第弐章 本書を読む前に知っておくべき事項
<弐の壱 本章について>
ここでは,本書を読む前に存在ぐらいは知っておいた方がいいものを紹介します.読むべき専門書などはたくさんあるでしょうが,とりあえず,自分はそんなに専門書を読まずに以下の書籍や施設に見学に行ったぐらいで本書を書いています.本書を読む前にこれらを読んだり施設に訪れたりはする必要がないように本書を書いているつもりですが,ガイドラインについてはページ数を記載しておりますので,分からないところがあった時に参考にすると良いでしょう.
<弐の弐 WHO飲料水水質ガイドライン第4版(日本語版)>
A4で565ページと良く作ったなと思う圧倒的ボリュームのガイドライン.このボリュームと日本語訳された学術レポート特有の文章は眠気を誘います.ただ,第11章(p235)からは各微生物及び化学物質の個別的説明や,付録資料,索引ですから辞書的に使う場合以外は読む必要はあまりない(付録5は読んでおいても良いかと)ので実質250ページ程度!! それでも,結構きついかもしれませんが,読めなくはないので暇な方は頑張りましょう.
内容はさすがに分厚いだけあり丁寧に書かれています.専門的知識がなくてもある程度分かるようになっているため,良いガイドラインかと思います.
本書では,ガイドラインに書いてあること準拠で記載していますので,ちゃんとガイドラインに書いてありますよアピールで参照したページのページ数をカッコ書きで書いています.ガイドラインページ下のページ番号を基準に書いていますので,PDFで読んでいる方はそれに+36して下さい.
ガイドラインは全12章で構成されており.ざっと説明しますと.
第1章序(p1~)
ガイドラインについての概観.多段バリアや飲料水の安全についてここを読むだけでもざっと分かる.
第2章本ガイドラインを実践するための概念上の枠組み(p19~)
水質の管理,調査についての概観.リスク管理の評価優先度についてざっと触れている.ただ,異世界では飲料水質チェックをする方法がないので,知識としては知っておいた方が良いものの,ネタとしては消化しにくい.
第3章健康に基づく目標(p35~)
飲み水の健康に対する影響について書かれており,個人的には危険因子の危険性の尺度である障害調整生存年数(DALY)(p39)の考えは面白かった.すべての物質のDALY一覧という資料があれば良いが,それがないようで残念.
第4章水安全計画(p45~)
水安全計画という水を供給する事業者向けの話.事業者向けなので,組織での運用などお堅い話がメイン.とはいえ,多段バリアのより詳しい内容も書いてあり(p53~),参考にはなった.
第5章サーベイランス(p79~)
サーベイランスという規制官署のチェックについて書かれているところ.第4章と同じく事業者向けのお堅い話.飲料水サービス水準(p86)からの,一人当たり一日どの程度の水がいるかというのはネタに使えそうではある.
第6章特殊な状況下における本ガイドラインの適用(p95~)
特殊な状況下での飲料水確保方法が書かれており,本書にとって最も参考になった部分.雨水貯留(p96)や旅行者のための安全な飲料水(p110)の部分はかなり有用.
第7章微生物学的観点(p121~)
微生物観点からの水の安全性について書かれている.水道インフラでの微生物の除去率一覧(p144),家庭内処理での微生物の除去率一覧(p151)は飲み水を自前で確保することを考える際にかなり参考になった.
第8章化学的観点(p161~)
化学的観点からの水の安全性について書かれる.耐用一日摂取量(p166)など知識としては面白いものの,異世界では化学物質除去がほぼできないので,ネタとして使いにくい.異世界で飲料水にヒ素が入っていても,除去する手段がないため諦めるしかない.
第9章放射線学的観点(p207~)
放射線学的観点からの水の安全性について書かれる.ベクレルからシーベルトへの変換の線量換算係数など知識としては面白い.ただ,異世界で放射線測定はまずできないので,ネタとしては使いにくい.
第10章受容性の観点:臭味および外観(p223~)
味や臭い,見た目がどの程度許されるかという受容性について書かれる.健康上懸念のある物質の中には,健康影響が懸念される濃度よりもかなり低い濃度でも,水に対する拒否反応につながるものがあり(p223),水質チェックできない異世界では,安全性の尺度を水の受容性で判断することも有用かもしれない.
第11章微生物ファクトシート(p235)
各種微生物についてより細かい情報が記されている.辞書のように気になる微生物について調べると良いかと.というか,ここは自分もざっとしか読んでない.
第12章化学物質ファクトシート(p321)
各種化学物質についてより細かい情報が書かれている.こっちも第11章と同じく辞書的な使い方で.
以上のような内容です.付録もありますが,化学物質総括表の付録3と処理方法と性能を書いた付録5,そして放射性核種に関する関連情報を書いた付録6をチェックすれば良いでしょう.
とくに付録5は水の処理方法について書かれており,異世界で水道インフラを作る際には色々と参考になりますので,読んでみる価値はあるかと思います.
<弐の参 施設見学>
本書を書くときに,参考に訪れた施設です.無料・事前予約必要なしという,ファミリーや自由研究に来た小中学生ばかりの中で一人見学に行ける強いメンタルさえあれば,手軽に行ける施設です.
高度なインフラは空気みたいなもので,その恩恵についてあって当たり前のようなものになり,その裏で動くインフラについて普段は特に意識しなくなります.なので,こういった設備を訪れることは,知識以上に縁の下の力持ちの存在を認識するという意識のレベルで意義があるかと思います.
○ 弐の参ア 東京都水の科学館
りんかい線国際展示場駅から徒歩8分と,ビッグサイトから徒歩で行けるためコミケ参加者にはご近所感覚で行ける見学施設です.駅からガンダムの方に行って,夢の大橋を渡る手前で右に曲がると着きます.
自分が言った時には,夏休み中でさらに休日に行ったため,結構な賑わいを見せていました.なお,エアコンは省エネのためかあまり効いておらず.避暑目的には下記の虹の下水道館の方が良いかもしれません.
基本的に子供向けの設備ですので,説明に物足りなさを感じるところはあるかもしれませんが,2Fのアクア・ラボラトリーでは浄水場でどのように水を処理しているのかの説明がされており,浄水場の理解の助けになるかと思います.
また,30分おきぐらいの間隔で地下の給水施設を見学できるアクア・ツアーを行っており,当日受付で参加が可能です.大体の場合,施設見学は事前予約が必要なことを考えると,たとえ設備がポンプぐらいしかない小規模のものだとしても,当日行って施設を観られるというのは良いサービスだと思います.
○ 弐の参イ 虹の下水道館
りんかい線国際展示場駅から徒歩12分とこちらもコミケ参加者にはご近所感覚で行けるかと.ただ,場所的には有明テニスの森公園方向ですので,ビックサイトとは逆方向だということもあり,道に慣れていない方も多くいるかもしれません.ただ,水の科学館と違い駐車場があるので,自家用車で行けるのは良いところでしょうか.もっとも,他の施設との供用なので,満杯の場合もあるので注意しましょう.
虹の下水道館も水の科学館と同じく子供向けなので,物足りなさがありました.また,体験型のイベントを多くやっている一方で,展示系のパネルが少なく,あったとしても配管についてであり,水処理についてはあまり説明がなかったため,参考になるものは少なかったです.
ただし,夏の間は当日受付で11時から隣の有明水再生センターのガイドツアーを毎日やっているとのことで,事前予約なしに下水道の施設見学ができるとは中々のサービスです.自分は残念ながら午後に訪れたため見学はできませんでしたが,コミケの一般入場が始まる前にちょっと施設見学はいかがでしょうか.
また,設備の入っている建物の上階には展望スペースがあり,夏休み中の休日にもかかわらず人がほとんどいなかったため,ちょっとした休憩にこちらを利用してもよいかもしれません.
○ 弐の参ウ 東京都水道歴史館
御茶ノ水駅から徒歩8分の場所にある施設.頑張れば秋葉原からでも徒歩で行けます,というか帰りは歩いて秋葉原に行ってきました.
前2つの施設が小学生向けだった感じですが,こちらは中学生や高校生という中等教育用の施設のように感じました.大人が見ても見応えのある施設で,一人で見ていても前2つの施設と比べて居心地悪さは感じませんでした.
展示の内容は,江戸時代の水の使い方や水道の歴史,そして近代水道の歴史ですね.近代水道の歴史は淀橋浄水場の仕組みや運用について細かい説明があれば良かったのですが,そういうのはなく基本は歴史のみ.なので,水の処理工程の詳しい内容の勉強にはあまり向いていないかもしれません.
ただし,江戸時代の水の使い方は,近代水道がない時代の水の使い方でして,上水井戸を使った生活方式等は異世界ファンタジーのネタの参考になりました.昔の人がどう水を利用していたのか,知りたい方は一度行ってみると良いかと思います.




