10話:完成、大衆浴場!!
ヘレンから魔術を習って少し経つとジンは自分の計画に色々問題がある事が分かった。風呂を作るとき一般的なのは魔道具を作ってそこから温水を放出して浴槽に溜めるのが一般的な魔道具の風呂だ。
「建物自体を魔道具にするのはあんまり一般的じゃないわ」
「そうなんですか」
「そうよ。先ず建物自体に魔術の効果を伝達させる方法はない。小屋位なら大丈夫かもしれないけど、大規模な施設になるとそれも困難。そこが最初の問題」
「………」
ジンは目線で続きを促す。
「次に能力を発動し続ける魔力が人間じゃ持たないわ、最低でも特級冒険者クラス。大規模な浴槽なんて魔力を馬鹿みたいに喰うし、貴方の考えていることが本当ならもっと魔力消費が高いでしょうね」
「ほうほう」
「この二つの問題から、建物自体の魔道具化は不可能。やれるとなってもそれを支える魔石はとても高レベルの物を要求されるわね」
「じゃあ、解決してみよう」
ジンは一枚の紙を取り出す。それはジンの予定している大衆浴場の設計図だ。モデルは日本の銭湯。それをかなり広くしたものを利用する予定だ。
「一つ目の問題は直ぐに解決できる」
「?」
「インク自体を劣化とかに強くさせる事もできるけど今回はコーティングして水、汚れに強くさせられる様にしてみよう。という訳で、実験」
手ごろな板にインクで魔方陣を描いてその上に新しく開発した塗装剤をかけてはがれにくくする。それに魔力を流し込むと風が吹いた。
「これが秘策?」
「はい。少し思ったんですが。別に魔石を利用しなくても魔術は発動するんですよね?」
「ええ、そうよ。札みたいなのが良い例ね」
「なら、インクを落ちない様にコーティングしてそれを建物全体に広げる」
ジン達は実際に模型を作ってやってみることにする。材料を用意して、組み立てをする。計算して魔方陣も指定のヵ所へ書いていく。そして魔力をながしてみると。
「成功したね」
「インクは流れちゃったけど、ウチの加工法があるから何とかなるかな」
「目隠し用に色々する必要もありますね」
「少し思ったんだけど、こういった活用法って生まれなかったの?」
「無いですね。始まって100年くらいの事だし、こういうのって元々貴族用に使われる技術だし。こういう方法があるってバレたら、他の貴族が狙ってくるかもね」
「そんなもんですか」
ヘレンは顎に手を当てて数瞬思考を巡らせる。
「うん。それを防ぐための方法を私が伝授しよう」
「ん?」
「私の家が事業としてやると言えば大概の貴族は手を出せなくなると思うわ。流石に王族ならどうしようもないけど」
「で、対価は?」
「もう少し、駆け引きに付き合ってくれてもいいのに………」
頬を膨らませて拗ねるヘレン。彼女は十二歳だが、貴族の娘なのかこういうのは抜け目ない。しかし、仕草は年相応の少女の様だ。
「で、対価の事ね。こんな施工方法が私たちの管理下にあるとしたら、工事の仕事とかも依頼されると思うわ。技術を秘匿したいなら自分達でそう言うのはこなしたいでしょ」
「まぁ、そうですね」
「私たちの管理下にあると思わせて、私の家が依頼を募集する。そのうえで仕事の依頼は受けるかどうかも合わせて貴方達が捌いて」
「利益の分配に関しては?」
「そうね………。いや、まだ止めておきましょう。そういうのはお父様と話して頂戴」
「了解です」
というよりも、技術の有用性を示さないと貴族は乗ってこないだろう。模型でいくら成功させてもそれでは机上の空論だ。
従ってジン達がやるべきことは、
「さぁ、建設開始だ!」
『おー!!!!』
* * *
ミルエット伯爵家の今後にも関わってくる事業である為、伯爵は人員を集めてくれた。大切な部分はジン達が施工するが建設に関してはあっちの方が玄人だ。大部分は任せてもいいだろう。内装と外装の装飾はジン達が担当して、魔方陣を敷く工程も同時にこなす。
建物に施す魔術は【水生成】【熱発生】【蒸気発生】【清潔化】【ろ過】【魔力増幅】【魔力吸収】【魔力貯蔵】【緊急停止】【老朽化防止】【強度強化】【魔術効果強化】の11個だ。魔方陣を組み合わせてそれらを一つの魔法陣に組み直す。効率を上げるための技術だとヘレンから習った。
工事開始から、数ヶ月後。
「かんせーい!!!」
『わーー!!!』
歓声を上げて、工事に関わった全員が大衆浴場一号店の完成を喜ぶ。
「それじゃ、使用してみよーう!!」
『はーい』
ジンの魔力を大量に注入する。発動には大量の魔力は必要だが、維持は建物内にいる人間から魔力を吸収する事で完了だ。
「完了だー!」
これで浴場施設は稼働した。工事に関わった人間に使用してもらう。入浴マナーは男湯はジンが、女湯はアアスタルテが教える。従わない場合は鉄拳制裁と番頭候補からの公開ディープキスの刑だ。と言っても、マナーは日本の一般的なモノと変わらない。お客さん用の看板も付けているから分からないというのはないだろう。
男湯ではガテン系の大男と孤児達が仲良く背中を流しているものもいれば、体を洗ったものは肩までゆっくり浸かっている。全員気持ちよさそうだ。ジンが開発した石鹸も使用されている。使い心地は好評のようだ。
「あー」
「あー」
「あー」
「「「あーーー」」」
孤児も男も気持ちよさそうに声を出して合唱している。好評ならジンも悩んで工夫したかいがあったというモノだ。
「どう?」
「気持ちー」
「疲れが抜けるー」
「石鹸も良いな。さっぱりする」
一先ず、成功。値段設定は平民の多少の贅沢の範囲で納められる様にしておこうと思ったが、風呂の中で物販をするのも良いかなと思った。浴槽以外のスペースも広くとったので物販でリピーターを増やすべきかなと思った。そこら辺の細かいことはしわをふやかしている爺さんと相談して決めるべきだろう。今日の所は、久々の大きい風呂の良さを堪能しておこう。
「おい、小僧」
「んー?」
「この施設の名前を決めてくれ」
「ああ、そうか」
爺さんが近づいてきて大衆浴場の名前を決めてくれと言ってきた。ジンは顎に手を当てて考えた。
「そうだなぁ。それじゃあ、【ヒノモトユ】で」
2019年2月18日:タイトル変更しました。




