図を確保して、作戦立てて殴り込みにきているので、今更どうということはない。

 今回は仕上げとして来ている為、いつも通りの警備状況なのであれば、ありがたい。

 監視カメラの様なものは無いが、洋館内の重要な部屋の周りには魔力でできた薄い膜で覆っているように見える。

 恐らくは、結界とかそういうモノの類だろう。ヘレンには習ったがそこまで詳しいことは分からない。何の対処もなしに侵入すれば、警報が鳴るとかそんな感じの効果だろう。下見の時にも見つけていたが、結界は発動させずに、館内を見回るだけにしたので、結界の内容までは知らない。

 まず、ジンとアスタルテは、屋上へ行き。侵入経路と失敗時の脱出経路を確保する。その後、それぞれ姿を消し、各々の仕事に取り掛かっていく。


*  *  *


 この隠れた奴隷商会を取り仕切っているのは、でっぷりと太った動く樽――、いや、男だった。

 この男は、戦争地を巡って、敗戦しそうな国の、貴人や若い娘を攫うなどして、大量の奴隷を抱えている。その他に、各地の村を襲っている盗賊と取引するなどして、何もしていない人間も、奴隷にしたりと、やりたい放題していたりする。しかし、そう言ったルートの奴隷を高額で売るのは正規の手続きでは不可能。そのため、客は会員制で、彼のお眼鏡と信頼に見合った金持ちしか招待しない様にしている。

 しかも彼はさらに用心深くしており、護衛に傭兵を専属で雇い入れ、森の奥に牢屋の洋館を立てて、国の目から逃れるようにした。洋館内の重要な部屋の中には、貴族御用達の結界装置を使用して、さらに警戒の度合いを上げている。しかも、ここの領主の娘を取引している盗賊が誘拐してきて、より商売がしやすくなった為、もっと勢力を拡大させようとしている。

 そろそろ、休憩をしようと、呼び鈴を鳴らして、奴隷の少女を呼び寄せた。

 だが、来ない。億劫そうに、もう一回呼び鈴を鳴らす。だが、まだ来ない。痺れを切らして、立ち上がり、部屋の外へ出て、奴隷たちを呼びに行こうとする。


「おい!呼び鈴鳴らしたら、す、ぐ、こい、……と、っ!」


 扉を開けて、最初に見た光景は、両手を広げて、口にU字型のくさびを打ち込まれて、壁に両手を広げて磔にされている、雇っていた傭兵の頭だった。


「おい!ここで、何があった?おい、答えろ!」


 傭兵の頭は、答えない。焦点の合わない目で、虚空を見つめて、何かに絶望しているようだった。これはダメだと悟った男は、その場に傭兵を捨て置いて、屋敷を見回ろうと、歩を進める。だが、奴隷商人の雇っていた、傭兵たちは全員頭と同じように磔にされていて、虚ろな目になっていた。

 奴隷商人は焦り、急ぎ商品の様子を見るために、ロビーの方へ急ぐ。

 最近、走っていなかったので、横腹が痛くなっていく。そして、重い体を動かして、ロビーに到着する。しかしそこには、商品はいなく、磔にされた傭兵だけが残っていた。


「なんだ!? どうなってんだ!? 商品が居ねぇぞ!? おい、てめぇら!! 起きろ!起きて、さっさと、商品探してこい!」


 奴隷商人は、叫ぶが、誰も返事はしない、静寂が返されるだけだった。


「くそがぁ!何がどうなってやがる?」

「奴隷が全員いなくなっていて、傭兵全員がのされているんだよ。見て分からないのか?」


 奴隷商人を、小馬鹿にしたような、子供の声が聞こえる。


「だれだ!?」


 奴隷商人は、慌てて辺りを見回す。


「どこだ!?どこに居る!?」


 奴隷商人は、焦り散らして怒鳴るが、見つからない。


「ここだよ」


 子供の声が、奴隷商人の後ろから響いた。奴隷商人は、慌てて後ろを振り向き戦慄する。


「さ、サラブ!!」


 彼の後ろには、クモの糸に吊るされている様に、天井から吊るされていた、盗賊の棟梁の姿があった。その棟梁は、レベルが70は超えていて、固有スキルもそれなりに強力なものを付けている。負ける筈はない、そう思うが、現実は無情であった。

 ふと、目線を少し下に向けると、其処には、まだ子供であろう体格のナニカが、階段の上に座っていた。黒い覆面、黒いローブに黒い靴、ローブの隙間から見える服も、あまり目立たず地味な色合いなのがわかる。ナニカは何もせず、ただそこに座っているだけであるが、奴隷商人の直感が告げていた。


“こいつにだけは、手を出すな”


 奴隷商人の男には、傭兵たちの様な、危機感知スキルはない。ただ、ナニカが放つ恐怖だけで、体が竦み、喉が枯れ、漏らしそうなほどに体から力が抜けていく。危機感知というよりは、本能に語りかけてくるような恐怖だけが、伝わってくる。


「お、お、お前は誰だ!? 何故、ここがわかった? 商品たちに何をした!?」

「うるさい。あくどい取引で連れてきたやつらなんだろう? 原価がゼロなら損はないだろ」

「ふ、ふざけるな! 大損させやがって! 大口の取引もあったんだ、どうしてくれる!」


 奴隷商人は、ワー、ワー、騒ぎ立てるがナニカは何もせず、挑発するように返す。


「そうか……、まぁ、残念だったな、か、自業自得だ。どっちかの言葉は言ってやるよ。好きな方を選びな」

「何を言う!貴様が、こんなことをしたのであろう!さっさと、商品共を返せ!その後は、お前を商品にしてやる!」


 最初の危機感は、既に失せたのか、だいぶ気持ちを盛り返して、腹を揺らしながら、そいつに怒鳴り散らす。

 階段の上から、動かないナニカは、ローブのフードの下から、冷めた瞳で奴隷商人を見続ける。何かに、飽きたのか、やることが出来たのか、億劫そうに片手を出して、握られているものを見せつける。


「おい!なんだ?それは、寄こせ!」


 そう言って、怯むことなく、奴隷商人は詰め寄る。高価そうなもので、記憶にはないが、多分魔道具なのだろうと思い、奪おうと無警戒に近づく。普段の彼を知るのなら、あり得ない行為だ。


バキュゥン、バキュゥン


 2度の何かが小さく爆発した音が響く。奴隷商人の体が、一瞬止まる。階段のそいつが両手で握っているモノの先端から、煙が出ている、爆発はあそこで起きたのだろう、自爆するとは愉快な、そう思い、また近づこうと思っても、足が動かない、というより感覚がない。足を見てみると、太ももの辺りから血が出ていた。気付いた瞬間、激痛が襲ってくる。


「ぎゃぁあああ!!」


 体をビクビクさせ、盛大に痛みを訴える奴隷商人。

 何かは、コツ、コツ、とゆっくり一歩一歩、近づいてくる。


「ひぃ、く、く、来るな!来るなぁぁ!!」

「安心しろ、殺す気はない」


 子供の声とは思えないほどに、低く、重い声が聞こえてくる。

 奴隷商人は、ビビッて、声を出せずにいた。息が苦しいのは、怪我の所為だけではないのだろう。鼓動がうるさく、目の前の視界がぼやける。普通に、息をしているだけでも苦しかった。


「な、何をする気だ?」


 さっきの言葉に、疑問符を浮べて首を傾げる奴隷商人。どうするかなんて、死ぬか、売られるかの、二つに一つしかないのだ、もうほぼ分かりきっている事だった。だが、一縷の望みをかけて聞いてみることにした。


「俺は、殺さない。お前に何か恨みがある訳じゃないからな。お前がどこで何しようと、俺に迷惑かけなきゃ、どうだっていい」



 酷く薄情なセリフだが、其処には何か怒りの様なものが感じられた。


「もう一度言うが、俺は別にどうだっていい。だが、お前の後ろに控えている奴らに関しては、どう思うだろうな。まぁ、俺にとってはどうでもいい。あいつらが何しようと、お前がどうなろうと」


 奴隷商人は、後ろを振り返った。其処には、さっきまで檻に入っていた、少女たちが、剣や槍、斧なんかをもって、控えていた。その目には、憎悪を湛え、剣呑な眼差しで、奴隷商人を見つめていた。


「待て、おい!私を助けろ!嫌だ、死にたくない!お願いだ、助けてくれぇぇ!」


 無様に助けを求めるが、それを聞くモノ等、誰もいやしないのだ。彼は、少女たちにつかまった。


「た、助け……、あぎゃぁぁ!!」


 最初に、斧で足を切断する。元々、逃げれる道理もないが、完全に逃げれる可能性がなくなった。次に、手を切り落とされる。


「ひぃぎぃぃいぃ!!」


 無様に悲鳴を上げて、痛みを訴える、だがそんな事では、この子達の恨みは晴れないのか、腹を刺したり、股間を刺したり、拷問を続けていく。

 ナニカは、何もしなかった。ただ、見ているだけ。手も貸さなければ、止めもしない、見ているだけであった。そのローブの奥にある表情を読み取ることは誰にも出来ない。


*  *  *


 さっきは奴隷商人に、アスタルテがテレパシーの応用で、軽率に動くように洗脳していた。そのため、普段は慎重に動くような人物でも、不用心に動いてしまう。それで、うまく捕獲できた。盗賊達と傭兵たちは、働き口がいくらでもあるから、売る場所には困らないが。奴隷商人に関しては、話術や詐術、計算ができる程度なので、知識奴隷にはなるかもしれないが、それでも売る場所に困るのは事実である。だから、傭兵と盗賊の頭は、見逃すために奴隷商人だけ渡したのだ。後で、社会復帰のための補助金を作るためにと納得させて。


(女って怖いな…………)


 ジンは、奴隷商人が使っていた、執務室の方へ来ていた。

(奴隷商人の方は、捕まっていた少女達が、外で丸太に括り付けて、火炙りにしている。……………生きたまま)

 執務室の中は、意外と綺麗で、それなりに整理整頓されていた。本棚にあった、書類を手に取り、読んでみる。それは顧客名簿だったようで、その者たちの事がよく調べあげられていた。中には、加虐趣味の者もいたようで、ジンには、想像もできないような事をして、買い取った奴隷を殺した人間もいたらしい。ここには女の奴隷しかいなかったが、男の奴隷も別の所に収容されている事もわかった。

 部屋の中を調べていき、机の引き出しの中にあった、レバーを動かしてみる。


ゴゴゴゴゴ―――――


 重い物を引きずるような音と共に、地下通路への階段が出てきた。ジンは、ランプを持って階段を下りていく。


 階段の一番下までくると、其処には鍵の掛かった扉があった。

 ジンは少し考えこむ。


(鍵の在り処を知っている奴は、外で焚火になっているだろうし。ここまで、隠された部屋だ。あいつ以外の誰かが、ここについて知っている奴もいないだろう。どうしようか)


 強引に抉じ開けてもいいのだろうが、何が待っているかわからない、この先に無策で突っ込むような真似は、なるべく控えたい。そうやって、考え込むこと、数秒。


(強引にいくか)


 結局、強引にいくことを決めて、扉に手を添え、力を加える。すると、扉に指が刺さって、食い込む。そのまま、力技で扉を外す。

 中に入って、最初に感じたものは、匂いだった。甘い物が腐ったような匂いがして、強いアルコールをかがされたように、少し立ち眩みがした。匂いの発生源を辿ろうと思ったら、部屋の中央に壺のようなものを置かれているようなので、取りあえず、それをインベントリに収めて周りを見る。

 鉄格子の付けられた、牢屋が六つ。その中には、元が貴族であっただろう女の子たち全員が、拘束されたまま、閉じ込められていた。拘束のされ方が、逃がさない様にする為よりは、調教する事が目的のように思えた。全員けしからん体勢で、熱っぽい眼差しをジンに向けていた。


(それよりも、全員名前がないんだけど、どうしたんだ?)


 ジンが、怪我や病気がないか、見るために、全員のステータスを見るが、全員名前が消えている。どういうことかとも思ったが、すぐ後ろから味方が、その答えをもってきた。


「ご主人様。別の部屋で、こんな物を見つけました」


 後ろに出てきたのは、大きな水晶玉を持った、覆面を被った少女——アスタルテが、来ていた。

 大きな水晶の名前は、『名消しの水晶』。名前を消して、その者を従属させるというものだった。取りあえず、名前だけ見ても良いものだとは思えないので、すぐさま破壊しておく。

 破壊しても、周りには特に変化はなかった。名前を消された少女達の名前も、消ええたままである。


「う~ん、この水晶を破壊したら、全員の名前も戻るかと思ってたんだけど。そう上手くはいかないか」

「まぁ、これを破壊できただけでも、良いんじゃないんですか?新しくあくどい商売する者もいなくなるでしょうし」


 悩ましげな顔をするジンに、フォローを入れてやるアスタルテ。本当は、壊さないで調べた方が良かったのかもしれないが、そこは言わないアスタルテであった。


「あ!持って帰って調べた方が良かったかも。でも、すぐに直せなきゃ意味ないか」


 今更ながらに思ったが、破壊した後だったし、すぐに直せなければ意味はないと思いなす。気を取り直して、牢屋のカギと、拘束具を外していく。外し終わった少女達は、糸が切れた人形の様にぐったりしていた。

 取りあえず、軽度な少女から話を聞いていく。


「大丈夫ですか。起きてください、大丈夫ですか」


 一先ず、応急処置の要領で、肩を叩いて起こす方向で攻めてみる。


「う、……ん、うん?うっ!はぁ、はぁ」


 なにか嫌な夢を見ていたのだろうか、起きた時には、汗がにじんでいて、焦っているように見えた。


「お!起きたね。だいじょうぶ?記憶はある?体調や記憶に変わったところはない?」


 起きたての少女に、質問を言うが、少女は現状を飲み込めていないのか、困惑したまま呆然としている。


「ご主人様。それ以上近づいてもいいのですか?」


 ジンはそう言われて、自分の様子を見てみる。

 ほぼ半裸の少女を、壁際に寄せて、襲い掛かるような態勢で質問をしている。


「ああ、ごめん」


 そう言って、サッと離れて、たちあがる。少女の方も、思いのほか、ジンの身長が小さかったことの驚きながらも、服を整え同じように立ち上がる。


「この度は、お助けいただきありがとうございます」


 少女は、礼儀正しくあいさつした。その所作は、気品があり、とても洗練されていると感じていた。


「いや、気にしないで下さい。自分も、ここら辺に用があったので」


 そう言って、適当にはぐらかしておくジン。言葉が丁寧だったので、つられて丁寧になる。


「ところで、なぜこんな所で捕まっていたのでしょう?借金していたとか?」


 ジンは、余計なことを聞かれる前に、気になった質問をしておく。


「いえ、私の国が戦争で負けてしまって、その時にここの奴隷商人が私と侍女を捕らえて、奴隷にしたんです」


 弱弱しく微笑み、言いにくそうに口を開いて答える。


「すいません。言いにくい事を聞いてしまって」

「いえ、もう過ぎている事ですので、気にしないで下さい。それにここで助けてくださって、とても感謝しています」


 申し訳なさそうな声で謝るジン。隣にいたアスタルテも、頭を下げている。だが、少女は助けたことの方に感謝していて、頭を下げ返している。


「じゃあ、侍女さん達の方へ行きますか?」

「はい。お願いいたします」


 少女は、背伸びしているようなジンの態度を微笑ましく思って、ジンに先導をお願いする。

 そう言われたジンは、取りあえず少女全員をそのまま連れていき、ロビーに連れていく。


「貴方達!」


 そう言われて、ジンが連れてきた少女達は、ロビーにいた少女達に合わせてみた。そうすると、全員は名前を呼ばないが、相手の事は認識しているという奇妙の状況が出来ていた。


「やっぱり、これもあの水晶の影響なのかな?」

「まぁ、そうでしょうね。何となく、感動の再会といかないのが、モヤモヤしますね」

「元凶を倒したんだし、これから少しくらいは、そういう事に合わされる人たちも減るんじゃない?」

「そうだと良いんですが。この後の国軍の動き次第でしょうね」


 今二人は壁際によって、再会を邪魔しない様に控えている。


「あの、ちょっといいですか?」


 少しした後、地下室で話した少女が声をかけてくる。


「足りない人とかいましたか?」


「いえ、そうじゃなくて。あの……、その……ね?」


 何となく、言いにくそうな雰囲気があり、モジモジしていた。そうすると、後ろからアスタルテが小声で、助言してきた。


「拉致した奴隷を所有している人物を捕まえた場合。そいつが元々持っている、正規の奴隷も一緒に回収できるんです。彼女たちの場合は、戦争奴隷で、違法性に関しては弱い方でありますから、開放するも所有するもあなたの自由です」


 つまり、彼女たちを、開放するも、隷属させるも、ジンに自由だという事だ。

 だが、ジンに人を従属させて喜ぶ趣味もないので、面倒だからとっとと解放しようと思ったが、ここで少し問題が出てくる。


「ああ、そういえば。全員名前を消されているんだっけ」


 名前がないというのは、中々に不便である。名前が無くても雇ってくれる所もあるかもしれないが、確実にまともなところではない保証付きである。


「名前は付ければいいんじゃないんでしょうか?」

「いや、ペットに付けるとか、そういうんじゃないんだよ、変な名前とか付けたらかわいそうじゃないか」

「ですが、今回の件で、所有権は貴方にあるのですから、命名権は貴方にあるのですよ」

「ネーミングセンスに自信ないんだけど………」


 自信なさそうに呟き、名前を付けるのを嫌がる。すると、さっき話しかけてきた少女が、また話しかけてきた。


「あの。私たちは、名前をもっていませんので、出来れば何でもいいのでつけてくださると嬉しいのですが」


 少女達は、数十人はいる。知識は大量に詰まっているとはいえ、人に名前が付けられるほどに語彙がある訳ではない。ましてや西洋風の名前である、思いつくはずがない。


「もう、めんどうなので。和風の名前でもいいのでは?」

「ええ?いいの?」


 そう言って、ジンは捕えられていた少女達に、目を向ける。


「どういう風な、名前になるのか分からないので、例を挙げてくれると助かります」

「その前に、きみ達についてた名前はどうなっているの?」

「全員忘れている状態です。誰がどういう関係だったか、分かるのですが、名前に関する記憶が全て消されているのです。なので、誰も、誰が、どんな名前だったかが、わからないのです」


 そう言われて少し考える。そんなことが出来る魔道具となると、古代の魔道具になる。説明は省くが、効果が強力なものが古代の魔道具には多く、管理が厳重だったりしたり、誰も取れないような秘境にある事が多い。そんなものを、一介の盗賊と組んでいるだけの奴隷商人が手に入れられるはずのない、シロモノだったりする。


「じゃあ、しょうがない。俺が名前つけるか」


 気になることを、一旦頭の中から追い出して、彼女たちの名前を考え始める。しかし、前世でも、今世でも、何かに名前を付けたことなどないのだから、そう簡単にいい名前など思いつかない。頭の中から、記憶を振り絞り、良い名前の案を出していく。


「よし!じゃあ、君の名前は、“ユリネ“にしよう」


 すると、先程から話していた少女の体を、淡い光が包んだ。光はすぐに止み、少し顔に生気が戻った感じになり、より健康そうになる。彼女のステータスを見てみると——、


◇  ◇  ◇


 ユリネ  種族:人間 性別:女 年齢:16歳


職業:無職


レベル:21

HP :260

MP :260

STR:260

DEF:260

RES:260

AGI:260

INT:260


称号:亡国の元令嬢 救出された者 名付けられた者


コモンスキル


・戦闘スキル

棒術(Lv2)

拳術(Lv3)


・魔法スキル

魔力操作(Lv5)

魔力感知(Lv3)

魔術(Lv5)

水魔法(Lv2)

地魔法(Lv1)


・生活スキル

鑑定(Lv4)

料理(Lv5)

掃除(Lv6)

計算(Lv6)

舞踏(Lv7)

話術(Lv8)

読み書き(Lv8)

共通語(Lv8)


・創作スキル

編み物(Lv6)

裁縫(Lv5)

園芸(Lv4)


固有スキル

なし


◇  ◇  ◇


 名前がついていた。自分のステータスも見てみると、[命名]のスキルがついていた。


(レベルが高いな。スキルも割と豊富にある。貴族の令嬢だったとしたら、割と平均的な能力なのかもしれない)


 ユリネを見つめ続けて、ステータスを見続け、考察する。


(そういや、魔力を消費した感じがあったんだよな。じゃあ、名前を付けるって魔力を消費するのか?でも、生まれたばかりの子に、魔力が足りませんとかだと、悲惨すぎるし。まぁ、生誕直後とかだと、魔力使わないで、名づけが出来るのかもしれないな)


 ジンは、ユリネの事を見ながら考え事をし続けるので、ユリネが自分の格好がおかしかったのかと、格好を確認するが、特に問題はない。そのまま、何とも言えない雰囲気を変えるべく、一人の少女が動き出した。


「あの、ご主人様。直ぐに他の子の名前も付けたらどうです?」


 アスタルテは、ジンが考え事をし続けていたことを見抜き、やることをすぐに済まさせてしまおうと、諫言を加える。


「ああ、すまん。じゃあ、さっきみたいな感じで良い?」


 そう言って、周りを見渡す。周りの少女達は、首を縦に振って頷く。どうやら、自分のセンスはおかしいわけでは無いようなので、順々に名前を付けていく。そうして、夜になり今日は、ここに泊まり込むことにした。少女達は、久しぶりに、満足のいく食事と睡眠をとることが出来た。その次の日に、後始末を済ませて領主の娘を近くの都市へ預け、これからの予定を立てることにした。

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